空質空調事業はパナソニックが創業時より大切にしてきた「くらしに寄り添う」という理念を受け継ぎ、ユーザー起点でソフトウェアを考えることを目指しています。例えば、スマートフォンでエアコンを遠隔操作できる「エオリア アプリ」のストアでの評価は、他のエアコンアプリの平均を大きく上回る高評価※を得ています。
こうした「ユーザーから選ばれる」ソフトウェアや技術を開発できる秘密はどこにあるのでしょうか。今回はエオリア アプリのプロジェクトマネージャーと、業務用空調の省エネアリゴリズム開発者のお2人に、そのお仕事内容を聞きました。
1. パナソニックを選んだのは「役に立って喜ばれている姿」が見えるから
空調をソフトウェアから改善する
はじめに、お2人の自己紹介をお願いします。
現在は、家庭用エアコン「エオリア(Eolia)」や給湯設備「エコキュート」などスマートフォンアプリで家の外から遠隔操作ができるアプリ開発チームにてプロジェクトマネージャーを担当しています。
現在は、飲食店や衣料品店など中小規模の店舗やオフィス向けの空調省エネアルゴリズムを開発するチームで、快適性を維持しながら省エネを実現するための空調制御アルゴリズム開発を担当しています。
お2人がパナソニックへ入社したきっかけを教えてください。
博士人材を求めている企業に就職したかったので、博士の積極採用を行っている企業を中心に就職活動をしていました。博士限定の就職セミナーにパナソニックが来ていて、そこで話をうかがったのが興味を持ったきっかけです。当時からAIやロボティクスなどの成長領域の人材を採用したいと考えていたようです。
パナソニックはIoT家電を多数企画・開発しているので、使用履歴などのデータを大量に保有しているだろうと思っていました。入社してみると予想通り大量のデータに触れられる環境でした。
大学院ではどのような研究をしていたのですか。
衰退してしまうプロジェクトや開発が止まってしまうプロジェクトの特徴をデータから明らかにするという研究をしていました。博士まで進んだので、進路としては大学教授という選択肢もありましたし、「大学ではないの?」と周りからもよく言われました。大学院での研究を通して、自身の研究成果がなかなか世の中に反映されにくいことに悩んでいました。私の成果が誰かの役に立っている姿が見たい。そう考えたとき、顧客がいる民間企業の方がよりその希望が実現できそうだと考えました。
山田さんはいかがですか。
私は、例えば父親が自分の子どもに「この商品は俺が作ったんだぞ」と話せるような仕事に憧れがあり、生活に深く関係するモノづくりに携われるメーカーを第一志望に探していました。そんな折に縁があったのがパナソニックでした。
子どもの頃から製品が身近にあって、名前も知っている会社で働けることに喜びを感じました。業務用か家庭用かを問わず、使ってくださっている姿を目にするとうれしくなりますよ。
2. 「丸ごと携われる」のが楽しい空調のアルゴリズム開発
コーディングから機器の取り付けまで
現在の仕事内容について詳しく教えてください。
尾上さんの空調アルゴリズム開発というのはどのようなものなのですか。
このアルゴリズムをベースにした空調機制御のアルゴリズムを実店舗で実証させてもらい、商用化につなげる仕事をしています。ずっとパソコンに向かっているわけでなく、店舗に出向いて話を聞いたりしますし、自分で電動ドライバーを使って計測機器の組み立てを行ったりします。仕事の範囲は広いですね。
クラウドに集められた室温や空調の操作履歴など店舗で取得したデータを分析してアルゴリズムを開発します。アルゴリズムで導き出された設定値になるよう、クラウドにつながっている店舗の空調機を遠隔で操作します。
今の仕事では、何が重要だと感じていますか。
また、データを分析するだけでなく、快適性を維持しながらの省エネができていることをロジカルに伝えなければならないので、相手に分かりやすく伝えられるプレゼン能力や論理的思考も必要だと感じています。
アルゴリズム開発の難しさは技術面だけではない
直接的なお客さまは店舗の関係者ですが、じかに接する仕事ならではの難しさがありそうですね。
ところが、まだ商用化前の実証段階ということもあり、たまに過度な省エネ設定になってしまうこともあります。そんなときは実証にご協力いただいている店舗の方にご迷惑をおかけしてしまうこともあります。一方で、省エネは店舗の運用コストを下げることに繋がりますし、店舗の本部からのご要望でもあります。店舗の方の意見を反映させつつ、快適性と省エネをどう両立していくかが難しいところです。
そんななか、どのような場面でやりがいを感じますか。
それから、空調はパナソニックが長く手がけてきた分野であり、これからも伸びしろのある分野だと思うので、そこの全ての領域に携われるのは魅力の1つですね。
店舗の来店客に対しても、空調を通して「くらしに寄り添う」ことになりますね。
3. 「エオリア アプリ」の高評価を支えた、利用者に寄り添う地道な取り組み
アプリにフィードバック機能をつけて「育てていく」
山田さんはエオリア アプリのプロジェクトマネージャーですが、
具体的にどのような仕事をなさっているのでしょうか。
また、今担当させていただいているエオリア アプリに関しましては利用ユーザー数も多く、対応するエアコンの品番数が多岐わたることもあり、関係者が多く、大規模な開発になることが多いため、様々な関係者とディスカッションし、調整しながら1つのモノを作り上げていきます。私自身も技術者としてたまにはコードを書くこともありますが、QCD(品質、コスト、納期)の優れたアプリになるよう管理するのがメインの業務です。
新製品の発売にあわせて開発するだけでなく、発売後も新機能を追加したりお客さまの声を反映したりしながら、アプリ独自の更新で進化するところがエアコン本体の開発とは大きく異なる点であり、やりがいがあるポイントです。
お客さまの声を捉えて反映させるのは難しそうですね。
気温や湿度は目に見えるものではありませんし、「心地よい」は人によって千差万別ですので、どのように個々にとって最適な状態を実現すればいいのか、かなり前から悩んでいました。しかし、スマートフォンのおかげで、新たなアプローチができるようになったのです。
エオリアでは、センシング結果に基づいて制御内容を調整するAI自動運転機能があるのですが、エオリア アプリでは、このAI自動運転に対する評価(今の体感温度が暑かった、寒かった等)をフィードバックしていただいて、自動運転の内容をお客様毎に最適化する「AIフィードバック」機能を追加するなど、お客さまとともにプロダクトを育てているところです。
エアコンというハードウェアとともにあるソフトウェア開発には、
独特の難しさがあるのではないでしょうか。
「エオリア アプリ」もはじめは低評価だった
IoT対応の家電製品が出回るようになりましたが、せっかくハードウェアが画期的でも、アプリなどソフトウェアの満足度が低いために総合的な評価を落としているプロダクトを見かけます。エオリア アプリがアプリストア高評価を得ているのには何か秘訣があるのでしょうか。
お客さまに寄り添うような機能を提供しよう、良いものを作ろう、と努力し続けてきた結果、このような高い評価をいただけるようになったのだと思います。ただ、まだ改善の余地は残っていますので、さらに進化させていこうと高いモチベーションで開発を続けているところです。
エオリア アプリの特徴は、自動運転に対してAIをかなり早い時期から導入したことです。AIが言葉として流行していたからではなく、お客さまの生活実態などを深掘りしながら、何ができるのか考え抜いた結果として、AIという出口にたどり着きました。
「経営は人なり」というパナソニックの事業哲学にある通り、AI人材に限らず、継続的に先端技術を扱う人材とのネットワーク構築に取り組んでいます。またパナソニックは社会の公器として、技術分野への貢献や投資を惜しまない風土があります。
だからこそ、パナソニックには幅広い人材が在籍し続け、事業においても他社よりも一歩先んじてAIを搭載できたのだと思います。人を育て、衆知を集め、お客様により良いものを早く提供できるのがパナソニックという会社です。
レビューコメントを見てみると、デザインの洗練さや使いやすさを評価する声がありました。エンジニアはどうしても機能に注目しがちなので、お客さまの視点に立ったUI/UXの設計は難しかったのではないでしょうか。
双方をまとめる立場としてバランスをとるのは難しいですが、そこがプロジェクトマネージャーの腕の見せどころであり、やりがいでもあります。
4. 大企業の良さを活かしたチャレンジできる土壌がある
パナソニックは大企業として認知されていると思います。
その中でもチャレンジできる土壌は用意されているのでしょうか。
また、様々な価値観や経験を持っている人が集まった会社なので、専門家とつながって協力を得ることもできます。新しいことを始めたいと思ったとき、動かせるリソースが身近にあるのです。
たしかに、それは大企業だからこその魅力かもしれませんね。
何か核になる得意なことがあれば、様々な舞台で活躍できるチャンスがあるわけですね。
実際にこれまで、転職者の方が声を上げて変化が起きたエピソードはありますか。
「こうすればできそうだ」という提案を誰も止めはしません。特に開発チーム内部での取り組みについては、どんどん提案でき、すぐ反映されます。技術やアーキテクチャ、開発環境、ツールなどに関して「やりたいこと」があれば、どう実現するかを自分で考えて進められるのはやりがいの1つです。変えることには大変さもありますが、ソフトウェア開発者としての楽しさも多いプロジェクトだと思いますし、大企業であるからこそ大きな社会貢献に繋がる改善を行えていると感じます。
入社後、未経験の機械学習にもチャレンジ
尾上さんにとって、入社後の印象に残っているチャレンジはなんですか。
入社以来、ずっと同じ上司なのですが、いつも冗談で「何かあったら私が腹を切ります」と言ってくれる方なので、安心してチャレンジングな提言ができています。
印象深いのは、入社後すぐに機械学習を使った予測モデルを作成する機会を与えられたことです。それまで機械学習に触れたことがなかったので、ほとんど分からないレベルから始めたのですが、今では適切に活用できるようになりました。上司が機械学習をよく理解している方で、わかりやすく理論立った道筋を示してくれたおかげだと感謝しています。
5. パナソニックでソフトウェア開発に携わって得られたもの
新しい価値観と出会う面白さ
お2人は、領域は違いますが、パナソニックでソフトウェア開発に携わっている点で共通しています。
これまでを振り返ってどのようなことを得られましたか。
その人に仲間として加わって力を発揮してもらうにはどうすればいいのかを考えながらプロジェクトをまとめる経験は、ただプログラムを書いているだけだと得られないもので、日々新しい価値観に触れることを楽しんでいます。
またプレゼン力や資料作成能力が向上したこともを実感しています。学生時代も発表する機会はありましたが、聴講者はみんな私の研究に興味を持って聞いてくれていました。しかし企業に入るとそうはいきません。相手の興味や立場にあわせて、どれぐらいの粒度で説明するべきか、どこに手間をかけて準備するかが変わってきます。会社でのプレゼン報告経験を通して、相手が求めている情報を適切かつ簡潔に伝えるというスキルが身につきました。
先ほど、機械学習は入社してから学んだというお話でしたね。
このような機会を通して、幅広い領域で新しい技術の研鑽をした人材から新しい学びを吸収していけるのもパナソニックならではの良さだと感じます。
空質空調事業に携わるなかで、どんな事にやりがいを感じていますか?
私の場合は現場に行くことが多く、ソフトウェアが動作している空間で実際に過ごされている店員さんやオフィスの方に話を聞くことで、自分が開発したアルゴリズムがどのような影響を与えているのかを直接確認できるため、大きなやりがいを感じられます。
「自分の仕事とそれを実際に利用しているお客様とのつながりが見えづらく、やりがいを感じられないな」と思っている方が、転職の選択肢としてパナソニックの空質空調事業に興味を持ってもらえたらうれしいですね。
いま本当に新しいことを幅広くできる人が要望されているところかと思うので、逆にそれに合うなという人にはガンガン手をあげていただければと思います。
こういった状態でありますので、本当に新しいことをやりたい、能動的に手を動かしたいという人にはかなり向いている会社だと思います。
最後に、パナソニックでこれから挑戦していきたいことを教えてください。
それを実現させるためには、データ分析やモデル開発の自動化が課題となってきます。今は実証段階で対象店舗数が数店舗と少ないため、それらの作業は人の手で行っていますが、今後1000店舗、2000店舗と対象が広がれば、現状の手法ではとても手が回りません。そこで、どのように自動化を図り、多店舗展開を実現していくかが、業務用空調の目指すべき姿を実現する重要なポイントになると考えています。
また、これまでアプリ開発の手法は基本的に全てのプロジェクトをウォーターフォールで開発していました。ウォーターフォール型の開発だと必要な機能を確実に提供できますが、不確実性が高くなっている現代では、かえって顧客が求めている価値とずれていってしまうケースもあります。そこで、最近は要件に応じてアジャイル開発を取り入れることで真に「くらしに寄り添う」ための新しい取り組みを始めております。必ずしもアジャイル開発がよいということではありませんが、やはり私たちがよりタイムリーに、お客様に機能提供していくためにはこういったアプローチも必要であると考えています。
特にエアコンは季節に密接に関連する機器なので、必要な時期に機能提供できなければ使われるのが1年後といったことも起こりえます。お客さまに新しい価値を提供するためにも、開発手法なども進化させていきたいと考えています。
今回取材したお2人は、業務用の空調と家庭用エアコンのアプリという、一見すると大きく異なる領域で業務をされていますが、最終的には利用する人がおり、どちらも生活に寄り添うものという点では共通しています。
また、いままで空調機もエアコンも、ハードとしての機能が重視されるというイメージがありましたが、IoTの技術によってソフトウェアやフロントエンドのUI/UXがより重要になってきているのだと感じました。暮らしの豊かさをソフトウェア技術で貢献するだけでなく、チャレンジングで能動的な人材を求めているというパナソニックにおける空質空調事業の取り組みは今後も目が離せません。
PROFILE
パナソニック株式会社 空質空調事業
アプリケーションエンジニア
山田 美季(やまだ みつき)
パナソニック株式会社 空質空調事業
データサイエンティスト
尾上 紗野(おのうえ さや)