くるまの保険のコラム
運転行動は、認知・判断・操作の繰り返しによって成り立っていると言われています。認知の段階で最も重要な働きをするのが目です。目で見ることによって、運転に必要な情報の大半を得ています。そのため運転免許更新時には、必ず視力検査が行われます。そこで、今回は視力や見ることの重要性について考えます。
運転と視力
運転免許更新時における視力等の合格基準
運転免許更新時の視力検査の合格基準は、普通免許の場合「両眼で0.7以上、かつ、一眼でそれぞれ0.3以上であること又は一眼の視力が0.3に満たない者もしくは一眼が見えない者については、他眼の視野が左右150度以上で、視力が0.7以上であること」とされています。また、「色彩識別能力」の検査もあり、「赤色、青色及び黄色の識別ができること」とされています。
運転時は動体視力となる
車を運転するためには、一定以上の視力と色彩識別能力が必要ですが、ここで留意したいのは、視力検査時の視力は、静止視力(静止した状態で測定される視力)であるということです。車の運転は大半が動いている状態で行われるため、使われるのは静止視力ではなく、動体視力(動きながら見るときや動いているものを見るときの視力)となります。動体視力は静止視力よりも低下します。
しかも、動きが速くなるほど視力は低下していくため、高速になるほど近くのものが特に見えにくくなり、危険を発見するのが遅れてしまうことや、危険を見落としてしまうことが起こりやすくなります。
視力はさまざまな要因によって低下する
夜間など暗い場所での視力を夜間視力といいますが、夜間視力も静止視力より低下します。
また、昼間に暗いトンネルに入る時やトンネルから出る時のように、明るさが急に変わると、一時的に視力が低下し、暗さや明るさに目が馴れて視力が回復するまでに時間がかかります。暗さに馴れるのを「暗順応」、明るさに馴れるのを「明順応」といいますが、「暗順応」のほうが「明順応」よりも時間がかかります。さらに対向車のヘッドライトに幻惑されたときも、一時的に視力が低下します。
このように視力は、動きや明るさなどの様々な要因によって低下しますので、この点をしっかり頭に入れて、常にスピードを抑えた慎重な運転を心がけましょう。
よく見ることの重要性
漫然運転や脇見運転は、ほぼ毎年、法令違反別の交通事故で上位を占めている違反行為です。漫然運転は考え事や疲労などにより、目は前を向いていても、実はぼんやりとしか見ていないような状態、脇見運転は運転とは関係のないものへ視線を向けている状態であり、両者には運転に必要なものをよく見ていないという共通点があります。この2つが交通事故の法令違反の上位を占めているということは、運転にとって「よく見る」ことがいかに重要であるかを示しています。
【よく見るための条件】徐行や一時停止を確実に行う
交差点の右折時は徐行が義務づけられていますが、対向車が接近する前に右折しようとして徐行せずに進行する車が少なくありません。徐行せずに進行すれば、横断歩行者や自転車の有無を目でしっかり見て確認する余裕が持てず、発見の遅れや見落としにつながります。
見通しの悪い交差点での一時停止も同様です。一時停止をすることによって交差道路の状況をしっかり見る余裕が生まれ、確実な安全確認をすることができます。
よく見るためには、徐行や一時停止を確実に行うことが重要な条件となります。
※視力は、視野の中心を少し外れるだけで急激に低下するといわれていますので、見るときは視野の中心でしっかりと見るようにしましょう。
走行中にスマートフォンなどを使用しない
走行中にスマートフォンの画像注視や操作をすると、前方から視線が外れたり意識がおろそかになったりします。また、通話の場合も、通話に気をとられて、前方がよく見えていない状態に陥る危険性が十分あります。法律上、走行中のスマートフォンなどの画像注視や使用は禁止されています。スマートフォンなどを使用する時は、必ず安全な場所に停止してから行う必要があります。
疲労を防止する
疲労は漫然運転の大きな要因になり、見ることだけでなく、判断や運転操作にも影響を及ぼしますが、運転時に疲労の影響が最も強く現れるのは、目だといわれています。
目が疲れると、見落としや見間違いが増えて危険な状態を引き起こすおそれがあります。疲労を防止するには、疲労を感じてから休憩するよりも疲労を感じる前に休憩をとるのが効果的とされていますので、早めの休憩を心がけましょう。また、疲労を感じている時には、できるだけ運転するのを控えましょう。
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〔制作〕MS&ADインターリスク総研株式会社 リクマネジメント第二部 交通リスク第一グループ