くるまの保険のコラム
運転に必要な情報の多くは目から得られるといわれています。「交通の方法に関する教則」においても、「人間の感覚のうち視覚は、安全な運転のために最も大切」と記されています。そこで今回は、運転に係る視覚の特性や運転に悪影響を及ぼす錯視についてまとめてみました。
視覚の特性
動体視力や夜間視力は静止視力より低下する
通常、視力とは、静止した状態で静止した対象物を見る場合の視力(静止視力)をいいます。一方、運転時のように動きながら見る場合や動いているものを見る場合の視力を「動体視力」といい、静止視力よりも低下します。また、夜間などの暗い場所での視力を「夜間視力」といいますが、夜間視力も静止視力より低下し、加齢とともに低下の程度が大きくなるといわれています。特に、高齢になるとコントラストが薄いと物が見分けにくくなり、コントラストが薄れる薄暮時などの時間帯では、見落としなどの危険が高まるおそれがありますから注意しましょう。
色まで判別できる視野は狭い範囲に限られる
視線を動かさずに見える範囲のことを視野といい、静止して前方を見た場合の視野は、両眼で200度程度です。そのうち色彩まで確認できるのは、前方を中心として左右それぞれ35度程度の狭い範囲で、それを超える範囲にあるものは色の判別ができません(図1)。信号等を確認する時は、しっかり目を向けて確認する必要があります。
暗さに慣れるには時間がかかる
明るいところから急に暗いところに入ったとき、しばらく何も見えない状態になり、やがて目が慣れて見えるようになってきます。これを「暗順応」といいます。逆に、暗いところから急に明るいところに出たときも、まぶしくて一瞬何も見えない状態となり、やがて見えるようになります。これを「明順応」といいますが、明順応より暗順応のほうが時間がかかります。つまり、暗さに慣れるほうが時間がかかるわけですから、昼間に暗いトンネルに入るときなどは十分に注意しましょう。
運転時に起こる危険な錯視
昼間に暗いと人間は錯覚を起こすことがありますが、視覚に係る錯覚を「錯視」といいます。例えば、図2のAとBの矢ばねのab間の長さは、Aのほうが長く見えますが、実際は同じ長さです。こうした錯視には様々なものがありますが、運転時に発生する危険な錯視の主なものを挙げてみましょう。
上り坂が下り坂に見える
図3のように、急な下り坂から緩やかな下り坂に変わったとき、上り坂になったように見えて、アクセルを踏み込んでしまうことがあります。逆に、急な上り坂から緩やかな上り坂に変わったとき、下り坂になったように見えて、ブレーキを踏んでしまうことがあり、いずれも危険な状況を招くおそれがあります。
小さい車は遠くに見える
同じ距離であっても小さい車は遠くに、大きい車は近くに見えます。従って、小さい車と大きい車が同じ距離にあるように見えるときは、実際には小さい車のほうが近くにいるのです。交差点右折時に、直進してくるトラックと二輪車が同じ距離にあるように見えたため、トラックとの距離を判断の目安にして右折すると二輪車と衝突する危険がありますから注意しましょう。
自車側の道路が交差道路より広く見える
信号機のない見通しの良い交差点において、自車側の道路と交差道路の道幅が同じ程度である場合、自車側の道路ほうが広く見えます。そのため、自車と交差車両がともに優先だと判断して交差点に進入し、出会い頭事故を起こすことがあります。必ず一時停止の標識や標示の有無を確認するとともに、自車側に一時停止義務がない場合でも、徐行や一時停止をして交差車両を先に行かせるようにしましょう。
交差道路側の車が停止しているように見える
信号機のない見通しの良い交差点に、自車と交差道路側の車が同じ速度で接近している場合、交差道路側の車が停止しているように見えることがあります(図4)。「コリジョンコース現象」と呼ばれていますが、そのまま交差点に進入すると出会い頭事故を起こす危険がありますから、前記と同様に、徐行や一時停止をして交差車両を先に行かせるようにしましょう。
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〔制作〕MS&ADインターリスク総研株式会社 リクマネジメント第二部 交通リスク第一グループ