健康経営
2021.05.31
健康経営で従業員の活力をアップしよう!企業が行うべき対策とは?
少子高齢化が進み、売り手市場の傾向が強まっている近年では、労働力の確保に加えて、生産性の向上も求められるようになってきました。さらに、長時間労働の常態化や、職場におけるメンタル面での問題が大きな社会問題になっています。
そこで注目されている施策が「健康経営」です。健康経営は、経済産業省が推進している取り組みで、企業が従業員の健康管理を行うことで、結果的に企業の業績向上も目指すものです。
今回の記事では、この健康経営について詳しく解説します。従業員の健康を保ちつつ企業が業績を伸ばせるように、対策を考えていきましょう。
健康経営の内容や目的は?
健康経営という言葉は聞いたことがあっても、具体的な内容は良く分からないと感じている方も多いでしょう。健康経営への取り組みを効果的に行うため、最初に健康経営の内容や目的を解説します。
政府推進の手法で、経営面から従業員の健康管理を行う
経済産業省によると、健康経営は次のように定義されています。
「健康経営」とは、従業員等の健康管理を経営的な視点で考え、戦略的に実践することです。企業理念に基づき、従業員等への健康投資を行うことは、従業員の活力向上や生産性の向上等の組織の活性化をもたらし、結果的に業績向上や株価向上につながると期待されます。
(出典:経済産業省 健康経営の推進)
つまり、健康経営の目的は、企業が従業員の健康を重視することで、従業員の健康維持につながり、ひいては企業の業績も上がるという、プラスのサイクルを生み出そうというものです。
従業員が健康であれば、毎日元気に仕事に取り組み、生産性を向上させることができます。医療費負担も減り、結果的に利益率を上げることにつながります。
生産性および企業価値を高める
健康経営を行うことで、生産性を向上できるばかりでなく、従業員を大事にしている会社というアピールにもつながり、企業価値を高めることができます。
経済産業省では、健康経営を効果的に実践している企業に対して、顕彰制度を設けています。
「健康経営銘柄」とは、東京証券取引所に上場している企業から優れた健康経営を行っている企業を選定し、公表するものです。評価する点は、健康経営を企業の経営理念および方針に取り入れている、組織体制が構築されている、施策が実行されている、適宜改善に取り組んでいる、法令を遵守しているなどがあげられます。
これとは別に、特に優良とされる健康経営の取り組みを行っている法人を顕彰する「健康経営優良法人認定制度」があります。この制度は、優良法人が社会的に高い評価を受けられる環境を整備することを目的としています。
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健康経営が重視されるようになった背景とは
経済産業省が、健康経営銘柄の選定を始めたのは2014年度(平成26年度)であり、健康経営優良法人認定制度を創設したのは2016年度(平成28年度)のことでした。
日本で健康経営が注目され、国をあげて進められるようになったのは、どのような背景があるのでしょうか。
アメリカの経営心理学者の著書が始まりといわれている
健康経営の考え方を最初に提唱したのは、アメリカの経営心理学者であるロバート・ローゼン氏でした。
この考えは「ヘルシーカンパニー思想」と呼ばれ、「健康な従業員が収益性の高い企業を作る」というものです。
アメリカでは、日本のような公的医療保険制度がないため、軽微な症状で病院を受診しても医療費が高額になってしまいます。
そのため、健康維持の意識が高く、心身ともに健康な従業員が多い企業では医療費の負担を減らすことができます。
この考えを基に、日本ではさらに一歩進んだ取り組みを行い、それまで関連性が低いとされてきた「企業の経営管理」と「従業員の健康管理」を同時に進め、企業の業績向上につなげようとしています。
従業員の健康を企業の財産ととらえ、健康管理を「企業成長のための投資」と考える前向きな姿勢に、多くの企業が関心を寄せています。
働き方改革および少子高齢化による働き手の減少
日本の「労働基準法」は、1947年(昭和22年)に制定されました。その後、労働関連の法律は、時代や情勢に合わせて適宜改正されており、2019年(令和元年)から施行されている「働き方改革関連法」では、さらに改正事項が加えられました。
働き方改革が行われている背景には、日本で常態化していた長時間労働が大きく関係しています。長時間労働に起因した心筋梗塞や精神障害などの健康被害や、労働に耐えられず自殺に至るケース等が発生し、社会問題となっています。
働き方改革関連法が施行されたことで健康経営の重要性は広がりつつあり、問題解決のための取り組みが国をあげて進められています。
さらに、年々進んでいる少子高齢化によって、日本の労働人口は減少の一途をたどっています。これにより、企業における人材不足が深刻な問題となっています。
特に、中小企業ではその傾向が顕著にみられ、求人を出しても人が集まらない状況が多く見られます。人材不足が続くと、仕事が回らずに業績が悪化し、社内環境も悪くなるという「負のスパイラル」が起きてしまいます。
この事態を避けるために、福利厚生を充実させる等の健康経営を実行する取り組みが重要視されています。福利厚生を含む健康経営の導入で求職者から注目されると、応募者が増える可能性が高まります。
内閣府がまとめた「平成30年版子供・若者白書」の中では、仕事を選択する際に重要視する観点のひとつに「福利厚生が充実していること」があげられています。「とても重要」および「まあ重要」と回答している人の割合が、全体の85.2%にも及んでいます。
この結果から、求職者が企業を選ぶ際に、福利厚生を重視していることが分かります。求職者からの応募を増やす手段として、福利厚生の見直しが急務となっています。
企業側の経費負担増加
従業員が体調を崩し、病院を受診する際には、健康保険を利用します。健康保険料は、企業もその一部を負担しています。
健康保険の経費を下げるために、健康管理を従業員個人のみに任せるのには限界があります。企業が健康維持に関わることで、効果的に取り組みができるようになるのです。
健康管理がおろそかになると、体調不良を招き、集中力やモチベーションを保てなくなってきます。さらに進行してしまうと、遅刻・早退・欠勤、ひいては退職にまでいたってしまう恐れがあります。
生産性の低下のみならず、新たな人材を求めるための採用・研修コストもかかってきます。人材の定着率が悪くなると、企業イメージおよび業績も悪化し、運営経費がますますかさんでしまうでしょう。
新型コロナウイルスの流行による、健康経営への意識向上
世界的な新型コロナウイルスの大流行は、仕事ではテレワークの普及、学生はオンラインでの授業など、それまで日常的であった数々の行動を大幅に変貌させるきっかけとなりました。
これは、健康・医療においても同じ傾向がみられます。体調不良を感じたらすぐ病院を受診していたものを、感染リスクを不安に思って病院に行けない人が増加したのです。病院に行けば大丈夫という考えから、病院に行く必要がないように自らの体調管理に関心を寄せる行動につながっていきました。
新型コロナをきっかけとして、健康意識が変化したと感じている人の割合が高まったほか、テレワークを実施している企業も従業員の健康管理における課題を再認識しました。
テレワークによって生じた体調不良で多いのは、肩こり・腰痛・精神的ストレスなどがあげられます。テレワークでは、非対面で各々が仕事を進めるため、従業員の健康管理ができる仕組みが整備されていない企業がほとんどでした。
さらに、在宅でのテレワークにおいて、職場と同じような業務環境をすぐに整えることは困難であり、身体の随所に疲れがたまりがちです。そのうえ、在宅では業務に集中しづらく、慣れない環境での業務によるストレスも発生していったのです。
これらの現状から、健康経営への取り組みに対して重要性が叫ばれ、特にメンタルヘルスに向けた対策の必要性が浮き彫りになっています。
健康経営を取り入れることで得られるメリットとは?
健康経営の重要性を解説してきましたが、健康経営を取り入れることで、どのようなメリットが得られるのでしょうか。
生産性が上げられる
健康経営により、従業員が心身ともに万全の状態で業務ができるようになると、仕事に集中でき、生産性が上げられるようになります。
先述したように、日本では労働人口が減少しているため、限られた人材で生産性を上げることが重要です。このためには、従業員の健康を保たなければいけません。健康であれば作業効率が上がり、業績向上につなげられるでしょう。
従業員の定着率を上げられる
健康経営のために福利厚生を充実させると、求職者からの応募率が上がるだけでなく、入社後も離職者を減らせられる可能性が高まり、定着率を上げられるようになります。
体調不良を予防できるだけでなく、従業員に安心感を与える目的でも、福利厚生を含めた労働環境の整備は急務といえるでしょう。
企業の医療費負担が軽減できる
健康経営の取り組みにより、従業員の健康が維持できることで、病院の受診率が下がります。現役従業員の医療費負担や、退職者の高齢者医療費負担などが減らせるようになります。さらに、疾病による長期休職者の割合も減らし、従業員同士の業務負担軽減にも貢献できます。
健康保険組合の企業負担は増加する一方であり、組合の経営赤字額が3,000億円を超えているといわれています。健康保険組合連合会では「2022年危機」という言葉が使われています。
これは、団塊世代が75歳以上を迎え始めるタイミングが2022年であり、社会保険率(医療・介護・年金)が30%を超えるといわれています。
企業が負担する医療費を少しでも抑える取り組みが求められています。
求人募集時のセールスポイントにできる
求人募集を行うとき、セールスポイントを強く前面に押し出すことが重要です。健康経営への注目度が上がっている近年、求職者の目につきやすい箇所でアピールしたいものです。
従業員同士の交流促進ができる
プロジェクトチームを立ち上げるなど、全社的に健康経営に取り組むと、部署の垣根を超えた交流が生まれることもあります。
新しいコミュニケーションが生まれると、業務上でもアイディアが出るようになり、それまでなかった発想で、企業成長できるかもしれません。
福利厚生は、内容によっては非課税対象となる
企業の福利厚生は、内容によって非課税対象となるものがあります。
非課税対象となるのは、全ての従業員が平等に使えること・現金および金券類ではないことが条件で、常識の範囲内の内容および金額であることも求められます。家族経営や個人事業主では、非課税とならない場合もあります。
例をあげると、社会保険および労働保険の費用は法定福利費と呼ばれ、原則非課税扱いとされています。
また、一定額までの通勤手当、50%未満の家賃負担、企業が病院に対して支払う健康診断の費用、制服の貸与や支給、スポーツクラブの法人契約、通信教育、企業内食堂など、全従業員が利用できるような福利厚生の制度を設けており、その費用の一部または全部を企業が負担したときには、福利厚生費として非課税対象となります。
テレワークのストレス対策にもつなげられる
健康経営は、テレワークにおけるストレス対策として活用されるケースも増えています。
チャットツールなどを使いコミュニケーションの場を設ける取り組みは、導入している企業も多いようです。定期的なコミュニケーションを取ることで、従業員のささいな異変に気づく環境構築が求められます。
また、定期的に出社日を設ける企業も増えています。顔を合わせ、短時間でもいいのでこれまでと同じ環境下に身を置くと、精神的な不安が解消でき、ストレス軽減が期待できます。
リスクマネジメントにつながる
体調が万全でない状態で業務を続けると、集中力が続かなくなり、ケガや事故のリスクが高まることや、最悪の場合突然の体調不良(くも膜下出血・心筋梗塞など)を起こすこともあります。従業員が突然長期間出勤できなくなってしまうと、すぐに代わりの人材が確保できるとは限りません。
これらのリスクを回避する上でも、健康経営は効果的です。
どのような企業が健康経営に取り組むと効果的なのか?
健康経営への取り組みは、業種を問わず全ての企業で必要なものです。その中でも、特に導入を検討すべき企業は以下の通りです。
高年齢の従業員の割合が多い
年齢を重ねると、見た目には分からず自分でも気づかないうちに体調を崩すことが増えるほか、心疾患や脳血管疾患、ガンなどの病気に罹患するリスクが高まります。特に、30代後半以降で、その傾向が強まってきます。
また、管理職などの役職につく人材が増える年代では、長期休職などで不在期間が長引くほど、企業に与える損失は大きくなるものです。
日頃から健康管理を行っていると、これらの疾患を防ぐことや、軽度な段階で見つけられる可能性が高まります。
ストレスチェックの結果が思わしくない
ストレスチェックとは、自分のストレス状態を知ることができる検査です。2015年に労働安全衛生法が改正され、従業員が50人以上いる事業所で毎年1回実施が義務付けられています。(ただし、契約期間が1年未満の従業員や、労働時間が短い従業員は義務の対象外です)
ストレスチェックの結果が思わしくなかった従業員は、まず医師の面接指導を受ける必要があります。そのうえで、医師と相談し、労働時間の短縮や業務内容の変更などの措置を検討しましょう。
さらに、メンタルヘルスの悪化を防ぐために、健康経営の取り組みを導入すると効果的です。従業員全体の結果に加え、部署ごと・年代別・役職別なども考慮すると、一部のグループにストレスが偏っていることはしばしばみられます。
長時間労働になりがち
慢性的な人材不足で、長時間労働や休日出勤が当たり前になっている企業もあります。体調が悪くても病院に行く時間が取れずに、病状が悪化してしまうケースもあるでしょう。
心身ともにリラックスする時間が取れずに疲労が蓄積し、業務に悪影響が出ることもあります。
このような場合、従業員の心身を守るために、健康経営を積極的に実践していきたいものです。
就業管理が徹底できていない
従業員の就業状況を管理できていないと、時間外労働の管理や年休の取得日数が把握できず、長時間労働に気づきにくくなる恐れがあります。この場合も、積極的に健康経営の取り組みを行い、従業員の健康を守りましょう。
健康経営を導入するまでの流れは?
健康経営の導入には、いくつかのステップに分けて進めていくことが重要です。
最初に、健康経営を行うことを、従業員へ告知します。当事者となる従業員の理解は欠かせません。目標を共有できるように、趣旨を説明しましょう。
次に、実行を担当する専門チームを立ち上げ、計画を立てていきます。これまでの課題や問題点を基に、具体的な内容を決めましょう。
実行に移れば、結果を随時検証しながら改善していきましょう。
どのような方向性で健康経営を進めていくと良いのか?
健康経営の進め方を理解したところで、実際に行う計画を立てるには、具体的な実施例があると分かりやすいものです。健康経営のメリットを生かすための取り組みを紹介します。
福利厚生を充実させる
福利厚生の充実は、健康経営だけでなく、企業に対する満足度を上げられる、節税対策ができる場合もあるなど、企業にも従業員にも大きなメリットがあります。
アニバーサリー休暇などの休暇制度を増やしたり、社内の空きスペースにカフェスペースを設置したりする方法もあります。また、外部の保健師を依頼し、個々の状況に合った食事や運動の指導を行うのも良いでしょう。
健康診断の検査項目を追加する
健康診断は、労働安全衛生法の規定により企業の義務となっています。既定の検査項目に加えて、業種によって追加すべき項目もあるほか、健康診断の実施元と相談のうえで項目を追加できる場合もあります。従業員の年齢層や健康状態などを考慮して、相談してみるのも良いでしょう。
運動しやすい環境を整備する
朝礼時の体操や昼休みのストレッチなど、短時間でも身体を動かして運動できる環境を作ることはとても大切です。周辺にランニングコースが確保できる立地の企業では、昼休みにジョギングやウォーキングなどを行うこともできます。
時間が来たらストレッチを始める合図となる音楽を流すのも、きっかけ作りのひとつになります。
個別面談を増やす
ストレスチェックの結果が思わしくなかった従業員はもちろんのこと、そうでない従業員も、個別面談を増やすことで、話しやすい職場環境に結び付けられます。
また、解決策がなくとも、話すことで気持ちが落ち着き、業務に対して前向きに取り組めるようになることもあるでしょう。
労働時間を見直す
健康経営で重要な取り組みが、労働時間の見直しです。
月の残業時間が100時間以上、もしくは直近2か月から6か月の平均残業時間が80時間以上あると、健康を損なうリスクが高まるといわれています。業務を分担する・業務効率を上げるなどの対策が急がれます。
ほかに、従業員の出勤時間をずらしたり、短時間勤務やフレックスタイム制を導入したりすることで、多様なライフスタイルに合わせた働き方ができるようになります。
誰もが働きやすい労働時間の制度を作ることも、健康経営につながる取り組みです。
まとめ
健康経営を適切に実行していくことは、従業員の健康を守るだけでなく、企業の価値を高める結果にもつながります。従業員の健康に投資をするという考え方は、今後の企業経営に欠かせないものになっていくことでしょう。
効果的な健康経営の取り組み内容は、企業ごとで異なります。今回解説した内容を参考に最適な取り組みを検討し、進めていきましょう。
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