テレワーク

2021.06.04

アイデアが生まれる環境はつくれる!「音」や「映像」を活用してワークプレイスを「知的生産所」へ

アイデアが生まれる環境はつくれる!「音」や「映像」を活用してワークプレイスを「知的生産所」へ

ワークプレイスの研究は、現在いたるところで行われています。今回は、「音」や「映像」の観点から紐解くため、「頭がよくなる知的生産性の技術」を執筆し、「知的照明」や「擬似窓」など、オフィス空間の研究を進めている三木光範名誉教授(同志社大学)に話をお伺いしました。オフィスを「知的生産所」にするための必要なポイントや考え方についてご紹介していきます。

オフィスにとって、白くて明るい照明がベストなのか?

――まず初めに、三木教授が「オフィス空間」「知的照明」の研究を始められた経緯について教えていただけますでしょうか。

数十年前から、オフィス照明は白くて明るいことがベストと言われ続けていました。しかし、飲食店やレストラン、カフェなどは、暖色系の色で少し暗めの照明にすることでリラックス環境を整えていました。私は、オフィスも白くて明るいだけでなく、リラックスしたい時には照明を調節して光の色を変えることや暗くするなど、社員の状況や仕事の内容によって、最適な明るさがあると考えたことが研究のきっかけです。

――ワークプレイスにおける照明の効果について教えていただけますでしょうか。

白くて明るい照明は、やる気や緊張感を高める効果があります。一方で、電球色で少し暗い程度の照明は、リラックス効果を高め、想像力を豊かにする効果が期待できます。資料作成など集中するときは明るい照明にする、アイデアを出すときや、風邪気味で体調の悪いときは、電球色で暗めの照明にするなど、求める効果に合わせることで、快適度が変わることが研究から明らかになっています。

また、照明の明るさは、社員の睡眠効率にも影響を与えます。深夜に青白く明るい照明のもとで仕事を行うことで、緊張状態が続き「睡眠ホルモン」と呼ばれるメラトニンの分泌量が低下し、睡眠に悪影響を与えます。したがって18時以降は、照明を電球色で暗めにすることで、睡眠の質が向上し、翌日のパフォーマンスを高めることにもつながるのです。また、照明を電球色にすることや暗くすることは、社員の退勤を促す効果もあります。不必要な残業を減らすことで社員のワークライフバランスの向上にも寄与します。

――今のオフィスの状況をどうお考えですか。

オフィスは、社員同士のコミュニケーションを活発に行う場所や、リラックスできる場所であると考えています。今は、新型コロナウイルス感染症の影響でリモートワークを余儀なくされている会社も多く、シェアオフィスなどの活用により、必ずしもオフィスに出社する必要はなくなりました。一人ひとりの社員が自分の意思で働く場所を選ぶことが大切になった今、オフィスは、わざわざ出社したくなる場所になることが求められています。

知的生産性を高めるためには、「快適な職場環境」を整えよう

――新しい発想やアイデアを生むためのポイントは、なんでしょうか。

新しいアイデアを出すためには「コミュニケーション」が最も重要です。人は、他人と話すとき、自分なりの意見や、相手の気づきとなるような情報を発言するために、頭をフル回転させて考えます。そうしたプロセスを踏む中で、人の発言がきっかけとなって、アイデアが思いつきやすくなるのです。

アイデアを出すためのコミュニケーションは、対面などのリアルコミュニケーションが効果的です。ビデオ会議システムは、メインの声を広く届ける設計となっている場合が多いです。そのため、咄嗟の質問など周囲からのコメントが聞き取りづらくなり、アイデアのきっかけとなる内容がスルーされてしまう恐れがあります。そのため、掛け合いのコミュニケーションの場合は、対面などのリアルコミュニケーションをお勧めします。

――知的生産性の高いワークプレイスをつくるためにはどのような工夫が必要でしょうか。

社内にリラックス空間を作ることで、社員のリチャージを促し、社員同士のコミュニケーションによる新しいアイデアの創出が期待できます。社員の気分転換や、円滑なコミュニケーションを実現させるために、快適な職場環境を整えることが重要です。そのためには、「擬似窓を設置する」「電球色で暗めの照明にする」「飲食スペースを設置する」「ソファーやスタンディングテーブルを配置する」など、リラックスでき、かつ選択肢が多い空間を目指していきましょう。

特に、窓の重要性は、アメリカやヨーロッパでも注目されています。ヨーロッパでは、細長いビルをつくることで、オフィスの両側から太陽光を取り入れるという考え方が普及していますが、日本の場合は、太陽光を取り入れるよりもテナント数の増加を優先した設計が多いため、会議室や休憩スペースでも、窓がない部屋が多いという状況が生まれています。

自然を取り入れて、リラックスできるオフィスへ

――「音」や「映像」がオフィスにもたらす効果について、どうお考えでしょうか。

映像という観点では「擬似窓」を用いて「山」や「海」「富士山」など自然の景色を表示することや、天窓を活用して「青空」「夕焼け」などを表示することで、開放感や、リラックス効果を高めることができます。

私は、実際に、擬似窓の有無によって、どのような印象を受けるのか実証実験を行いました。無窓空間と有窓空間それぞれで60分間作業を実施。その結果、擬似窓を取り入れた有窓空間では、無窓空間と比べて「疲れを癒せる」「リラックスできる」「気分転換できる」「集中できる」などの項目が高いことがわかりました。

また、とある病院の集中治療室に擬似窓を設置しました。集中治療室は窓がなく、外の情報がわからず、息苦しさを感じることも多かったと言います。擬似窓を活用し朝・昼・晩など、病院外とリンクした映像を流すことで「夜明けがわかるようになった」と看護師さんから高い評価をいただくことができました。

さらに、「水の流れる音」や「鳥の囀り」など、音も組み合わせることも大切です。視覚及び聴覚に疾患を有さない大学生24名を対象に、擬似窓に音を付与した場合の効果と、擬似窓だけを設置した場合の効果を検証しました。無音の場合と比較して、音を活用した方が、擬似窓によるリラックス効果や疲労回復効果が高まるという結果も出ています。

今は、空調やコピー機の高性能化によって、オフィス内の雑音が減っています。これによって、遠く離れた社員の会話なども聞こえるようになり、かえって集中力が低下しているというケースあり、あえて空調に似たノイズを出すといった対策を取っている会社も増えていると聞きます。このことから無音の場合と比較して音を付与することにより、リラックス効果や集中力を高められると言えるのではないでしょうか。

コロナ以降、自宅やシェアオフィスなど、どこでも働けるようになったことで、オフィスは、その場所に出かけて働きたくなるオフィスに変革することが求められます。「音」や「映像」によって自然を取り入れることは、個々のパフォーマンス向上から、企業の成長にも欠かせない要素と言えるでしょう。

参考文献:三木光範氏「頭がよくなる知的生産性の技術」

三木光範氏

監修:三木光範氏

同志社大学工学部卒、大阪市立大学大学院工学研究科博士課程修了。大阪市立工業研究所研究員、金沢工業大学助教授を経て、大阪府立大学工学部航空宇宙工学科助教授。同志社大学工学部知識工学科教授。同志社大学理工学部名誉教授。知的オフィス環境推進協議会会長。
主な研究テーマは「分散知識処理に基づくシステム最適化」「並列処理および並列分散進化的アルゴリズム」「知的システム設計」など。著書に「頭がよくなる知的生産性の技術」(中経出版)「知的システム工学」など著書多数。知的照明システムの研究開発や、次世代オフィスの提案を行っている。