オフィス
2021.06.04
オフィス環境 & テレワークの専門家に聞くこれからのワークプレイスにおける生産性の高め方
新型コロナウイルス感染拡大により、多くの企業が働き方の変化を余儀なくされています。オフィス=ワークプレイスではなくなり、個人が最大限のパフォーマンスを発揮するために、働く場所を選ぶ時代となりました。これからのワークプレイスは、社員にとって働きやすく、そして知的生産性の高まる場所へ進化することが求められてきます。1990年代に旧通産省が始めたニューオフィス化運動の頃から30年以上にわたって、オフィス環境と生産性についての研究を続けられている古川靖洋教授(関西学院大学)に、生産性を高めるためのポイントや方法について、話をお伺いしました。
見通しのないレイアウト変更や家具の改善では、生産性は向上しない
――教授が「オフィス環境」の研究を始められた経緯について教えていただけますか。
大学院で経営学を専攻していた頃、知人がオフィス家具メーカーに勤務していたことがきっかけです。その当時、多くのオフィスは、机や椅子などグレー1色で、画一的なレイアウト方式を採用していました。1990年代に、ニューオフィス化運動が始まり、木製のデスクや、居心地の良い椅子など、職場環境を改善することで生産性が上がるのではないかと、議論が活発に行われていました。
私は、単純にレイアウトや家具の改善で、生産性は向上しないと仮説を立てました。それからは、どうすれば生産性が向上するのか、次第に興味が強くなり「オフィス環境における生産性」や「テレワーク」についての研究を始めました。
オフィス環境の整備は、オフィスワーカーの生産性向上の必要条件であっても、十分条件ではありません。生産性向上のためには、オフィス環境の整備とともに、生産性向上のための諸施策を実施する必要があることが研究からわかりました。
パフォーマンスを高めるために、一人ひとりが働く場所を選ぶ時代へ
――今、急激にテレワークが普及する中で、どのような変化が起きているのでしょうか。
新型コロナウイルス感染拡大によって、朝から晩まで在宅のテレワークが主流になりつつあります。しかし、ポストコロナになったとき、1日中、在宅勤務では必ずどこかで無理が生じてくるでしょう。
これからは、自宅、オフィス、サテライトオフィスなど、働く場所を自分で選んでいく時代です。つまり、ワークプレイス=オフィスではないといえます。社員一人ひとりが、一番パフォーマンスを発揮できる場所を考えて、業務を推進することが求められています。
「集中時間」は確保できるものの、「孤立」を感じているテレワーカー
――テレワークのメリット・デメリットについてどのようにお考えですか。
テレワークのメリットは「感染症対策」「通勤時間の削減」「オフィスの床面積の縮小によるコスト削減」など、安全対策やコスト削減に関する内容が挙げられます。それに加えて、「集中時間の増加」「有能・多様な人材の確保」「社員一人ひとりの自律性向上」など、社員や組織のパフォーマンスに関する要素もメリットといえるでしょう。
一方、デメリットとして、「コミュニケーション不足」「孤立感・疎外感」「仲間意識の欠如」「業績管理が難しい」など、社員同士が離れて働くことによる問題があります。
テレワークの効果を最大限高めるためには、社員一人ひとりのパフォーマンスの向上に目を向けつつ、「コミュニケーション不足」や「孤立感・疎外感の解消」「適切な業務管理」を行う体制づくりが必要です。
「創造性」「情報交換度」「モチベーション」を意識して、生産性の高い組織をつくろう
――オフィスワーカーの生産性は、どのように求めることができるのでしょうか。
一般的に生産性は、「生産性=算出量(アウトプット)÷投入量(コスト)」で求めることができます。ところが、この公式では、社員のアウトプットを何で測ればいいのかわかりません。比較対象が不透明なため、アウトプットのほうは一旦棚に上げてしまい、人員削減や経費削減といった投入量(コスト)を削減する方法に頼らざるを得ないという状況が起こっています。
そこで、私は、オフィスワーカーのアウトプットの特定は難しいと考え、そのアウトプットに影響を及ぼすと考えられる要因として「創造性」「情報交換度」「モチベーション」の3つの指標を定義しました。
まず、一つ目の「創造性」を高める要因としては、「学習機会の創出」「能力開発制度の充実」「権限委譲」が挙げられます。仕事の計画や時間管理など、自律性を高めることで、社員の主体的な行動につながります。
二つ目の「情報交換度」については、「コミュニケーションを活性化させる組織づくり」が重要です。コミュニケーションが活発なほど、社員同士の信頼度も高くなることが、研究結果から明らかになりました。さらに、チャットツールなどの連絡ツールの整備に加えて、ペーパーレス化やオンライン申請などの仕組みが適切に運用されているほど、「情報交換度」が高まる傾向にあります。定型業務の効率化をはかることで、重要な案件に対するコミュニケーションを確保しやすくなるのです。
三つ目の「モチベーション」を高めるためには、「成果主義による人事評価」や「活発なコミュニケーション」が重要な要因になります。会社への信頼度や帰属意識、経営理念への共感度が高いと、モチベーションも高くなることがわかっています。
以上の3つが、オフィスワーカーの生産性を高めることにつながっているのです。
チームの生産性を高める鍵は、「リアルなコミュニケーション」
――テレワークを行うことで、社員の生産性は高まっているのでしょうか。
テレワークの実施により、多くの社員が、「家族と過ごす時間の確保」や、「通勤時間の削減」によって、ワークライフバランスを充実させています。また、周囲に社員がいないことで集中時間が増加し、パフォーマンスが上がっているという研究結果も出ています。
チームの生産性向上という観点においては、「プロジェクト開始前」と「プロジェクト途中」に、対面コミュニケーションを取り入れることが重要です。テレワークを運用している場合でも、要所要所で、対面ミーティングの機会をつくるほうが望ましいと考えます。「〇〇さんはこの範囲を担当してほしい」などリアルコミュニケーションを通してメンバーの仕事を明確にする事で、プロジェクトを円滑に進めることができます。最終的には、チームの生産性の向上にもつながっていくのです。
客観データを取得し、社員の業務状況を見える化できるソリューション
――パナソニックEWネットワ―クス社が提供する「組織ネットワーク分析ソリューション」は、メールやチャットなどデジタルコミュニケーションから組織のネットワーク状況を分析し、社員一人ひとりのモチベーションや業務状況を見える化するツールです。こちらのソリューションについて、先生のご意見をお伺いできませんでしょうか。
社員の業務状況のデータを分析し、生産性を高めることを目的とした研究は、以前から行われていました。しかし、実際にデータをとるデバイスやテクノロジーが追いついておらず、社員のコミュニケーションや労働時間などの業務状況は、アンケートなどアナログな手法でしか取得できないという状況でした。
「組織ネットワーク分析ソリューション」は、社員一人ひとりの主観ではなく、客観データを取得することができます。そのため、業務状況の見える化の精度が高いといえるでしょう。「コミュニケーション」「集中時間」「業務時間」など生産性を高める要素について分析ができます。データ分析に基づく行動の見える化、改善によって、社員一人ひとり、そして組織全体の生産性向上につながるのではないでしょうか。
参考文献:古川靖洋著「テレワーク導入による生産性向上戦略」
監修:古川 靖洋氏
慶應義塾大学商学部卒、慶應義塾大学商学研究科博士後期課程修了。博士(商学)。関西学院大学総合政策学部学部長。専門は、計量経営学、人的資源管理論。現在は、ホワイトカラーの生産性向上策やテレワークと生産性の関連性の調査などに取り組んでいる。
著書に『情報社会の生産性向上要因』、『テレワーク導入による生産性向上戦略』(いずれも千倉書房刊)。2006年から一般社団法人日本テレワーク協会アドバイザー、2017年から日本経営品質賞判定委員に従事。
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