ウェルビーイング

2021.06.30

【前編】病気じゃないことが、健康ではない。 肉体的、精神的、社会的に、社員を満たす!
Well-beingな組織変革

【前編】病気じゃないことが、健康ではない。肉体的、精神的、社会的に、社員を満たす!Well-beingな組織変革

対談メンバー

小島 玲子 氏

株式会社丸井グループ執行役員CWO(Chief Well-being Officer) / ウェルネス推進部 部長 / 医師 医学博士 / 専属産業医

田中 宣仁 氏

パナソニック株式会社ライフソリューションズ社東京汐留ビル健康管理室 / 産業医

庄野 善雄

パナソニックEWネットワ―クス株式会社 代表取締役社長

近年、Well-beingという言葉が注目され、病気を予防するだけでなく、より健康的に活力高く働ける職場が求められています。丸井グループやパナソニックグループは、全ての人がいきいきと働く職場をつくるために、Well-beingの考えを取り入れた経営を実践しています。Well-beingの重要性や、「ウェルネス経営」「レジリエンスプログラム」について、3者対談を通して語っていただきました。

幸せに働くためにはどうすればいいか?
産業医の仕事を通じて、Well-beingと出会った。

小島:私は、今の日本を支えている生産年齢の人たちを支える医師になりたいという想いで産業医になりました。大手メーカーの産業医を10年ほど経験する中で、病気にならないということだけでなく「人々がより活力高く幸せに働くための研究をしたい」と考え、大学院で人と組織の活性化について研究して医学博士号を取りました。そして、2011年から丸井グループの産業医を務め、病気を防ぐ、マイナスを減らすことだけではなく、プラスを創る、人と組織の活力を高める活動をしてきました。

田中:私も産業医として働き始めたときは、人が病気になることを防ぎたいという予防に対する想いを中心に仕事をしていました。2012年にパナソニックグループに入社してからは、主に、関東エリアで勤務している社員の健康管理を担当。身体的・精神的な問題を抱える社員に対するケアをしてきました。しかし、小島先生など他の産業医の方と一緒に学ぶ中で、活力を高める、幸せを広げるということも健康の大事な要素と気づき、今はそういった活動に注力しています。

庄野:私も小島先生の考えに触れた一人です。キャリアを重ねる中で、チームの人数が増加し、その中で社員が力を発揮するにはどうしたら良いのか、マネジメントの方法に悩んだ時期がありました。そんな中、レジリエンスプログラムで小島先生と田中先生に出会い、私自身のマネジメントの変化に大きな影響がありました。今回はいろいろと振り返りながらお話ができたらなと思っています。

プラスを積み上げたい。
全員がいきいきと働く職場へ。

小島:皆さんは、「健康の定義」をご存知でしょうか。WHO憲章(1947年採択)では、その前文で「健康」を次のように定義しています。「健康とは、病気でないとか、弱っていないということではなく、肉体的にも、精神的にも、そして社会的にも、すべてが満たされた状態のことを言います」。(日本WHO協会訳)。 英語の原文では、Well-beingと表記されています。昨今Well-beingという言葉の認知が広がってきていますが、実は、Well-beingは新しい概念ではなく昔からあり、本来の健康をさす言葉なのです。

田中:Well-beingという言葉は「健康」、領域によっては「幸せ」の概念も含んでいます。健康な社員、幸せな社員は、メンタル不調になりにくいことに加えて、創造性や生産性が高く、チームワークにもいい影響を与えるということが研究からもわかっています。人と組織の活力が溢れているという状態が、社員一人ひとりにとっても会社にとってもwin-winと言えます。産業医としてもこのような状況が望ましいという想いで日々仕事に取り組んでいます。

小島:このイメージ図(グラフ)は、縦軸が上にいくほど活力が高いことを表しており、0地点は、病気でない状態を表しています。一般的な健康経営は例えばメタボリックシンドロームやメンタルヘルス不調の割合が減少するなど、「マイナスを0にして、リスクを減らす」というイメージが強いかと思います。

小島:しかし、医師は病気のことだけではなく、人間の心身が基本的にどのように機能して、活力を高めることができるかというしくみについても、専門的な知見を持っています。産業医は、働く人が今よりいきいきすること、輝くことに貢献できるのではないか、という想いがあるのです。

全社横断の手挙げ式プロジェクトと、トップ層プログラムの両輪で進める。丸井グループのウェルネス経営。

小島:丸井グループでは、2014年に「輝くようにいきいきとした状態をつくること」を目的としたウェルネス推進部(当時は健康推進部)を新設。私は、部長をしています。そして、人々が輝くように、いきいきと幸せな状態をつくることを目指すWell-beingの考え方を丸井グループ全体の経営方針として推進することとなり、2019年から執行役員、2021年5月からCWO(Chief Well-being Officer)をしています。

庄野:小島先生の考えるウェルネス経営について詳しく教えていただけませんでしょうか。

小島:自分と社会、将来世代にとって、意義のある仕事にチャレンジし、成長し続けることで全てのステークホルダーの幸せを実現したい。そのような働き方を実現することが、私たちが未来に向けて進めたいウェルネス経営です。ウェルネス経営の施策として、丸井グループでは、大きく2つの柱があります。一つ目は全社員を対象に手挙げ式で行なうグループ横断プロジェクト。もう一つは管理職以上、経営層が対象の「レジリエンスプログラム」です。

これらは、いわゆる健康増進の取り組みというより、自律的な組織文化をつくるという経営上の目的意識のもとで推進しています。プロジェクトは1期1年間の手挙げ方式で、活動をやりたい社員が自分で応募して、メンバーが選抜されます。2016年の1年目は、健康経営に対する社内理解を進めました。2年目は、職場への取り組みの拡大。3年目は、社外に出ていき、社外の方々と幸せをともにつくる取り組みを始めました。そして、4年目にあたる2020年は、Well-beingの力でコロナ禍の社会を幸せにしようというテーマで、地元の中学・高校と文化祭を実施するなど、社会に活動の幅を広げてきました。

会社を引っ張っていくトップ層こそ、成長すべき。
管理職を対象としたレジリエンスプログラム。

小島:レジリエンスプログラムは、管理職以上のトップ層を対象に実施しています。困難な状況や変化をチャンスと捉えて、組織の活力を高めることを目的としたプログラムです。一般社員を対象としたトレーニングや研修は、数多く見られますが、トップ層を対象とした研修は意外と少なく、個々の裁量に任せている会社も多いのではないでしょうか。会社を引っ張り、世の中を良くしていくために影響を及ぼすトップ層も成長し続けるべきではないかということで、始まったプログラムです。

田中:人や組織に与える影響は、トップ層であればあるほど強くなります。トップ層の方々が、幸せにやりがいを持って仕事をしていれば、社員にも伝わっていきます。だからこそ、私も、パナソニック ライフソリューションズ社においてはできるだけ上役の方々にレジリエンスプログラムを受けていただきたいという想いで動いてきました。

小島:レジリエンスプログラムは、アスリートのように心身を万全の状態に整えて、活性化するという要素が加えられています。トップ層がさらに進化、成長することで、組織もより成長していく。こうした考え方と、最新の医学・心理学などの知見をもとにつくられました。

庄野:私も実際に参加したライフソリューションズ社のレジリエンスプログラムのメンバーには、プログラムのしおりが送られてきます。私は、受講時に太陽光や蓄電池の商品のマーケティングを担当していたのですが、その業界の中で、レジリエンスとは「災害からの復旧」という意味で捉えていました。さらに、しおりと同時に「4つのエネルギー管理術」という本も配布されましたが、エネルギーという言葉も普段の仕事で使われていた言葉でしたので違和感がありました。しかし、この本を読んで意味がわかりました。人間として持っているエネルギーの使い方というところで、それをどうコントロールしていくのが重要であるかと。これを事前に知ることができたのは大きな発見でした。

小島:レジリエンスプログラムは、一年間を通して、自分と組織の幸せを高め、活力のあるトップ層になっていただくことを目指しています。4つの活力「身体(食事・睡眠・運動)」「情動」「思考」「精神」を高めるため、個人と組織の活力を高めるアクションと習慣化を実施していきます。キックオフ合宿や、中間発表会、最終発表会、これに加えて丸井グループでは、クォーターセッションを行い、各々の取り組みを共有したり、トップ層同士が実際の困難事例を通じて学び合う場を作っています。

田中:これまでライフソリューションズ社で行ったレジリエンスプログラムの目的や内容も、基本的に同じものになります。一部ストーリーの中に、パナソニックのストーリーを入れるなど工夫しています。あと、唯一違いがあるとすれば、いろいろな組織の都合があって期間が半年というところです。初回合宿、三ヶ月後の中間発表会、半年後の最終発表会という流れで進めていきます。

小島:レジリエンスプログラムの目的は、大きく3つです。1つ目が、さまざまな局面で人としての機能を最大限発揮できるようになること。2つ目が、困難な状況での対応力を高め、変化をチャンスとして楽しみ、活かせるようにすること。そして3つ目が、その影響を職場に波及させて、活力高く幸せな職場を作ることです。

庄野:私も本当にさまざまな気づきがあって、今のワークプレイスづくりに活きています。

次の回では、具体的なレジリエンスプログラムで得られた効果や、ワークプレイスづくりにどのように活かされていくのか、紐解いていきます。

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