職場改善
2021.07.05
ウェルネス経営とはどのような方針?従業員の健康を守るための内容を解説
企業において、従業員の健康を「重要な財産」と捉える動きが顕著にあらわれてきました。従業員の健康を保ち、個々のスキルや能力を発揮することが、企業の発展につながるとの考えが広まっています。
この考えをより具体化し、健康管理を進めようとする取り組みが「ウェルネス経営」です。ウェルネス経営を促進し、企業と従業員の双方が健康に対する意識を高めることの重要性に注目が集まっています。
今回の記事では、ウェルネス経営の詳細やメリットについて詳しく解説します。
ウェルネス経営とは?
まずはウェルネス経営について概要を把握し、的確な取り組みができるよう理解を深めていきましょう。
企業が従業員の健康目標を数値化し、健康管理を行う
ウェルネス経営とは、企業の業績を伸ばすための構想として、従業員の健康管理を行う経営方法をさします。従業員が、個々の健康状態を把握しやすいように、目標を数値化することが特徴です。
ウェルネス(wellness)の概念を最初に提唱したのは、アメリカの公衆衛生学者であったハルバート・L・ダン博士でした。病気の予防だけでなく、生きがいや心の豊かさなどを含めた総合的な観点で健康を捉えようという内容が掲げられたのです。その中で、一人一人が健康でいるためには、社会システムが必須だと提言しています。
従業員のメンタルヘルスやダイエットなどを管理することが、ウェルネス経営における取り組みの事例として挙げられます。具体的な数値目標を掲げ、それに向けて企業を挙げて施策を行います。
ウェルネスの指標は7つあり、感情・精神・知性・身体・社会的・環境・職業のそれぞれを満たす必要があります。この指標に沿って、ウェルネス経営の数値目標を設定することが大切です。
健康経営をより具体化したもの
ウェルネス経営と並んで取り組む企業が増えているのが、「健康経営」です。健康経営も、企業が従業員の健康に配慮する施策ですが、これまで数値目標がはっきり提示されていませんでした。ウェルネス経営を行い、目標を明確にすることで取り組みやすくなるといえるでしょう。
経済産業省では、2015年から「健康経営銘柄」の選定を行い、2017年には「健康経営優良法人」の認定をすることで、ウェルネスへの取り組みを推進しています。さらに、2021年度以降に実施される健康経営の取り組みに関する調査において、優れた成果を挙げている企業を公表することにしました。了承を得られた企業に限られますが、対策内容を数値化して公表することで、意識を高めることを目標としています。
この取り組みは、ウェルネス経営の重要な戦略として今後拡大していくことでしょう。
ウェルネス経営の重要性が叫ばれる背景とは
日本において、ウェルネス経営の重要性が大きくクローズアップされるようになった背景には、どのような事情があるのでしょうか。
効率的な働き方が求められている
以前の日本では、働く時間が長ければ長いほど良いとされていました。しかし、社会情勢や人々の考え方が徐々に変化したことで、単に長時間働くのではなく、効率的に働く体制づくりが求められるようになってきました。
現在では、残業時間の上限規制も行われ、長時間働くことが必ずしも業績の向上につながるとは限らなくなっています。
ストレスチェックの義務化
労働安全衛生法の改正に伴い、従業員が50人以上在籍する事業所には、2015年12月から「ストレスチェック」の実施が義務付けられました。従業員が、自分のストレス状態を把握することで、メンタルヘルスの不調が起こらないよう防止する取り組みです。
事業所は、ストレスチェックの実施後に、実施時期・対象人数・受検人数・面接指導を行った人数を、労働基準監督署へ報告する義務があります。報告を怠ると罰則があるため、報告漏れがないように注意しなければなりません。
メンタルヘルスの悪化を防ぐためにも、ウェルネス経営の考え方を取り入れる必要性に注目が集まっています。
従業員が長く働けるための環境づくり
ウェルネス経営を行っている企業は、従業員の健康管理に積極的にかかわります。これは、人材に対する投資へとつながり、従業員が長く働くための環境を整備することになり、働きやすい職場環境の構築につながります。
ウェルネス経営で得られるメリットとは
ウェルネス経営を導入することで、企業はどのようなメリットを得られるのでしょうか。詳しく見ていきましょう。
体調悪化を理由とする休職者や退職者を未然に防ぐ
ウェルネス経営によって企業が従業員の健康管理を行うと、労働環境が改善されるため、従業員が体調不良を起こすリスクを下げる効果が期待できます。このことから、体調不良による休職者や退職者が発生するのを防ぐ結果につなげられるでしょう。
体調不良による休職者や退職者が発生すると、本人も辛い思いをするうえ、残された従業員で業務を分担することになるため、負担と労働時間が増え、退職者がさらに増加する事態になりかねません。このような悪循環を防ぐために、ウェルネス経営への取り組みが役に立ちます。
企業ブランドのイメージを上げられる
ウェルネス経営を取り入れると、従業員の健康を重視している企業だという印象を与えることができます。従業員が安心して働ける環境が整ううえ、求職者へのアピールポイントにもなります。
医療費の軽減につなげられる
従業員が健康を保持できれば、病院にかかる機会を減らせます。その結果、企業が負担する医療費を軽減することが可能です。
健康保険組合全体が抱える赤字額は、2021年度は6,700億円、2022年度は9,400億円にも達する見通しだという数値が発表されており、年々増え続けていることが明確です。この数値を少しでも減らすために、従業員の健康を保つ施策が急務となっています。
ウェルネス経営を導入している企業の取り組み内容とは
実際にウェルネス経営を導入している企業では、具体的にどのように取り入れ、どのような成果が生まれているのでしょうか。成功事例を検証してみましょう。
吉野家の社員が、食事利用アプリの利用で減量に成功した
牛丼やうどんのチェーン店を展開する「吉野家ホールディングス」では、2015年にウェルネス経営宣言を行ったうえ、CWO(チーフウェルネスオフィサー)を置いて従業員の食生活改善を実施しました。
食事利用アプリを活用したところ、肥満の所見が見られた役職者の多くが10㎏以上減量するという成果を出したのです。さらに、該当者以外の社員も自主的にダイエットを始め、社を挙げて健康への関心を高めることに成功しました。
部長以上への昇進条件として、健康であることを定める方針も検討されており、健康に向けての取り組みには今後も注目が集まるでしょう。
住友商事グループのSCSKで、残業時間の削減および有給取得率が上がった
住友商事グループでITサービスを提供しているSCSK株式会社では、職種柄身体を動かすことが少ないシステムエンジニアに向けてさまざまな取り組みを行いました。
「スマートワーク・チャレンジ20」と名付けられた取り組みでは、残業時間を18時間に減らすことに成功し、有給休暇の取得日数も19日(取得率97%)を達成。さらに、ウォーキングの積極的な実施や朝食の摂取など、生活や食事の習慣改善にも努めました。この結果、営業利益が大幅に増加した事実は見逃せません。
楽天で、身体に関するオンラインセミナーを実施した
オンラインショッピングや金融を始め、幅広い分野で業績を伸ばしている楽天では、2018年12月に新設された「ウェルネス部」を中心としてウェルネスへの取り組みを実施しています。
新型コロナウイルスの影響で、多くの従業員が在宅勤務となった際に、運動不足や睡眠不足、体重管理などの課題に対処するため、オンラインセミナーを実施しました。実践姿勢学など身近な内容で実施したことで、毎回400名ほどの参加者が集まりました。
まとめ
ウェルネス経営を推進することで、人間にとって最も重要な「健康」を気遣う大切さを再認識するきっかけが生まれます。日本では労働人口の減少が大きな課題となっていますが、この問題を解消する施策のひとつとして、ウェルネス経営の重要性が叫ばれているのです。
企業の発展と従業員の健康の双方を守るために、ウェルネス経営の導入を進めていきましょう。
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