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2021.12.27

従業員エンゲージメントとは? 基礎知識と向上への取り組み事例紹介

従業員エンゲージメントとは? 基礎知識と向上への取り組み事例紹介

従業員エンゲージメントとは企業に対する従業員の思いや態度を表す言葉です。従業員満足度やモチベーションなど似たような言葉は複数ありますが、それらと従業員エンゲージメントとは決定的に異なる点があります。これからの企業の命運を左右することにもなりかねない概念であり、数多くの企業が向上を目指している従業員エンゲージメントについて解説し、基礎的な知識や事例を紹介します。

従業員エンゲージメントはこれからの企業に必要な概念

従業員エンゲージメントの第一歩は企業への理解と信頼感

従業員エンゲージメントは個々の従業員の内心に生じるものです。従業員エンゲージメントを構成する要素は主として3つあります。そのうち、最初に必要となるのが所属企業や組織に対する理解と信頼感で、前提条件ともいえます。

信頼感をより前向きな言葉で表現するなら共感です。この2点のどちらか一方でも欠けていれば、個々の従業員がどのような働きをしていようとも、従業員エンゲージメントが高いとはいえません。

また、現状ではあまり活躍できていないと見られる従業員であっても、高い従業員エンゲージメントを持っている可能性があります。

ちなみに「企業の従業員エンゲージメントが高い」という表現は、従業員エンゲージメントの高い従業員が多いことを示しており、すべての企業が目指すべき状況だといえるでしょう。従業員エンゲージメントを高めたいなら、前提となっている2つの構成要素(理解・信頼感)を満たすことが重要になります。

自発的な貢献意欲も従業員エンゲージメントの発露

前提となる理解と信頼感とは異なる要素として貢献意欲があります。貢献意欲は理解と信頼感があるからこそ生まれる意識です。従業員が自発的に貢献意欲を示している場合は、従業員エンゲージメントの発露であると考えられます。

ただし、貢献意欲とそれ以外のやる気の区別は一般的に困難です。だからこそ、前提となる理解と信頼感との3点セットが重要になります。

これからの企業には欠かせない概念

従業員エンゲージメントに注目が集まっているのは、これからの企業や組織には欠かせない概念だといわれているためでもあります。自社のビジョンを理解し、経営陣も含めて信ずるに足りる企業だと思ってくれる従業員の貢献意欲が高ければ、企業が未来へ向かって進む原動力になるでしょう。

先ほど、理解と信頼度の一方でも欠けていれば従業員エンゲージメントが高いとはいえないと述べました。従業員エンゲージメントが高くなければ、一時的にはともかく、将来にわたる貢献を期待することができません。つまり、これからの企業にとって従業員エンゲージメントは必要不可欠なものとなっています。

従業員エンゲージメントと従来の3大概念はココが違う

従業員満足度との違い

従業員エンゲージメントに似た概念で、従来から注目されてきた3大概念に従業員満足度とモチベーション、そして忠誠心があります。3大概念が現在でも重要視されているのは事実です。ここでは、3大概念と従業員エンゲージメントの違いを見ていきます。

まずは従業員満足度です。従業員が満足している企業は良い企業だといわれます。それはそれで重要なことですが、従業員が満足していれば企業経営が順調に進むかといえば、必ずしもそうではありません。満足している理由が重要です。

従業員満足度は、どちらかといえば企業側が従業員に提供する条件や、心地よさなどに左右される部分が大きいといえます。極端な話をすれば、「仕事をしていなくてもちゃんと給料がもらえてクビになる心配もない」という状況があったとして、それで満足だという従業員が多数いてもおかしくはないでしょう。

また、正当な理由で満足していたとしても、このままずっと満足感が続く保証はありません。一般的に人間は満足感を得られるレベルに到達しても、さらなるレベルを求めることが珍しくなく、現状維持は満足感を薄れさせる可能性があるためです。良い方に作用すれば向上心のベースにもなりますが、悪くするとただ不満が募るばかりとなります。

一方、従業員エンゲージメントは「現状に対する満足度」とは直接的な関係があまりない概念です。その企業に所属していること自体が嫌だというケースは別として、従業員満足度が低い状況でも向上させる可能性をもっているのが従業員エンゲージメントだといえます。

モチベーションとの違い

モチベーションは動機付けや意欲、あるいは目的意識とも呼ばれる概念です。給料を多く稼ぎたいから仕事を頑張るケースでは、給料を多く稼ぎたいという気持ちが動機付けであり目的意識となっています。この場合、いま所属している企業への思いとは必ずしも一致しません。個人差があるとしても、より多くの報酬を得るためなら転職も視野に入ります。

また、仕事内容そのものがモチベーションとなっているケースも少なくないと考えられます。「やりたい仕事があるから働いているが、この会社には拘らない」と考えている従業員がいても不思議ではないでしょう。

モチベーションと従業員エンゲージメントの関係を示すなら、企業への貢献意欲が従業員エンゲージメントを向上させる大きなモチベーションになり得るといえます。つまり、モチベーションという概念は従業員エンゲージメントと比較するものではなく、従業員満足度と同様に関係性をもったカテゴリの異なる概念です。

忠誠心との違い

所属する企業に貢献するという意味では忠誠心と従業員モチベーションはよく似ています。似てはいるものの、忠誠心には上下関係があります。大名と家来のように、理解や信頼度の有無に関係なく存在しているのが忠誠心です。

大名と企業は違うといっても、日本では力関係において企業が従業員を圧倒しているケースがほとんどだったといえるでしょう。この傾向は現在でも残っています。企業側が強制しているわけではないといっても、企業が優越的地位にあることは事実です。

これには日本型の終身雇用制度と、年功序列の賃金体系が大きく関係していると考えられています。安定した生活が保障されるのと引き換えに、企業に従属する関係性です。結果として忠誠心に支配されている心理状態では失敗しないことが重要となりやすく、自分の意見を述べたり、自分から行動を起こしたりといった動きが抑制されてしまうリスクがあります。

また、忠誠心は企業や経営陣に対するものだけでなく、上司に対しても生じ得ます。上司が企業と同じ方向に進んでいるときは問題にならなくても、違う方向を向いていると部下が引きずられてしまい、お互いに脱線しかねません。さらに、顧客に対する忠誠心という視点もあります。

したがって、企業への理解と信頼感をベースとした自発的な貢献意欲であり、愛社精神ともいえる従業員モチベーションと忠誠心とは、相容れない概念です。

従業員エンゲージメントがもたらすメリット

離職率を改善させる

経済産業省が公表している資料の中で米ギャラップ社の調査データが紹介されています。82,000企業の従業員180万人が対象の調査で、エンゲージメントスコアが高い企業では離職率が低い傾向が示されていました(※1)。

企業に対する理解だけでなく信頼度と貢献意欲からなる従業員エンゲージメントが高ければ、その企業を離れたいと考える従業員が少なくなるのは当然の結果だといえるでしょう。

出典 ※1:【経済産業省】経済産業省主催 経営競争強化に向けた人材マネジメント研究会 第2回研究会(P.9)

優秀な人材の採用につながる

離職率が低い企業は、それだけでも就職活動を行っている学生や転職先を探しているサラリーマンに与える印象がよくなります。離職率が低い理由となっている従業員エンゲージメントの高さを生み出す企業の姿勢が伝われば、印象のよさだけでなく注目を集めることも可能です。

経営理念やビジョンを理解できて信頼に足りる企業だと知られることで、そうではない企業よりも上位の志望順位を得られ、優秀な人材の採用を期待できます。

企業内が明るく活発になる

従業員エンゲージメントが高い人材が増えることで、企業が示す理念をもって、積極的に貢献しようとする姿勢が目立つようになります。前向きな姿勢は職場の雰囲気を明るくするだけでなく、従業員同士の建設的なコミュニケーションを活発にする要素ともなります。その流れで自発的に貢献しようとする行動が増えれば、業績の向上につながります。

さらなるモチベーションアップが見込める

従業員エンゲージメントの高さがもたらす業績の向上は、貢献意欲をもつ従業員に好結果という形の満足感をもたらします。企業の理念やビジョンと自分の理解に間違いがなく、信頼感が正しいものであったと実感できる瞬間です。一種の成功体験ともいえますが、さらなるモチベーションアップが見込めます。

顧客満足度の向上につながる

高い従業員エンゲージメントは顧客満足度の向上にもつながります。企業の業績がアップする直接的で大きな理由は、意欲的な従業員によって高品質な商品やサービスを提供できていることです。

また、明るい雰囲気の職場で結果も出ている中ではネガティブな感情が生まれにくく、顧客対応が高いレベルで安定することも大きく貢献します。顧客に接するすべての従業員が、顧客の問題解決に向かって力を発揮する状況です。

生産性と業績が好調になる

経済産業省の資料に掲載されている民間の調査結果によれば、従業員エンゲージメントスコアと企業の生産性、業績には相関関係が認められています。スコアが低いと必ず生産性や業績が悪いわけではなく、スコアの高い企業のほうに生産性や業績の高さが見て取れる結果です(※2)。

出典 ※2:【経済産業省】参考資料集 令和2年7月(P.43)

日本企業の従業員エンゲージメントは高くない

日本企業で熱意あふれる社員は6%という調査結果

2017年の米ギャラップ社の調査によれば、日本は熱意あふれる社員が6%しかいないという結果が出ています。調査対象となった139ヶ国の中で132位という位置は、ほぼ最低ランクです(※3)。

この調査結果については、当時の日本経済新聞の電子版でも記事になっており、「周囲に不満をまき散らしている無気力な社員」と、「やる気のない社員」の割合がそれぞれ24%と70%にも上ることも報じられていました。

ここでの熱意あふれる社員が従業員エンゲージメントの高い社員であることはいうまでもありません。それよりも驚きなのはネガティブな社員の多さです。この調査でたまたま多かっただけとはいい切れない数値となっています。

記事では当時来日したギャラップ社CEOのインタビューでの解説(見解)を載せています。主な原因が上司にあり、上司にいわれたとおりの仕事をしていれば成功するという従来型の日本らしい手法を変える必要があるという趣旨です(※4)。

出典 ※3:【経済産業省】参考資料集 令和2年7月(P.42)
参照 ※4:【日本経済新聞】「熱意ある社員」6%のみ 日本132位、米ギャラップ調査

終身雇用と年功序列の悪影響

上司にいわれたとおりの仕事をしていれば成功するのであれば、必ずしも悪いことではありません。しかし、その成功は本来の業務での成功だったのでしょうか。記事ではそこまで触れていませんが、上司から良い評価を得るという意味であれば忠誠心のところで述べたように、終身雇用と年功序列の悪影響だといわざるを得ません。日本型雇用システムが従業員エンゲージメントの向上を阻害している可能性があります。

働き方を選びにくい企業文化の影響も

日本型雇用システムといえば、終身雇用と年功序列だけではなく、企業における自分の仕事を自分で選ぶことが難しい人事制度も日本的なものです。企業によって異なる部分もありますが、職種限定の採用でなければ、入社時に適性や研修の結果によって配属部署が決まる状況が多くあります。本人の希望は参考程度といえるでしょう。

職種限定であっても営業職など配属先の拠点が多数ある場合、どの拠点での勤務になるかを選べない文化が多くの企業に残っています。希望と異なる職種や部署、拠点に配属されることで、従業員エンゲージメントを向上させにくくなっている可能性があります。

複数の拠点をもっている企業では、新人時代を終えた後においても、退職するまで転勤の可能性がある点を含めての影響です。

そもそも従業員エンゲージメントを向上させる取り組みが行われていない

身も蓋もない話になりますが、従業員エンゲージメントを向上させる取り組みが行われていなければ、結果が出る可能性はほぼありません。

企業自体が人材不足を実感していたり、マネジメント不足を感じたりしているケースも少なからずあります。人材も足りないしマネジメントもできていないのでは、冒頭の調査結果も頷けます。

また、従業員エンゲージメント向上のカギを握る価値創造部門になり得る人事部門を、単なる管理部門とする見方が浸透していたり、そういった考えに基づいた運用になっていることも阻害要因のひとつとされています。人事部を管理部門とみなす人の割合で、グローバル平均より15ポイントも高いのが日本だとの調査結果がある点に注目が必要です(※5)。

出典 ※5:【経済産業省】参考資料集 令和2年7月(P.6)

従業員エンゲージメントを向上させる手段

現状の従業員エンゲージメントを把握する

現状の従業員エンゲージメントの度合い、実情を把握することが向上への第一歩となります。世界的な有名企業であるSONYの場合、エンゲージメントを人事戦略上の要素の中で最重要と考え、社員意識調査を定期的に実施して施策に反映しています(※6)。

出典 ※6:【経済産業省】参考資料集 令和2年7月(P.24)

企業の理念や目指すところを明確に示す

企業に対する理解や信頼感を得るためには、理解や信頼感の対象となる企業理念やビジョン・指標を施策も交えて明確に示し共有する必要があります。何を考えてどこを目指しているのか目標が曖昧な状態での理解は困難です。

企業の存在感を示す

社会的に自社が重要な存在であると認識されることは、従業員の理解と信頼感を得るうえで重要です。本業における貢献だけでなく、PR活動も含めて方法を検討し、社会的に重要なポジションにある企業だと認識してもらえる努力をする必要があります。

コミュニケーションの活発化

従業員エンゲージメントが高ければコミュニケーションも活発なはずです。活発でないのであれば、対策を講じて活発化を行う必要があります。消極的で従属的な従業員や、上意下達といった企業経営は、従業員エンゲージメントの阻害要因です。

ワークライフバランスへの対応

自分で部署や拠点を選びにくい日本型の企業文化は、従業員のワークライフバランスへの親和性にも乏しいといえます。社会構造の変化や情報化に合わせるように多様化する価値観、働き方改革が叫ばれる中では、自分らしい働き方を実現できる企業であると感じる環境をつくることも重要です。

キャリア形成の明確化

企業理念やビジョンの先には個々の従業員のキャリアアップもあります。この仕事がキャリアアップにつながるものであることを明確に示すことは、理解や信頼度、貢献意欲の向上に必要な要素です。

正しい人事評価と報酬の明確化と適正化

従業員の評価は正しくあるべきで、仕事に見合っているかそれ以上の報酬の明示も重要です。報酬だけが目的ではなくても、適正な人事評価と報酬が得られなければ理解も信頼度も下がってしまいます。また、仕事に取り組む機会の均等性も重要です。

福利厚生の充実化

従業員エンゲージメントが高い従業員であっても健康を損ねるとパフォーマンスが低下します。場合によっては、心理面でもマイナス思考になる可能性があり、健康経営の推進が重要です。また、心身をリフレッシュさせる効果も含めて、価値を見出せる福利厚生を充実させることも大事になります。

従業員エンゲージメント向上の取り組み事例

ビジョンを浸透させたサイバーエージェント

メディア事業やインターネット広告事業などを展開するサイバーエージェントでは、「21世紀を代表する会社を創る」というビジョンを浸透させるために、ツールとしての冊子を配布したり、ミッションステートメントを見やすい位置に掲示するなどしています。

注目すべきは、単にプッシュするのではなく、「あした会議」など従業員に受け入れられる名前を施策に付けるといった工夫をしている点です(※7)。

出典 ※7:【経済産業省】経済産業省主催 経営競争強化に向けた人材マネジメント研究会 第2回研究会(P.11)

独自の福利厚生を導入した各社の事例

さまざまな企業が従業員エンゲージメントを高める施策の一環として、独自の福利厚生を導入し活用しています。大和ハウスグループの親孝行支援制度(親の介護に関連する帰省に対し年4回まで距離に応じた交通費相当額を支給)、アップルの不妊治療費や卵子の冷凍保存費用の支給など、斬新な施策が導入されています(※8)。

出典 ※8:【経済産業省】経済産業省主催 経営競争強化に向けた人材マネジメント研究会 第2回研究会(P.13)

従業員エンゲージメントの向上は属性ではなく個に着目した制度作りから

従業員エンゲージメントが従業員個々の内心で生まれることは、これまでもこれからも変わりようのない事実です。従来の企業が考える施策は、そこで働く人々を従業員という名の属性として捉え、全員でひとつといったような見方によって考えられたものが多かったといえるでしょう。

しかし、従業員エンゲージメントを高め、企業の成長と繫栄を図るなら、福利厚生の事例にも見られるように、個に着目した制度作りからはじめる必要があるのではないでしょうか。

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