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スタック構成とは|メリットやデメリット、特徴を解説
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スタック構成とは
スタック(stack)は「積み重ね」を意味しますが、ネットワーク用語では2台以上のスイッチングハブを論理的に1台に束ねる技術のことです。
スイッチングハブには、シャーシ型スイッチングハブと呼ばれるモジュラ形式の装置があります。エンクロージャに専用のラインカードを増設できる拡張性の高さ、複数の電源を搭載できる高い信頼性を備えています。しかし、複数のスイッチングハブをスタック構成することにより、シャーシ型スイッチングハブのような利用ができるようになるのです。
スイッチングハブのスタック構成において、構成する複数の装置を「スタックメンバー」と呼びます。このときマスタースイッチが他のメンバーのスイッチを制御して、仮想的に1台の装置として動作します。
複数のメンバーのポートは、装置固有のスタックケーブルで接続します。構成したスタックのそれぞれのスタックメンバーには、ボックスIDが割り当てられます。
スタック構成のメリット
スタック構成は運用負荷の軽減、耐障害性の向上、装置のリソースの有効活用といったメリットがあります。
運用管理の負荷軽減
端末の台数が500台のようなネットワークでLANを構築する際には、ネットワークの冗長化は必須項目といえます。物理的なループを回避する基本的な冗長化技術として、STP(Spanning Tree Protocol)があることはご存知でしょう。
しかし、STPは設定が複雑であることから、設定ミスによるトラブルが生じやすい難点があります。また、機器が故障した際には経路の計算に時間がかかるため、社内の業務がストップしてしまうリスクがあります。
STPを使わずにネットワークの冗長性を確保する方法のひとつがスタック構成です。複数のスイッチングハブをまとめたシンプルな構成のため、取り扱いがしやすくなり、コンフィグレーションファイルも1つで管理できます。電源を共有できるスタック構成もあります。運用管理の負荷を軽減できることが大きなメリットです。
耐障害性の向上
ネットワークはつながって当たり前の時代。ネットワークの停止は企業におけるライフラインの切断ともいえます。災害や予期せぬ事態に備えてBCP(事業継続計画)に対する取り組みが標準化している現在、耐障害性を向上させることが企業のシステム全体に求められるようになりました。スタック構成にすると、一部の機器に故障が生じても通信障害の回避が可能になります。
装置のリソースの有効活用
スイッチングハブを評価する指標に、スイッチングファブリックがあります。スイッチング容量や内部バス速度、あるいはバックプレーンとも呼ばれ、1秒間に伝送できるデータ量の単位(bps)で表されます。
スタック構成にすることにより、このスイッチングファブリックを向上させ、スイッチングハブの性能を最大限に引き出してネットワーク機器のリソースを有効活用できます。
また、ネットワークの冗長化にはSTPのほか、ルータの冗長化としてVRRP(Virtual Router Redundancy Protocol )などのプロトコルを使う方法がありますが、スタック構成ではプロトコルを使わないため装置の負荷軽減になります。
スタック構成のデメリット
スタック構成は冗長化や高可用性の面でメリットがありますが、いくつかの問題や課題といったデメリットも考慮しておくことが必要です。
ファームウェアの問題
スタック構成では、すべてのメンバースタックのファームウェアのバージョンを統一することが必要です。しかし、ファームウェアのバージョンに大きな影響を及ぼすバグがあった場合、スタック構成全体の機能が停止する恐れがあります。
装置に関する物理的な問題
耐障害性が高まる一方で、スタックケーブルがしっかり接続できていなかったり、スタックモジュールのリブートを繰り返したり、人的なミスを含んだ別の障害が考えられます。ルーティングに関するプロトコルの設定から再接続が求められることもあります。障害復帰までの時間がシビアに求められる環境では、こうした課題を検討すべきといえるでしょう。
初期費用のコスト
導入時のデメリットとしては、初期費用のコストが高いこと。物理的に複数のスイッチングハブの機器を必要とするからです。イニシャルとランニングのコストバランスがポイントになります。
スタック構成以外のネットワーク冗長化技術
ネットワークエンジニアにとって、障害は最も避けるべき課題です。したがって、あらゆる冗長性を考慮しておくとよいでしょう。最後にスタック構成から拡大して、ネットワークの冗長化技術に触れておきます。
ネットワークの冗長化技術には、待機状態であっても機器を接続する「ホットスタンバイ」と障害が生じたときに接続する「コールドスタンバイ」があります。また、コンピュータのネットワークチーミングを7階層に分類した、OSI参照モデルで考えると整理できます。
スタック構成は、レイヤ2のデータリンク層に関する冗長化技術であり、データリンク層における冗長化には他に次のような技術があります。
チーミング
チーミング(teaming)は、コンピュータやネットワーク機器のネットワークインターフェースカード(NIC)を束ねて帯域を増加する技術です。通信負荷を分散させて耐障害性を高めます。LANにおいてスイッチングハブ側に加えてサーバ側をNICのチーミングで強化することにより、システム全体の冗長性を高めます。
チーミングの方法としては、フォールトトレランス(FT)、ロードバランシング(LB)、そしてリンクアグリゲーションの3種類があります。
フォールトトレランスは、束ねた物理的なNICのうち1つをプライマリ、もう1つをセカンダリとして使用します。プライマリはアクティブ状態の稼働用、セカンダリはスタンバイ状態の待機用のNICです。プライマリに障害があったときは、セカンダリに切り替えて通信を維持します。
ロードバランシングは、通信のセッションごとに複数のNICにトラフィックを分散させます。複数の物理的なNICを使うことによってスループットを向上させ、特定の物理的なNICに障害が発生したときは別のNICで通信を行います。
リンクアグリゲーション(Link Aggregation)は「LAG(ラグ)」と略されることもあります。スイッチポートの冗長化であり、物理的なケーブルを1本のリンクとして束ねて機能させる技術です。スタック構成と組み合わせることも可能です。
ケーブルやポートの障害があったとしても残されたリンクで通信を続けることができます。複数のリンクにトラフィックを分散して可用性を高めるとともに、帯域を増やすために機器を追加する必要がないことからコスト面のメリットもあります。
スパニングツリー
複数の経路を持つネットワークで、ループが生じることによりデータが循環して永遠に流れつづける障害が発生します。この障害を防止する技術がスパニングツリー(Spanning Tree)であり、そのためのプロトコルがSTPです。
バーチャルシャーシ
バーチャルシャーシは、仮想化された複数のネットワークスイッチをまとめて1台のデバイスのように運用管理します。ケーブルをつないで設定を行うだけで制御が可能になり、すべてのポートを同じスイッチングハブのポートとして扱うことができます。ただし、スイッチングハブ間の通信や制御はメーカによって異なり、名称もさまざまですので注意が必要です。
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まとめ:冗長化技術がネットワークを守る
企業におけるネットワークやシステムにおいて、冗長性や高可用性は重要なポイントです。スタック構成もそのひとつ。さまざまな冗長化技術を検討することは、持続的な成長を遂げる企業の情報部門として軽視できない重要なミッションといえます。