職場改善
2022.07.12
エンゲージメントのビジネス領域における意味とは? 用語の解説と向上が課題となる理由を紹介
エンゲージメントという単語には契約や約束といった意味があります。ビジネスの領域でいうエンゲージメントに込められているのは、企業が向き合う従業員や顧客、SNSユーザーとのつながりや関係性の深さです。この記事では、ビジネスにおけるエンゲージメントについて、その内容と向上が課題となる理由などを解説・紹介します。
エンゲージメントの意味
engagement
英単語の「engagement」には、エンゲージリング(engagement ring、婚約指輪)で想像できる「婚約」という意味があります。engagement(以下エンゲージメントとします)がもっている約束、契約といった意味が結婚という分野に適用された結果、結婚の約束で婚約を指すと解釈できるわけです。
各分野でマッチする意味を与えられたエンゲージメント
同様に、エンゲージメントはそれぞれの分野における約束事やそれに近いニュアンスを表す言葉としての意味・役割を与えられています。約束は複数の人間や団体間で結ばれるものであり、契約関係は協力関係を伴うこと、そこに少なからず存在している好意的な感情や一体感までがエンゲージメントの意味として加味されているようです。
ビジネス領域における3つのエンゲージメント
エンゲージメントは企業活動にとって重要な関係性を示す
契約や約束から好意的な感情、一体感へと範囲を広げたエンゲージメントは、ビジネス領域において企業活動を左右する大きくて深い関係性、強い絆といったつながりを示す言葉として利用されています。
企業にとって重要なエンゲージメントで示される対象、強いつながりを持つ相手は誰なのかといえば、個人や団体ですが、その立場や居場所によって3種類に分類可能です。
対従業員と対顧客と対SNSのエンゲージメント
3種類の人や団体とは、ズバリ、従業員と顧客、そしてSNSの受け手を指しています。従来、ビジネス領域においてエンゲージメントといえば、人事分野の対従業員とマーケティング分野の対顧客の2つがメインでした。それぞれ従業員エンゲージメント、カスタマーエンゲージメントと呼んでいます。
自社が雇用する従業員は個人です。ビジネスの相手方となる顧客にはBtoB(企業間の取引)やBtoC(一般消費者を対象とする取引)といった言葉があるように、企業・団体もあれば個人もいます。
ここに近年その存在感を増しているSNSが加わりました。正確にはSNSを利用している個人が主な対象で、SNSエンゲージメントと呼ばれています。SNSエンゲージメントはカスタマーエンゲージメントと同じマーケティング分野のエンゲージメントだとされており、徐々に認知度を上げているようです。
従業員エンゲージメント
企業と従業員との関係性を示す概念
従業員エンゲージメントは企業とそこで働く従業員の関係性、絆の深さを示す概念です。ビジネス領域における3つのエンゲージメントのうち、単にエンゲージメントと呼んだ場合には従業員エンゲージメントを指すケースが多いように感じられます。
従業員エンゲージメントを端的に表現するなら、企業と従業員の強い信頼関係または従業員が持っている愛社精神です。従業員エンゲージメントの中身を分解して具体的に見ると、以下の3つの要素によって構成されています。
- ・自社の理念やビジョンへの正確な理解
- ・自社に対する信頼感
- ・積極的で自発的な貢献意欲
従業員エンゲージメントの概念には個人の利己的な要素が入っていません。よく比較される従業員満足度との大きな違いがここにあります。もちろん、従業員満足度が高ければその分だけ従業員エンゲージメントも高くなり得ますが、満足していない部分があったとしても、従業員エンゲージメントが自動的に下がるわけではない点が特徴です。
いわば、たとえ不利な状況であっても会社と一体となって困難に立ち向かう気持ちが従業員エンゲージメントを押し上げています。
従業員との関係は企業の生産性に直結する
企業における生産・創造活動は従業員がメインとなって行っており、売上を上げるための販売活動も多くの場合で従業員が担っています。つまり、従業員エンゲージメントは企業の生産性に直結する内心の状態です。
従業員エンゲージメントはエンゲージメントサーベイなどの調査によって数値化されて評価できるため、自社と従業員のつながりの深さの確認が可能です。数値の高い従業員が多く、全体で高いレベルにあれば人材面の心配は少ないと考えて良いでしょう。しかし、数値が低ければその時点では大きな問題が起きていなくても、人材流出や商品・サービスの品質悪化といった事態が起こりかねないため数値を高める施策の実施が急がれます。
従業員エンゲージメントを左右する主な要素は以下のとおりです。
- ・理念やビジョンの明確性
- ・会社の社会に対する貢献度
- ・組織や社会に対する仕事を通じた自己の貢献度と、必要とされているという存在感
- ・人事評価や報酬の適正度
- ・福利厚生の充実度
- ・ワークライフバランスへの対応
- ・社内コミュニケーションの円滑さ
- ・職場環境の状態
カスタマーエンゲージメント
企業と顧客との関係性を示す概念
カスタマーエンゲージメントは従業員エンゲージメントとともに注目が高まっているビジネス領域のエンゲージメントです。企業やブランドに対する信頼感や愛着、企業と顧客との間に生じている一時的ではない継続した良好な関係性の指標となります。
カスタマーエンゲージメントのベースにあるのは、その企業やブランドが提供する商品やサービスを購入、使用して満足感を得た体験、またはその繰り返しです。必ずしも購入や使用に限らず、社員の接客態度のよさや店舗の快適さといった要素もカスタマーエンゲージメントに大きく影響します。
顧客との関係性は企業の売上に直結する
カスタマーエンゲージメントは売上や利益に直結すると言えます。サービスや商品を購入する顧客の信頼や、企業・ブランドに対する愛着を獲得できれば売上・利益の上昇につながり、逆に失ってしまえば懸念されるのが企業・ブランドへの求心力も落ち、結果として売上・利益が減少してしまうことになりかねません。
信頼は一朝一夕に獲得できるものではなく、長い年月と努力の結果ついてくるものですが、失うのは一瞬といわれます。電話一本のやり取りでさえ顧客の満足につながることもあれば、怒りを買ってしまうこともあるだけに、カスタマーエンゲージメントの向上と維持は企業にとって軽視できない課題です。
SNSエンゲージメント
広報活動の主役になりつつあるSNS
SNSエンゲージメントは前記2つのエンゲージメントと比較すると新しい概念です。TwitterやInstagramといったSNSは企業の広報活動に便利なツールであり、無料で簡単に導入できるため公式アカウントを開設して活用する企業の事例が増えています。SNSのやり取りを行うデバイスとしてスマートフォンが広く普及していることもあり、即効性のあるアナウンスを行うための主役になりつつあるのがSNSエンゲージメントです。
SNSの活用は、新製品の案内を発信した場合などで、その文面や画像に「いいね」が集まり、製品自体がおすすめとして人気になるといった可能性を秘めています。
SNSエンゲージメントで結ばれる二者が誰かといえば、企業と一般消費者の組み合わせがほとんどだといえるでしょう。その点では、SNSエンゲージメントはカスタマーエンゲージメントの一部と呼ぶことができそうです。
コミュニケーションツールらしいエンゲージメント
ユーザーがSNSでの発信に対し、どのような反応を示すかがそのままエンゲージメントとしての評価になります。コミュニケーションツールとしてのSNSの特性を活かし、リアルタイムで反応を見ることが可能です。ユーザーの声を即座に反映させて情報の追加や修正を行うなど、SNSエンゲージメントを向上させるためのさまざまな試みが手軽にできる点が大きな特徴といえます。
エンゲージメント向上が課題となる時代背景
人口減少による労働力と購買力の減少
ビジネス領域における3つのエンゲージメントの向上が課題となる背景には、時代が大きく関係しています。少子化による人口減少が労働力不足と購買力の低下につながっており、少なくなった人材と顧客の奪い合いが激しさを増している状況です。
- ・従業員エンゲージメント向上による人材確保
- ・カスタマーエンゲージメント向上による顧客確保とリピートの獲得
- ・SNSエンゲージメント向上による若い世代への訴求力アップとカスタマーエンゲージメント向上への好影響
どれほど強固なつながりだったとしても、一時的なもので終わってしまっては効果が続きません。常にエンゲージメントを向上させることが求められています。
価値観の多様化と社会の変革
人事分野において上下関係で生まれる忠誠心や、必ずしも所属企業に拘らない従業員満足度の向上だけでは人材の確保と定着が難しくなっている背景には、価値観の多様化やワークライフバランス重視の流れもあります。
マーケティング分野では趣味の多様化、希少性のある商品や差別化された商品・サービスへの需要が高まり、大量生産と大量消費はほぼ過去のものです。
こうして従業員エンゲージメントの向上やカスタマーエンゲージメントの向上がより重要な課題とされるようになり、新時代のエンゲージメントであるSNSエンゲージメントの向上が追加されています。
経営判断に影響するエンゲージメント
エンゲージメントは全社的な指標
ビジネスにおけるエンゲージメントは、特定の人物や部署といった部分的・局地的なものではなく全社的な経営指標です。エンゲージメント向上策を小出しにするようでは、成果は望めないでしょう。エンゲージメントの向上を阻害する要因の存在が一部に限られていたとしても、同じ社内である以上、あっという間に広がる可能性があります。また、阻害要因がなければ何もしなくて良いわけではありません。
何より、そもそもエンゲージメントの向上は企業全体の統一された意思決定によって取り組み実現できるものです。そこには経営判断が入ります。所属長や現場に任せて良い話ではないでしょう。
エンゲージメントの正確な把握と向上策が必須
自社の各エンゲージメントを知ることは経営上で不可欠といえる状況になっており、現状認識を誤れば業績に悪影響を及ぼしかねません。現状を正しく把握するための調査を行い、その結果が不十分であれば早急に向上策を打つ必要があります。調査資料の数値がたとえ望ましくないものであっても、客観的なデータを直視することがエンゲージメント向上の第一歩です。
また、エンゲージメントは思いつきで調査するものではなく、計画的に現状把握と改善策の実施、結果の検証を行います。このサイクルには終わりがなく、しっかりとした管理体制の下で行うべきものです。
生き残りをかけた生存戦略
企業の宝ともいわれる人材の確保だけでなく、商品やサービスのユーザーとして利益をもたらしてくれる顧客・リピーターの確保が容易ではなくなっている現在、エンゲージメント重視は当然だといえるでしょう。さらに、あらゆる情報が一瞬で拡散され、消費者の行動に大きな影響を及ぼすSNSが存在する環境は、企業にとってプラスにもマイナスにも作用します。
ビジネス領域のエンゲージメントを向上させることは、企業にとっての重要な生存戦略といっても過言ではありません。いかに効率の良い方法で行うかがポイントです。
エンゲージメント向上はビジネスに欠かせない要素
エンゲージメントが向上すれば、人材が定着したりリピーターが増えたり、SNSからのブランド化ができたりと良いことが期待できます。逆にエンゲージメントが低下してしまうと、離職率の上昇と人材不足、売上の不振と利益減少、さらにはブランド価値の下落といった恐ろしい状況に陥りかねません。
現状維持という選択がなく、上か下かを迫られる時代となって、エンゲージメント向上はビジネスに欠かせない要素です。
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