ウェルビーイング
2021.09.13
ウェルビーイングを実現するための「指標」を解説|心身が幸福であるために必要な要素とは
ウェルビーイング(well-being)は、経済的な指標であるGDPに代わる、新たな「社会的な幸福を測る指標」としても注目されています。個人の社会的な生活はもちろん、ウェルビーイングの実現を目指す教育現場や企業も増えてきました。ウェルビーイングの高さを測るためには、いろいろな指標を目安とするのが重要です。ウェルビーイングの実現に必要となる、代表的な4つの指標について解説します。
何故ウェルビーイングが注目されているのか
ウェルビーイング(well-being)とは、世界保健機関(WHO)憲章での提唱を元に「肉体的、精神的、社会的すべての要素で満たされた、持続的な幸福な状態」を指します。ウェルビーイングは医療や社会福祉の分野で多く用いられていましたが、日本企業をふくめビジネスの現場にも取り入れられるなど大きく注目されています。
ウェルビーイングが注目される背景には「多様性を認める社会」「労働人材不足」「SDGs(持続可能な開発目標)の達成」「ニューノーマル時代の働き方改革」などがあります。グローバル化による多種多様な人同士のコミュニケーション、少子高齢化による労働人材不足への対策、SDGsにおける「すべての人に健康と福祉を」の項目達成、リモート環境をはじめとしたコミュニケーション不足によるストレスへのフォローが求められるようになりました。
以上の要素を満たすには、ウェルビーイングの実現が深く関わっています。ウェルビーイングの達成度や実現度を測るためには、次に解説する各指標が目安となります。
ギャラップ社によるウェルビーイングの「5つの構成要素」
世界的な調査やコンサルティングを行うギャラップ社は、ウェルビーイングを構成する5つの要素を提唱しています。
Career well-being(キャリア ウェルビーイング)
仕事でのキャリアから、私生活で継続していることまでを含めた総合的なキャリアの幸福度です。仕事の経歴や実績、役職のほか家事、育児、ボランティア活動、趣味なども要素として含まれています。
Social well-being(ソーシャル ウェルビーイング)
人間関係に関する幸福度です。家族、友人、職場の同僚、上司など自分を取り巻く人々と、信頼関係や愛情のある深い関係を結べているか、広い交友関係があるかなどが指標となります。
Financial well-being(フィナンシャル ウェルビーイング)
経済的な幸福度です。安定した収入を得ているか、資産を確保しているかなどの要素が含まれます。
Physical well-being(フィジカル ウェルビーイング)
心身に関する幸福度です。身体は健康か、仕事にやりがいはあるか、前向きな気持ちで日々を過ごしているかなどが指標となります。
Community well-being(コミュニティ ウェルビーイング)
地域社会での幸福度です。家族、友人、学校、会社、部署など自分が属しているコミュニティとの幸せが測られます。
国際連合(国連)による「世界幸福度ランキング」
「世界幸福度ランキング」もウェルビーイングの指標のひとつです。ギャラップ社が示す「評価」を軸とし、毎年国連から発表されている「世界幸福度報告」を元に各国ごとにスコアを出し、トップを決めてランキング付けされます。なお、世界幸福度報告はwebページでのみしか公開されていません。「World Happiness Report」と検索すれば現在の最新版が閲覧できます。
世界幸福度ランキングを構成する要素を解説します。
国民1人当たりのGDPはどの程度か
GDP(国内総生産)は経済的な豊かさの指標です。幸福に関連する国民の富裕度について測られます。
社会的サポートが享受できているか
困ったときに頼れる場所があるか、社会的に取り残される人がいないかなども幸福度を測る指標になります。
健康寿命はどの程度か
食料面、衛生面などが整っているか、必要な医療が必要な人へ行きわたっているか、国民が健康的な生活を送っているかは幸福度と深く関わりがあります。平均寿命ではなく、健康寿命を幸福度の指標としているところがポイントとなります。
人生において自由な選択肢があると感じているか
思想的、宗教的、社会的などの要素で人生における選択の自由度が高ければ高いほど、幸福で豊かな人生が送れるとして幸福度の指標とされています。
気前のよさはあるか、他者への施しを行っているか
欧米では他社への慈悲活動は、寛容さがあると評価され幸福度の指標とされています。
国内で汚職や政治の腐敗が生じているか
国のトップが適切な政策やクリーンな政治を行っている場合、国民の幸福度は高くなります。
世界最低の国の平均値+3年間の調査で出た各国の残余値
世界幸福度ランキングは、各要素ごとに国の直近3年間のスコアを10点満点でランキング付けします。より公正なランキングにするために、世界最低の国の平均値や各国の残余値もランキングを構成する要素として取り入れられています。
OECD(経済協力開発機構)による「より良い暮らし指標」
OECDが2011年より開始した「OECDより良い暮らしイニシアチブ(OECD Better Life Initiative)」は、ウェルビーイングの分析のための研究プロジェクトです「より良い暮らし指標(BLI, Better Life Index)」と呼ばれるウェルビーイング指標の分析や公表、傾向とその要因に関する理解を深めるために実施されています。
▼OECD「良い暮らしイニシアチブ」の指標一覧
指標の分野 | 具体的な指標項目 | ||
---|---|---|---|
物質的生活状況 | 住宅 | 基本的衛生条件 | 世帯専用の屋内水洗トイレを有さない者の割合 |
家の値頃感 | 調整世帯可処分所得に占める、家にかかる経費(家賃、水道、電気、ガス・燃料、管理修繕費)の割合の平均値 | ||
1人当たりの部屋数 | 住宅の部屋の数(台所、洗濯機置き場、風呂、トイレ、ガレージ、診察室、オフィス、店を除く)をその住宅の居住人数で除した値の平均値 | ||
所得と富 | 家計収入 | 1人当たりの家計調整純可処分所得(2005年基準の購買力平価によるドル換算額)の平均値 | |
資産 | 一人当たり家計保有正味金融資産額(現金のほかに預金、保証(株式以外)、株式、ローン、保険金、その他受け取りや支払いが可能な口座を含む純資産。最新の購買力平価によるドル換算額。) | ||
雇用と収入 | 労働市場の不安定 | 調査前年の全就業者数に占める、調査時点で1年未満の間失業状態にある者の割合 | |
就業率 | 15-64歳人口に占める就業者の割合 | ||
長期的失業率 | 労働力人口に占める1年以上失業状態が続いている失業者の割合 | ||
所得 | フルタイム労働者の平均年間報酬。国民経済計算での総賃金をフルタイム労働者数で割った値 | ||
生活の質 | 社会とのつながり | 社会的支援 | 「困ったときに、いつでも助けを求めることのできる親戚や友人はいますか」との設問に対し、肯定的な回答を行った者の割合 |
教育と技能 | 教育達成 | 25-64歳人口に占める、後期中等教育を卒業した者の割合 | |
認識能力 | PISA(学習到達度調査)における読解力、数学リテラシー、科学リテラシーの平均点 | ||
成人力 | PIAAC(国際成人力調査)における読解力と数的思考力の平均点 | ||
生活の質 | 環境の質 | 大気汚染 | 平均微小粒子状物質(PM2.5)濃度の2010~2012年の平均値 |
水の質 | 「あなたの住んでいる街や地区での水の質に満足していますか」との設問に対し、「満足」と回答した者の割合 | ||
市民生活とガバナンス | 投票率 | 有権者に占める投票した者の割合 | |
健康状態 | 寿命 | 出生児平均余命 | |
健康状態の認識 | 15歳以上で、健康状態が「良い」以上の回答した者の割合 | ||
主観的幸福 | 生活満足度 | 生活全般に対する主観的な評価の平均値 | |
個人の安全 | 夜間の安心感 | 「あなたの住んでいる街や地区で、夜間にひとりで歩くことに安心感はありますか」との設問に対し、明確に安全との回答した者の割合 | |
殺人発生率 | 10万人当たりの傷害による死亡率 | ||
仕事と生活のバランス | 労働時間 | 普段の1週間で50時間以上働く就労者の割合 | |
余暇 | フルタイムで働いている者が1日のうちレジャーや個人的な活動に割くことのできる時間の平均値 |
出展元:第2章 2.4. 人口全体のウェル・ビーイング指標|内閣府
「ポジティブ心理学」における5つの指標
ペンシルバニア大学のマーティン・セリグマン(Martin Seligman)教授によって提唱された「ポジティブ心理学」は、ウェルビーイングの指標に多く用いられています。人がより良く生きることを目的とした、ポジティブ心理学を構成する5つの指標を解説します。
ポジティブな感情(positive emotion)
楽しい、嬉しい、充実感、自信があるなど人生における前向きな感情を持っているかを測る指標です。睡眠や食欲などの身体が充実したときに得られるものではなく、精神的に充実した感情を対象としています。たとえば、目標を達成したときの充実感、友人や家族と過ごす時間を楽しく感じるなどです。
また、悲しい、悔しいなどのネガティブな感情も、ポジティブな感情を持つ機会となるものなら指標の要素にふくまれます。たとえば失敗したときの悲しい気持ちから自分を冷静に見つめ直して成長する、ライバルに負けたときの悔しい気持ちから向上心を得る、などです。
没入・没頭(engagement)
物事に集中して取り組めているかを測る指標です。人は何かに没頭しているときに、ネガティブな感情を持ちません。自分の持つスキルや知識を大きく発揮するため、仕事の効率も上げられます。物事に没入、没頭できる時間があればあるほど、幸せな状態であるとも言えるでしょう。
ポジティブな人間関係(positive relationship)
他者とつながることで安心感を持つのは、人間の本能です。友人、家族、恋人、職場の同僚、上司など周囲環境の人と、信頼、愛情などポジティブな人間関係を築いているほど人生の幸福度は上がります。
意味(meaning)
人生や仕事に意味や意義を持っているかを測定する項目です。自分の存在や役割、仕事や生きることに対して前向きな感情を持っている人ほど、幸福度が高いとされています。たとえば仕事に対して大きなことのために貢献しているという感覚を持てば、自発的にモチベーションを持って仕事にとりくめます。
成功・達成感(achievementまたはaccomplishment)
物事の成功、設定した目標への達成感はポジティブな感情を引き起こす基礎となります。また、成功体験の積み重ねや多くの達成感を得ることは、人生を充実させる要素です。
ウェルビーイング実現のために指標をおさえておこう
ウェルビーイングの高さの目安となる、さまざまな指標を紹介しました。ウェルビーイングは人生を歩むうえでも、ビジネスの現場で事業の成功や業績を上げるうえでも注目されている考え方です。
ウェルビーイング実現のための達成度を測るには、各指標を目安とするのが有効です。ただし、各指標によって特徴や要素が異なります。ウェルビーイング実現の目的に合った指標を参考にしましょう。指標と合わせて、ウェルビーイング実現のために従業員や企業に不足しているものは何かを把握すれば、企業として何をすべきかがよりみえてきます。
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