ウェルビーイング
2021.09.13
ウェルビーイングを心理学や理論の観点で考える
ウェルビーイング(well-being)という概念を、ビジネスや教育、ITなどの分野で目にするようになりました。しかし意味がわかりづらいという人も多いのではないでしょうか? この記事では、ウェルビーイングの基礎知識を解説した後、ポジティブ心理学でウェルビーイングを測る理論的な指標などをご紹介します。ポジティブ心理学を理解するためにおすすめの本もピックアップしていますので、ぜひご一読ください。
ウェルビーイング(well-being)とは何か
はじめに、ウェルビーイング(well-being)の意味や、昨今注目されるようになった背景、さらにウェルビーイングを意識することによって目指せることなどを解説します。
ウェルビーイングの意味
ウェルビーイングとは、心身ともに健康で、社会的にも良好な状態であることを意味します。1948年に設立された世界保健機関(WHO)では、その設立に先立ち世界保健機関(WHO)憲章が1947年に採択され、その前文のなかで健康の定義として記されているのが以下の一文です。
「健康とは、病気でないとか、弱っていないということではなく、肉体的にも、精神的にも、そして社会的にも、すべてが満たされた状態にあることをいいます。(日本WHO協会訳)」
この文で「満たされた状態」と訳されている部分は、原文の英語ではwell-being(ウェルビーイング)と表現されています。昨今、心理学やデザイン、ITなどさまざまな分野で研究されているのが、このウェルビーイングの概念です。
ウェルビーイングの研究が広まった背景にあるもの
ウェルビーイングが注目されている背景にあるものとして、次のようなものが挙げられます。
- ・多様性の尊重
- ・少子化による人材不足への懸念
- ・働き方改革における労働環境の整備
- ・コロナ禍でいっそう高まった心身の健康や働き方への意識
従業員のパフォーマンスを最大限に引き出すために、企業は従業員の多様性を尊重してウェルビーイングな状態の維持に努めることが必要と考えられています。また、少子化や終身雇用の崩壊による人材不足に陥ることを防ぐために、企業では従業員やその家族までのウェルビーイングを意識した施策が重要。同様に、働き方改革に合わせた労働環境の整備も、人材の確保のためにはますます重視されています。
コロナ禍でのテレワークの普及にみられるような働き方の変化は、業務効率化が進む一方で職場内のコミュニケーション不足などの課題が生まれることにもなりました。このような状況下であることも、精神的に良好な状態を保つことへの意識の高まりにつながっています。
ウェルビーイングに関する多角的な研究が広まっている背景にあるのは、このような昨今のさまざまな変化にともなう問題です。SDGs(持続可能な開発目標)で掲げられている17の目標のうちの1つにも「Good Health and Well-Being」という目標があり、ウェルビーイングは日本のみならず世界的に重視されています。
ウェルビーイングを意識した取り組みによって目指せること
前述のような問題の解決に向けた取り組みが、ウェルビーイングの実現にも役立ちます。従業員のウェルビーイングを高めることによって離職率は下がり、企業が社会的にも選ばれる企業になると持続的な人材確保が可能となるでしょう。
また、ウェルビーイングを意識した健康経営の実践で、従業員が心身ともに健康な状態で、仕事にやりがいを感じながら働ける環境を維持していくことも可能。その結果として、生産性向上や企業の業績アップにもつなげることができます。
個人だけでなく社会的にも“よい生き方”を考えるポジティブ心理学
心理学のなかでも比較的新しい分野として、ポジティブ心理学があります。ここでは、ウェルビーイングの実現と関連性が深いポジティブ心理学について見ていきましょう。
ポジティブ心理学の始まり
ポジティブ心理学は、1998年に米国心理学会会長を務めていたペンシルベニア大学教授のマーティン・セリグマン博士によって、心理学の新しい領域として新設されました。2007年には国際ポジティブ心理学会(IPPA)も設立。欧米を中心として広がり、定期的に大規模な国際会議が世界各地で開催されています。
よい生き方とはどのような生き方か
ポジティブ心理学において、よい生き方とはウェルビーイングの定義である身体的・精神的・社会的にも満たされている生き方を指します。マーティン・セリグマン博士は、ウェルビーイングを科学として理論的に測るための5つの要素「PERMA」を提唱。PERMAは以下の5つの要素の頭文字です。
- ・Positive Emotion(ポジティブ感情)
- ・Engagement(仕事への自発的な従事)
- ・Relationship(他者との良好な関係性)
- ・Meaning and Purpose(仕事の意味や目的をモチベーション高く追求)
- ・Achievement(達成感)
ポジティブ感情は、他の4つの各要素ともつながる精神的な達成感や肯定感を指し、身体的な満足や充実感は含まれません。ウェルビーイングの概念を働き方にあてはめて考えるときに不可欠な5つのポイントがわかりやすく示されています。
人が充実した活動を行うことのできる組織や社会の条件とは
前述のPERMAの5要素は個々が持ち合わせる強みに支えられており、各要素のレベルが向上することによって、人が充実感をもって活動に取り組める企業や社会が成立します。すなわち、多くの人がよい生き方であると感じるウェルビーイングの状態です。
しかし、各要素のレベルの向上には、補助力として個々の柔軟な適応力やストレス耐性(レジリエンス)も重要。ポジティブ心理学において、レジリエンスは従来の心理学的なアプローチで研究が進められています。
PERMAの5要素を科学的に測定・分析しつつ、心理学的なレジリエンス研究によって各要素のレベル向上を促進してウェルビーイングの実現を目指すという方法が、ポジティブ心理学の考え方です。
日本でのポジティブ心理学の普及
日本では、ポジティブ心理学を応用・実践できる人材育成のため、2011年1月に一般社団法人日本ポジティブ心理学協会(JPPA)が設立されました。2013年7月からは国際ポジティブ心理学会(IPPA)の日本支部として、専門知識や最新情報などの教育普及活動が始められています。
JPPAの活動は、ポジティブ心理学を体系的に学べる講座の開催や、レジリエンス・トレーニング、ポジティブ組織開発などをテーマにした正しい情報の普及などが中心です。ポジティブ心理学は新しい研究領域であるため、JPPAは日本国内でさまざまな普及行為や宣伝に誇大表現が見られることを注視しながら、必要に応じて是正を促すこともミッションとしています。
また金沢工業大学心理科学研究所はポジティブ心理学を研究テーマの中心として、PERMA-Profiler(PERMAの概念を測定できる心理検査)の日本語版を公開しています。
ポジティブ心理学研究の一環としてウェルビーイングを高める方法の紹介や、効果に関する情報も発信。たとえば、自分の強みを知る心理検査や、相手の話を聞くことで他者に共感する傾聴(アクティブリスニング)などの方法が公表されています。
ポジティブ心理学とウェルビーイング|SPIREとは?
ポジティブ心理学は、人の健康だけでなく企業経営や政策などまで多岐にわたる分野で注目されています。アメリカのポジティブ心理学研究の第一線の中心メンバーでもあるタル・ベン・シャハー博士は、ウェルビーイングを高める指標として「SPIRE(スパイア)」を定義しました。SPIREは以下の5つの指標の頭文字です。
- ・Spiritual Well-Being / 精神のウェルビーイング
- ・Physical Well-Being / 身体のウェルビーイング
- ・Intellectual Well-Being / 知性のウェルビーイング
- ・Relational Well-Being / 人間関係のウェルビーイング
- ・Emotional Well-Being / 感情のウェルビーイング
5つの要素に分けられているという点では、前述のセリグマン博士の提唱したPERMAと共通しています。全体でバランスのとれたウェルビーイングの実現が大切であることを表した定義が、ポジティブ心理学によって科学的に理論づけされたウェルビーイングの考え方です。
ウェルビーイングを高めるために役立つポジティブ心理学
身体的・精神的・社会的に満たされた状態のことを指すウェルビーイング。企業が優秀な人材を確保していくためにも、人から選ばれる企業になることを目指すという流れがある中で、従業員のウェルビーイングを高める取り組みが注目されています。
よい生き方ができ、社会生活に役立つのがポジティブ心理学です。ポジティブ心理学の理論に基づいて定義された指標を利用すると、要素別に幸福度のバランスが確認できます。個々のウェルビーイングを高めて、社会全体でのウェルビーイングの実現を目指しましょう。
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