ABW
2021.11.29
新しい働き方「ABW」とは? メリットや導入事例をご紹介
政府や企業が働き方改革を推進している現在、新しいワークスタイルとして注目されているのがオランダ発祥のABWです。ABWは仕事の内容によって働く場所や時間を自由に選べます。従業員にとっても企業にとっても非常に多くのメリットがあり、近年は日本でも徐々に導入する企業が増えています。ABWの概要やメリットやデメリット、導入事例などをご紹介します。
いまさら聞けないABWの基本
ABWとはActivity Based Working(アクティビティ・ベースド・ワーキング)の略で「仕事をする環境は自分で選ぶ」という考え方に基づいた新しいワークスタイルです。従来のオフィスのような固定席を設けず、働く人が働く場所や時間を業務の内容に応じて自由に選択できる働き方を指します。
オランダのVeldhoen + Company(ヴェルデホーエン社)が1990年に世界で初めてABWを導入しました。同社は今では世界中の企業にABW導入のサポートを行っています。近年では日本でも政府が推進する働き方改革のひとつとしてテレワークとともに認知度が高まり、ABWを取り入れる企業が増加しています。
ABWとフリーアドレスの違い
ABWと混同されがちなのがフリーアドレスです。フリーアドレスは日本が発祥で1987年に清水建設で導入されました。その名のとおり、オフィス内ではどこでも自由な場所で働けるワークスタイルです。
フリーアドレスはオフィスのコスト削減や従業員同士のコミュニケーションの活性化等のメリットがあります。固定席を設けませんが、従業員は仕事に使う資料や道具を保管する個人ロッカーを設置しているケースが多いです。従来のオフィスではそれらの保管場所の確保が必要ですが、フリーアドレスでは個人が管理するためオフィスの省スペースにつながるのです。
ABWとの違いはフリーアドレスが働く場所をオフィス内に限定しているのに対して、ABWではオフィスに限らずコワーキングスペースやカフェ、自宅、サテライトオフィス等、さまざまな場所を選択できます。働く人が仕事内容に応じて最適な場所を選べる点でより柔軟なワークスタイルといえるでしょう。
パフォーマンスが上がる仕事のやり方は人によって異なります。ABWでは自由度が高く、選択肢が増えることで個人の能力が最大限に活かせます。フリーアドレスがより進化したのがABWなのです。
ABWを導入しやすい職種や会社とは
従業員にとって非常に魅力的なABWですが、ABWを導入しやすい職種とABWに適さない職種があります。ABWに向いている職種のひとつに普段からオフィスの使用率が低い営業職や企画職等が挙げられます。営業職や企画職は、その日によってクライアントを訪問したり、事務仕事をしたりと業務内容は多岐にわたります。ABWで時間と場所を選んで働くことで、業務の効率化ができ成果もあがりやすくなるのです。
また企業の社風もABW導入には欠かせない重要なポイントです。働き方改革に積極的で制度改革等に柔軟に対応できる社風の企業ならABWも導入しやすいといえます。日本でのABWはまだ先駆的なワークスタイルで、導入している企業は限られており、お手本になるモデルが限られているのが現状です。企業と従業員が一体となって新しい働き方を取り入れる意識改革も必要といえるでしょう。
また、ABWの導入が難しい業種には総務・経理・研究職等があげられます。総務や経理はデスクワークが中心で他の従業員への業務連絡が頻繁に行われます。固定席を設けて仕事をすることが多いため、ABWでは不便を感じる可能性があるのです。研究職はオフィス内に設けられた研究室等でないとできない仕事が多く、自由に場所を移動するのは難しいでしょう。
ABW導入のメリット
ABWを導入すると従業員と企業どちらにもメリットがあります。具体的には次のようなメリットが期待できます。
- ・社員のモチベーション向上
- ・オフィスにかかるコストを削減
- ・企業イメージの向上
- ・ワークライフバランスの実現
それぞれを詳しく解説します。
社員のモチベーション向上
自分の好きな時間に好きな場所で働けるABWは、従業員の働く意欲がわきやすくモチベーションの向上につながります。仕事のやり方を自分で選べるため自主性が身につき、生産性も高まります。
Veldhoen + Company社がABWを導入した企業を対象に行った「アクティビティ・ベースド・ワーキング:測定可能な成果および結果を左右する要因に関するリサーチ」(※1)では次のような分析結果が出ています。
- ・ワークプレイスにおける総合的な満足度が17%アップ
- ・個人の生産性が13%アップ
- ・チームの生産性が8%アップ
- ・職場に対する帰属意識が4%アップ
従業員の仕事へのモチベーションアップは、企業にとってもよい影響を与えるのです。
オフィスにかかるコストを削減
長期的にみるとABWの導入はオフィスにかかるコスト削減につながります。従来のオフィスでは従業員の人数分のデスクが必要です。ABWでは自宅やカフェなど、オフィス以外でも仕事ができるため、オフィスの規模を小さくしても業務が成り立ちます。 オフィスを維持するには光熱費や賃料、通信費等の固定費がかかりますが、ABWを導入することでこれらのコストを削減できる点もメリットの一つです。
企業イメージの向上
日本ではまだあまり普及していないABWを導入することで、企業イメージが向上するといった効果も期待できるかもしれません。「働きやすい職場」というイメージがつき、採用マーケティングにもよい影響をもらたし、優秀な人材の確保にも役立つ可能性があります。
ワークライフバランスの実現
ワークライフバランスの実現は、働く人にとって非常に大切なものです。ABWではオフィスに通勤する時間がなくなり、在宅勤務ができることで育児や家事・介護等プライベートな時間も確保でき、自由な時間が増えて趣味やスキルアップ等に時間を使えます。
ABW導入のデメリット
日本で導入されて間もないABWには、メリットが多くある一方でデメリットや課題が存在します。次のようなデメリットがあります。
- ・社員の管理が難しい
- ・セキュリティリスク
- ・コミュニケーションの低下
- ・ITツール導入にコストがかかる
それぞれを詳しく解説します。
社員の管理が難しい
ABWのデメリットとしてまずあげられるのが従業員の管理が難しい点です。オフィス内でも自宅でも上司にとっては部下が「きちんと仕事をしているのか」という不安があるでしょう。自由に働ける半面、どれくらいの時間仕事をしているのかがわかりにくいのです。
そのため勤怠管理や労務管理が難しくなる可能性があります。ABWの目的は「自主的に働く」を前提として、勤怠評価や人事評価等の方法を見直さなくてはなりません。勤務時間の長さや勤務態度ではなく、仕事の成果に重きをおいた評価方法が適しているといえます。
セキュリティリスク
企業と従業員の双方が気をつけなければならないのが、セキュリティリスクです。オフィス外で仕事をすると、顧客の個人情報や社外秘の情報などが漏洩する可能性があります。意図的に情報漏洩をしなくても、ICT機器をオフィス外に持ち出すことで紛失してしまう恐れもあるのです。
個人情報保護の観点でみると、ABWではより徹底したセキュリティ管理が必要です。
コミュニケーションの低下
ABWを導入すると、他部署の従業員や異業種の人たちとの交流が増え、新たなビジネスに発展する可能性があります。コミュニケーションの活性化はABWの大きなメリットですが、デメリットになる点もいくつか懸念されます。
働く場所や時間がそれぞれ異なるために偏ったメンバーとの交流が増え、チーム内のコミュニケーションの低下が問題点としてあげられます。チーム内でコミュニケーションが減れば仕事に支障が出る恐れがあります。好きな場所で自由に働くのはABWの基本ですが、定期的にミーティングの時間をつくるなど、チーム内のコミュニケーションが円滑になるよう努めることが必要です。
ITツール導入にコストがかかる
ABWを始めるためには、さまざまなITツールの導入が不可欠です。メリットの点であげたように、長期的にみればオフィスのコスト削減になりますが、導入時には大きなコストと時間がかかります。
ABWを導入するためのプロセス
ABWを導入するには実際にどのようなプロセスがあるのでしょうか。一般的には次のような流れで進めていきます。
- 1.ABW導入の目的を明確にする
- 2.オフィスの運用状況の調査
- 3.社内制度の整備
- 4.意識改革
ABW導入の目的を明確にする
ABWの導入を成功させるためには、最初に目的を明確にしておきましょう。ABWには「広義でのABW」と「狭義でのABW」の2つがあります。「広義でのABW」は働く場所はオフィス内のほか、コワーキングスペースやカフェ、自宅、サテライトオフィスなど自由に選べ、「狭義でのABW」はオフィス内の好きな場所で働くスタイルです。どちらのスタイルを導入するかによって、オフィス環境や各種ツールの整備が異なります。
さらに何のためにABWを導入するのかを決めて計画を進めましょう。ABW導入で得られる効果の「社員のモチベーション向上」や「コスト削減」、「企業イメージの向上」、「ワークライフバランスの実現」などのどれに重きを置くのかは非常に重要です。
オフィスの運用状況の調査
ABWを導入する前には、オフィスの運用状況を正確に把握しておきましょう。従業員の意見を聞いたり、第三者のコンサルタントにリサーチを依頼したりする方法があります。得られたデータからABW導入に向けたニーズや課題を洗い出し、自社に最適なABWのスタイルとはどのようなものかを見極めるのです。
社内制度の整備
ABW導入の方向性が決まれば、社内制度や社内環境の整備に進みます。ABWでは席が固定でないため、来客対応や電話対応など従来のルールを変えなくてはなりません。ABW導入後も円滑に業務が進むよう、フレキシブルに社内制度を変えていきましょう。就業規則や備品の持ち出しルールの改定も必要です。
オフィスの環境整備も重要なプロセスです。ABW型オフィスにするためには、オフィス内のレイアウトの変更のほか、次のようなスペースがあると理想的です。
- ・個人の集中ブース
- ・ミーティングブース
- ・オフィスラウンジ
- ・カフェスペース
働く人の使いやすさやセキュリティなどを考慮したうえで、専門家に相談するのがよいでしょう。
意識改革
理想的なABW型オフィスができあがっても、それで終わりではありません。ABWを導入したあとも、従業員に定期的にヒアリングなどを行って改善点をあげていきましょう。ABWの本来の目的を達成するためには、企業と従業員の双方の意識を変えていくことが大切です。
ABWを導入したオフィスの事例
ABWを導入している企業では、実際にどのような取り組みを実施しているのでしょうか。
代表的な成功事例をご紹介します。
りそなグループ
株式会社りそな銀行などの株式会社りそなホールディングスでは「りそな銀行大阪本社」と「近畿大阪銀行大阪本社」の2つのビルの移転に伴ってABWが導入されました。「拠点維持のためのコスト削減」や「既成概念にとらわれない働き方」、「生産性向上のための社員の意識改革」などを目的として、本社ビル5階の1フロアがABW型オフィスとして新設されています。
円形デスクやベンチシート、ミーティングブースを設置して「部門を越えたコミュニケーションの活性化」をはかっています。
コクヨ株式会社
コクヨ株式会社では東京品川SSTオフィスに従業員の心身の健康を保つためにABWを導入しています。従業員の通勤経路や時間、コストなどをシミュレーションし、利用しやすいコワーキングスペースなどを拡充。さらに業務内容に合わせた作業スペースを確保しています。
また、位置情報システムを活用して従業員のスケジュール管理やコミュニケーション不足から生じるミスや損害を回避しています。
メタウォーター株式会社
メタウォーター株式会社では、働き方改革の一環として西日本事務所をリニューアルしてABWを導入しています。オフィスは自社の水処理事業をイメージしており、山から海への水の流れをタイルカーペットで表現しています。視覚的に癒やされ、従業員の会社への帰属意識が強まる効果が期待できます。
日鉄興和不動産株式会社
日鉄興和不動産株式会社では、壁やパーテーションをすべて取り払い、解放的な多目的空間をオフィスの中央に設置しています。オープンな空間は組織の壁を越えた交流を生み出す効果抜群です。2018年には「第31回日経ニューオフィス賞」で「ニューオフィス推進賞」を受賞しています。
ABWは時代に合った新しいワークスタイル
働く人が心地良く、効率的に働けるABW型オフィスは、まさに時代に合った新しいワークスタイルです。従業員がベストパフォーマンスで仕事に臨めるため、生産性向上につながり企業の利益になるでしょう。
パナソニックEWネットワ―クス株式会社ではABW導入に向けたサポートサービスを行っています。公式サイトの「ダウンロード資料一覧」から参考資料がダウンロードできます。ぜひご活用ください。
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