ABW
2021.09.13
【ABW徹底解説】オフィスの働き方を変える|フリーアドレスとの違いや導入方法まで
働き方改革が進んでいくなかで、従業員一人ひとりが仕事内容に応じて自由に働く場所や時間を選ぶ「ABW」という考え方が大変注目されており、国内外問わずABW型オフィスの導入事例も増えてきています。
特に最近では、コロナ禍におけるさまざまな環境変化、ニーズにも後押しされ、これからの時代ではより重要になっていくことが予想されています。しかし、自社への導入にあたっては、ABWという考え方についての正しい解釈、検討すべきポイントやデメリットを把握しておくことが大切です。
この記事では、ABWについてそのメリット・デメリットおよび導入時の流れについて、解説していきます。
ABWとは?時間や場所にとらわれない自由な働き方を実現
ABWは「Activity Based Working」の略称で、オランダのコンサルティング企業Veldhoen + Company(ヴェルデホーエン)社によって創設されました。Veldhoen社は、1990年から世界中300以上のABW導入プロジェクトを支援しています。
現在ABWの概念としては「時間、場所を自由に選べる働き方」として認知されています。しかしVeldhoen社によれば、ABWは「企業の戦略や文化と照らし合わせ、よりよい働き方を見つけるための促進剤(カタリスト)」とし、チーム間のコラボレーションを促し、優秀な人材を確保する為のアプローチとしています。
ABWは、個室スペースやオープンスペースなどをオフィス内に複数設けたり、テレワークなどの在宅勤務など、仕事内容に適した場所で働くスタイルです。
「フリーアドレス」とは何が違う?
日本でも、オフィス内で自由に席を選んで働く「フリーアドレス」という働き方があります。従来のオフィスでの働き方は、オフィス内での個人用デスクが全て決められており、社員は決められた席について業務を行っていました。
フリーアドレスは、社員自身が効率よく業務ができる席を自由に選択する働き方です。これにより、主体性をもって仕事に取組み、また円滑にコミュニケーションがとれることで生産性向上につなげることを目的としています。
ABWはフリーアドレスの発展形とも言えます。フリーアドレスは社員がフロア内の席を自由に決めるのに対し、ABWは席だけでなく働き方にあったスペースを選択できます。
フリーアドレスにはどのようなデメリットがあったのか
フリーアドレスは、日々自由に席が選べるため、誰がどこにいるかわからず「コミュニケーションしづらい」というデメリットがあります。たとえば、上司が部下を探す、逆に部下が上司を探す、という問題が起こりやすくなります。
また、必ずしも業務を中心に働く場所を選択するのではなく、社員個人が自由に選んでいるため、業務とは直接関係のない社員が近くに座る場合もあります。これにより「業務に集中できず作業しづらい」という状況が生まれやすいという点があります。
ABWの考え方
ABWの考え方は、働き方、ニーズにあわせて時間や場所を選択し、生産性を向上することにあります。一人で集中して仕事をしたい場合は個人ワーク用のスペース、少人数でミーティングをしたい場合は専用のスペース、といったものがあります。
そのため、企業は社員の業務内容を把握し、利用状況に応じて目的別に分割されたワークスペースを設置することが重要です。
ABWは実際にどこまで導入が進んでいる?
ABWは、国内外問わずさまざまな業種の企業で導入が進んでいます。ここでは国内での導入事例をご紹介します。
国内大手事務機器販売企業では、社員自らが働き方を自立的に考えるワークスタイル戦略としてABWを導入。オフィスの使われ方を実態調査したのち、「空間」「IT」「行動」の3点からアプローチを行い、オフィスをリニューアルしました。
その他、東京に本社を置く水・環境事業企業では、事務所にABWを導入して働き方改革を加速。集中エリアやコミュニケーションエリアなど、広々としたスペースをエリアごとに分割しデスクを配置。行先表示板を電子化したシステムや社員の居場所が分かる在籍システムを導入し、ABWのデメリットを解消しています。
▼ABWの導入事例についてはこちらの記事でも具体的に紹介しています
・【ABW導入事例紹介10選】自社オフィスへのABW導入を慎重に検討するために
ABWのメリット
生産性の向上
ABWを導入することで、社員は自由な働き方を自分で選べるようになります。決まった時間に決まった席で働くのではなく、業務内容に最も効果的な場所・時間を選べることで、生産性の向上につながります。
個人業務に集中できる集中ブース、少人数で会議を行うためのコミュニケーションルームなどから、業務目的に応じた環境を利用することができるようになります。
コストの削減
ABWの導入と共に、ペーパーレス化の促進もあわせて実施すれば、文書の保管スペースも有効活用できます。また、紙文書を電子化することにより、ネットワーク経由でどこにいてもその文書を得ることができ、業務効率化にもつながります。
ワークライフバランスの実現
社員によっては、家族との時間を優先する場合や、育児の関係上出社が難しい場合もあるでしょう。ABWを導入し時間や場所を選べる環境を整えれば、テレワークにより在宅勤務を可能とすることで、ワークライフバランスを実現できます。社員満足度の向上にもつながるでしょう。
社員のモチベーションアップ
自由な働き方を選べることから、社員のモチベーションアップにつながります。いつでもどこでも働けるというのは、仕事のストレス低減にもつながります。特に、業務の目的にあったスペースが用意されている点は重要です。
たとえば、自分の業務に集中したいときに外部から声をかけられたり、会話の声が聞こえては集中できずストレスの原因にもなります。そのような状況を避けられる集中ブースの設置は、社員の生産性を向上させるとともに、モチベーションアップにも効果的です。
優秀な人材の獲得
ABW導入のコンセプトとして、優秀な人材の確保があげられていいます。ワークライフバランスが実現し、社員満足度が高い魅力的な会社には、優秀な人材が集まりやすくなります。「働きやすいオフィス」として採用ページなどでアピールすれば、より人材を採用しやすくなります。
ABWのデメリット
マネジメントがしづらい
働く場所や時間が固定されず、上司が部下の働き方を管理しにくくなる点については、フリーアドレスと変わりません。上司の目が行き届きにくく、日頃の仕事ぶりを直接確認できない点があげられます。
そのため、勤務態度を重視する評価方法から、成果主義を重視した評価方法に切り替えるといった対策を検討するとよいでしょう。また、勤務時間をきちんと管理するため、勤怠管理の見直しも必要です。
社員や備品の位置を把握しづらい
社員一人ひとりが自由に場所と時間を選べるだけでなく、オフィスもそれぞれの目的に合わせ複数のスペースが設けられているため、社員や、社員が持ち出した備品の位置を把握するのが難しくなります。
そのため、社員や備品の場所を分かりやすく確認できる仕組みを事前につくっておくとよいでしょう。Webシステムやスマートフォンアプリなど、いつでもどこでも見られるツールがあると大変便利です。
コミュニケーションの低下につながる
誰がどこにいるかきちんと把握できなければ、コミュニケーションの減少につながります。誰がどこにいてもコミュニケーションが取れるような仕組みを作っておくことが大切です。
業務でコミュニケーションツールを利用する方法もありますが、チーム内で交流を持つ機会を積極的にとる、などの定期的なコミュニケーションも重要です。
ペーパーレスに切り替える必要がある
もし書類でのやり取りが多く、直接社員への手渡しやキャビネットへの保管が発生すると、社員や備品を探す手間が発生してしまいます。ABWは社員や備品の位置を把握しづらい面があることから、書類のやり取りがある中でのABWの導入は、業務の効率を低下させる恐れがあります。
この問題を解決する対策として、ペーパーレスへの切り替えが挙げられます。処理書類を電子化すれば、直接手渡しする必要もありません。ABW導入の前にペーパーレス化を促進するだけでなく、保存するデータに対するセキュリティ体制やルールの構築も必要です。
考え方をうまく浸透させる必要がある
注意しないといけないのは、ABWはフリーアドレスとは異なる、という点です。自由に席を決められるからといって、いつも同じ部署、同じ場所、同じメンバーで固まっていては、ABW導入の意味がありません。ABWの目的は、あくまで「働く内容にあわせて場所や自由を選択する」ことにあります。
そのため「ABWを何のために導入するのか」という点を明確にし、その目的を社員に浸透させる必要があります。普段とあまり変わらない結果になってしまっては、ABW導入の効果が得られず、形骸化してしまう恐れがあります。
ABWを導入する前に自社で検討しておくべきポイント
ABW導入時の流れ(プロセス)
ABWを導入するには、次の流れで実施します。
- ①現在のオフィス運用と働き方を調査
- ②調査結果から課題の洗い出し、企業にとってベストな働き方を決める
- ③ワークスペースの整備、必要な制度・体制を整える
最初に、社員に対してアンケート調査をとるなどして、現在のオフィス運用と働き方について調査します。たとえば、少人数でのミーティングが多く会議室が足りない、という声が多ければ小さいミーティングスペースが必要ということがわかります。
逆に、社員のほとんどが常にソロワークをしている場合、ミーティングスペースは無駄になります。そのため、状況によってはABWを導入しても効果が得られないという場合もあります。ABW導入を前提とするのではなく、効果が期待できるかどうかを調査することが大切です。
調査結果をもとに課題を洗い出すとともに、アンケート調査から社員の声を確認し、理想とする働き方やスペースを決めていきます。社員のモチベーションアップにつながるオフィスづくりをすると、より導入の成果が得られやすくなります。
最後に、決めた内容にしたがってワークスペースを整備し、また必要に応じて制度・体制を整えていきます。続いては、ABWを導入していく中で、注意すべき点を解説します。
検討や準備に要する期間を予め検討する
ABWの導入は、単純なオフィスの移転や模様替えではありません。より効果的な結果が得られるよう、検討や準備に十分な時間が必要です。たとえば、単純に時間や場所が自由に選択できるのではなく、最も効率的な働き方ができる、というABWのコンセプトを社員に説明するために時間が必要です。
また、ABW導入後のデメリットをなくすための体制の整備やシステムの導入も検討が必要です。それらを踏まえ、必要な期間を予め検討しておきましょう。
事前の説明、およびアンケート調査で具体的なニーズを正しく洗いだす
最初の導入プロセスである調査では、現在の問題点や具体的なニーズを正しく洗い出すことが目的です。そのため、ABWについて事前に説明をしておかなければなりません。
従業員の利便性や働きやすさを尊重しつつ、生産性を高められるよう、単に自由に思いつくままに働くということではないことを理解してもらいながら誤解のないよう周知のうえでアンケートを行いましょう。
アンケートでは「在籍率」「1日の在籍中の業務の割合」「会議室の使用人数と頻度」などを調査し、オフィスの使用状況を確認することができます。
「自由に働く」ことがストレスの原因や集中の妨げにならないよう検討する
自由に働けることが、必ずしも社員にとってプラスに働くとは限りません。あくまで働き方にあわせて整備することが重要です。
たとえば、個人で集中して仕事ができるスペース内で電話会議をしたり、飲食ができたりするようでは、他の人の集中を妨げる要因となります。少人数のミーティングスペースでも、長時間スペースを専有してしまうと、他の人とのトラブルの原因にもなります。
働き方に適した場所を提供し、スペースを有効活用する点も大切ですが、目的に合ったルールを整備しないと、利用されない場合もあります。
「どこに誰がいるか分からなくなる」ことを想定する
ABWのデメリットであったように、どこに誰がいるかを明確にする仕組みを整えておきましょう。マネジメントや健康管理などの面から、慎重に検討しておくことが大切です。
たとえば、ビジネスチャットを利用してどこにいても連絡がとれるようにする、打ち合わせは基本的にビデオ会議で行う、定期的に所在確認を実施する、といった対応があげられます。
セキュリティ上の課題をしっかり検討する
社員は自由な場所・時間で仕事を行うことができるため、セキュリティの面で課題がないか確認しましょう。PCを社外に持ち出したり、在宅業務をおこなう場合もあります。PCの紛失や不正ログインなどによる情報漏洩は避けなければなりません。
自社のセキュリティポリシーと照らし合わせ、セキュリティ上のリスクがある場合は、事前にその対策を整備しておくことが大切です。
ABW導入事例から活用方法を検討しよう
ABWの導入により、生産性向上や社員の満足度上昇、優秀な人材の確保など、企業にとって多くのメリットが期待できます。しかし、一方でデメリットもあり、きちんと問題を回避するための仕組みを作ることが大切です。
ABWを導入するには、社員アンケートなどで現在のオフィス活用状況を調査し、課題やニーズにあわせて活用することが大切です。ABW導入を検討されている方は、ABW導入事例を参考に活用方法や考慮点を確認されるとよいでしょう。
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