ABW

2021.05.31

ABWとフリーアドレスの違いとは?ABWを導入している企業の事例を紹介

ABWとフリーアドレスの違いとは?ABWを導入している企業の事例を紹介

働き方改革により、仕事の効率を重視する考え方や、ワークライフバランスに配慮した仕事の進め方が浸透し、オフィスに求められるニーズも変化しています。そんな今、ABWに注目が集まっています。

そこで今回は、ABWとフリーアドレスの違いや、ABWを導入している企業の事例をご紹介していきます。ぜひオフィス作りの参考にしてみてください。

ABWとフリーアドレスの違いとは?

まずは、ABWとフリーアドレスの違いを解説していきます。

ABWとは業務に適した働き方を自由に選択すること

ABWは、Activity Based Working(アクティビティ・ベースド・ワーキング)の頭文字をとった略語です。

オランダ発祥のワークスタイルで、業務をいつ、どこでやると効率が良いかを考え、自分で選択した空間で仕事をします。場所は、オフィス内であったり、自宅であったり、コワーキングオフィスであったり、さまざまです。

ABWには以下のようなメリットがあるといわれています。

  • ・社員それぞれが業務内容に応じて集中できる場所を選択できる
  • ・仕事の効率が上がる
  • ・固定席を作らないことでオフィスを最適化し、コストを削減できる
  • ・ワークライフバランスの向上につながる
  • ・ABWを取り入れていることが企業の魅力となる

フリーアドレスとはオフィス内で場所を選択し仕事をすること

一方、フリーアドレスは、オフィスフロア内で自由に席を選んで仕事を進めるワークスタイルのことです。オフィスフロア内に固定席を作らず、個人の荷物などはロッカーに入れて管理し、出社した際に、その日どこで仕事を進めるか選択して業務を進めます。

フリーアドレスのメリットはこちらです。

  • ・社員のコミュニケーションの活性化につながる
  • ・固定席を作らないことでオフィスを最適化し、コストを削減できる
  • ・オフィスが片付く(デスク上に個人の物が出しっぱなしということがない)
  • ・レイアウトの変更をしやすい

一見、ABWとフリーアドレスは似ていますが、大きな違いがあります。それは、フリーアドレスはオフィスフロア内で仕事場を選択するのに対して、ABWではオフィス以外の場所も選択できるというポイントです。

また、ABWを導入している企業では、業務に合わせて社員がさまざまな働き方を選択できるよう、オフィスのレイアウトに工夫を凝らしているのが特徴的です。

フリーアドレスの進化系ではない!働き方としてのABW

ABWは、単なるフリーアドレスの進化系という位置づけではありません。働く席をオフィスフロア内から選択するフリーアドレスに対し、仕事内容に合わせて最も効率が良い空間を自由に選択するABWは、「働く場所」ではなく「働き方」を選択することなのです。

集中力が必要な作業は社内の個室スペースで行う、リラックスしながらアイデア出しをしたいときは社内のサロンスペースを利用するなど、働き方を選択できることで、集中力や仕事の効率がアップします。

直接対面で話す必要がないweb報告会は自宅から参加する、商談前の資料には得意先の近くにあるコワーキングオフィスで目を通す…といった働き方を可としている企業もあります。このような選択ができることは、通勤時間の短縮やワークライフバランスの向上にもつながるでしょう。

集中力や仕事の効率が増す、通勤時間の短縮やワークライフバランスの向上が実現するといったことは、企業の生産性アップや社員の満足度につながり、ひいてはABWが導入されていること自体が企業の魅力となります。

ABWの導入で社員が働きやすい環境を作ることは、社員のモチベーションアップや良い人材の確保のためにもプラスとなるのです。

ABWを導入している日本の企業は?

ABWに魅力があるのはわかりましたが、どのような企業で取り入れられているのかも気になるところです。ABW導入企業は世界中にありますが、ここでは日本の例をご紹介していきましょう。

株式会社リクルートマネジメントソリューションズ

株式会社リクルートマネジメントソリューションズは、企業の人材採用や人材開発、制度構築や組織の開発をサポートしている会社です。東京都にあるオフィスにABWが取り入れられており、導入にあたっては、ありとあらゆるデータをもとにオフィスが設計されました。

例えば、会社の入館データや社員の時間の過ごし方、会議室の利用頻度や、オフィスの曜日、時間帯ごとの在席率などを徹底的に調べ、空間作りのヒントにしたそうです。

ダイキン工業株式会社

ダイキン工業株式会社は、「空調」や「化学」、「フィルタ」の3つを柱に事業展開する日本を代表するグローバル企業で、東京支社オフィスでABWを取り入れています。
オフィスにコワーキングスペースも内包していて、社内、社外のメンバーと対話できる空間を作っているそうです。働き方によって選択できるコミュニケーションスペースは、カーテンや可動式ツールでフレキシブルにレイアウトを変更できるようになっています。

パナソニックホームズ株式会社

パナソニックホームズ株式会社は、注文設計住宅やリフォームといった身近な事業から、土地活用事業や海外事業まで幅広く手掛ける企業です。「Link Work Place」というオフィスコンセプトのもと、東京汐留のオフィスにABWを導入しています。

背景には、ヒトの「つながり」や企業の「つながり」、空間の「つながり」など多様な「つながり」を創造して、より生産性の高い働き方を実現するためというビジョンがあるそうです。役員席を含めてすべてにフリーアドレスが採用されていて、コミュニケーションスペースや家具など、細部に至るまで工夫が凝らされています。

ハウス食品株式会社

ハウス食品株式会社は、カレールウなどの香辛食品類やスパイス、加工食品などの製造販売を行っている企業です。ABW導入にあたっては、社員が自席にとらわれず、やりたい仕事に相応しい空間を利用できるような仕様にし、ペーパーレスの環境も整えています。 オフィスに入居する全部署がワークショップに参加し、2年半の歳月をかけてコンセプトやデザイン、運用を策定したそうです。

このように、日本を代表するさまざまな業種の企業が、オフィスにABWの導入をし始めています。ご紹介した企業では、オフィスまるごと、フロアまるごと、といった大きなスケールでABWを導入していますが、オフィス全体をABW導入で変えてしまうのではなく、一部の部門から取り入れるなど、段階的にABWを取り入れていくことも可能です。

ABWのメリットとデメリットから考察!向いている業種や部門とは?

ABWは、どのような業種や部門に適しているのか、ABWのメリットやデメリットをふまえて考えていきましょう。

ABWのメリットは前項で、業務に応じた空間を選択できることで生産性が向上する、ワークライフバランスがとりやすくなる、オフィスの最適化につながる、といった面を紹介しました。では、デメリットにはどのようなものがあるのでしょうか?

ABWのデメリットには、こちらの項目が挙げられます。

  • ・ABW導入により労働管理や評価制度の変化が必要な場合がある
  • ・コミュニケーションの取り方が変わる
  • ・セキュリティ面への配慮が必要となる
  • ・レイアウト検討など導入準備に時間がかかる

ABWでは、上司と部下が常に同じ空間で働くわけではありません。姿が見えていなくても、成果を評価できるような制度へシフトするなど、柔軟な対応が必要となります。また、話をしたい相手が同じ空間にいない、といったケースも発生するので、導入してすぐは双方のコミュニケーションに不都合を感じることもあるようです。

ABW導入にあたっては、あらかじめ連絡手段を確保しておくと助けになるでしょう。ABW導入企業では、メール以外の手軽にメッセージを送り合えるチャットツールやWeb会議システムを積極的に活用しているようです。

さらに、セキュリティ面の安全確保にも気を遣う必要があるでしょう。社外にパソコンを持ち出したり、社外でフリーWi-Fiに接続したりすることで生じる情報漏洩のリスクを考慮し、回避する方法や、万が一の時の対応策の検討なども必要です。セキュリティシステムの導入などでコストがかかる場合もあるでしょう。

ABWの導入は空間を最適化でき、社員が自由に働き方を選べることでコスト削減や業務の効率アップが期待できますが、メリットを最大限に発揮するためには、企業にとってのベストなレイアウトを検討し、整備していく必要があります。これには社員の行動調査や、意見交換など綿密な準備が不可欠で、ABWの導入には時間的なコストがかさむことは覚えておきたいポイントです。

これらのことから、ABWの導入が向いているのは、例えばIT関連など、変化にフレキシブルに対応できる業種といえるでしょう。部門ならば、企画や営業、マーケティングといった部門が特に適しているのではないでしょうか。特別な機器が必要な専門職や、膨大な機密事項を取り扱う部門や固定席が必要となる部門では、ABWをあまりおすすめできません。

企業のABWのレイアウト実例をご紹介

ABW導入企業では、どのようなレイアウトでオフィス作りをしているのでしょうか。前項でピックアップした4つの企業のレイアウト実例をご紹介していきましょう。

株式会社リクルートマネジメントソリューションズのレイアウト

複数部署と協力しながら仕事を進めるという業務の特性を反映させ、打ち合わせができるスペースが多いそうで、ファミレス席やカウンター席などが設置されています。

日中のオフィスは外出する人が多く、固定席の半分以上が空席になっている、在席の場合も3~4割が会議室にいるといったことから、会議室を増やす工夫がされているそう。その会議室も、利用人数が少人数なことから、小さい会議室の数が多くなっているのだそうです。

ダイキン工業株式会社のレイアウト

ダイキン工業株式会社では、イベントスペースやカフェスペース、ミーティングスペース、ラウンジエリアなどが配置されています。イベントスペースは、フレキシブルな家具やツールでレイアウトが変更できる空間となっています。

カフェスペースは、社内の人のみならず、社外の人も利用できる憩いのスペース。ミーティングスペースは見通しの良いオープンな空間で、その隣にはアイデアをザッピングできるライブラリースペースがあります。そして、仕事の合間のひとときを過ごすためのラウンジエリアもあるそうです。

広いスペースはブルーのカーテンで柔らかく空間を分断するといった、空調を扱うダイキン工業株式会社ならではの工夫がされていて、美しい空間デザインも魅力となっています。

パナソニックホームズ株式会社のレイアウト

パナソニックホームズ株式会社には、吹き抜けエリア、ミーティングスペース、設計部門優先スペースや集中ブース、カフェコーナーが配置されています。

吹き抜けエリアはプレゼンテーションエリアとなっていて、自然光がたっぷりと入る空間が魅力。プレゼンテーションエリアという特性から、吹き抜けの2階からも見えるよう工夫されています。

ミーティングスペースは、家具の配置を変えることで、少人数から大人数まで収容可能。オフィスの中央には設計部門の優先スペースがあり、周囲より床を高くして業務の見える化を図っていました。
個々に区切られた集中ブースでは仕事に没頭することができ、休憩や簡単な打ち合わせもできるカフェコーナーは、スタンディングワークにも対応しています。

ハウス食品株式会社のレイアウト

ハウス食品株式会社のABWのレイアウトは、執務エリア、執務フロア窓側、執務フロア中央、会議室といったように、フロアを区切った仕様になっています。

広いスペースの執務エリアには大型のロングデスクが配置されていて、社員個人の書類はロッカーへ収納する仕組みとなっているそうです。

執務フロア窓側はミーティングエリアや立ち会議エリア、個人用の集中席エリアとなっています。執務フロア中央には、社員が歓談できるようなリフレッシュコーナーが設置されています。

ハウス食品株式会社ならではの特色が光るのが会議室で、フロアマットに色の効果を取り入れた空間となっています。

たとえば、集中のためのペパーミントの会議室、発散のためのターメリックの会議室、活発な議論のためのレッドペッパーの会議室、などオリジナリティ溢れるカラーのフロアマットで空間を彩っているそうです。

別フロアには食堂があり、打ち合わせや交流会などにも活用されています。

各社とも、ABWの導入には社員の行動パターンや業務の進め方を綿密に調査し、コンセプトを持って設計しているようでした。

企業により、会議室の需要が高かったり、個別スペースの需要が高かったり、社員の業務の進め方によって必要な空間が異なることが分かります。空間のデザインには企業の個性を反映し、素敵なレイアウトに仕上げている企業ばかりでした。

まとめ

ABWは、仕事をどこでどのように進めると効率が良いかを考え、自分で自由に「働き方」を選択することです。導入すると、社員ひとりひとりが自分に合ったワークスタイルを選ぶことで仕事に集中しやすくなり、業務の効率化が期待できることから、フリーアドレスを超えたメリットがあるといわれています。
ABWの導入には費用や綿密な計画が必要ですが、あなたの企業にとってのメリットとデメリットを比較し、検討してみてはいかがでしょうか。

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