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2022.06.03

オフィスの縮小とは? 動向やメリット・デメリット・成功のカギを解説

オフィスの縮小とは? 動向やメリット・デメリット・成功のカギを解説

コロナ禍でテレワークやリモートワークなどの導入が進み、オフィスの在り方を見直し、ニューノーマルな働き方を検討する企業が増えています。出社する従業員を減らすことで不要なオフィス面積が増えた企業の例もあり、オフィスの縮小の需要が熱を帯び、オフィス不要論まで飛び出している状況です。

本記事では、「オフィス縮小すべき?」「失敗はしたくない」そんな悩みを抱える経営者や企業担当者向けに、近年の動向を踏まえながら、オフィス縮小のメリット・デメリットについて解説します。実行する際に知っておきたいポイントや課題、対応方法や事例を紹介しますので、ぜひ参考にしてください。

社員全員が出社する状況を理想とする企業は約20%しかない

2020年春に新型コロナウイルス感染症(以降、コロナ)が世界的に拡大して以降、日本の企業におけるオフィス需要は大きく変化しています。

ザイマックス不動産総合研究所が行った調査(※1)によると、仮に今後コロナ禍が収束しても社員全員が出社する状況(出社率100%)にしたいという意向の企業は、20.3%にとどまっており、全体の74.1%がテレワークなどを導入し、オフィスの分散を考えている状況です。

実際、テレワークの導入が進んでおり、東京都が行った最新のデータ(※2)でもテレワーク実施率は62.5%に達しています。東京都では、半日・時間単位のテレワーク(テレハーフ)も推進しており、実施割合は20.4%と徐々に拡大傾向です。

このことから、オフィスへ出社する従業員が減ることで、オフィスフロアに余剰スペースが生まれている状況があります。

※1 ザイマックス不動産総合研究所「働き方とワークプレイスに関する首都圏企業調査 2022年1月
※2 東京都「テレワーク実施率調査結果」(2022年04月07日 報道発表資料)

オフィス拡張よりも縮小を考える企業の割合のほうが多い

コロナ禍は、オフィスの在り方に大きな影響を与えています。

以下をご覧ください。実際、収束後の出社率を100%にしたい企業が減っており、その影響でオフィス面積を「拡張したい」よりも「縮小したい」という意向のほうが多いという状況となっています。

▼コロナ禍収束後の面積の意向

調査時期 拡張したい 変えない 縮小したい わからない
2020年8月調査 3.2% 56.0% 30.4% 10.4%
2020年12月調査 5.4% 57.2% 28.5% 9.0%
2021年1月調査 4.1% 57.3% 30.0% 8.7%
2021年7月調査 5.1% 63.6% 24.3% 7.0%
2022年1月調査 6.0% 62.0% 19.5% 12.4%

参照:ザイマックス不動産総合研究所「働き方とワークプレイスに関する首都圏企業調査 2022年1月」

最新の調査でも「オフィス面積を縮小したい」が「オフィス面積を拡張したい」を10ポイント以上も上回っている状況です。すでにオフィス面積の縮小を行った企業もあり、2022年1月の調査では「拡張」と「縮小」の差が少なくなっていますが、依然として倍以上の差があります。

企業が「オフィス面積を縮小したい」と考える大きな理由としては、テレワークによる必要面積減少という点が多く挙げられています。ただ、コスト削減を挙げる企業も見られ、オフィス内の環境や運用体制を整えようとしている企業が増えていることが窺えます。

テレワークの定着によるオフィスへの出社率の低下で、オフィスフロアに余分な面積ができている状況から、オフィスを縮小しようと考える企業は増加傾向です。

働き方改革はこれまでも行われていましたが、昨今の社会情勢の影響もあり、働き方も多様化しています。企業も時代に合わせてテレワークや在宅勤務などの導入を促進し、働く場所を分散させる動きが加速しており、オフィスに余剰スペースができたことからオフィス拡張よりも縮小を考える企業が増えているのが実情です。

オフィス縮小における4つのメリット

この章では、実際にオフィス縮小をした場合、企業にとってどのようなメリットがあるのかを紹介します。

働き方改革につながる

オフィス縮小による一番のメリットは、働き方改革につながるということです。

オフィスフロアの面積が限られることで、出社できる人数も限られるため、テレワークやテレハーフ(半日・時間制の出社)、シェアオフィス、サテライトオフィスの導入といったオフィス分散化が本格化します。

これにより、社員自身の働き方は大きく変わり、業務内容に応じて働く場所や時間を選ぶという、従来の働き方にとらわれない働き方ができるようになるのです。柔軟な働き方は、自律的な働き方を促すだけでなく、ワークライフバランスのとれた働き方につながります。その結果として、社員の満足度や生産性の向上といった効果も期待できるでしょう。

オフィス設備などにおけるコスト削減につながる

オフィスを縮小すれば、必然的にオフィス設備にかかるコストも軽減できます。具体的には、家賃や光熱費などです。

従業員が増えても、オフィス縮小によりテレワークを進めていれば、オフィスのレイアウトチェンジやオフィス家具を追加する必要もないので、将来的に見ても設備面に関するコストの削減効果が期待できます。

その削減できた経費を従業員の手当てやより良い環境の整備に使うことができれば、従業員の仕事に対するモチベーションを高めることもできるでしょう。

新しいオフィス環境を提供しやすくなる

オフィス縮小をきっかけに、レイアウトを変更することで、新しいオフィス環境を提供できるのもメリットです。

例えば、社員ひとりにつき1つの固定席を設けている従来のオフィスレイアウトをフリーアドレスに変更することで、部署間を跨いでのプロジェクトでも業務に携わる人が集まりやすくなります。その場で気軽に意見の交換や話し合いができるようになるため、無駄な会議の時間を減らし、その分を作業時間として使うこともできます。

業務のコンパクト化

オフィス縮小によりスペースが限られることでペーパーレス化が進み、これまで紙で保管していた書類をデータ化する動きが促進されます。これにより、いつでも必要な情報をパソコン上から確認できるようになり、備品や書類の管理面もスリム化できます。

オフィス縮小における4つのデメリット

企業や従業員にとってうれしい効果をもたらすオフィスの縮小ですが、デメリットもあります。そのため、メリットだけでなく、デメリットについてもよく理解した上で、オフィス縮小をするかどうかを判断することが大事です。

ここでは、オフィス縮小の具体的なデメリットや課題、その対策について、詳しく紹介します。

オフィス再構築に手間や工数がかかる

オフィス縮小を行うことで、将来的に家賃や光熱費などの削減効果が期待できますが、移転や現オフィスからのレイアウト変更などをともなう場合、引っ越し費用や移転先オフィスの構築、電気・内装工事といった費用が発生します。

やみくもにオフィス縮小を進めてしまうと、余計なコストがかかる要因にもなるため、後ほど紹介する「オフィス縮小を成功へ導くポイント」の章も参考にしながら、入念に準備をしましょう。

オフィス外での業務環境の整備が必要

現状のオフィスのキャパシティを100%として考えたとき、オフィス縮小で80%サイズにすると、20%の人は必然的にオフィス外で仕事をすることになります。

すでにテレワークを導入し、オフィス外で働く環境の整備が進んでいる企業であれば、オフィス縮小でテレワークを本格化させても影響は少ないでしょう。

しかしオフィスワークを中心としている企業が、業務環境の整備よりも先にオフィス縮小を進めてしまうと、混乱を招く可能性があります。そのため、オフィス縮小を実行する前に、オフィス外での業務環境や制度などを整えていくことが重要です。

従業員の管理が難しくなる

オフィス縮小によりテレワークが本格化すると、社員はそれぞれ離れた場所で仕事をすることになり、社員同士のコミュニケーションが難しくなります。

対面で会えない分、信頼関係の構築や部下の育成面でも課題が生じるケースが多い傾向です。

社員同士のコミュニケーションについては、オンラインミーティングやビジネスチャットなどの気軽に利用できるコミュニケーションツールを活用することで改善できる可能性があります。

社員のモチベーション

オフィス縮小は、社員への配慮が必要です。賃料や光熱費といった経費の削減を優先した結果、オフィスへ出社する社員が狭さや居心地の悪さを感じる可能性があります。

そのため、予算やオフィス縮小後の働く環境についてもしっかりと想定した上で実施することが大事です。オフィス縮小にともなう環境づくりと同時に、働き方も改善して、オフィス縮小の理解を促しましょう。

オフィス縮小を考える上で重要なのはデータ

オフィス縮小のメリット・デメリットを踏まえ、「実際にやってみよう」と考える担当者の方は、行動を起こす前に「在席率」と「出社/在宅勤務のニーズ」を把握しましょう。

在席率

オフィス縮小の際、まずはどれくらいの広さが必要かということから決めます。その際の指標になるのが在席率です。具体的にどれくらいオフィスを縮小すべきかを検討する際に、在席率が大きく関連します。

ただし、必要な席数を体感で決めてしまうとリスクがあります。例えば、外出している社員が多い日中の在席率だけで判断してしまうと、始業・終業時間に席が足りないということにもなりかねません。

まずは、各時間帯や曜日別の在席率から確認しましょう。繁忙期や閑散期で在席率が異なるといった特殊事情がある場合は、時期ごとの在席率を把握することも重要です。

出社/在宅勤務のニーズ

オフィス縮小にあたって、どれだけの「社員が出社したい」「在宅勤務をしたい」と思っているのかを正確に把握することも大事です。

特に、出社・在宅勤務のニーズは、比較的社内で作業することが多い事務系部署と、外出が多い部署で異なります。オフィスでの作業が基本である部署の場合、在宅勤務にできない業務的な課題をクリアにする必要もあるので、業務面も含め、実際に働く社員の声を聞いて、正確なニーズを把握しましょう。

オフィス縮小を成功へ導くポイント

この章では、計画を遂行する際に知っておきたいオフィス縮小を成功へ導くポイントについて見ていきましょう。

オフィス縮小の必要性の確認

オフィス縮小を成功へ導く1つ目のポイントは、オフィス縮小の必要性についてしっかりと確認することです。

在席率や出社・在宅勤務のニーズを調査し、「部署ごとの働き方」「従業員の意思や希望」を把握した上で、次の内容についても確認しましょう。

▼オフィス縮小の必要性を検討する際のポイント

・在席率や社員のニーズから最適なオフィス面積を考える
・既存オフィスの契約や利用状況を確認し、経費削減できるかを確認する
・自社におけるオフィスの在り方や役割など、その定義について再検討する
・将来の経営・事業戦略、採用戦略を考える

オフィス縮小は、従業員や今後の経営などにも影響しやすい取り組みです。失敗しないためにも、広い視野でオフィス縮小について考え、必要性を再確認しましょう。

移転後のワークスタイルの検討

オフィス縮小を実行した場合の具体的なワークスタイルについても検討が必要です。

▼確認しておきたいオフィス縮小後のワークスタイル

・働く場所と生産性に影響しないか
・業務に支障のない働き方や環境を提供できるか

特に、オフィス縮小に伴って大きく体制を変更すると、従業員も戸惑います。テストをしたり、段階的に取り入れたりして、混乱がないように準備しましょう。

もし、オフィス縮小による負担が増えるのであれば、アウトソーシングを活用し、業務負担を減らすのも良いかもしれません。

オフィス縮小による費用対効果の確認

縮小にかかるコストと導入後の効果を比較することも大事です。

例えば、従業員50人、1人あたりの必要面積3.8坪(東京の企業における個別のデスクと共用部分を含めた従業員1人あたりの平均値 ※3)の場合を例に見ていくと、必要面積やコストの違いは次のようになります。

勤務形態 オフィスの必要面積
(1人あたり3.8坪)
オフィスの家賃
(坪単位2.5万円)
従業員全員が出社 50人×3.8坪=190坪 475万円
出社週4日+在宅1日 40人×3.8坪=152坪 380万円
出社週3日+在宅2日 30人×3.8坪=114坪 285万円

在宅勤務を2日取り入れるだけで、必要面積を40%減らすことができ、全員出社の時よりも固定費も約40%カットできます。

ただ、在宅勤務がしやすいような設備の導入にもコストは発生するため、削減できた費用と環境の変化にともなう設備のコストを考慮した上で、コストバランスや費用対効果を確認するようにしましょう。

※3 JNEWS.com「在宅勤務で再考されるオフィスの役割と費用対効果

オフィス縮小における課題

オフィス縮小による働き方の変化がもたらす課題があります。

仕事に対する評価ポイント

「在宅勤務もできるが出社している=忠誠心がある」と捉える、「遅くまで会社で仕事をしている=熱心だ」と捉えるなど、対面重視の社風が残る企業もが少なくありません。

これでは、在宅勤務を希望する社員は増えず、不平等を生むだけです。そのため、オフィス縮小で働き方が大きく変わるケースでは、出社の有無や頻度、勤務のスタイルなどに関係なく、きちんと仕事の内容や質で評価するような人事体制・制度を設けることも大切といえます。

社員同士のコミュニケーション

オフィス縮小により在宅勤務が進むと、対面時よりも社員同士のコミュニケーションが取りづらくなります。「口頭のほうが伝わる」「在宅だとフォローしづらい」といった不満にもつながるため、オンラインミーティングやメール、業務フローをまとめた資料など、誰にでもわかりやすく伝えられるような工夫も必要です。

オフィス縮小をした企業の事例

オフィス縮小を成功させたいのであれば、すでにオフィス縮小を行い、成功している事例を参考にするのが近道です。これから検討するという企業も、オフィス縮小における課題解決のヒントを得られる可能性がありますので、ぜひチェックしてください。

富士通株式会社

日本有数の総合エレクトロニクスメーカー「富士通株式会社」。2020年に「22年度末までにオフィス規模を50%程度に縮小する」という目標を掲げ、“国内におけるグループ従業員はテレワーク勤務を基本とする”ことを発表しています。

それにともないオフィスも全席フリーアドレス化を行い、時間や場所にとらわれないフレキシブルな体制を整え、IoT技術も積極的に取り入れている状況です。

仕事や業務を可視化してAI分析を行い、社員がどのような仕事にどれだけの時間を費やしているのかを把握しており、テレワークでも作業効率や進捗、負荷状況などを定量的に把握できる工夫をしています。

PIXTA株式会社

写真・イラストなどの素材のマーケットプレイス「PIXTA(ピクスタ)」というサイトを運営する「PIXTA株式会社」は、2021年2月に本社を3分の1の面積に縮小する、縮小移転を行いました。

こちらの企業も在宅勤務を基本とし、出社が前提の福利厚生「近距離手当」を廃止し、その代わりに在宅勤務による通信費や光熱費、仕事環境の整備費として使える「リモートワーク手当」を新たに導入しています。

株式会社ぐるなび

「株式会社ぐるなび」では、2014年8月より段階的に進めていたリモートワークを、コロナ禍の拡大にともない本格化。2020年2月に原則全従業員がリモートワークする働き方へと移行し、従業員自身もオフィスに来るときには目的を持って出社するよう周知されているそうです。

段階的に進めることで、オフィスの面積を50%削減しても大きな混乱もなく、ニューノーマルな働き方を実現しています。

自社におけるオフィスの在り方に合うオフィス縮小を実現しよう

オフィス縮小を考える企業が増えています。しかし、オフィス縮小には、メリットだけでなく、デメリットや導入する上での課題もある状況です。そのため、本当に自社にとってプラスになるのか、費用対効果なども含め慎重に検討する必要があります。

実例などを参考に、オフィス縮小後のイメージをしっかりと持ち、自社のオフィスの在り方に合ったオフィス縮小を実現しましょう。

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