ジョルジュ・ルオーアトリエの記憶

展覧会レビュー

2026年4月11日から6月21日まで開催した「ジョルジュ・ルオー アトリエの記憶」展では、当館が所蔵する約270点におよぶルオーコレクションの中から、近年新たに収蔵した作品を中心に、画家ジョルジュ・ルオー(1871-1958)の創作の現場であった「アトリエ」に焦点を当てて紹介しました。会場では、ルオーが制作した場所や環境の変遷をたどりながら、初期から晩年に至る代表作を展示するとともに、ジョルジュ・ルオー財団の特別な協力のもと、ルオーが実際に使用した画材道具や机等を用いて晩年のアトリエ空間を一部再現しました。また、新収蔵作品《モデル、アトリエの思い出》をコレクションとして初めて公開し、多くの来館者の関心を集めました。この展覧会を通じて、画家ジョルジュ・ルオーの作品だけでなく、その創作の現場であったアトリエの記憶や、絵画が生まれる過程そのものに触れていただくことができました。

美術館へのアプローチ
会場入口

第1章 国立美術学校時代―ギュスターヴ・モローのアトリエ
Chapter I  The École des Beaux-Arts Era: Gustave Moreau’s Atelier

1890年にジョルジュ・ルオーが入学した国立美術学校と、師であるギュスターヴ・モローのアトリエで制作した作品を紹介しました。画家として歩み始めた若き日のルオーが、アカデミックな教育のもとで培ったデッサン力や古典的な表現をうかがうことのできる作品を展示しました。また、近年当館が収蔵したモロー作品もあわせて紹介し、師弟の関係や芸術的影響について考察しました。

第1章「国立美術学校時代―ギュスターヴ・モローのアトリエ」の展示風景

第2章 フォーヴ時代―画家仲間との共同アトリエ
Chapter II  The Fauve Era: Sharing Studios with Other Painters

モローの没後、ルオーは仲間の画家たちと共同アトリエを行き来しながら制作を続けました。本章では、フォーヴィスムの影響を受けながら独自の表現を模索した時代の作品を紹介しました。娼婦や道化師といった社会の周縁に生きる人々を主題とした作品からは、この時代のルオーが描こうとした人物の内面へのまなざしが感じられます。共同アトリエの雰囲気を伝える同時代資料とともに、若きルオーの芸術的挑戦をご覧いただきました。

第2章「フォーヴ時代―画家仲間との共同アトリエ」の展示風景

第3章 1920~30年代―アンブロワーズ・ヴォラール邸での制作
Chapter III  The 1920s and 1930s: Working in the Vollard Residence

画商アンブロワーズ・ヴォラールとの出会いは、ルオーの画業に大きな転機をもたらしました。本章では、ヴォラール邸の最上階に構えたアトリエで制作された作品を中心に、この時代のルオーの代表作や版画作品も展示しました。当時の写真資料を交えながら、ルオーが多くの同時代画家の作品に囲まれて創作していた様子も紹介しました。裁判官や道化師、キリスト、踊り子などを描いた油彩では、ルオーがこの時代に到達した成熟した画風をご覧いただきました。

第3章「1920~30年代―アンブロワーズ・ヴォラール邸での制作」の展示風景

第4章 1940~50年代―最後のアトリエ
Chapter IV  The 1940s and 1950s: The Final Studio

1948年以降、ルオーが人生最後のアトリエとして使用したパリの制作空間に注目し、晩年の傑作とともにその創作環境を紹介しました。会場では、ジョルジュ・ルオー財団が所蔵するルオーが実際に使用していた机や画材道具などを用いてアトリエの一部を再現しました。南西に大きく開いた窓から差し込む光や創作の現場をイメージした展示空間とともに、絵具を幾重にも塗り重ねて生み出された晩年作品の豊かなマティエールをご覧いただきました。また、作品の裏面や制作過程にまつわる資料も紹介し、ルオーの制作スタイルや技法への理解を深める機会となりました。

第4章「1940~50年代―最後のアトリエ」 の展示風景
設営時、ジョルジュ・ルオー財団よりブリュノ・ル・ダンテック氏(ルオーの曾孫)にご来日いただき、インスタレーションをご指導いただきました。

第5章 ルオーの「アトリエ作品」
Chapter V  Rouault’s “Studio Works”

画家の没後、アトリエに残された未完成作品群にも焦点を当てました。これらの作品には、娘イザベルによって「ATELIER DE GEORGES ROUAULT」のアトリエ印が押されており、今日では「アトリエ作品」として知られています。当館が所蔵する聖なる風景を描いた一連のアトリエ作品を中心に、色彩や構図を少しずつ変化させながら制作を続けたルオーの創作姿勢を紹介しました。
また、会場出口付近では、ルオーの略年譜に加え、アトリエ内部の写真や、パリ市内に点在したルオーゆかりの地や、戦時中の疎開先で構えたアトリエの場所を示す地図を展示し、創作の背景を多角的に紹介しました。

第5章「ルオーの〈アトリエ作品〉」の展示風景
会場出口付近

映像上映「ルオー、描く権利」

ロビー映像コーナーでは、ジョルジュ・ルオー財団の協力のもとフランスで撮影した映像「ルオー、描く権利」(制作:OXYGÉNE PRODUCTIONS AUDIOVISUELLES)を上映し、現在も残るアトリエの様子やルオーの制作にまつわる貴重なエピソードをルオーの孫フレデリック・シェルシェーヴ氏のインタビューとともに紹介しました。本映像はフランス・カンヌにて毎年開催されている国際的なアワード「Cannes Corporate Media & TV Awards(カンヌ コーポレートメディア&TVアワード)」(2026年)の「Trailers and Teasers for Documentaries and Reports(ドキュメンタリーおよびレポート作品の予告編)」部門において金賞を、また、「Art, Music and Culture(芸術・音楽・文化)」部門において銀賞を、ダブル受賞しました。

ロビー映像コーナーで「ルオー、描く権利」の映像を上映

イベントレポート

記念講演会 「修復」から読み解く「アトリエのルオー」

修復家の森直義先生をお招きし、記念講演会を開催しました。講演では、ルオー作品の調査・修復を通じて明らかになった制作技法や、アトリエにおける創作の過程について、修復家ならではの専門的な視点から解説いただきました。作品の裏面から読み取れる情報や制作の痕跡など、修復の現場だからこそ得られる貴重な知見が紹介されるとともに、その一つひとつから画家の思考や制作への思いを読み解いていくお話は非常に興味深く、貴重な機会となりました。

講師
森直義氏(CRIQUEアートコンサヴェーション株式会社代表)
日時
2026年5月16日(土)午後2時~午後3時30分
会場
パナソニック東京汐留ビル 5階ホール