本展覧会は、20世紀デンマークを代表する家具デザイナー、ポール・ケアホルム(1929~1980)の仕事を回顧する企画展として催しました。ケアホルムの主要作品を網羅した、日本の美術館では初めての展覧会となりました。長年にわたり椅子研究と収集を続けてきた織田憲嗣氏(東海大学名誉教授)のコレクションを中心に、織田コレクションを有する北海道東川町や、デザイン・ミュージアム・デンマークの協力のもと、家具約50点と関連資料を紹介し、ケアホルムのデザイン哲学と洗練された家具の造形美を見つめました。
織田コレクション 北欧モダンデザインの名匠ポール・ケアホルム展時代を超えたミニマリズム
展覧会レビュー
Ⅰ. ORIGINS 木工と工業デザインの出会い
はじめに、ポール・ケアホルムの人物と、デザイナーとしての背景や基本的な考えを紹介しました。ケアホルムは木工家具製作のマイスターの資格を取得することから出発しましたが、コペンハーゲン美術工芸学校でインダストリアルデザインを学び、当時の工業材料にも関心を持ちます。その過程で、スチールを用いた、後の代表作につながるプロトタイプを生み出しました。ここでは、手工芸と工業デザインが融合した《エレメントチェア(PK 25)》や《PK 0》など最初期の重要な仕事や《PK 24》のような代表作を、Relevant Object 所蔵の当時の写真や販売カタログ、雑誌などの資料とともに紹介しました。
ポール・ケアホルムのデザイン哲学を凝縮した第1章の展示風景
Ⅱ. DESIGNS 家具の建築家
本展のメインとなった本章では、ポール・ケアホルムがデザインを手がけた椅子や家具など代表的作品約30点を一堂に展覧しました。制作年代順に展示した椅子やテーブル、キャビネットなど、一つ一つにスポットライトを当てることで、各々を自律した造形として紹介することを試みました。ケアホルムがデンマーク家具の正統を受け継ぎつつも、いかに素材の選定や構造のディテールづくりに挑戦したのかを、織田氏の音声や、スペースプレーヤーを活用した写真投影とあわせて会場構成し、身体的に味わっていただく鑑賞空間を創出しました。また本展は、当館では初めての試みとして出入り口を一つとする回遊型の会場としました。家具を360度から鑑賞していただくことを主眼としたものでしたが、復路においてはポール・ケアホルムが遺した言葉を掲出することで、さらにケアホルム体験を深めていただけるよう演出しました。
ポール・ケアホルムの代表的作品を一望する構成とした第2章の展示風景
Ⅲ. EXPERIENCES 愛され続ける名作
第3章では、ポール・ケアホルムが現代生活や日本建築においてどのように受容されてきたのを示す写真資料や書籍などを展示したほか、デザインを基軸とした北海道東川町の取り組みや、椅子研究家・織田憲嗣氏による椅子のグラフィック画を展示し、ケアホルムを多角的に体験していただく場を創り出しました。
同時開催「名作椅子で味わう ルオー・コレクション」では、ルオー・ギャラリーに本展出品作品の現行品(椅子)に実際に座って体験していただけるコーナーを設けました。絵画鑑賞と椅子体験が有機的に連関した展示空間をお楽しみいただきました。
第3章展示風景
「名作椅子で味わう ルオー・コレクション」展示風景
イベントレポート
開幕記念 特別対談 「ポール・ケアホルム―デザインと建築をめぐって」
- 講師
- 織田憲嗣氏(椅子研究家、東海大学名誉教授、本展学術協力) × 田根剛氏(建築家、本展会場構成)
- 日時
- 2024年6月29日(土) 午後2時~午後3時
- 会場
- パナソニック東京汐留ビル 5階ホール
本展学術協力の織田憲嗣氏と、会場構成の建築家・田根剛氏による対談を実施しました。本展への意気込みや工夫点の話から、デンマークにおける建築やデザイン観など、両者ならではの示唆に富むお話が展開されました。
記念講演会 「ポール・ケアホルムの魅力」
- 講師
- 織田憲嗣氏(椅子研究家、東海大学名誉教授、本展学術協力)
- 聞き手
- 川北裕子(本展担当学芸員)
- 日時
- 2024年7月14日(日) 午後2時~午後3時
- 会場
- パナソニック東京汐留ビル 5階ホール
本展出品のケアホルムの家具についてのエピソードに始まり、北欧デザインや椅子の収集をめぐる織田氏の考え方を伝える貴重な機会となりました。
イブニングトーク「ポール・ケアホルムとデンマークの建築・デザイン」(通訳あり)
- 講師
- マリー=ルイーズ・ホストボ氏(デンマーク建築スペシャリスト)
- 通訳
- 本山亜樹氏(フレーズクレーズ)
- 聞き手
- 川北裕子(本展担当学芸員)
- 日時
- 2024年8月25日(日) 午後4時~午後5時
- 会場
- パナソニック東京汐留ビル 5階ホール
デンマークの建築・デザイン分野のスペシャリスト、マリー=ルイーズ・ホストボさんをお招きし、デンマークの建築・デザインや、デンマークデザインと日本との関わりといったテーマも絡めながら、ポール・ケアホルムの魅力について語っていただきました。