特別企画 和巧絶佳展令和時代の超工芸

展覧会のみどころ

1. 現代美術、デザイン、工芸の枠を超えた新しい日本の美を紹介

映像やデジタル技術を駆使した表現が増加するなか、作家の手により生み出された表現が改めて注目されています。 現代日本における、人が作り出す美をご紹介します。

2. 現代における工芸美を探求する12名の作家による作品

安達大悟、池田晃将、桑田卓郎、坂井直樹、佐合道子、髙橋賢悟、舘鼻則孝、新里明士、橋本千毅、深堀隆介、見附正康、山本茜といった1970年以降に生まれた人気作家の作品が並びます。

3. 出品作品の約3割が新作、初公開 !

9割の出品作家が本展のために新作を制作します。経験を重ねるごとにその技術に磨きがかかっている彼らの一番新しい表現をご覧いただけます。この機会をお見逃しなく !

第1章 
日本の伝統文化の価値を問い直す「和」の美

《 茶垸 》 2015 個人蔵
©2020 Takuro Kuwata

ポップな色彩の作品で海外でも高い評価を得ている桑田。梅華皮*1など伝統的な技法をデフォルメすることで、器の概念を覆す不思議な表情の本作品は、圧巻の存在感である。

桑田卓郎(くわた たくろう)
1981年、広島県に生まれる。2001年に京都嵯峨芸術大学短期大学部美術学科陶芸コース卒業後、陶芸家、財満進氏に師事。2007年に多治見市陶磁器意匠研究所を修了した後は、現代アートやファッションの分野でも活躍中。

Photo by Koho Kotake

《 Heel-less Shoes 》 2014 個人蔵
©2020 NORITAKA TATEHANA K.K.

花魁の高下駄をモチーフにした靴。レディー・ガガが着用したことで世界的に有名になった。革に友禅染*2の技法で伝統的な文様を施し、最先端ファッションとして現出させた好例。

舘鼻則孝(たてはな のりたか)
1985年、東京に生まれる。2010年に東京藝術大学美術学部工芸科染織専攻を卒業。ポートランド日本庭園(アメリカ)で個展を開催。メトロポリタン美術館(アメリカ)やV&A博物館(イギリス)に作品が収蔵される。

Photo by GION

《 四つの桶 》 2009 台湾南投毓繡美術館

深堀の作品はアクリル絵具と透明樹脂*3を用いており、まるで生きているかのような立体的な金魚が人気の理由のひとつであるが、実はこれらは作家のイメージのなかの実在しない金魚なのである。

深堀隆介(ふかほり りゅうすけ)
1973年、愛知県に生まれる。1995年に愛知県立芸術大学美術学部デザイン・工芸専攻学科を卒業。2007年、横浜にアトリエ「金魚養画場」を開設。2018年には平塚市美術館(神奈川)や刈谷市美術館(愛知)で個展「平成しんちう屋」を開催。

©Masaru YAGi

第2章 
手わざの極致に挑む「巧」の美

《 電光十進玉箱 》 2019 個人蔵

自身になじみ深いサブカルチャーの要素を螺鈿*4など漆の伝統技法を用い表現している池田。レーザーを用いて貝を切るなど現代テクノロジーと作家の技術の融合が宇宙的な美しさを生み出している。

池田晃将(いけだ てるまさ)
1987年、千葉県に生まれる。金沢美術工芸大学大学院修士課程を2016年に修了し金沢卯辰山工芸工房へ。2019年に独立し、現代アートの分野でも高い評価を得ている。

《 flower funeral -cattle- 》 2017 個人蔵
撮影:橋本憲一

アルミの現物鋳造*5で制作した小花で動物の頭部を形成し、生と死を表現する髙橋。小さく薄いピースの積み重ねである超絶技巧が光る、尊く美しい作品である。

髙橋賢悟(たかはし けんご)
1982年、鹿児島県に生まれる。2012年に東京藝術大学美術研究科修士課程鋳金研究室を修了し2015年から3年間同研究室の非常勤講師を務める。「驚異の超絶技巧! 明治工芸から現代アートへ」展に選出され作品が全国の美術館を巡回。

撮影:橋本憲一

《 無題 》 2019 オオタファインアーツ
©Masayasu Mitsuke ; Courtesy of Ota Fine Arts

九谷焼*6を構成するひとつ、加賀赤絵*7の大皿。見附は赤絵細描で伝統的に用いられてきた模様ではなく抽象的な文様を自ら作り出し、見事な技術で人知を超えた世界を見せてくれる。

見附正康(みつけ まさやす)
1975年、石川県に生まれる。1997年に九谷焼技術研修所を卒業後、福島武山氏に師事。2007年に工房を構え独立した。金沢21世紀美術館など国内外の美術館でのグループ展に参加。2019年には伝統文化ポーラ賞奨励賞を受賞。

《 截金硝子香合「無我」 》 2016 個人蔵
©T.MINAMOTO

ガラスで截金*8を挟み溶着させる截金ガラス。平面に施されていた截金を、山本が三次元の表現に転化させたことで、繊細な模様が立体的になり、さらに半永久的にその美しさを保てるようになった。

山本茜(やまもと あかね)
1977年、石川県に生まれる。1999年に独学で截金を始め翌年には重要無形文化財「截金」保持者、江里佐代子氏に師事。2001年に京都市立芸術大学美術学部美術科日本画(模写・水墨画)専攻を卒業。2014年に第61回日本伝統工芸展NHK会長賞を、2015年に伝統文化ポーラ賞奨励賞を受賞。

第3章 
工芸素材の美の可能性を探る「絶佳」

《 つながる、とぎれる、くりかえす(部分) 》 2020 作家蔵

絞り染め*9の一種で、折り畳んだ布を板に挟んで染める板締め絞りで制作された作品。安達は「にじみ」を模様に取り入れ、発色豊かな現代のテキスタイルを作り出している。

安達大悟(あだち だいご)
1985年、愛知県に生まれる。2012年に金沢美術工芸大学大学院美術工芸研究科修士課程を修了し金沢卯辰山工芸工房へ。同染工房専門員を経て、現在は東北芸術工科大学美術科テキスタイルコース講師を務める。

《 湯のこもるカタチ 》 2019 作家蔵

直線的な把手が印象的な鉄瓶。錆びた鉄の素材感と余白の美による洗練された形態が美しい。鍛造*10による鉄の新しい表現として、オブジェとしても現代生活になじむ作品である。

坂井直樹(さかい なおき)
1973年、群馬県に生まれる。2003年に東京藝術大学大学院博士課程後期課程鍛金研究室を修了し博士学位を取得。2005年金沢卯辰山工芸工房へ。独立後は金沢21世紀美術館などのグループ展に多数参加。

《 とこしえ 》 2019 作家蔵
写真提供:池田ひらく

有機、無機の相違を成長、成熟の有無と捉えている佐合は、本作でも細かなヒダを張り巡らし、生きているような表情を与えている。鋳込み成形*11を用いながら、繊細な技で自然を再解釈した良品。

佐合道子(さごう みちこ)
1984年、三重県に生まれる。2011年に金沢美術工芸大学大学院美術工芸研究科修士課程を修了。東京国立近代美術館などのグループ展に参加する一方、2012年には「ALFAROMEO I AM GIULIETTA THE DRIVE ART」プロジェクトに参加し、2019年金沢美術工芸大学にて博士号取得。

《 光器 》 2019 Yutaka Kikutake Gallery

蛍手*12の作品で知られる新里の新作。過去作に比べ口径を大きくすることで、上方からの光をより広く受け入れ、繊細な模様が際立つ作品になっている。重力とせめぎ合う技術も見事である。

新里明士(にいさと あきお)
1977年、千葉県に生まれる。2001年に多治見市陶磁器意匠研究所を修了し独立。東京国立近代美術館などのグループ展に多数参加。2011年には文化庁新進芸術家海外派遣研修員制度によりボストンに滞在。

《 花蝶螺鈿蒔絵箱 》 2018 個人蔵

螺鈿*4平文*13による花を散らし、螺鈿と蒔絵を施した蝶を把手として取りつけた円形の箱。上質な貝と確かな技術に裏打ちされた華やかな色彩が見事な逸品である。

橋本千毅(はしもと ちたか)
1972年、東京都に生まれる。1995年に筑波大学芸術専門学群を卒業し、2000年から2年間、東京文化財研究所にて漆工品の修復に携わる。2006年に独立。

和巧絶佳展 用語解説

*1 梅華皮 かいらぎ
陶磁器にみられる粒状になった釉薬の縮れ。茶碗の高台などを荒く削り出したのちに釉を掛けると窯の中で釉が流下し土皺(どしゅう)の間に釉が溜まって、そこだけ釉が厚く掛かった状態になる。焼成後、素地と釉薬の収縮率の違いから激しく貫入が生じて梅華皮となる。
*2 友禅染 ゆうぜんぞめ
江戸時代に現れた多彩な絵文様染、染織工芸。線状にした糊で白い布に模様の輪郭を描き、輪郭線の内側を染料で彩色し、その上を厚く伏せ糊で覆ってから刷毛で地染めを施し、最後に水洗いして糊を落として仕上げる。多彩で華麗な絵模様を描き出すことができる。
*3 アクリル絵具×透明樹脂
器の中に透明な樹脂を流し込み、その表面にアクリル絵具でモティーフを少しずつ部分的に描いていき、さらにその上から樹脂を重ねる、深堀の独創的な手法。その作業を繰り返すことにより、絵が重なり合い、リアルなモティーフが表現される。
*4 螺鈿 らでん
夜光貝やアワビ貝などの真珠質の部分を砥石などで摺り減らして適切な厚さにし、文様に切って木地・漆地の面に貼りつけ、または嵌め込んで研ぎ出す装飾技法。中国唐代に発達し、日本では奈良時代に伝わった。
*5 鋳造 ちゅうぞう
工芸・彫刻の成形技法のひとつ。加熱、溶解等の手段で液状にした素材を型に流し込み、成形する方法。素材が金属の場合には鋳金ともいう。
*6 九谷焼 くたにやき
石川県南部で江戸時代以来焼き継がれている陶磁器の総称。江戸前期の古九谷、江戸後期の再興九谷、明治以降の近代九谷と現代九谷とに分類される。時代や窯ごとに、極めて多様な技法と作風が展開されている。また、近年の研究では、古九谷の産地を佐賀の有田とする説も提唱されるが、これに関しては研究者の間でも主張が分かれている。
*7 赤絵 あかえ
釉薬をかけて焼きあげた陶磁器の表面に、多彩の上絵具で絵や文様を描き、窯にいれて焼き付ける加飾法およびその陶磁器。色絵や錦手とも呼ぶ。名称の由来は、絵具が赤を基調としていることによる。中国では、加彩、五彩などという。
*8 截金 きりかね
金箔、銀箔等を数枚重ね合わせ、細く直線状に切った「細金」を張り付けて優美で鋭い光彩を放つ文様を描き出す技法で、主に仏像や仏画の装飾に用いられていた。飛鳥時代に仏教の伝来とともに伝わり、奈良時代以降、日本独自の技術として発展した。
*9 絞り染め
圧力防染による染の一種。布の一部を縛るなどの方法で圧力をかけ染料が染み込まないようにすることで模様を作り出す模様染めの技法の一つ。文様を染め表す方法としては最も原始的で、古くから世界の各地で広く行われている。
*10 鍛造 たんぞう
工具、金型などを用い、固体材料の一部または全体を圧縮または打撃、および鍛錬を行なって成形すること。溶かした金属を流し込み固める、鋳造による成形方法に比べ、鍛造は余分な空気、ガスが抜けてより丈夫で頑丈強固な金属ができあがる。
*11 鋳込み成形 いこみせいけい
泥しょうを型に流し込んで成形体を得る陶磁器の成形方法。一般には鋳込み型に石膏を用い、石膏の吸水性を利用して泥しょうを脱水固化させる。薄手のもの、多角形な形、彫塑的な複雑な成形を可能とする。
*12 蛍手 ほたるで
透光性のある文様が施された磁器。磁器の素地に透かし彫りの装飾を施し、粘性の高い半透明の釉を掛けて焼成すると、透かし彫りの部分が釉薬で埋められる。この部分に光を通すと、文様が透けて見えるところからの名で、蛍焼と呼ばれることもある。中国において発達した。
*13 平文 ひょうもん
漆器の加飾の一技法。金・銀・錫などの金属の薄板を文様に切って、漆面に貼りつけ、その上から漆を塗って金属板を塗り埋め、金属板の上にかかっている漆を剥ぎ取るか、研ぎ出して金属板の文様を表す方法と、金属板を避けて漆を塗る方法がある。