開館20周年記念展ジョルジュ・ルオー― かたち、色、ハーモニー ―

展覧会レビュー

当館開館20周年を記念して開催したジョルジュ・ルオーの回顧展でした。フランスからは、ジョルジュ・ルオー財団、パリのポンピドゥー・センター/国立近代美術館、そして個人所蔵家のご協力を頂き、また国内の美術館と所蔵家の方々からもご協力を得て、計75点の作品と資料で構成し、国立美術学校時代から最晩年までのルオーの画風の変遷を、彼の代表作とともに辿りました。さらに、自身の芸術を語るのに繰り返し用いたことば「かたち、色、ハーモニー」をキーワードに、ルオーが影響を受けた同時代の芸術や社会の動向、二つの大戦との関係にも触れながら、彼の装飾的な造形の魅力に迫りました。

第Ⅰセクションと第Ⅱセクションでは、ルオーが自身の画風を切り開くにあたって大きな影響を受けた二人の画家、ギュスターヴ・モローとポール・セザンヌを取り上げ、両画家、あるいは彼らの作品とルオーとの接点を掘り下げました。第Ⅲセクションでは、ルオーが生涯繰り返し追求した主題であるサーカスと裁判官に注目。この両主題の作品には、ルオーが描き出した人間の本質、そして彼の装飾的コンポジションの探求を見てとれることを紹介しました。第Ⅳセクションでは、本邦初公開の名品《ホモ・ホミニ・ルプス(人は人にとりて狼なり)》など、二つの世界大戦を経験したルオーが戦時中に制作したり、構想したりした作品を展覧し、ルオーにおける戦争の影響を考察しました。最後の第Ⅴセクションでは、宗教的な風景画や、サーカスの人物を描いた《かわいい魔術使いの女》などの油彩画の名品を展示。ルオーが最晩年にたどり着いた、「かたち、色、ハーモニー」の究極的な表現を検証しました。

会場最後の「ルオー・ギャラリー」では、高精細撮影した2点の絵画《女曲馬師(人形の顔)》(1925年頃)、《エジプトへの逃避》(1952年)を、プロジェクターとモニターに映し出しました。精緻な画像によって作品の細部に迫り、また作品の凹凸感を強調した映像や空間に作品を広く投影することによって、ルオーの絵画の豊かな色彩や絵具の多層性をひもときました。音楽と共に空間全体でルオーの作品を見て、感じていただくような、新たな鑑賞体験の機会を提供することができました。

会場風景

Ⅰ 国立美術学校時代の作品:古典絵画の研究とサロンへの挑戦
At the École des Beaux-Arts: Studying Classical Painting and Challenging the Salon

Ⅱ 裸婦と水浴図:独自のスタイルを追い求めて
Nudes and Bathers: In Pursuit of a Personal Style

Ⅲ サーカスと裁判官:装飾的コンポジションの探求
Circuses and Judges: Experiments in Decorative Composition

Ⅳ 二つの大戦:人間の苦悩と希望
Two World Wars: Human Suffering and Hope

Ⅴ 旅路の果て:装飾的コンポジションへの到達
The End of a Journey: A Singular Style of Decorative Composition

ルオー・ギャラリー

映像「高精細でひもとくルオーの絵画」上映

イベントレポート

記念講演会① 「ルオー ―その生涯と絵画技法」

本展開幕に合わせて来日されたジョルジュ・ルオー財団の理事長ベルトラン・ル・ダンテック氏とその奥様のナタリー・ル・ダンテック氏にご講演いただきました。ベルトラン・ル・ダンテック氏はルオーのひ孫で、また、ご夫妻はお二人とも修復家でいらっしゃいます。家族としての、そして研究者としての視点を交えながらお話いただいたご講演は、ルオー財団の活動紹介から、ルオーの画業と技法の考察、そして火災に見舞われたパリのノートル・ダム寺院などフランスの文化遺産を守り受け継ぐ保存修復の仕事の説明まで多岐にわたりました。ルオーの芸術的遺産を継承し、研究を深めるお二人だからこそのお話は大変貴重で、ルオーの芸術と向き合う新たな見地を示してくれるものでした。

講師
ベルトラン・ル・ダンテック氏(修復家、ジョルジュ・ルオー財団理事長)
ナタリー・ル・ダンテック氏(修復家、国立文化遺産学院・研究室長補)
日時
4月8日(土) 午後2時~午後3時30(逐次通訳付き)
会場
パナソニック東京汐留ビル 5階ホール

記念講演会② 「ジョルジュ・ルオー ―戦争と「聖なる芸術」―」

アンリ・マティスを中心とする近代フランス美術をご専門とされ、マティスや第二次世界大戦期のフランス美術に関して多数のご論文、ご著書を発表されている大久保恭子氏をお招きし、ルオーについて、特に二つの戦争と聖なる芸術に焦点をあててお話をいただきました。モロー教室時代から戦後までのルオーをとりまく美術界の動向と言説を、豊富な資料を映したスライドを用いて、丁寧に解説くださいました。そうした資料を通して、同時代の現象へのルオーの反応や彼の信仰心を読み解くお話は、ルオー作品を理解するための多くの示唆を与えて下さいました。

講師
大久保恭子氏(美術史家、京都橘大学教授)
日時
5月21日(日) 午後2時~午後3時30分
会場
パナソニック東京汐留ビル 5階ホール