ラウル・デュフィ展― 絵画とテキスタイル・デザイン ―

展覧会レビュー

本展は華やかで明るい色彩と軽妙な筆致の作品で、多くの人々を惹きつける画家ラウル・デュフィの絵画と、この画家が1911年から28年まで取り組んだテキスタイル・デザインの関連作品を一堂にご紹介する展覧会でした。

画業の形成期は印象派やフォーヴィスム、セザンヌの影響を受け、表現の革新を続けたデュフィ。彼は1920年前後に、眩い光が溢れる南仏のヴァンスに滞在して制作に没頭します。その過程で光とフォルム、色に開眼し、独自の画風を獲得しました。それは明るい色調とやわらいだ輪郭線を持ち、全体が優しく調和する絵画です。そこには光と活気がみなぎる穏やかな海、リズム感や一体感を感じさせるコンサートホール、着飾る個性的な人物などが描かれ、人生の楽しみと生きる喜びが明朗に歌い上げられています。これらのモダンで優美な絵画16点を第1章として位置づけましたが、このうちの数点はテキスタイル作品との関連を語るため、続く2章から4章までの章立てで展示されました。

1910年にデュフィは詩人のギヨーム・アポリネールの依頼により、『動物詩集またはオルフェウスの行列』への挿絵を木版画で制作しました。そのドラマチックな明暗表現とモダンな構図が高く評価され、その頃随一のファッション・デザイナーであったポール・ポワレと協働して布地の開発を始めます。この活動が契機となり、デュフィはリヨンの絹織物製造業社であるビアンキーニ=フェリエ社と契約し、テキスタイルの図案を提供することになります。薔薇をはじめとする様々な花や葉、蝶など身近な自然を斬新に図案化した布地は、当時、大きな人気を博しました。展覧会では、木版画集からのイメージを踏襲した作品を第2章でご紹介し、植物や虫など自然から着想を得たデザイン原画や布地などを第3章にてお目にかけました。デュフィの花柄を映像化して床面に投影する演出も行い、空間の中の「デュフィ柄」を体感いただく試みも行いました。

一方、ダンスホールの情景やスポーツをする女性といった近代的なテーマが、色鮮やかに布地の上に登場するのもデュフィによる図案の特徴です。都市生活の様子が、明快な色使いと簡潔ながらもストーリー性を感じさせる絵柄にまとめられ、テキスタイルにより新しい地平を開拓したと言えるでしょう。これらは第4章で展示し、デュフィの創造的な才気が満ちた空間となりました。

展示の締めくくりは、舞台「マイ・フェア・レディ」で採用されたデュフィのテキスタイルによるステージ衣装のご紹介でした。この特別展示は写真撮影スポットとして、ご来館の皆様に自由にご撮影頂きました。

第1章「絵画 生きる喜びー陽光、海、そして音楽」展示風景
第2章「モードとの出会い」展示風景
第3章「花々と昆虫」展示風景
第4章「モダニティ」展示風景
特別展示「マイ・フェア・レディ」展示風景

イベントレポート

講演会「ラウル・デュフィ 画業とその魅力」

本展の日本側監修者である美術評論家の木島俊介先生による記念講演会を開催いたしました。デュフィの画業と魅力を知るために故郷ル・アーヴルの紹介から始まり、19世紀のフランス絵画やボードレールの詩文の紹介も交えながら、この画家が我々を魅了する所以をお話くださいました。海辺、光、音楽、青、そして他の画家の作品などデュフィが絵画上で実践した幸福感の構築に寄与した様々な要素を知り、“万能人”デュフィの西洋美術史のなかで特別な存在感を再認識する講演でした。

講師
木島俊介 氏(美術評論家、本展日本側監修者)
日時
2019年10月19日(土)午後2時~午後3時30分
会場
パナソニック東京汐留ビル5階ホール

講演会「デュフィとモード ポール・ポワレとのコラボレーションを中心に」

西洋服飾史、フランス文化論をご専門とし、クチュリエの同時代芸術への影響という観点からフランスのファッション・デザイナーの活動をご研究されるほか、20世紀フランスの画家と服飾やテキスタイルの分野での仕事についてもご考察を深めておられる朝倉三枝先生。デュフィが同時代のクチュリエであるポール・ポワレと協働した仕事を中核に、当時の衣服の流行、外国からの相互影響関係、テキスタイルを手掛けた同時代の画家、18世紀絵画からの影響など、さまざまな視点から多数の図版を用いてお話いただきました。絵画のみならず、テキスタイルや衣服の分野でのデュフィの足跡がいかに大きいものかを学ぶ充実の90分でした。

講師
朝倉三枝 氏(フェリス女学院大学准教授)
日時
2019年11月3日(日・祝)午後2時~午後3時30分
会場
パナソニック東京汐留ビル5階ホール