本展は、14年ぶりとなる19世紀末フランスの象徴主義を代表する巨匠ギュスターヴ・モロー(1826‐1898)の個展でした。女性に焦点をあて、フランス国立ギュスターヴ・モロー美術館の所蔵作品より、洗礼者聖ヨハネの首を所望するサロメをはじめ、傾国の美女たちや魅惑的な妖精、貴婦人や聖女まで、モローが追究した運命を左右する力をもった女性を描いた作品を厳選して一堂に集め、モローの多様な女性像に迫りました。出品作品は、油彩、水彩、素描による69点。それらの作品を「モローが愛した女たち」、「《出現》とサロメ」、「宿命の女たち」、「《一角獣》と純潔の乙女」の4つのセクションで紹介しました。
なかでも、第Iセクションでは、画家の実生活における身近な女性を取り上げ、母や恋人を描いた素描や、彼女たちに関連する作品、資料、写真を展示しました。このように画家の素顔の一端を考察できたのも本展覧会の特徴だったといえます。
第IIセクションでは、名品《出現》(1876年頃)を、準備デッサンやヴァリアント作品とともに展示し、奇想ともいえるそのイメージの生成の背景を鑑賞者の皆様に観て頂くことができました。また、《エウロペの誘拐》(1868年)や《一角獣》(1885年頃)などモロー美術館が誇る名作を通して、彼の幻想絵画に描かれた数々の女性像を紹介しました。
会場最後の「ルオー・ギャラリー」では、モローを生涯の師と仰ぎ、モロー美術館の初代館長でもあったジョルジュ・ルオーの作品を、当館のコレクションより展示しました。師から弟子へと継承された絵画の本質を、実作品を通して感じ取っていただけるこうした展示は、長年ルオーの作品を収集し、研究を進めている当館ならではの意義あるものといえるでしょう。