表現への情熱 カンディンスキー、ルオーと色の冒険者たち

展覧会レビュー

20世紀フランス最大の宗教画家ジョルジュ・ルオー(1871-1958)と、抽象絵画の創始者ヴァシリー・カンディンスキー(1866-1944)。本展は、同時代に活躍しながらこれまでその関連性に注目される機会がなかった二人について、カンディンスキーを中心とするドイツ表現主義とルオーの作品世界が共鳴するさまを探る初の試みとして開催しました。

第1章では「カンディンスキーとルオーの交差点」と題して初期の二人の接点をたどりました。
カンディンスキーは1904年、ルオーが関わっていたパリのサロン・ドートンヌに初めて出品しました。以降同展はじめいくつもの同じ展覧会で二人の作品が見られることになります。ちょうどルオーが色彩とフォルムによる独自の表現を模索していた時期で、そのルオーの色使いに感銘を受けたカンディンスキーは、1910年にはミュンヘンの展覧会にルオーの作品を招きました。その時代の、抽象画になる前のカンディンスキーや、ミュンヘンに送られたとされるルオーなどの貴重な作品をご覧いただきました。

第2章では「色の冒険者たちの共鳴」としてドイツ表現主義とルオーの作品世界が響き合うさまを紹介しました。
ドイツでは、激動する社会への様々な不安を非西欧文化に学んだ新しい表現で描く、ドイツ表現主義が生まれます。「ブリュッケ」と並ぶその重要なグループ「青騎士」を率いたのがカンディンスキーでした。
ドイツ表現主義の画家たちはフォーヴィスムにも大きな影響を受け、中でもルオーは表現技法のみならず、精神性の重視といった点でも近しいものでした。彼らとルオーの作品を合わせて展示し、関心を寄せた対象や表現手法の共通点を探りました。

第3章では「カンディンスキー、クレー、ルオー ―それぞれの飛翔」として、同時代の重要な画家パウル・クレーを加えた、三者三様のその後の展開を見ました。  
クレーとカンディンスキーはバウハウスでの充実した時間を経て、ナチスに追われた亡命先でも制作に力を尽くします。戦後ますます色彩の輝きを増したルオーと共に、色彩のもつ力を信じて同じ冒険の時を過ごしたと言えるでしょう。

本展は宮城県美術館と共同で企画し、同館から多くの重要な作品が出品されました。また、パリのジョルジュ・ルオー財団の協力によってルオー作品約40点が来日し、その他にも多くの美術館等から貴重な作品をご出品いただきました。
また、撮影コーナーでは、パナソニックとNTTコミュニケーションズが開発したカメラシェアリングシステムPaN(パン)を美術館として初めて導入して好評を博しました。

イベントレポート

記念講演会「色彩を生きる ―カンディンスキー、ルオー、クレーの挑戦」

画家が描いている「姿勢」を見比べるという意外性に満ちた導入から、20世紀美術の革新性の本質を色彩の扱いなど解き明かし、クレー作品の生命性への考察にも踏み込んだ講演に、参加者からは絵の見方が変わったという声が多く寄せられました。

講師
後藤文子氏(慶應義塾大学教授)
日時
2017年11月3日 午後2時から午後3時30分

山田五郎アートトーク

当館では7回目となった山田五郎さんによるアートトークでは、カンディンスキーとルオーを<抽象画>と<理想化された風景画>という「見えないもの」を描いた点で共通した画家ととらえ、その原点を探る考察などがとても分かりやすい言葉で語られました。

講師
山田五郎氏(評論家)
日時
2017年11月10日 午後1時30分から午後2時30分