空気の7要素で、見えない体験を創る。
Reboot Space

デザインセンター
デザイナー
小田 一平
ソリューション開発本部
技術開発
岩川 幹生
パナソニック エコシステムズ株式会社
戦略企画
池田 博郎

オフィス、ホテル、学校、病院など、様々な空間において空気の質という概念を生み出し最適なソリューションを提供していくこと。
それがReboot Space(リブートスペース)の設計思想である。空気には、温度・湿度・気流・清浄・除菌・脱臭・香りの7要素がある。それらのテクノロジーを多彩に組み合わせながら空間デザインに溶け込ませることで、体験価値を実感できるスペースをどのように仕上げていくか。
デザインと技術とビジネスが一体となった取り組みを追った。

Well-beingを可視化する、共創する。

暖房、冷房、加湿、除菌など、それぞれの技術を追求するだけでお客様に喜ばれる価値は生み出せない。空気によって心の豊かさを感じられる空間を創り出せないか。このミッションのもと新しい事業を開拓していこう。それには事業、技術、デザインが一体とならなければならない。そのときデザイナーが果たすべき役割とはどんなことだったのだろう。

小田:
空気の新しい価値を創る。ミッションの重要性は誰もがわかっていました。しかし、具体的に何をどう始めていくべきかが見えていなかったのです。デザイナーの強みは形のない想いを可視化できることです。快適さと心の豊かさを両立させる”well-being”を実現する空間として、Reboot Spaceのコンセプトを組み立てていきました。しかし、空気の価値の感じ方は個人によってもシーンによっても異なります。Reboot Spaceはモノとしての完成品ではなく、お客様と一緒に価値を見つけていく共創空間でなければならないと位置付けました。
岩川:
寒いから暖房する。窓が開けられないから清浄する。人がマイナスに感じる環境に対して、装置を使ってリカバーするというのがこれまでの空気の価値に対する一般的なものだったと思います。小田が構想したReboot Spaceとは、快適さの先にある新しい価値を生み出していくことです。技術者としては空間における感性価値を研究してきた成果をReboot Spaceに活かしてみたいと考えました。
池田:
Reboot Spaceの発想を広げていけば、空気の質によってストレスを緩和したり、仕事や学習の効率を上げたり、エンターティメントの臨場感を高めるなど、様々な空間の価値を高めることができます。パナソニックは空気の7要素である温度・湿度・気流・清浄・除菌・脱臭・香り、それぞれの分野で高い技術を持っています。それらを統合して1つのソリューションとして社会に提供できることに可能性を感じました。

テクノロジーの気配を消した空間デザイン

見えない空気の価値をどのように可視化するか。デザインと技術がたどり着いた答えは、すべてのテクノロジーを空間に溶け込ませることだった。例えば、目を閉じたとき他の感覚が研ぎ澄まされ新しい感覚が覚醒するように、空間からテクノロジーの気配を消し去ることで人の五感に働きかける体験が創れるのではないかと考えたのだった。

小田:
「自然感」「集中サポート」「清潔安心」といった空間のコンセプトを組み立てながら、技術とデザインを融合させていきました。例えば、屋内なのに屋外にいるようなリアルな自然感をつくりだすために、スリットの細い吹き出し口から全身を包み込む滑らかでゆらぐ風を送るなど建材とテクノロジーの一体化を目指しています。単なる空間演出ではなく、体感・体験のエビデンスを検証しながら空間を創りあげていくところにReboot Spaceの新しい価値があります。
岩川:
もともとデザイナーの小田は、エンジニアとして研究開発部門に籍を置いていました。それなのでデザインスケッチを描くにしても原理的に不可能な提案はなく、お互いに深いところでコミュニケーションができたと思っています。しかし、空気は目に見えないので理論上は実現可能でも、実際に手を動かし試作空間をつくってみなければ効果を検証できません。工場構内に実験的な空間をつくり、技術、デザイン、マーケティングなど様々な部門の人たちを呼び集め、体験を共有するなかでReboot Spaceの価値そのものを見つけていきました。
池田:
Reboot Spaceは、デザインと技術が自由な発想で進めてきたインキュベーションです。その種がまもなく芽を出しそうだというときにビジネスの観点から開発を急かしてはいけないと考えています。Reboot Spaceは、大輪の花が咲けば空気の7要素だけでなく、音響、映像などあらゆるテクノロジーを組み合わせたwell-beingのプラットホームになります。パナソニックの春日井工場に完成したReboot Spaceの発信拠点にステークホルダーをお招きし、その将来性を肌で感じていただく機会を増やすことがデザインや技術の後方支援につながると考えています。まだ事業化に向けて、エンジニアリング、商流、顧客との関係づくりなど様々な課題がありますが、一丸となって新しいものを生み出せていることに確かな手ごたえを感じています。

プロジェクトの起点として
デザイナーに求められる役割。

Reboot Spaceでは、デザイナーのコンセプトがプロジェクトの起点となった。これまでにない新しい体験や価値観を発見し、生み出していくために期待されるデザイナーの役割とはどのようなものだろう。

池田:
これまでも何度かデザイナーと一緒に仕事を進めてきて感じるのは、色や形の企画をお願いするのではなく、くらしの中での感性や生活スタイル提案を通して将来のビジネスモデルを可視化してくれることへの期待です。私自身としてはデザインや技術の人たちとプロジェクトを進めていく中で、これまで自分の中になかったデザイン発想や技術目線が加わったことが大きな成長でした。
岩川:
技術者志望の学生にReboot Spaceの説明をすると、みんなプロジェクトに興味を持ってくれます。技術的な面白さだけでなく、体験を創るというコンセプトや技術とデザインが一体となって発想を広げていくというスキームが彼らの探究心を刺激するようです。すべてのプロジェクトにおいてデザインが先行すべきとは考えませんが、未知なるものからコンセプトを生み出していくなど、デザイナーの柔軟な発想が必要とされる場面が増えていくのではないでしょうか。
小田:
頭の中に浮かんだイメージを可視化できることがデザイナーの強みです。様々な専門領域の人が参加するプロジェクトでは、それぞれの人の想いやイメージを翻訳して会話を深めていけるHUBになることを心がけてきました。またReboot Spaceにおいても、実際にお客様が感じられたイメージをもとにソリューションの課題を抽出し、新たに提案につなげていくことができるのはデザイナーの職能の1つだと考えています。

テクノロジーは心の豊かさにどのように貢献していけるか。これは、社会全体に突きつけられている課題であると同時に新たな事業を生み出していくフィールドでもある。マインドフルネスを起点としたプロジェクトにおいて、想いを可視化できるデザイナーの役割は大きい。社会に心の豊かさを届けるために、デザインも技術も事業的なしくみやサービスもすべてが一体となった開発体制が、今、求められている。

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