- 活動レポート
ルーキーに聞く #3 ~楢本幹志朗、「日本一厳しい10番争い」への覚悟
中学時代には福岡県代表として全国制覇。東福岡高校では1年冬から公式戦の舞台に立ち、全国選抜大会優勝も経験した。そして筑波大学では、4年間すべての対抗戦で10番として先発出場。2025年度の関東大学プレーヤーオブザイヤーにも輝くなど、世代を代表するスタンドオフとして歩みを重ねてきた楢本幹志朗選手。
そんな楢本選手が次なる挑戦の舞台に選んだのは、埼玉パナソニックワイルドナイツだった。
「簡単にポジションを取れるチームではないからこそ、このチームで10番を掴むことに価値があると思った」と明かす胸の内。ワイルドナイツの10番、そして日本代表の司令塔へ。日本一厳しいとも言われる10番争いに自ら飛び込んだ若き司令塔はいま、何を感じ、何を磨いているのか。その覚悟と現在地を聞いた。

父と兄の背中を追いかけ始まったラグビー人生
――まずはラグビーを始めたきっかけを教えてください。
父がラグビーをしていた影響です。父は福岡大学で藤田先生(藤田雄一郎・東福岡高校監督)と同期で、藤田先生がキャプテン、父が副キャプテンを務めていました。その後、JR九州でも一緒にプレーしていたと聞いています。
小さい頃はJR九州の試合をよく見に行っていましたし、父はずっと憧れの存在でしたね。
また、3つ上の兄が先にラグビーを始めていたこともあり、僕が4歳の時に地元のラグビースクール(草ヶ江ヤングラガーズ)の体験会へ行ったところから、ラグビー人生が始まりました。
――チームメイトのお父さん同士にも縁があるそうですね。
そうなんです。父の福岡大学時代の同期が、谷山隼大さんのお父さん。そして2つか3つ上には、田島貫太郎のお父さんがいたそうです。
だから「まさか子どもたちが同じチームでプレーするとは思わなかった」と父は言っていました。すごく面白い縁だなと思います。
――これまでのポジションの変遷を教えてください。
基本的にはずっとスタンドオフ(10番)です。小さい頃からボールを持って走ることやパス、キックが好きで、常にボールの近くにいたかったので、自然と10番になりました。
東福岡高校では2年生の時にセンター(12番)で出場したこともありますし、高校日本代表ではフルバック(15番)も経験しましたが、ほとんどの時間を10番として過ごしてきました。
――憧れているラグビー選手はいますか?
山沢拓也選手は、人としても選手としても本当に尊敬しています。いま一番近くで接する中で、その努力やセンス、人間性を改めて感じているところです。
また家が近所で小さい頃からお世話になっている高校の先輩、丸山凜太朗選手も憧れです。ずっと可愛がってもらっているので、いつかリーグワンの舞台で対戦できることを楽しみにしています。
――これまでの楢本選手のラグビー歴を振り返ると、輝かしいものです。東福岡高校時代にはここ熊谷で全国選抜大会優勝を経験し、筑波大学では4年間すべての対抗戦で先発出場されています。学生時代、特に印象に残っている試合はありますか?
正直、勝った試合よりも負けた試合の方が印象に残っているんですよね。高校3年生の冬、花園準決勝で東海大大阪仰星高校に敗れて引退した試合や、大学3年時の青山学院大学戦。そして引退試合となった大学4年の大学選手権準々決勝・帝京大学戦。「あの時こうしていたら勝てたのかな」と、今でもふと考えることがあります。決してトラウマというわけではないのですが、今でも思い返す瞬間がありますね。
――逆に、嬉しかった記憶は?
大学4年時の対抗戦で、明治大学や帝京大学に勝てたことです。もちろん“ジャイアントキリング”という結果も嬉しかったですが、それ以上に、その前の準備やプロセスが本当に良かったんですよね。大学3年シーズンの終わり方が苦しかったからこそ、そこからチームを立て直していく過程も含めて、点が線として繋がった感覚がありました。自分にとって、本当に素晴らしい学生生活の締め括りができました。
「日本一厳しい10番争い」への挑戦
――そして筑波大学卒業後に、ワイルドナイツへといらっしゃいました。熊谷にはどのようなイメージを持っていましたか?
「ラグビータウン」です。駅もワイルドナイツ一色ですし、「ラグビーロード」という名前もありますよね。学生時代から、街全体でチームを応援している空気を感じていました。
――なぜワイルドナイツを選んだのでしょうか。
様々なチームから声をかけていただき、正直とても悩みました。ただ、最終的に「日本代表になる」という目標をシンプルに考えた時に、「どこで10番を取れば日本代表になれるか」を一番重視しました。
ワイルドナイツには山沢拓也さん、山沢京平さん、齊藤誉哉さんがいて、日本で一番厳しい10番争いをしているチームです。もちろん、簡単にポジションを取れるチームではないことも理解しています。でも、だからこそ、このチームで10番を掴むことに価値があると思ったんです。覚悟を持って入団を決断しました。
――ご自身の強みと課題を教えてください。
アタックやキックは強みだとコーチ陣からも言っていただいています。ただ、ワイルドナイツはディフェンスが基盤のチームなので、「ディフェンスができるかどうかで出場機会が変わる」と言われています。もちろん自分でも重々承知しています。
――スタンドオフとしてのディフェンス力については、どのように考えていますか?
大学時代は10番を隠すようなシステムでしたが、ワイルドナイツでは15人のうちの1人としてスタンドオフにもディフェンス力が求められます。フランカーのように激しくとはいかなくとも、チームのスタンダードとして求められるレベルには達しなければいけないと感じています。
――まさに新たな挑戦ですね。
そうですね。ここを超えなければ、自分の目標には届かないですよね。逆に言えば、アタックには自信があるので、ディフェンス力が加われば、目標にもっと近づけるとも感じています。
――そのために、現在はどのようなトレーニングを?
青柳勝彦コーチとタックル練習をしています。相手に強く力を伝えるための「姿勢」など、本当に小学生に教えるような基礎中の基礎から学んでいます。
でも、それがすごく新鮮で楽しいんです!山沢さんもまずは姿勢から学んだと聞いて、やっぱり基礎が一番大事なんだなと実感しています。
いまは、自分自身が「ディフェンスに情熱を持てている」と感じます。
――楢本選手は学生時代、常にレギュラーとしてプレーしてきました。同世代の中には早速リーグワンキャップを得た選手もいますが、楢本選手自身は覚悟をもってワイルドナイツの門を叩いた、ということですね。
その通りです。そう簡単に試合には試合に出られないであろう、という覚悟はしていました。でも、だからといってどれだけ試合に出られなくとも、言い訳をしたり、お客さん気分になったりは絶対にしません。毎週のメンバー発表では「なんで俺じゃないんだ」と思っていますし、毎日「俺を使ってくれ」という気持ちを持って練習しています。やっぱりその気持ちをなくしたら、目標から遠ざかってしまうと思うので。
もちろん、他チームで活躍している同世代を見ると悔しい気持ちはあります。でも、「まだ俺が活躍する時じゃない」「いつか見とけよ」とも思っています!

10番に必要なのは、信頼されること
――ワイルドナイツのファーストジャージーを着るために必要なことは何だと考えますか?
やはりディフェンスです。それに加えて、スタンドオフとして自信を持ってチームを指揮できるかどうか、チームメイトから信頼してもらえるかどうかも大切だと思っています。そのためにはワイルドナイツの伝統や文化を自分なりに理解し、落とし込む必要があります。金沢篤ヘッドコーチや、ベリック バーンズ BKコーチとも、たくさん話をしています。
――首脳陣やチームメイトから信頼を得るために、必要なこととは?
日頃から積極的にコミュニケーションを取ることが大切だと感じています。外国人選手、日本人選手関係なく、またコーチ陣とも意見交換を重ねて、ズレをなくしていくことが、結果や信頼に繋がると思っています。
そのためにも、これから英会話にも通いたいと思っているんです。外国人選手と同じチームでプレーするのはワイルドナイツが初めてなので、英語でもしっかり意思疎通できるようになりたいです。
――日頃の練習では、トリスタン ジュベール選手と一緒に個人練習をしている姿をよく見かけます。
トリスタンは唯一のバックス同期なんですよ。10番と12番という関係性でもありますし、彼とは英語でも良いコミュニケーションが取れています。
――レギュラーシーズン中には、アドバイザーのトニー ブラウン氏も指導に駆け付けましたね。バーンズコーチ含め、ワイルドナイツレジェンドたちからどのような学びを得ていますか?
本当に基礎的なことです。「誰にでもできるけれど、見落としがちな基礎」を2人は誰よりも真剣に指摘してくれます。例えば、綺麗にパスで抜くだけではなく、ボールキャリーをしてブレイクダウンを作ること。そういった地道な10番のプレーを、バンジー(バーンズコーチ)は本気で褒めてくれるんです。しかも、すごく熱量を持って。そういう姿を見ていると、「基礎を大切にする文化」がチーム全体の成長に繋がっているんだなと感じます。
尊敬される10番へ
――座右の銘を教えてください。
「実るほど頭を垂れる稲穂かな」です。これから先、様々な経験をしても、ずっと謙虚でいたいです。自分が試合に出る裏には、必ず出られない選手がいます。その選手たちにリスペクトを持ってもらえるような人間性とプレイヤーでありたいです。
――その考え方の原点は?
大学時代、僕が対抗戦でずっと10番をつけていたことで、同期のスタンドオフは出場できませんでした。それでも、その同期は本気で応援してくれたし、本気で指摘もしてくれたんです。その気持ちを絶対に忘れたくないなと思いました。
――直近の目標を教えてください。
まずは試合メンバー23人に入ることです。そのために、フルバックもカバーできるよう準備をしています。
――では最後に、将来の夢を教えてください。
一番大きな目標は、日本代表の10番としてワールドカップに出場することです。そして、ワイルドナイツの10番として優勝することも、同じくらい大きな夢です。
さらに言えば、世界中の誰からも尊敬される人になりたいなと思っています。他競技で言えば、恐れ多いですが大谷翔平選手のような人をイメージします。ワイルドナイツでは稲垣啓太選手や坂手淳史選手のように、人として尊敬されるアスリートになりたいです。
そう、準決勝クボタスピアーズ船橋・東京ベイ戦の前の坂手さんは、特にすごかったですよ。多くは語らずとも、チームに伝えるべき重要なポイントを絞って話してくれて。そして「勝つための」力強いメッセージをくれます。「戦うために、勝つためにはこれだ」という明確で力強い言葉をチームに与えてくれる姿に、心が奮い立ちました。

(&rugby/原田友莉子)



