健康経営
2022.08.31
HRテックの市場規模とは? 規模拡大の理由や今後の動向を詳しく解説
HRテックは、人事業務の課題解決や効率化を図るテクノロジーおよびサービスです。近年、耳にする機会が増えた造語ですが、実際にHRテックの市場規模は伸びています。どのような理由により、HRテック市場は成長しているのでしょうか。
この記事では、HRテックの市場規模や成長理由を詳しく解説します。HRテック市場に含まれるシステムやサービス、今後の動向に影響する最新トレンドも紹介しますのでぜひご覧ください。
HRテックの市場規模
2021年6月に株式会社シード・プランニングが発表したレポート(※1)によると、2020年のHRテック市場は1,381億円に達しています。前年比115%の成長率であり、堅調な拡大となりました。
市場が大幅に拡大しなかった要因を、同社は新型コロナウイルス感染症の影響と分析しています。2020年は求人需要が低下し、求人採用に関するHRテックの需要自体も停滞しました。実際、厚生労働省は、2020年度の有効求人倍率は前年度から0.42ポイントも低下したと公表(※2)しています。しかし、人事労務管理のDX化を進める動きが求人採用領域の停滞をカバーし、結果的に市場は堅調に推移しました。
また、シード・プランニング社は2025年までのHRテック市場規模も予測しています。2022年の市場規模は2,068億円に伸び、2025年は3,278億円まで成長するとまとめました。働き方の多様化などの複合的な理由を根拠に、今後もHRテックの需要増が見込まれています。
※1 出典:株式会社シード・プランニング「HRテクノロジーの現状と将来展望 2021年版
※2 出典:厚生労働省「一般職業紹介状況(令和2年12月分及び令和2年分)について」
HRテックの市場規模が拡大している理由
HRテックの市場規模が伸びている理由は、以下4つに分けられます。
- 1.クラウドサービスおよびSaaSの浸透
- 2.デバイスの多様化
- 3.労働力人口減少の影響
- 4.高度な人事戦略の実現
具体的に説明します。
1.クラウドサービスおよびSaaSの浸透
クラウドサービスの普及は、HRテックの市場拡大に貢献しています。近年、クラウドコンピューティング技術が向上し、クラウド型のHRテックサービスを導入する企業が増えました。クラウドサービスの中でも一般的に利用されているのが、SaaSでしょう。SaaSとは、クラウドサーバー上で稼働するソフトウェアを利用するサービスです。
従来は、自社サーバーでシステムを保守・運用するオンプレミスサービスが主流でした。オンプレミスは企業の管理負担が大きく、費用も高い傾向があります。導入ハードルが高いため、オンプレミス型システムの採用は簡単ではありませんでした。現在は導入・運用しやすく、低コストなクラウドサービスおよびSaaSが企業に浸透し、HRテックの需要を後押ししています。
2.デバイスの多様化
デバイスの多様化も、HRテック市場に関わっています。スマートフォンやタブレットが普及し、PCの他にビジネス利用できる端末が増えました。前述のクラウドサービスの増加も相まって、現代はさまざまなデバイスで使える利便性の高いHRテックサービスが多数提供されています。
たとえば、コラボレーションツールを使えばリアルタイムな情報共有が可能です。社員1人ひとりのスマートフォンに経費精算アプリを導入することで、経費申請から承認までどこにいても行えます。
旧来のソフトウェアはPC利用が前提であり、担当者がまとめて手入力する方法が一般的でした。デバイスの多様化によって正確かつ迅速に情報共有できるため、HRテックを導入する企業が増えています。
3.労働力人口減少の影響
労働力人口(15歳以上人口のうち、就業者と完全失業者を合わせた人口)の減少は、HRテック市場に間接的に影響を与えています。まず、総務省の発表(※3)によると2021年の平均労働力人口は、前年から8万人減少した6,860万人でした。2年連続で減っており、労働力人口の減少は事実です。
働き手が減り、さまざまな業種で人材不足が叫ばれています。少ない人材の中から優秀な人物を獲得するためには、採用人事の効率化が必要です。解決策として「オンライン面接ツール」や「採用管理システム」など、採用分野のHRテック導入が進んでいます。
また、減少が予想される人的リソースで企業間競争を勝ち抜くには、企業全体の生産性向上が欠かせません。作業の自動化や改善の実現には、HRテックが不可欠と言えます。
4.高度な人事戦略の実現
HRテックは、高度な人事戦略への活用が期待されます。機械学習およびAIが発展し、ビッグデータの集積・解析が進みました。データにもとづく公平で適切な人事評価や異動により、従業員が抱く企業への信頼感や意欲を示す「従業員エンゲージメント」の向上に効果が見込めます。
人事戦略に役立つHRテックの一例が、「タレントマネジメントシステム」です。社員ごとのスキルや経験の一元管理により、適切なポジション異動や人材教育を判断できるでしょう。離職率の低下に繋がるため、HRテックを使った従業員エンゲージメントの管理は重要です。
その他、テレワークなどの柔軟な働き方への対応も、従業員エンゲージメント向上になるでしょう。多様かつ最適な人事戦略の実現に、HRテックは大きな役割を担います。
※3 出典:総務省統計局「労働力調査(基本集計)2021年(令和3年)平均結果」
HRテックのカテゴリー①|採用の質を高めるシステム・サービス
HRテック市場は、多くの領域から成り立ちます。まずは、採用の質を高めるシステム・サービスの例からご覧ください。
主なシステム・サービス名 | 特徴 |
---|---|
採用管理システム | 採用活動のデータを一元管理する。システムに業務を集約し、求人媒体との連携も可能 |
ウェブ面接ツール | 求職者とオンライン上で面接を行う。Web面接の特化型か一般的なWeb会議ツールを用いる |
ダイレクトリクルーティングサービス | 企業から転職希望者へアプローチする。サービスの登録ユーザーを検索、または自動マッチングで人材を探す |
ビジネスSNS | 実名登録・基本無料のビジネス特化SNS。優秀な人材のヘッドハンティングの場として活用 |
役割や導入効果
採用の質を高めるHRテックを使うと、採用活動の効率化を図れるでしょう。採用管理システムは求職者や選考状況、内定者の情報を一覧化し、システム上から連絡も行えます。Web面接ツールはオンライン上で面接を実施できるので、求職者・面接官ともに手間がかかりません。
また、ダイレクトリクルーティングサービスやビジネスSNSの活用により、企業は優秀な人材を能動的に確保できます。潜在転職者へのアプローチが可能になるため、応募を待たずに自社が求める人材を探し出せるでしょう。
HRテックのカテゴリー②|強い組織づくりに役立つシステム・サービス
労働人口が減る中、企業に求められるのは競争力を失わないための組織づくりです。強い組織づくりに役立つHRテックのシステム・サービスは、次の一覧表をご確認ください。
主なシステム・サービス名 | 特徴 |
---|---|
タレントマネジメントシステム | 社員のスキルや資質、目標などの人材データベースを一元管理。人材配置や育成に活用 |
コミュニケーションツール | 定型文の挨拶が不要なチャット形式で素早く情報伝達する。ファイル共有、ビデオ会議などの機能有り |
グループウェア | 情報共有に関する機能を集約させたツール。主な機能はコミュニケーション、スケジュール・タスク管理、プロジェクト管理、ワークフローなど |
オンボーディングサポートツール | 入社者の情報を管理し、組織にスムーズに適応できるようサポートする。必要に応じた研修・教育内容の設定に活用 |
学習管理システム(LMS) | 社員ごとのeラーニングや研修といった学習状況を一元管理。進捗、成績、教材を確認し、適切なカリキュラムを組む |
役割や導入効果
タレントマネジメントシステムやオンボーディングサポートツールは、従業員エンゲージメントの向上に役立ちます。社員1人ひとりのスキルや経験に加えて「何に悩んでいるのか」も把握できるため、適切な人材育成や人事異動が可能です。社員定着をサポートし、離職率の低下に貢献するでしょう。学習管理システムと合わせれば、人材育成の状況を可視化できます。
グループウェアは、コミュニケーション機能に加え、プロジェクト管理やワークフローも集約したプラットフォームです。ツールの切り替えが最小限になり、リアルタイムな情報共有によって作業効率の改善が図れます。
HRテックのカテゴリー③|会計・労務管理を効率化するシステム・サービス
会計・労務管理は扱うデータ量が多く、ミスに繋がる手入力が増えがちな業務と言えます。できる限り作業をシステム化し、正確で効率的な管理を実現したいところです。会計・労務管理を効率化するシステム・サービスの具体例は、以下になります。
主なシステム・サービス名 | 特徴 |
---|---|
勤怠管理システム | 社員の労働時間を管理する。出退勤時刻の管理・自動計算、シフト作成、有給や残業の申請などの機能有り |
給与計算システム | 社員の給与を自動計算する。勤怠データと連携し、各種保険料や税金の控除も含めて給与明細を生成 |
労務管理システム | 社員の労務状況を管理する。主に雇用契約書の作成・管理、社会保険の書類作成・申請、マイナンバー管理を行う |
会計システム | 会計業務を一元管理。決算書作成に用いる「財務会計」、社内向けの「管理会計」、債務状況をまとめる「債務・支払管理」の各システム有り |
役割や導入効果
会計や労務管理業務にHRテックを導入すると、ミスが生じるリスクを減らせます。機械に比べ、人間による手作業は打ち間違いや勘違いが起きる可能性が高いです。HRテックを活用することで1つひとつ確認して入力する手間が不要になり、業務効率の改善になるでしょう。
また、多くの労務管理・勤怠管理・給与計算システムは連携できます。システム上で各データを取り込んで反映するため、勤怠や給与計算を含めた円滑な労務管理業務を行えます。労務管理をクラウド化すればテレワーク導入も可能になり、多様な働き方を実現できるでしょう。
HRテックのカテゴリー④|従業員の健康を支えるシステム・サービス
企業が行うべき施策の1つが、従業員の健康管理です。中でも、健康診断の実施は労働安全衛生法の第66条により義務化されています。健康診断の記録保管や、医師の判断に応じた勤務状況の変更も必要です。さらに、50人以上の従業員がいる企業は、ストレスチェックの実施も義務です。従業員の健康管理を効率良く行うには、以下のHRテックの導入を検討しましょう。
主なシステム・サービス名 | 特徴 |
---|---|
健康管理システム | 社員の健康診断記録を管理する。保健指導の履歴管理や、産業医とのオンライン面談が可能。 |
健康診断の予約システム | 社員の健康診断予約を一括管理。社内向けの予約サイトを作成し、社員は私用端末からアクセス・予約する |
ストレスチェックサービス | 厚生労働省推奨の「職業性ストレス簡易調査」に沿ったストレスチェックを実施。高ストレス者へのオンライン医師面談を手配できる |
役割や導入効果
健康診断と記録管理は義務ですので、どれほど従業員が増えようと簡略化できません。HRテックを導入すれば、システム上で健康診断の予約から面談実施まで行えるため、業務負担を減らせます。また、従業員の健康状態が可視化され、悪化前に改善促進が可能です。
社内で完結するストレスチェックの場合、社内の人間に回答を見られるのが嫌で素直に答えられない人もいるでしょう。外部のストレスチェックサービスであれば本当の回答を引き出しやすくなり、高ストレスによる休職・離職を予防できます。
今後のHRテック市場の動向は? 影響が予測されるトレンド
HRテック市場は、今後も拡大すると予想されています。市場成長を促すと考えられるトレンドは、次の4つです。
- 1.テレワークのさらなる普及
- 2.人事・労務管理のシステム化
- 3.AIとビッグデータ利用の活発化
- 4.通年採用の本格化
HRテックとの関連を解説します。
1.テレワークのさらなる普及
今後さらにテレワークが普及すれば、比例してHRテック市場の成長も見込まれます。内閣府の発表(※4)によれば、2022年6月時点のテレワーク実施率は全国で30.6%を超えました。2019年12月時点の10.3%から約3倍に伸びており、比例してコミュニケーションツールなどのHRテック利用も拡大しています。
さらに、政府は今後もテレワーク推進に取り組む予定です。総務省や厚生労働省といった関係省庁が連携し、テレワーク導入のノウハウ支援や導入補助に取り組むとしています。現在よりもテレワークの導入が進めば、HRテックの需要も高まるでしょう。
2.人事・労務管理のシステム化
人事・労務管理業務のシステム化は、今後も進むと考えられます。すでに勤怠管理や給与計算など、一部の労務管理をシステム化している企業は珍しくありません。さらに導入が進むと予測されるのが、RPA(Robotic Process Automation)です。
RPAとは、日常的に繰り返す事務作業を自動化する仕組みを指します。RPAは定型的な作業であれば、複数のシステムを横断して実行可能です。事務作業が多い人事・労務管理に導入することで、業務効率の改善や担当者の負担軽減を実現できるでしょう。
システム化により空いたリソースは、組織のコア業務に割り振れます。コア業務の強化は企業競争力のアップに繋がるため、比較的システム化しやすい人事・労務管理業務のHRテック導入は進むと予想できます。
3.AIとビッグデータ利用の活発化
客観的なデータによる採用活動や人事業務の必要性が増せば、AI・ビッグデータに注目が集まるでしょう。AI・ビッグデータの活用にはITシステムが不可欠であるため、HRテックを導入する企業が増えると思われます。
AI利用が期待される人事業務の一例が、社員教育への活用です。社員の適正や学習状況をAIが分析し、最適な教育・研修を提案します。教育機関ではすでにAIが取り入れられているため、いずれは企業の社員教育へも活用が広がるのではないでしょうか。
さらに、AIによる退職予測の研究も進んでいます。「退職すると周りの人間の離職リスクも上がる影響力が強い人物」を可視化する研究で、優先的に対応すべき人物がわかります。AIとビッグデータによる採用・人事の必要性が高まれば、HRテック市場は今度も成長するでしょう。
4.通年採用の本格化
通年採用が本格化すれば、HRテックの導入を進める企業は増えると予想できます。経団連(日本経済団体連合会)は、新卒一括採用のルール「採用選考に関する指針」の廃止を決定しました。政府は2023年卒の学生についてはこれまでのルールを遵守した採用活動を要請していますが、将来的には通年採用が本格化するかもしれません。
新卒一括採用は、同時期に採用活動をまとめられます。一方の通年採用は日程がばらばらになるため、採用業務が煩雑化する可能性が高いです。採用業務を効率的に管理するべく、多くの企業で「採用管理システム」などのHRテックの需要が増すでしょう。
※4 出典:内閣府「第5回新型コロナウイルス感染症の影響下における生活意識・行動の変化に関する調査」
世界のHRテック市場規模も成長している
日本国内のHRテック市場は成長していますが、世界の市場規模も拡大しています。LAROCQUE社の資料(※5)によると、HRテックの世界市場において、投資額は2020年第3四半期に16億4,800万米ドルに到達しました。同年の第1・第2四半期の合計に匹敵する数値であり、急激な成長の背景には新型コロナウイルス感染症の影響があると分析しています。
日本を含む世界16ヶ国の中で、もっとも投資件数が多いのはアメリカです。次いでヨーロッパ諸国が続いており、HRテック市場はアメリカとヨーロッパを中心に伸びています。日本の投資件数はまだ少なく、HRテック市場はこれから本格的に成長すると思われます。
※5 出典:LAROCQUE, LLC「Q3 2020 HR Tech Global VC Update」
今後も拡大が期待されるHRテックの市場規模に注目
HRテックは、クラウドサービスの浸透や労働人口の減少によって需要が伸びている分野です。
市場規模は2020年に1,381億円に達し、将来的にも拡大が予測できます。理由として、テレワークやDX化の普及、通年採用の本格化などのトレンドが挙げられます。海外もアメリカを中心として需要が拡大しており、今後の成長が見逃せない市場と言えるでしょう。
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