ベル・エポック―美しき時代パリに集った芸術家たちワイズマン&マイケル コレクションを中心に

展覧会レビュー

本展では、パリが芸術的に最も華やいだ時代「ベル・エポック期」を中心に、美術、工芸、舞台、音楽、文学、モード、科学といったさまざまなジャンルで花開いた文化のありようを重層的に紹介しました。出品作品は、デイヴィッド・E.ワイズマン氏とジャクリーヌ・E.マイケル氏の、本邦初公開の絵画コレクションを中心に、国内の作品も加えた約250点の作品から構成されました。会場はテーマごとに4章に区切られ、それぞれ壁の色を変えるなど、テーマや作品の雰囲気に合った空間に設えました。また、会場前のロビー映像コーナーでは、展覧会の内容を補足する約13分程の映像「ベル・エポック―美しき時代―」を上映し、展覧会の導入としてお楽しみいただきました。

美術館へのアプローチ
会場入口

第1章 古き良き時代のパリ ―街と人々

ベル・エポック期のパリの暮らしを伝える絵画作品のほか、女性や子どもたちが身に纏った服飾作品や、当時のファッション情報誌、自宅を飾ったマイセンやアール・ヌーヴォーの工芸作品などを取り上げました。一方で、豊かな社会の影で生きる人々を見つめた芸術家たちの作品も紹介しました。また、当時のパリ市内の様子を伝える映像を、エリック・サティの音楽と共にプロジェクターで上映しました。

第1章「古き良き時代のパリ ―街と人々」の展示風景

第2章 総合芸術が開花するパリ

モンマルトルで栄えた新興のキャバレーやダンスホール、カフェ・コンセールといった娯楽文化を紹介しました。ロートレックやシェレ、スタンランによるグラフィック作品とともに、芸術家たちの相互交流がうかがえる作品を紹介しました。また、当時のモンマルトルの様子を伝える映像を、ジャック・オッフェンバックの音楽とともに上映し、文芸キャバレー「シャ・ノワール」を紹介するコーナーでは、同キャバレーにて上演された影絵芝居の再現映像を会場内にプロジェクターで投影しました。また、当時の文学者の書斎をイメージした空間を演出したり、文学者と芸術家が協同で制作した限定出版の豪華本を、詩の朗読や音楽とあわせて紹介したり、ベル・エポック期の雰囲気を体感していただける空間となりました。

第2章「総合芸術が開花するパリ」の展示風景

第3章 華麗なるエンターテイメント 劇場の誘惑

当時、モンマルトルで親しまれた演劇やダンス、サーカス等のエンターテイメントの数々を紹介しました。舞台上で芝居をする俳優や、観客などを描いた絵画作品の他、革新的な演劇を積極的に紹介していたテアトル・リーブル(自由劇場)の上演目録の表紙として、ナビ派の画家イベルスが挿絵を描いた作品も多数紹介しました。また、アメリカ人ダンサーのロイ・フラーを描いた作品や、当時、キャバレー「シャ・ノワール」に実際に飾られていたものと同作品のシェレの4枚組のリトグラフ《パントマイム》《コメディー》《ダンス》《音楽》といった貴重な作品も並びました。本章は、1点を除き、撮影可能コーナーとして、お客様による撮影もお楽しみいただきました。

第3章「華麗なるエンターテイメント 劇場の誘惑」の展示風景

第4章 女性たちが活躍する時代へ

当時人気を博した女優サラ・ベルナールや、先駆的な女流画家シュザンヌ・ヴァラドン、1903年にノーベル賞を受賞した物理学者のマリー・キュリーといった女性たちを中心に紹介しました。なかでも、アルフォンス・ミュシャがデザインし、ルネ・ラリックが制作、サラ・ベルナールが実際に着用した舞台用冠『ユリ』は、多くの鑑賞者の目をひきました。会場では、女性の社会進出が顕著となったアール・デコ期の女性のファッションや、アクセサリーの数々も並び、会場を華やかに彩りました。また、エリック・サティが作曲した楽譜に、シャルル・マルタンが挿絵を描いた『スポーツと気晴らし』は、挿絵をスライドショーに編集した映像を、サティの音楽とともに会場内モニターにて上映しました。

第4章「女性たちが活躍する時代へ」の展示風景

ルオー・ギャラリー 「ベル・エポック―美しき時代」のルオー

本展には、当館が所蔵しているジョルジュ・ルオーと、オディロン・ルドンの作品も出品されましたが、それらは、当館内「ルオー・ギャラリー」にて一堂に展示しました。ボードレールの詩集『悪の華』を題材にした版画作品や、サーカスの芸人の舞台裏の姿を描いた油彩画など、ベル・エポック期のパリの、華やかな都市文化ではなく、そこから生じる影の部分に目を向けたルオーの作品をご覧いただきました。

ルオー・ギャラリーの展示風景

ミュージアムショップ

ミュージアムショップでは、展覧会図録のほか、出品作品のマグネットやポストカード、クリアファイルなどが並び、展覧会の思い出に、お買い物をお楽しみいただきました。とりわけ、出品作品に登場する黒猫に関連したグッズが人気でした。

展覧会図録
オリジナルグッズ「マグネット」

イベントレポート

講演会「映画を展覧会に-ベル・エポック展の舞台裏」

ミッシェル・オスロ監督による、アニメーション映画『ディリリとパリの時間旅行』(2018年)をきっかけに、展覧会がどのように形作られていったのかを、本展の見どころを交えながらお話しいただきました。来場者は、普段なかなか耳にすることのない、展覧会制作の舞台裏について知る、貴重な機会となりました。

講師
福冨 幸 氏(本展国内監修者:岡山県立美術館副管理者・学芸課長)
日時
11月2日(土) 午後2時~午後3時30分
会場
パナソニック東京汐留ビル 5階ホール
講演会の様子。会場には、133人の聴衆が集いました。