テルマエ展 お風呂でつながる古代ローマと日本

展覧会レビュー

古代ローマの人々の生活と文化について、「お風呂文化」を中心に紹介する展覧会でした。古代ローマは、人類史上に輝く繁栄を誇った古代国家です。その豊かなくらしと優れた建築技術を象徴するもののひとつにテルマエ(公共浴場)があります。ヤマザキマリ氏の漫画『テルマエ・ロマエ』は、テルマエへの日本人の親近感を一層高めました。本展は、ナポリ国立考古学博物館所蔵の美術品と考古資料などを含む100件以上の絵画、彫刻、資料、映像、模型を通して、テルマエというユニークな視点で、古代ローマ人の豊かな文化とくらし、そして彼らの高い美意識に迫るものでした。また、最終章では、独自の風土のなかで育まれた日本の入浴文化もとりあげ、入浴に関する美術品や資料を通して、地域性にも着目しながら、国内のお風呂文化の歴史を概観しました。

古代ローマ研究の第一人者である青柳正規氏、芳賀京子氏の監修のもと、ヤマザキマリ氏の協力によって実現された本展覧会。『テルマエ・ロマエ』の主人公ルシウスが浴場を通して日本とローマを往復したように、それぞれの入浴文化を比較し、体感することのできる機会となったことと思います。

美術館へのアプローチ
会場入口

序章 テルマエ/古代都市ローマと公共浴場 Thermae — Ancient city of Rome and public bathing

序章では、展覧会の導入として、テルマエの言葉の定義や、ローマ市内での公共浴場の発展の歴史を確認しつつ、テルマエについて紹介しました。会場では、今も遺構の残る大規模なテルマエ「カラカラ浴場」を建設したカラカラ帝の顔貌を写した3世紀の肖像彫刻が鑑賞者を出迎えました。

序章「テルマエ/古代都市ローマと公共浴場」の展示風景

第1章 古代ローマ都市のくらし Life in ancient Roman cities

ローマをはじめとした大都市では、政府高官、貴族、商人、職人、労働者、奴隷たちなど多様な地位や職業の人々がひしめくようにくらしていました。都市では、庶民は、毎日の仕事のあとのテルマエでのひと時と、特別な日の見世物でくらしを彩り、一方で富裕な者たちは、家で豪華な饗宴を繰り広げました。そんな古代ローマの人々のくらしを伝える硬貨やフレスコ画や彫刻、そして食卓を飾った食器などのガラス工芸品や陶器等が一堂に会しました。

第1章「古代ローマ都市のくらし」の展示風景

第2章 古代ローマの浴場 Baths in ancient Rome

テルマエは単なる体を洗う場所ではなく、身体を動かし、汗を流し、多くの人と交流して、心身の健康を保つための場所でした。本章では、こうした複合施設の性格をもつテルマエで、人々が使用したであろう香油壺やストリギリス(肌かき器)などの入浴道具を展示しました。また、請願成就の奉納浮彫やアポロ像などの貴重な出土彫刻を通じて、信仰とむすびついた古代ローマの入浴施設の有り様を紹介しました。さらに、当時の美意識が反映された女性たちの装いや、テルマエを支えた高度な建築技術や水道技術にも着目しました。

第2章「古代ローマの浴場」の展示風景

第3章 テルマエと美術 Thermae and art

テルマエは、大衆が美術品を間近に見ることのできる場でもありました。床には水に強いモザイクが好まれ、壁面には数多くの大理石彫刻も飾られました。テルマエと美術の関係に注目した第3章では、ヘラクレスの小像やポンペイで出土されたヴィーナス像など、テルマエと所縁のある神々の彫像やモザイク画が会場を彩りました。また、古代ローマのテルマエを想像復元したCG映像を上映し、まるで美術館のような、美術品に溢れた壮麗なテルマエの内部空間を紹介しました。

第3章 「テルマエと美術」の展示風景

第4章 日本の入浴文化 Japan's bathing culture

本章では、日本の入浴に関する絵画、錦絵、和本、民俗資料、模型などを一堂に展示しました。箱根の温泉や、東京に今なお多く残る銭湯にまつわる資料も紹介し、また家庭内の内風呂の発展も映像でたどりました。私たちが親しむ入浴の奥深いルーツや歴史を垣間見るセクションとなりました。

第4章 「日本の入浴文化」の展示風景
ヤマザキマリ氏の漫画『テルマエ・ロマエ』の主人公ルシウスが案内人としてパネル等に登場

イベントレポート

「ヤマザキマリ氏×青柳正規氏」トークショー

日時
4月6日(土) 午後2時~午後3時30分
講師
ヤマザキマリ氏(漫画家、文筆家、画家)
青柳正規氏(本展監修者、山梨県立美術館館長)

本展を監修いただいた青柳正規氏と、本展にご協力をいただいた漫画家のヤマザキマリ氏に対談をしていただきました。お二人が古代ローマの旧支配地域で目にされた様々な浴場遺跡の有り様から、古代ローマにおける公共浴場の意味、そして古代ローマと日本の共通性、はては漫画『テルマエ・ロマエ』の誕生秘話まで、内容は非常に多岐にわたりました。豊富な経験と知識をお持ちのお二人ならではトークに、1時間30分という時間があっという間に過ぎていきました。

記念講演会 「テルマエと美術」

日時
5月11日(土) 午後2時~午後3時30分
講師
芳賀京子氏(本展監修者、東京大学大学院教授)

「テルマエ展」の監修者の芳賀京子氏をお招きし、「テルマエと美術」と題してお話いただきました。テルマエそのものから、テルマエと関連するギリシア・ローマの美術まで、貴重な画像や情報をスライドで紹介いただきながら、ご解説いただきました。展覧会のより深い理解と古代ローマの世界へのさらなる関心へと導かれるご講演でした。