キース・ヴァン・ドンゲン展―フォーヴィスムからレザネフォル

展覧会レビュー

美術館へのアプローチ

オランダで生まれ、フランスで活躍した画家キース・ヴァン・ドンゲンの日本での44年ぶりの単独個展として開催された本展は、フランスの美術史家マイテ・ヴァレス=ブレッド氏(元ポール・ヴァレリー美術館館長、国家遺産主任学芸員)の監修のもと、当館とNHKプロモーションの協働により実現しました。

展覧会の趣旨は、ロッテルダムの美術アカデミーを経てパリで活動を始めたヴァン・ドンゲンがその地でフォーヴィスムの画家へと成長する過程を紹介し、第一次世界大戦までの時期に取り組んだ色彩と形態、人物描写の研究を通じて獲得した独創的な表現をご覧に入れ、さらに大戦終結後の狂騒の20年代(レザネフォル)における人気絶頂期の作品展開を幅広く展観するものでした。

第1章 新印象派からフォーヴィスムへ

20世紀初頭、パリに出て間もない頃のヴァン・ドンゲンが新聞や雑誌に提供した挿絵原画の展示に始まり、新印象派を経てフォーヴィスムの運動に身を投じた時期の祝祭的情景や母子像、また裸婦などの人物主題の絵画作品を時系列でご紹介しました。《ムーラン・ルージュまたは遊歩回廊》や《母と子》など、若き画家が前衛芸術の中心地にて、さまざまな刺激を受けながら画家自身の絵画表現を獲得していく礎となる重要な時期の作品を通じて、筆致や色使い、画面構成の手法の変遷をみつめることができました。

展覧会エントランスのアーチから本展冒頭の展示室内を見る
フォーヴィスム時代とフォーヴィスムが収束する頃の作品を紹介した第1章後半部分

第2章 フォーヴィスムの余波

本章では装飾的な背景、あるいは強い電灯のあかりに浮かび上がる印象的な女性像の展示から、画家として次第にパリ画壇で認知される存在となり一層独自の絵画表現を追求した時代である1910年代の作品をご覧いただきました。その頃、スペイン、モロッコ、そしてエジプトを旅することで、作品上の光の表現のしかた、色彩の明度、そして人物の形態に変化がもたらされたその様子もよく確認することができる作例が並びました。1912年に新しく構えた、広いアトリエや作品展示スペースを備えた自宅での制作の様子が窺える10年代の代表的作品《楽しみ》や《アトリエ》も本章に展示されました。

地中海方面の国々への旅を経て、形態と色彩に変化が生じる1910年前後の作品を紹介した第2章
この章立てで《楽しみ》と《アトリエ》が展示された。壁面は印象的な臙脂色で、装飾用カーテンも施された

第3章 レザネフォル

パリにおける1920年代、文化が爛熟し祝祭的雰囲気に満ちたレザネフォルと言われる時代に、画家の名声は頂点に達しました。当時注文が相次いだ上流階級婦人の肖像画、リゾート地やヴェネツィアでの人物のいる情景や社交シーン、そして都市の風景などをヴァン・ドンゲンならではの研ぎ澄まされたデリケートな色彩と、特徴的なマチエールで表現した絵画が展示されました。また、油彩画のみならず、物語への挿絵や保養地の広報のために依頼された版画なども、拡大図版の投影と共にお目にかけました。
大型絵画《女曲馬師(または エドメ・デイヴィス嬢)》は、レザネフォルという時代、そしてその頃流行した女性の装い「ギャルソンヌ・スタイル」を象徴するような作品として、多くの来館者の注目を集めました。

第3章入り口から奥の大型作品《女曲馬師(または エドメ・デイヴィス嬢)》を見る
第3章では保養地の情景や華やかな女性肖像画、また30年代以降の作品など多様な作品をご紹介した

イベントレポート

担当学芸員によるスライドトーク「展覧会のツボ

美術館上階のホールにてリアル開催。当館での展示風景写真を利用しながら、展覧会の章立てをたどる形式で作品の見どころや、鑑賞に役立つエピソードなどを担当学芸員がご紹介しました。会場では、客席間の十分な間隔確保や会場の換気、所要時間の厳守など、運営における感染症対策を万全に整えての実施でした。

実施日
8月6日(土)、8月26日(金)共に15:00~15:30
会場
パナソニック東京汐留ビル5階ホール
講師
宮内真理子(当館学芸員)

オンライン講演会「キース・ヴァン・ドンゲン展―フォーヴィスムからレザネフォル記念講演会」

本展監修者のマイテ・ヴァレス=ブレッド氏の本拠地である南仏のセートと東京をつないで収録した記念講演会を、フランス語音声と日本語字幕にて当館公式YouTubeから公開しました。展覧会構成の流れにヴァン・ドンゲンの人生や画業を重ねた中核のストーリーに、作品を通じて窺える画家の女性観など、目から鱗が落ちるような卓抜の指摘を含ませながらの貴重な解説。出品作品のそれぞれの特徴や鑑賞のポイントの説明は、端的ながら分かり易く、画家への敬愛が滲むヴァレス=ブレッド氏ならではのお話でした。
フランス語での講演であったことから、当地からの視聴者数が全体の視聴者の一割弱あり、オンラインイベントの利点をインターナショナルに活用する機会ともなりました。

公開期間
8月26日(金)14:00~8月29日(月)14:00まで
講師
マイテ・ヴァレス=ブレッド氏 <本展監修者、元ポール・ヴァレリー美術館(フランス)館長、国家遺産主任学芸員>
SNSでの告知用図版、日本語版
SNSでの告知用図版、フランス語版