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Issue #01 / 大嶋 佑典 / FUTURE LIFE FACTORY デザイナー

2020.10.28

どんな色にも、形にもなれる、
わたしの時間

3rd TIMEを考えるに至った経緯


私は3度の転職の末、パナソニックに入社し、現在FUTURE LIFE FACTORY(FLF)という部署でデザイナーとして、「3rd TIME」という新しい時間価値をテーマに創造活動をしています。FLFはパナソニックデザイン本部の中にある部署の一つで、6人のメンバーで構成されています。既存事業にとらわれることなく、デザイナー視点から問いをたて未来の豊かさを再定義しクリエイトするデザインスタジオです。通常のインハウスデザイナーであれば担当のテーマが決まっていますが、ここではテーマ(問い)を決めるところから自分で設定しプロジェクトを進めています。

パナソニックでは2019年の創立100周年の際に「くらしアップデート業」に変るという発信がなされました。そこでFLFのメンバーでも、自分たちの役割をアップグレードするにあたって「幸せとは」をみんなで考え、くらしの最適化に取り組み始めました。そして、これまでの世の中には「典型的な幸せ」というものが存在していたことに気がつきます。それは、いい大学に入って、結婚して、子供をもって、家を買うということです。しかし、現代においては、その幸せ像が崩れている。「幸せ」の多様化が始まっています。そこで、「幸せってなんだろう」とメンバーは考えていました。でも、私は「幸せ」が何かを知っていました。私にとっては「ヨコノリ」をしている時間こそが「幸せ」だとハッキリと知っていたのです。

ヨコノリとは音楽を聴いて横に揺れるのではなく、スノーボードやサーフィン、スケートボードといった横乗りスポーツのことです。その中でも、自然の中で行う、サーフィンとスノーボードは最高でかれこれ15年ぐらいその魅力にはまっています。それが私にとっての幸せでした。そこで、他の人で例えた時に、その「時間」とは「どういう時間」なのかをリフレームして捉え直して考え始めました。「仕事」でもない「生活」でもない「ヨコノリ」している時間、3つ目の時間が私にとって「幸せ」な時間を作り上げている。この第3の時間には何か重要な価値があると考え始めました。また日本人は特に勤勉で実直だから、うまく第3の時間を取れていないのではないか。世の中の人は、自分の時間をうまくデザインできているのだろうか?それこそ幸福度が上がらない原因なのではないかという問いを考え始めました。

パナソニックでは「生活課題の解決によって、家庭にゆとりの時間を作る」といった創業者の言葉があります。今でもその思いに立ち返り、生活課題に注目し、くらしをアップデートしようと考えているのです。もちろん生活課題を解決し、ゆとりの時間を作ることは大切ですが、そのゆとりの時間をどう使うかを提案していきたいと私は考え始めました。「パナソニックが作るゆとりの時間」これが私のやりたいことです。よくよく考えたら、すでに創業者はそれさえもやっていました。「週休二日制」を日本に導入したのは創業者。そのゆとりの時間の使い方を「一日休養、一日教養」と唱えました。私もこの考えをもとに、再度この時代にあった第3の時間の使い方を創造していきたいと考えたのです。

interview

「3rd TIME」プロジェクトの発足とこれまでの動き


こうした考えから、去年「3rd TIME」プロジェクトが発足しました。そこでは、自分がなんとなく感じている「余暇」の価値を問うことから始めました。「仕事」でも「生活」でもない時間を「余暇」時間と言いますが、よくよく考えると「余暇」というのは「余る暇」と書きます。なんだかネガティブな響き。腑に落ちないので、「良い暇」と書いて「良暇(ヨカ)」と読もうと考え「良暇があって良かったプロジェクト」と当初は呼んでいました。

そんな中、パナソニックの中で同じように余暇時間に魅力を感じ、余暇事業を企むメンバーが集まってきました。そこで「仕事」「生活」に続くもうひとつの時間を正式に「3rd TIME」と呼ぶことになりました。私一人では、危なく「良暇があって良かったプロジェクト」になるところでした(笑)。

私はその「3rd TIME」をFLFとしてどう捉えデザインするかを考え続けました。「仕事」には「役割」がある。それは当たり前ですが、「生活」にも「役割」があるのです。父、母、夫、妻‥。そういった「役割」の中で、私たちは「自分」という「時間」を持てているだろうか、と疑問を持ちました。

もちろん、「仕事」や「生活」の中で作られていく自分というものもあります。しかし、「3rd TIME」の時間は誰からも「こうありなさい」と言われている時間でないことから、もしかしたら、この時間にこそ「自分らしさ」が隠れているのではないかと考えました。やがて「3rd TIME」を「役割の解放から、自分らしさを育てる時間」と捉えることにして、昨年2月には二子玉川蔦屋家電内にあるリライフスタジオフタコで展示を行うに至りました。その中では、体験時間のシェアリングを行うサービスである、「POSITIVE ESCAPE BAG」大人の逃避行サポートサービスや、そのなかで使うアーバンアウトドアギア「ソトデン」を提案。本格的に「3rd TIME」の企画が動き始めました。

しかし、それらを持ってさらなる実証実験やプロダクト開発を行おうとした考えていた矢先、大きな変化が訪れることになったのです。

コロナ、結婚による状況の大きな変化


まだまだ、忙しく時間に追われゆとりのある生活をないがしろにしてしまっている日本社会に対して、「3rd TIME」プロジェクトを通して、自分を見つめ直す時間、ゆとりのある時間を大切にできる社会に変えていこうと発信していたのですが、その矢先に新型コロナウィルス(covid19)によって世の中が変わってしまったのです。

本来の目論見であれば「3rd TIME」プロジェクトがゆとりの時間の大切さを伝えていく予定だったのですが、コロナによって止まることのなかった日常生活という時間が強制的に止められてしまった。

自粛生活によって強制的に生活を止められたことによって「暇」や「ゆとり」ではないけれど、何をして良いか分からない空白の時間が生まれました。思い出してください。あの時、私たちは、世の中は、この時間の価値に気づいたのです。そして、考えたはずです。何をすべきなのか。私たちはどうあるべきなのか。

しかし、こうした時間こそを、普段の日常生活の中に取り入れていくことで、より自分らしく幸せなくらしにしていけるじゃないかと私は気付きました。今こそ「3rd TIME」を日常に取り入れることで、自分らしさを日々アップデートしていけるのではないかと。

コロナがもたらした影響は、時間を止めただけではありません。そこに「新様式な生活」をももたらしました。具体的にいえば、多くの企業がリモートワークを取り入れるようになったのです。これまでも「働き方改革」といってリモートワークや、フレックスタイムといった「働き方」に取り組んできましたが、勤勉でなかなか新しいことに動き出せない日本人はなかなか普及せず、それは一部の人だけができる働き方だと言われていました。

しかし、コロナの影響で強制的に自粛生活が始まり、三蜜を回避すべく社会全体でリモートワークをせざるをえなくなりました。実際取り組んでみると、一部の人だけができる働き方も、 取り組みが社会全体になり、一人一人がやってみることでリモートワークは普及し定着し始めたのです。

リモートワークが急速に普及し、家の中で仕事をする時間が増えたことで、メリットとデメリットが生まれました。メリットとしては、通勤時間が減り、満員電車の中でヘトヘトになりながら通勤することがなくなり、時間に余裕が生まれて、身体的にも楽になったこと。デメリットは仕事の時間とプライベートの時間の区別がしづらくなったことです。

これまでも、家に仕事を持ち帰ると時間の切り替えができないことから、自宅での仕事は推奨されなかった側面があります。私も本当に必要な時しかやらないようにしていました。しかし、リモートワークが基本になった社会においては、自分の時間のコントロールがより大切になってくるのです。

これらを総括して考えると、結局のところ、一人一人が自分の時間の使い方について考え、行動をすることが問われているのです。それができれば、より一人一人にあった大切な時間を基軸とした生活ができるようになる。誰かが決めた当たり前の働き方、生活に従うのも良いですが、もし自分にあった暮らしを求めているのであれば、自分の時間を自分自身でデザインしてほしい。今はそれができる社会に変化してきたのです。

これは私事ですが、今年結婚したこともこのプロジェクトに大きく影響を与えました。これによって、今までなかった「夫」という「役割」が自分に生まれたのです。これまで当たり前のように「趣味=生活」の日々を送っていた私は、「仕事」と「3rd TIME」という2つの時間を生きているにすぎなかった。だから、これまで「3rd TIME」というプロジェクトは、「独り身の自由な人が言っている、わがままなくらしの提案だ」と思われることもあったのです。しかし、ついに自分にも新たな「生活」という時間が生まれ、より当事者の視点として「3rd TIME」について向き合えることになったのです。

interview

これから「3rd TIME」が目指すところ


さて、ここまで長々と「3rd TIME」が生まれた背景と、その後のコロナ禍における価値観の変容について述べてきました。あらためて、今こそ私たちが「どうしたいか、どうありたいか」を考えることで、これまでの生活に戻るのか、新しい未来に進むのかが変わるタイミングだと強く感じています。

これまでは、生産性や効率性が求められ、時間内により多くのアウトプットや高品質のモノを作り上げることが重要視されてきました。しかし、すでにお気付きの人もいると思いますが、効率性、生産性、品質といった部分には頭打ちが来ています。事実、家電メーカーにおいても、他社製品との区別化に悩まされているのです。消費者側の考えとしても、どの商品でも十分に機能は足りているため、「値段」や「デザイン」といった部分や「ブランド」や「ストーリー」「サービス」といった部分で購入を決断する人が多くなっていると感じています。

時間価値においても同じことが言えると考えています。たとえば、「自由が丘」から「浜松町のオフィス」までの通勤時間を短縮するよりも、その通勤時間を生かしてゆっくりと席に座り、隣の人とペチャクチャ意見交換をしながらインプット通勤できたらどうか。こういった生産性や効率性ではないある意味では無駄な時間を含む体験にこそ価値が生まれる時代なのではないでしょうか。

私はこれからの時代に「一人ひとりの大切な時間をわがままに考えた、自分らしい」ライフスタイルを考え、実現していくことが重要だと考えます。誰もが良いと認めるスペック上の評価ではなく、一部の人が願うスペックではない付加価値を見い出し可能にしていくことが「これからの暮らし」を考え、作っていく上で重要なのではないでしょうか。

そのため、このメディアを通して、自分らしいライフスタイルに3rd TIMEを取り入れて生きている人(3rd TIME Player)を取り上げ、時間の使い方にフォーカスしたコラム記事を作成していこうと企画しています。それによって、私もまだ気づいていない新しい「3rd TIME」の価値や取り組みを知ることができると思うのです。そして、3rd TIME Playerたちのニーズなどをくみ取って、さらなる創造活動をしていきたいと考えています。

「どんな色にも、形にもなれる、わたしの時間」を誰もが諦めない、「一人ひとりが大切な時間を基軸に、自分の時間をデザインできる自分らしい暮らし」ができる社会に近づけるように取り組んでいきたい。それは私たちだけでは実現できないことです。そんなライフビジョンのために、一緒に「3rd TIME」について考え共創していきませんか。

まだまだ描けていませんが、「3rd TIME」によって新たな自分価値を育てることで、AIによって奪われてしまう仕事の問題や、日本が抱える労働人口問題の解決にも繋がると思います。今言われている人生100年時代に入り、定年後のセカンドライフの生き方にも注目が寄せられています。また、今や会社や組織の中での評価だけではなく、一人の人としての魅力や、経験を生かし会社や組織だけでなく社会に役立てていく必要があると思います。

この活動は、SDGsのNO.8に掲げられている「働きがいも、経済成長も」の取り組みの一つになると考えています。暮らしに「3rd TIME」を取り入れ、役割に縛られることのない時間で自分らしさについて考え、やれること、やらなければならないこと、やりたいことを一致できるよう3rd TIMEをくらしに取り入れ「はたらいき改革」していきましょう。


profile

大嶋 佑典 / FUTURE LIFE FACTORY デザイナー

パナソニックデザイン本部所属し未来の豊かな暮らしをデザインで再定義するべく活動をしている。 「3rd TIME」のプロジェクトリーダー。
サーフィンとスノーボードをこよなく愛する。


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