ライバルに刺激され開花した遅咲きの才能

プロ出身の梶原だが、決して野球エリートではなく、本人にもそんな意識は微塵もない。

「野球自体の面白さに目覚めるのが遅かったんですよね。井の中の蛙で、明確な目標もなかったんです。九州の山奥で野球やってる田舎者でしたから（笑）」

宮崎の強豪、延岡高校ではひたすら甲子園を目指す日々。県大会を制するなど地力のあるチームだった。しかし梶原は当時の自分を戒める。

「大学でも野球がしたい、できればプロにも、なんて漠然とは考えましたけど、そんなに切実なものではなかったですね。いま考えれば、野球に対する姿勢がちょっと受身でした。だから甲子園に行けなかったんじゃないですかね」

転機は九州東海大学時代、3年生で訪れる。日米野球の大学選抜チームに呼ばれ、全国から集まる精鋭たちを間近で見ることになるのだ。

「大学2年のころから、ホームランが出るようになって、野球のプレー自体を楽しめるようになったんです。決定的だったのが、大学3年でジャパンに呼んでもらって、同年代のすごい選手たちに会ったこと。こいつらに負けられない、もっと練習して、とにかく上手くなりたいと思いましたね」

すでに日本人メジャーリーガーも活躍していた時代。ハイレベルな野球が、日本に世界に存在することを頭では理解していた。しかし自らの肌で感じたことだけを、実直に信じるタイプなのだろう。邪推や打算とは無縁の、豪傑な九州男児といった印象の梶原。ドラフト指名時の逸話も傑作である。

「指名されたらラッキーくらいの期待だったから、寝てたんですよ、大学の研究室で。『おい、カジ！　阪神8位で名前挙がったぞ！』って友達からの電話ではじめて知りました（笑）」

ドラフト制度誕生からおよそ40年、文字通り「果報を寝て待った」猛者が果たして何人いただろうか。実直だからこそ、いったん道を定めると確実に成長の糧にしてしまう。技術もモチベーションも急成長した梶原のプロ人生がはじまった。

“あの”チーム状態に導くのが僕の役目

ところが阪神タイガースでは、なかなかチャンスに恵まれない。ウエスタンリーグでは打率3割をマークしたシーズンもあり主軸として活躍したが、一軍での出場はわずかに4試合。安打は記録できないまま、2004年に自由契約となった。

「あー、もっと野球がしてえなあ・・・って気持ちが腹の底から沸いてきて。それまでも野球への情熱は十分に持っていたつもりですが、こういう立場になってみないとわからない部分ってあるじゃないですか。でも、クビを経験して良かったんですよ、僕の場合。いま野球をできることが嬉しくてたまらないし、キツイ練習も楽しいっていうか、上手くなるため、都市対抗で優勝するためのキツさなら、まったく苦にならないですね」

自由契約の翌年、松下電器のユニフォームを着た梶原の男泣きする姿があった。日本選手権で見事優勝し、チームメイトと最高の喜びを分かち合ったのだ。

「もう、泣きまくりました（笑）。その年、都市対抗は予選敗退。しかも実業団ではなく、クラブチームに負けたんです。僕ら選手もしんどかったけど、周りのスタッフも大変だったと思います。だから、秋の選手権はもう優勝するしかない。都市対抗の敗戦を帳消しにするには2位じゃダメだという気持ちでチームがまとまっていたので、優勝はホントに嬉しかったです」

自身も四番に定着しベストナインを獲得。見事復活をアピールした。プロ出身の社会人ベストナインは、同じく松下電器で活躍した丸尾英司投手に次いで史上二人目の快挙だ。

「阪神はもちろん、僕のいた高校や大学と比べても、社会人野球は１チームの選手の数が圧倒的に少ないんです。だから誰が欠けても困る。自然と結束が堅くなるし、一回負けたら終わりのノックアウト方式で戦うわけですから、燃えますよ、やっぱり！」

今年入部3年目。松下電器のユニフォームがすっかり板についた梶原は、キャプテンに任命された。

「やるからには、とことん行きますよ（笑）。僕がキャプテンのときに都市対抗優勝したいっていうのが、いまの正直な気持ちです。しゃべりが上手いわけでもなく、打って、投げて、走ってのスーパープレーができるわけでもない。野球を失いたくないという必死なプレーを見せることで、みんなが付いてきてくれればと思っています」

西日本屈指の野球部と称される松下電器だが、実はまだ都市対抗の優勝がない。タイトルへの想いは、積年の悲願だ。では目標達成に足りないものはなんだろうか？

「それがわかれば苦労しないんですけどね（笑）。選手のレベルは問題ないと思います。都市対抗は勝たなければというプレッシャーが強い。それに打ち勝つ団結力ですかね。幸いいまのチームは、日本選手権を優勝したときのチームの“和”を知ってる選手がほとんど。あのチーム状態になれば、勝てると思うんです。キャプテンとして、チームをどうやってそこに持っていくかが僕の課題ですね」