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「強い象徴であるために」パナソニック野球部 田中篤史監督

「野球部は、パナソニックの強さを象徴する存在でなければならない」。就任3年目、田中篤史監督はポジションごとに専門性を高めるチーム改革を進め、選手のグラウンド外での行動にも指針を示す。強いチームとは、強い個から生まれる――。パナソニック株式会社は2022年のホールディングス化を発表。スポーツ各部にも変革が求められている中、パナソニック野球部の存在意義、野球人たる心構えを田中監督が語る。

野球人の自覚、質の高い行動

田中監督

現状のままでは、野球部の存在意義は到底示せない。2020年の都市対抗野球が2回戦敗退に終わり、私はかつてない危機感を抱きました。一昨年の同大会ベスト8から、積み上げるどころか下降した戦績。地域の方や社員やOBの皆さまに必要と思ってはいただけないと。高校野球と同じトーナメント制、一発勝負の社会人野球は「大人の甲子園」とも言われますが、好きな野球を思い切ってやるだけではなく、私たちには、これからのパナソニックの活性化を担う責任、それに見合うだけの存在感が必要です。

2021年、これまで繰り返してきた「もっと練習を」といった言葉は口にせず、野球の外に目を向ける施策として、選手が所属する各職場に今まで以上に身を置くように勤務時間を変えました。出社の回数を増やし「それぞれの職場で少しでも役に立つように」と選手に伝え、職場の上司の皆さんにもお願いに回りました。私自身の選手時代やコーチ時代も含めて、これほど社業に向きあっていなかったはず。まさに今、野球部発足の原点に立ち返っています。

職場でコミュニケーションを深め、個人として応援してもらえる選手になること。それは、パナソニックの一員としての自覚を喚起することにもなります。当然、選手から野球の時間を奪うことになりますが、あえて個々に厳しい環境を課し、グラウンド外に「質の高い行動」を求めています。私たちはより凝縮した時間の中で野球と向き合い、選手たちは自分がするべきことを順序立てて行うようになりました。また、個人のSNSで社外の方に向けて野球部をアピールする選手も現れ、発信力や前向きさも芽生えてきました。

新しい組織で、大きな輪を作る

今年導入したポジションリーダー制の各リーダーとキャプテン達
今年導入したポジションリーダー制の各リーダーとキャプテン達

これだけの設備と環境がありながら、都市対抗の優勝旗に手が届かない要因は、一つではないはずです。メンタルの強さ、技術力などさまざまな要因がありますが、私はまず心のどこかにある「パナソニック野球部にいる」と安堵する気持ちを取り除くことが必要だと考えました。甘えをなくして、野球人としての価値を問うこと。例えば、地域での野球教室は年1回の開催だったところを月1回にするなど、選手がアピールできる場を増やしています。選手の名前を覚えてもらい、より地域との一体感を高めたいと考えています。

また、チームの組織構成にも新しい手法を持ち込みました。それは、ポジションごとのリーダー制。投手・捕手・内野・外野が専門性を追求するグループです。先ほど挙げたとおり、まず選手が個として強くなり、その力をチーム内で束ねる目的です。各リーダーには若手を指名。例えば、キャッチャーは経験値のある三上ではなく、あえて一番若い川上を据えています。これまでの野球部には、良くも悪くも先輩についていく習慣がありましたが、今までのやり方では勝てない。そう考えて決断しました。

キャプテンの法兼は就任3年目。そこに今年から副キャプテンに投手の鈴木、野手の小峰を置きました。鈴木は以前から投手陣のリーダーでしたが、さらに彼ならではの「チーム第一」の献身的なスタイルを生かしてくれるはずです。小峰は昨年のルーキーで活躍が目立った選手ですが、成績に浮かれずにもう一段上を目指してほしいと期待を込めて。この3人に、ポジションごとの若いリーダーが加わって輪を作る。会社の組織などと同じで、監督やキャプテンの方だけを向くのではなく、全員が輪を作る。私からはっきりとした訓示はせず、言葉はアバウトにして細かな落とし込みは、選手側に委ねています。

里崎コーチに学ぶ、基本の基本

生還したランナーをグータッチで迎え入れるナインたち。
生還したランナーをグータッチで迎え入れるナインたち。

簡単なことほど、難しい。そう、私たちに教えてくれるのが、3年ほど前から臨時コーチでチームの指導をしてくれている里崎智也さんです。2006年WBC日本代表でも活躍した、皆さんよくご存じの名捕手。その里崎さんがグラウンドで選手に掛ける声は、基本中の基本といったプレーが少なくありません。一塁側にボールが転がったら「ピッチャー!カバーいけ」と瞬時に一塁側に走らせる掛け声。それくらいしてでも、小さなミスを徹底的につぶしていく姿勢を改めて教わっています。

里崎さんはあのポジティブな口調で「凡ミスがなくならないと、勝てる試合も勝てない」と伝えてくれます。当初はキャッチャーの指導者としてお願いをしたのですが、現在はバッティングでも動き一つを見て、「こういう風に考えてみたら」と具体的なアドバイスも。グラウンド内を動き回って、選手にズバズバと教えをもらっています。また、チームには新たにメンタルトレーニングのコーチも起用しました。専門家に語ってもらうことで、選手が素直にアドバイスを受け止める、メンタル面の新しいアプローチです。

すでに新しい取り組みの効果は、投手陣に表れてきたと感じています。実は、2人の左投手が引退してその穴をどう埋めるかが、私にとって今シーズンの大きな課題でしたが、選手側から「5回まで投げていたなら6回から。8回からの登板だったなら、7回からつなげばいい」と心強い声が上がってきています。選手は役割をはっきり区切ってもらう方が、力を発揮しやすいと思っていました。しかし、彼らは「その分、投げますよ」と私の中の常識とは逆。これが個の強さであり、チームの強さにつながるものと思います。

共存、皆さまと一体の野球部に

OP戦の戦況を見つめる監督。どんな場面でも冷静沈着。これが田中監督。
OP戦の戦況を見つめる監督。
どんな場面でも冷静沈着。これが田中監督。

2020年は「当たり前が、当たり前じゃない」と思い知った1年でした。コロナ禍で、JABA大会、日本選手権は中止となり、私たちも緊急事態宣言下で二度、チームを解散しました。ボールが持てない中で、いずれ野球ができる日に向けて、それぞれが考えを固める時間だったとも言えます。その間はパナソニックに野球部があることのありがたさを痛感し、同時に「俺たちの存在とは何か」と問い直す再確認の時間でした。そして、チームが久しぶりに集まった日、決してコンディションは良くなくても、最後は気持ちなんだと、選手の表情に私が教わりました。

昨年と違い、春に開催が予定されているJABA大会で、今年は選手たちにたくさんの出場機会を与えることができます。思い切ってプレーし、実戦の中で失敗もしていい。どんなに練習をしても、一つの走塁、一つの連係プレーの判断を本当の意味で体にしみ込ませることはできません。実戦で相手を前に、プレーして初めて本物になります。「アウト一つは犠牲にしてもいい。実戦で経験して課題をつぶしながら勝ち進もう」と声を掛けるつもりです。

長いパナソニック野球部の歴史、かつての松下電器時代、山口高志さん、福本豊さんら名選手が在籍した当時も、都市対抗は優勝できませんでした。それだけに、優勝できたときの価値は一言に表せないでしょう。今シーズン、私たちはまず応援をしていただける個、応援していただけるチームになり、皆さまから支持を得られる野球部になります。選手は「真価~誇りを胸に~」とスローガンを掲げました。過信ではなく、真に強い象徴でありたいし、そこに誇りを持ちたい。一試合、一試合を皆さまと共存する思いで、一緒に勝負をしたいと考えています。どうか、ご支援とご声援をお願いいたします。

(取材日:2021年3月2日)

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