職場改善

2022.3.25

従業員エンゲージメントを向上させる施策とは? 具体策の事例も含めて紹介!

従業員エンゲージメントを向上させる施策とは? 具体策の事例も含めて紹介!

従業員エンゲージメントの向上はこれからの企業に欠かせないものであり、そのためには適切で効果的な施策を実施する必要があります。考えられる施策は、ビジョンの浸透や評価方法の整備、多様な働き方への対応などアプローチする角度によってさまざまです。

当記事では、従業員エンゲージメントを向上させる施策の必要性や効果について解説し、各社の具体的な施策事例を紹介します。

従業員エンゲージメント向上の施策が必要な理由

従業員エンゲージメントは企業の業績にとって重要な概念

多くの企業や経営者の間で注目を集めている従業員エンゲージメントは、従業員の内面に着目した概念です。企業と共に歩もうとする従業員の様子を知ることができる指標となるもので、企業の業績にとって無視できないものといわれています。従業員エンゲージメントを構成する要素は、企業の理念やビジョンへの理解・共感、信頼、そして自発的な貢献意欲です。

従業員エンゲージメントは能動的な愛社精神とも呼べる概念であり、高ければ高いほど企業にとっては好ましい状況といえます。

従業員エンゲージメントが注目されるまでは、従業員の内面に着目する概念といえば、従業員満足度やモチベーション、ロイヤルティ(忠誠心)が主でした。これら3つの概念は従業員エンゲージメントと大きな違いがあります。

従業員満足度は現状の満足度を示すものであり、必ずしも理解や信頼を前提としていませんし、貢献意欲の有無とは直接の関係がない概念です。モチベーションは報酬を増やしたいとか、その仕事が好きだといった理由から上昇することがあり、所属する企業への思いを反映していないケースがあります。ロイヤルティは上下関係を前提にするため、強ければ強いほど従属的で指示待ちになりがちです。

つまり、企業と従業員が協力しあい、将来にわたって業績アップに取り組める状況にあるかどうかの確認可能性の有無が、従来型の概念と従業員エンゲージメントとの決定的な違いといえます。

従業員エンゲージメントの向上で得られる効果

従業員エンゲージメントが向上することで得られる効果は多岐にわたります。ここでは主な効果を紹介しましょう。

・人材難の解消

従業員エンゲージメントが高い状態は、企業のビジョンや経営に対する理解と信頼が醸成されており、この企業で貢献したいという意欲が高まっている状態です。そのため、貴重な人材の流出が懸念される離職率が抑えられます。また、従業員から支持されている企業で働きたいと考える新人の採用も円滑になり、人材難の解消につながる点が大きな効果です。

・職場環境の改善

従業員エンゲージメントが高いメンバーで構成される組織では、ネガティブな雰囲気が生まれにくくなります。チームワークが機能するなど、職場環境が改善される点も見逃せない効果です。また、職場環境の改善は無駄な業務の削減にもつながり、生産性の向上をもたらします。

・顧客満足度のアップ

優秀な人材が好ましい職場環境の中で高い生産性を示して送り出す商品やサービスであれば、その品質が高いことは容易に想像できます。期待できる効果は高品質な商品やサービスの提供を受ける顧客の満足度がアップすることです。

日本企業の従業員エンゲージメントは高くないといわれている

優れた効果を期待でき、企業の業績にとって重要であるにもかかわらず、日本企業の従業員エンゲージメントは高くないといわれています。2017年のギャラップ社調査では、「熱意あふれる社員」が6%しかいないとされており、139ヶ国で調査された中で132位という低さでした(※1)。

出典 ※1:【経済産業省】参考資料集 令和2年7月(P.42)

従業員エンゲージメント向上の阻害要因

日本企業の従業員エンゲージメントが高くない背景、従業員エンゲージメント向上を阻害する要因として、日本型の雇用制度が指摘されています。終身雇用を前提とした年功序列型の昇進と賃金体系です。この制度の中では、仕事の成果を上げるよりも大きなミスをしないで過ごした方が無難だという意識を排除しきれない部分があるでしょう。

また、従業員が企業に対して抱くロイヤルティの在り方が、欧米のそれと少し異なりがちな点も関係がありそうです。欧米では転職が自然なこととなっているように企業よりも仕事に対するロイヤルティが高いといえます。日本では強固な主従関係を前提とすることが珍しくないため、従業員エンゲージメントよりも「忠誠心」が注目されがちです。

6%しか熱意ある社員がおらず、忠誠心が重視されがちな日本型雇用制度の中で何もしなければ、従業員エンゲージメントを高めることは困難だといえるでしょう。従業員エンゲージメントを向上させるためには、適切な施策を打つ必要があります。

施策はさまざまな角度から考える

ビジョンの浸透や情報開示

従業員エンゲージメントを向上させる施策は1通りではなく、さまざまな角度から考えられます。まずはビジョンの浸透や情報開示が必要です。従業員エンゲージメントは企業の理念やビジョンへの理解・共感があってこそ高まるもので、第一に考えるべきポイントだといえるでしょう。

各種の社内メディアや会議など、あらゆる機会を利用してトップ自らが語りかけ、説明し疑問に答える姿勢が重要です。さらに、可能な限りの情報開示をすることで、企業との一体感も生まれやすくなります。

従業員の自主性や創造性を重視

従業員エンゲージメントを向上させるためには、個々の従業員の自主性や創造性を重視する必要があります。よい意味で失敗を恐れずにチャレンジできる職場であれば、やりがいにもつながり積極的な貢献意欲が生まれやすいといえるでしょう。上意下達式の業務運営は忠誠心が高い従業員を指揮する場合には有効ですが、一方で“指示待ち”という消極的な状況をも生んでしまいかねないため、必要最小限にとどめるとよいでしょう。

報酬や評価を整備する

報酬や人事評価制度を適正に整備することは、従業員エンゲージメントの向上に欠かせない施策です。成果に見合う以上の報酬が得られている、働きが正当に評価されていると思えれば、企業への信頼感が増し、より一層の貢献意欲が生じてくるでしょう。

従業員エンゲージメントと従業員満足度は異なる概念だと説明しましたが、満足度が低い場合、その原因が不当な扱いや評価にあるとなれば、従業員エンゲージメントの向上どころか低下につながってしまいます。

多様な働き方の整備

時代の変化とともに人々のライフスタイルも多様化してきました。ワークライフバランスの重要性が叫ばれるようになり、企業が従業員に提示できる働き方にも多様性が求められています。

高度経済成長期やバブル経済まっただ中だった時代のような、モーレツ社員や24時間戦うスタイルだけを追い求める時代ではなくなりました。福利厚生も含めて、個々の従業員が家事や趣味、地域での活動などを含めてバランスよく働ける環境の整備が重視されています。

ビジョンの浸透や情報開示の事例

カイタクしよう~サッポロビール

企業ビジョンの浸透や情報開示を進めている具体的な事例として最初に紹介するのはサッポロビール株式会社の「カイタクしよう」です。同社では、経営理念とビジョンを外部の人間でもすぐにわかるように公式ホームページで公表しています。そして、行動規範として打ち出されているのが「カイタクしよう」です。4つの「カイタクしよう、」に以下の言葉が続きます。

  • ・心を動かすアイデアを
  • ・お酒の次の未来を
  • ・深く愛されるブランドを
  • ・社会との共鳴を

「誰かの、いちばん星であれ」というビジョンに向けて、お酒の新たな可能性をカイタクすべく、従業員に向けてわかりやすい情報発信をしている例だといえるでしょう(※2)。

出典 ※2:【サッポロビール株式会社】公式ホームページ

ビジョンを繰り返し発信する~サイバーエージェント

株式会社サイバーエージェントは理念やビジョンを明確に伝える取り組みを進めている企業として知られています。「21世紀を代表する会社を創る」と題したトップメッセージを同社の社内報「サイ・バー」で発信しており、その内容は公式ホームページで閲覧可能です(※3)。経営者だけでなく従業員も一体となって、みんなで目標達成に向かっていくという考え方を示したもので、経済産業省の研究会でも取り上げられています。

また、行動指針として策定されているミッションステートメントにも注目です。インターネットから軸足はぶらさない、年功序列は禁止、モラルの高い会社にといった趣旨の項目が盛り込まれています。向かうべき道筋が明瞭に示されているといえるでしょう。

出典 ※3:【株式会社サイバーエージェント】公式ホームページ

ありがとう総会~佐竹食品

大阪を中心にスーパーマーケットなどを展開する佐竹食品株式会社では「日本一楽しいスーパー」をビジョンとして公表しています。顧客はもちろんのこと、従業員と同社にとっても日本一楽しい、満足できるスーパーの実現を目指すという意味です。

企業理念やビジョンを共有するための直接的な場として、佐竹食品グループでは「ありがとう総会」と銘打った全社的な総会を実施した実績があります。ありがとう総会を開催した後の営業では従業員の姿勢に変化が見られ、総会の日を店休日としたにもかかわらず業績がアップするなどの効果が見られたとのことです(※4)。

出典 ※4:【株式会社リンクイベントプロデュース】公式ホームページ

従業員の自主性や創造性を重視する事例

マニュアルがない~スターバックス

従業員の自主性や創造性を重視する事例で知られているのがスターバックス コーヒー ジャパン 株式会社です。同社が展開するスターバックスの店舗では、一部を除いてマニュアルではなく従業員による自発的なサービスが行われています。

スターバックスの従業員は新しい多様な価値観を持っている若いアルバイトが多いとのことです。マニュアルよりも価値観を共有し、店舗を自分の居場所と思える空間にすることが自発的な姿勢、欲求を強くし、よりよいサービスの創出につながっている好例だといえるでしょう(※5)。

出典 ※5:【株式会社HRビジョン】日本の人事部ホームページ

7つのルール~ユーザベース

株式会社ユーザベースでは、多様性をもつ個性的なメンバーが同じ方向に進めるように7つのルールを設けています。The 7 Valuesと名付けられたルールの第一に掲げられているのが「自由主義で行こう」です。自由な環境の中で最大のパフォーマンスを発揮することが狙いで、2番目以降には創造性やスピード、挑戦といったルールが続きます。

さらに、The 7 Valuesはユーザベースのメンバーが持っている国籍や人種、宗教などといったバックグラウンドの多様性の中でも理解が進むように、31の約束として細分化されています※6)。ここから浮かんでくるのは、自由だからこそ各自が責任を持って業務にあたる強い集団になるイメージです。

出典 ※6:【株式会社ユーザベース】公式ホームページ

社員を管理しない~Google

Googleの日本法人であるグーグル合同会社では、社員を管理しない姿勢を打ち出しています。従業員の働き方は従業員自身が考えて実行するというもので、いつ、どこで、どのように働くかについては従業員に任せるスタイルです。求めるのは結果だけというシンプルな考え方ですが、従業員に丸投げしているわけではありません。

大前提として企業理念やビジョンを理解したうえで自分の役割を認識することが必要です。そのうえで、上司との間でどのような貢献が可能かといった点が話し合われます。自分がやりやすいスタイルで結果を出してもらうのが、社員を管理しないという施策です(※7)。

出典 ※7:【株式会社HRビジョン】日本の人事部ホームページ

報酬や評価の整備事例

サイコロで給料アップ~カヤック

株式会社カヤックは「面白法人」のコピーでも知られているように、報酬や評価の面でユニークな施策を実施しています。その代表例がサイコロ給です。サイコロ給とは、文字通りサイコロを振って給料が増える仕組みで、出目の数字1~6を月給に上乗せするパーセンテージとして使います。1が出たら1%、6なら6%が加算される仕組みです。

従業員エンゲージメントの向上には適正な報酬や評価が重要とされる中で、一見すると逆に思えるものの、サイコロ給にはちゃんとした理由があります。人間が行う評価は完全ではないとの考えがベースになっており、ポジティブな意味で運任せの遊びをもたせたものとなっています(※8)。

出典 ※8:【株式会社カヤック】公式ホームページ

ピアボーナスの有効活用~CAMPFIRE

クラウドファンディングの大手である株式会社CAMPFIREでは、ピアボーナスを活用しています。ピアボーナスとは、従業員間で贈りあうボーナスであり、その仕組みのことです。経営者が贈ることも可能で、通常のボーナスとは異なり、何かをしてもらったときにお礼のポイントを贈るといった使い方ができます。一般的な評価方法では目に付きにくい貢献に対する評価が可能な仕組みです。

同社ではポイントを贈られた人の貢献が可視化できることで、新たなコミュニケーションツール的メリットも得られているようです(※9)。また、代表からポイントを贈られることによる満足感も期待できるでしょう。

出典 ※9:【Unipos株式会社】Uniposホームページ導入事例

上司と部下が1対1でミーティング~グリー

グリー株式会社ではストレートな施策として1on1、つまり上司と部下が1対1で行う定期的なミーティングを実施しています。単に顔を付き合わせるだけでは本音の話がしにくい、うまく話ができないといった点が一般的な1on1の課題です。同社ではリーダーシップ研修や1on1研修、さらには簡易的な性格診断の結果を踏まえた自己発表を行うことで、1on1を有効活用するための信頼関係構築に努めているようです。

1回30分で週に2回行われる1on1では目標の達成状況の振り返りなどが行われており、目標の管理と達成、評価に役立っています。また、1on1に対する満足度は7割にも上るとのことです(※10)。

出典 ※10:【SELECK株式会社】公式ホームページ

多様な働き方の整備事例

自分の意思で職種変更できる~LIFULL

多様な働き方の整備事例として見逃せないのが、さまざまな施策で従業員エンゲージメントの向上に取り組んでいる株式会社LIFULLの「キャリア選択制度」です。この制度は自分の意思による職種変更が可能となるもので、一般的な人事制度と比べても特筆できる施策だといえるでしょう。

同社では原則として一方的に命じる職種変更や異動などは行っておらず、キャリア選択制度が実効性のある施策であることがわかります。その根底にあるのは、内発的動機付けを重視する同社の姿勢です(※11)。

出典 ※11:【株式会社LIFULL】公式ホームページ

育児休業の環境を整備~大和ハウス

大和ハウス工業株式会社では、ワークライフバランスを推進するさまざまな施策を実施しています。その一例が育児休業の環境整備です。個別の施策で注目したいのが「育キャリサポート制度」です。育児休業からの早期復帰を可能にする情報提供や時差勤務の導入にとどまらず、育児サービスを利用する際の補助もあります。子育てと仕事の両方を行うためだけの支援ではなく、キャリア形成を考慮した施策です。

育児休業そのものは最初の5日間が有給で、子どもが3歳になるまで利用できる制度です。また、経済的な側面からの支援策として、子ども1人に100万円を支給する次世代育成一時金制度もあり、手厚い支援が行われているといえます(※12)。

出典 ※12:【大和ハウス工業株式会社】公式ホームページ

コアタイムがないスーパーフレックス~朝日広告社

株式会社朝日広告社ではスーパーフレックスを導入しています。スーパーフレックスは一般的なフレックスタイムとは異なり、コアタイムがありません。介護や育児などの関係により、コアタイムの出社が困難で退職せざるを得ないといった状況を回避できる制度です。

同社ではフレックスタイム制度を2015年に導入しており、スーパーフレックスには2019年に移行しています。同社によると導入年には対象社員の79%以上がスーパーフレックスを利用した(※13)とのことで、従業員エンゲージメントの向上に役立っていると推測できるでしょう。

出典 ※12:【株式会社朝日広告社】公式ホームページ

従業員エンゲージメントの変化に対応する

従業員エンゲージメント調査の重要性

従業員エンゲージメントは従業員の内心に存在する「感じ方」で、常に変化するものといえます。現状が高いレベルだったとしても、それで安心してしまっていては、近い将来に低下してしまう可能性があることも考えておかなければなりません。また、安心していなくても何らかのきっかけで低下することがあり得ます。したがって、従業員エンゲージメントの現状を把握するための定期的な調査が重要です。定期的に調査を行うことにより、自社の課題や従業員が抱えている問題が見えるようになれば、効果的な施策の立案がしやすくなるでしょう。

従業員エンゲージメント調査で主に実施したいのがエンゲージメントサーベイとパルスサーベイです。エンゲージメントサーベイは一般的に半年~2年程度の間隔で行う調査で、質問数が多く、理念への理解や企業に対する推奨度など全体的な内容、企業への愛着度を調査します。パルスサーベイは高頻度で行う簡単な調査です。質問内容は、日々の業務に直接的な関係のある事柄やその日の感想などで構成されます。

時代の変化を読み取る

従業員満足度から従業員エンゲージメントへと注目される概念が移ってきた背景には、時代の変化があります。時代が変われば影響が従業員の意識変化に及ぶのは必然です。現在は多様性が重視される時代となっており、従業員エンゲージメントを向上させるための施策も多種多様です。

しかし、時代の変化は先読みが難しい面があるため、従業員エンゲージメントの変化を予測し、施策を立てておくことは容易ではないといえます。だからこそ、リアルタイムで時代の変化を読み取ることが重要です。そこでは他社の動向にも注意を払う必要があります。他社の施策がヒントになることもあるためです。

状況に応じた施策の立案と実施

従業員エンゲージメントを向上させる施策の立案は、読み取った時代の変化、企業と従業員を取り巻く環境の変化、そして従業員に対する調査結果をベースにして状況に応じて行います。施策は実施して終わりではない点に注意が必要です。前述したように従業員エンゲージメントは変化するものであり、施策の効果が低くなっているかもしれません。継続的に効果を確認してブラッシュアップするためにも、定期的な調査が重要です。

他社事例を参考に現実的な施策を立案して実行しよう

従業員エンゲージメントを向上させる施策は、職場環境の改善や報酬と評価方法の整備、自主性を重んじる管理体制、さらには福利厚生面の充実などさまざまで、具体的な施策も多数あります。検討する際には他社事例を参考にするとよいでしょう。

従業員エンゲージメント向上策としての実際のケースを知ることが、より現実的な施策の立案に役立つといえます。

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