健康経営
2022.08.31
従業員エンゲージメントの調査とは? 実施の方法や注意点を紹介
近年、従業員エンゲージメントが注目されており、調査を行う企業が増えています。従業員エンゲージメントとは、従業員の会社に対する信頼や貢献意欲を指す言葉です。この従業員エンゲージメントが注目される背景には、人材の流動化やコミュニケーションの非対面化などがあります。優秀な人材の予期せぬ退職を防ぐ意味でも、企業は従業員エンゲージメントの調査を行い、施策や改善を図る必要性が高まっているのです。
そこで、本記事では今注目の従業員エンゲージメント調査について、その目的や期待できる効果、実施方法などを網羅的に紹介します。「しっかりと従業員エンゲージメント調査を行い、効果的な施策で高い水準を維持させたい」と考える企業担当者は、ぜひ参考にしてください。
従業員エンゲージメントの調査とは
従業員エンゲージメントの調査とは、簡単に言うと、組織の状態を可視化するためのツールです。企業と従業員が同じ方向性を向いて、持続的な信頼関係を築けているかを調査します。
従業員エンゲージメントは、従業員が企業の思い描くビジョン・理念に共感し、どれだけ企業に対しての信頼や貢献したいという気持ちをもって働いているかを表す指標です。会社全体だけではなく、部署やチームの現状把握もできます。
調査で把握した内容をもとに、有効な施策を打ち出すことで「離職率を下げる」「モチベーションが高まって売り上げや業績が上がる」といった効果が期待できるため、従業員エンゲージメント調査を行う企業が増えているのです。
従業員エンゲージメントの調査を行う主な目的は3つ
従業員エンゲージメント調査に限ったことではありませんが、調査を行う場合は、その目的をしっかりと理解しておくことが重要です。目的を理解しないままでは、どのような調査を行うべきかを判断できず、時間・費用のコストをかけても的外れな調査で終わってしまう可能性があります。
そのため、この章では、なぜ従業員エンゲージメントの調査を行うべきなのか、その目的を紹介します。
従業員エンゲージメントの調査を行う主な目的は、3つです。従業員エンゲージメント調査を行うことで、質問に対する答えからさまざまな課題や効果が浮き彫りになります。ひとつずつ見ていきましょう。
従業員が抱える見えない課題の“見える化”
従業員エンゲージメント調査を行う目的の1つ目が、従業員が抱えている課題や問題を可視化することです。調査を通して、潜在的な問題や障害を把握することができます。
これまで見えていなかった部分が見えることで、施策の必要性を判断でき、解決するための改善策を打つ際も、より具体的な行動を取るのに役立ちます。
各種施策の効果検証
従業員エンゲージメント調査を行う2つ目の目的は、さまざまな施策の効果検証を行うためです。
最善だと思って実施した施策も、従業員エンゲージメントが向上していなければ、費用対効果が低いということになります。反対に、時間もコストもかけていないのに効果が出た人事施策もわかります。
自社に合うやり方、最も効率的な施策などを見極めることができるため、従業員エンゲージメント調査を行えば、無駄なく効果的な施策の決定・実施ができるでしょう。
定着率の効果検証
従業員エンゲージメント調査を行う3つ目の目的は、定着率の把握・効果検証を行うためです。
離職理由や原因、その傾向などを突き止めることが、定着率改善や離職率の低下につながります。
従業員エンゲージメント調査を行うと、離職者の多い部署は「従業員エンゲージメントが低い」「半数以上が業務面で悩みを抱えている」などの状況把握が可能です。離職者の本当の理由を理解できれば、具体的な改善に取り組めるようになるため、定着率が課題の企業は、従業員エンゲージメント調査を取り入れることをおすすめします。
従業員エンゲージメントを把握することが企業の成長につながる
ここまで紹介した従業員エンゲージメント調査の概要や目的から、「従業員エンゲージメントを把握することが企業の成長につながる」ということをおわかりいただけたと思います。
実際に従業員エンゲージメント調査を取り入れたことでどのように変わったのか、大手企業の具体例を見てみましょう。
スターバックスコーヒージャパン株式会社
スターバックスコーヒージャパン株式会社は、2022年に日本上陸26年目に突入した人気のコーヒーショップです。
従業員をパートナーと呼び、社員一人ひとりが企業の目的を理解した上で、個人の能力や可能性を最大化できる環境や制度、システムを採用し、従業員エンゲージメントを高めています。
同社が特に大事にしているのが、「スターバックスが大切にしたい価値観とパートナー一人一人の価値観が重なった部分に生まれる共感」です。
先輩やマネージャーがお客様に対してどのような体験価値を提供してきたのかを共有することで、「自分もこんな風になりたい」という気持ちになり、従業員エンゲージメントの高い主体的な人材の育成につながっています。
株式会社ユーザベース
株式会社ユーザベースは、業界レポートや競合調査などのビジネスに欠かせない経済情報を発信するBtoB向けの「SPEEDA」をはじめとしたサービスを提供する企業です。OpenWork(オープンワーク)の「社員の『エンゲージメント』が高い企業ランキング」において、エンゲージメントが高い企業1位を実現した、自他ともに認める従業員エンゲージメントが高い企業です。
従業員が増えるにつれ、経営陣と社員の間に価値観のズレが生じるようになったことをきっかけに、「7つのルール」という独自の組織の指針を策定し、全社員がその指針に沿った行動を意識的に実践することで企業と従業員が同じ方向性を向くように工夫しています。
従業員エンゲージメント調査の実施方法は2つ
ここからは、従業員エンゲージメントの調査方法について紹介します。従業員エンゲージメントの調査方法は、大きく分けると「自社で行うケース」と「外部に依頼するケース」の2つです。
自社で実施するメリット
従業員エンゲージメントの調査質問の設計や方法の検討を自社で行い、実施する方法です。
メリット | デメリット |
---|---|
・実施方法や設問を自由に設定できる ・柔軟な調査が行える ・コストを抑えられる | ・専門性に欠ける ・すべて自分たちで行うことになる |
従業員エンゲージメントの調査を自社で行う場合、「調査を紙で行うのかWebツールを使うのか」「掘り下げたい内容に焦点をあてた設問を用意する」というように、自由度の高い調査を行えるのが大きなメリットです。
自社ですべてを行えば、外部の専門業者へ委託する方法よりもコストを抑えることができ、費用をかけずに導入できるというところも自社で行うメリットと言えます。
しかし、自社で行う場合、従業員エンゲージメントに対する知識やノウハウがなければ、調査を行っても専門性に欠ける可能性があるでしょう。適切なデータの回収ができず、有効的に活用することができない可能性も考えられます。
そのため、「初めて従業員エンゲージメントの調査を行う」という企業は、コストがかかりますが、より有意義な調査にするためにも、次に紹介する外部の専門業者に委託する方法も視野に入れ、検討することをおすすめします。
外部の専門業者に委託する
外部の専門業者に委託する方法は、従業員エンゲージメントの調査を行う専門業者に依頼する方法です。
メリット | デメリット |
---|---|
・実績や知見を持つ専門家からのアドバイスを受けられる ・専門性の高い調査ができる ・社内での工数削減が期待できる |
・自社で行うよりもコストがかかる ・利用するサービスによって、できることやできないことがある |
外部の専門業者へ従業員エンゲージメントの調査を依頼すれば、これまでの実績やノウハウを活かした専門性の高い調査を行うことができます。調査結果を専門的に分析してアドバイスやコンサルティングを行ってくれるケースもあり、より効果的な調査ができるでしょう。
また、従業員エンゲージメントの調査にかかる手間も、専門業者が請け負ってくれるため、多忙な担当者も一から準備をする必要がありません。社内の工数を削減できるというのも、外部の専門業者に委託する大きなメリットと言えるでしょう。
ただし、当然ながら外部に委託すればその分の費用がかかります。年間契約や従業員1人あたりいくらといった料金体系もありますが、1回あたりの相場は30~100万円前後です。
年に複数回調査を行うケースや、従業員数が多い企業は、その分コストも高くなりやすいという点には注意しましょう。
従業員エンゲージメント調査の種類
従業員エンゲージメントの調査には、いくつかの種類があります。本記事では、頻繁な調査で現状を把握するのに適した「パルスサーベイ」と、長いスパンでの比較に適した「センサスサーベイ」を紹介します。
パルスサーベイ
パルスサーベイのパルスは、「脈拍」を意味しています。言葉の通り、脈拍をチェックするように、短いスパンで、5~15問くらいの簡単なアンケートを繰り返し実施するのが特徴です。
頻繁に企業と従業員の関係性をチェックし、細かな変化の把握を目的としているため、週1~月1回程度の短い期間で調査を行います。
現状をリアルタイムに把握でき、設問数が少ないため、調査の実施・集計・分析にも時間がかからず、習慣化しやすい調査形式です。
ただし、設問数が少ないので詳細な状況の把握は難しく、頻繁に行うため、担当者の負担は大きいでしょう。また、調査のサイクルが短いため、施策の準備期間が短く、次の調査までに効果や有用性を感じにくいという点はデメリットです。
そのため、大きな施策ではなく、
- ・定期的な従業員の幸福度をチェックしたいとき
- ・新人がチームになじめているかを確認したいとき
- ・新制度の問題点や改善アイデアを探りたいとき
このような、状況をいち早く捉えて問題解決のための行動を迅速に行いたいときに「パルスサーベイ」を利用しましょう。
センサスサーベイ
センサスサーベイは、半年から年1回程度のスパンで行われる実施頻度の低い調査形式です。頻度は少ないですが、設問数は50~150問程度あり、1度の調査で潜在的な問題までを把握することができます。
多くの従業員を抱える企業や組織でも、詳細を把握し、情報をセグメントして結果を見ることができ、課題を多角的に捉えられるのが特徴です。
調査の実施頻度が少ないので担当者の負担が少なく、調査結果を受けて対策を検討し、実行するまでに十分な準備期間があり、効果検証を半年や年次間隔で比較することができます。
ただし、情報を細かく収集する分、分析に時間がかかり、対処すべき課題も多く見つかるため、施策の実施に時間がかかりやすいのはデメリットです。また、設問数が多いため、回答する従業員の負担にもなりやすく、回答率が低くなりやすいという傾向も見られます。
以上のパルスサーベイ、センサスサーベイの違いをまとめると、以下のようになります。
項目 | パルスサーベイ | センサスサーベイ |
---|---|---|
特徴 | 頻繁に企業と従業員の関係性を把握するのに適した調査形式 | 変遷を追うのに適した調査形式 |
目的 | 細かな変化の把握 | 根幹となる課題の可視化 |
調査規模 | 小規模 | 大規模 |
調査頻度 | 週1~月1回 | 半年~1年に1回 |
質問数 | 少ない (5~15問程度) |
多い (50~150問程度) |
メリット | ・リアルタイムな状況把握が可能 ・回答の負担が少ない ・調査や集計、分析がスピーディに行える ・習慣化しやすい ・1回あたりの費用が比較的安い |
・包括的かつ多面的な調査が可能 ・詳細の把握がしやすい ・頻度が低く、担当者の負担が少ない ・対策の検討や実行に十分な時間をとれる ・年次、半年間隔で比較ができる |
デメリット | ・設問数が少ないため、詳細の把握が難しい ・頻繁に行うため、運用担当の負担が大きい ・効果や有用性を感じにくい |
・分析に時間がかかる ・課題が多く、施策の実施までに時間がかかりやすい ・回答率が低くなりやすい ・集計担当の負担が大きい ・1回あたりの費用が比較的高い |
従業員エンゲージメント調査の指標
従業員エンゲージメント調査を実施する際の指標は、大きく3つあります。
エンゲージメント総合指標
従業員が企業に対してどのような評価をしているのかを把握するための指標が「エンゲージメント総合指標」です。
エンゲージメント総合指標を測定したいときの設問例 |
---|
・あなたは自分の会社を友人や知人にどれくらいすすめたいですか? ・今の仕事や会社にどれくらい満足していますか? ・今の会社で長く働き続けたいと思いますか? |
ワークエンゲージメント指標
ワークエンゲージメント指標は、仕事に対する熱量を測定するための指標です。「仕事に対するやりがい(熱意)」「仕事への取り組む姿勢(没頭)」「仕事を楽しんで働ける(活力)」などを確認することを目的としています。
ワークエンゲージメント指標を測定したいときの設問例 |
---|
・同僚が、仕事の質を高めようとしていると感じますか? ・仕事をしているとき、時間が経つのが早いと感じますか? ・「この仕事が得意だ」と感じることはありますか? |
エンゲージメントドライバー指標
仕事の難易度や満足度を測定するエンゲージメントドライバー指標は、従業員エンゲージメントを高める際に重要な指標となります。
エンゲージメントドライバー指標を測定したいときの設問例 |
---|
・自分が所属するチームの目標や戦略を把握していますか? ・直近1か月以内に、何かの仕事で認められたり、賞賛されたりしたことがありますか? |
従業員エンゲージメント調査を行う上で注意すべきこと
従業員の積極的な調査への参加を期待するのであれば、工夫が必要です。
従業員に対し調査の目的を明確に共有する
従業員エンゲージメント調査は、企業や従業員が抱える課題や問題を見つけ、施策を行って改善していくことが目的です。率直な回答を得られるよう、しっかりと目的を伝え、従業員に周知した上で行いましょう。
回答者の負担が増えることをしない
調査自体が従業員の負担になってしまっては意味がありません。現場の仕事状況をしっかりと把握し、負担にならないような設問数を心がけましょう。
調査結果は必ず報告をする
調査を行っても、その後の対応が見えづらいと、継続的な調査が難しくなります。集計から分析までを早く行い、結果を必ず報告しましょう。浮き彫りになった課題や問題にも素早く取り組み、その後の効果についてもきちんと報告することを意識してください。
従業員エンゲージメント調査を行って結果を有効活用しよう
従業員エンゲージメント調査は、会社と従業員のつながりを把握するための重要な調査です。従業員エンゲージメントの数値は、企業の業績などにも影響しやすいため、しっかりと調査を行い、そこで得た結果を改善施策に活かしましょう。
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