開館20周年を記念した企画展として、パナソニック出身で、石川県金沢市を拠点に活動する金工作家・重要無形文化財「彫金」 保持者(人間国宝)、中川衛(1947年生まれ)を紹介する展覧会を開催しました。中川の金工象嵌制作に一貫して息づくデザインの精神と伝統技法の継承を目指すさまざまな取り組みに着目し、初期の象嵌作品から最新作までを辿るとともに、プロダクトデザインや加賀象嵌の名品、現代アーティストとのコラボレーション、中川から技を受け継ぐ次世代の作品まで、作品と資料を合わせて約130点を展覧しました。
開館20周年記念展中川 衛美しき金工とデザイン
展覧会レビュー
Ⅰ 工業デザインの精神
第1章では、中川衛の工業デザイナーとしての出発点と足跡に焦点を当てました。金沢美術工芸大学で工業デザインを専攻した中川は、1971年に大阪の松下電工株式会社(現パナソニック株式会社)に入社し、美容家電製品などのデザインに携わります。3年後に石川県工業試験場に転職してからも、デザイナーとして県の伝統的工芸品のデザインを手がけていました。本章では中川自身の学生時代の課題制作や、電気シェーバー原画や社員日誌など会社員時代をうかがわせる貴重な史料を展示した他、パナソニックの歴代美容家電製品をアーカイヴするHIKONE KIZUNA館や、パナソニックミュージアムとも連携し、中川が活動した時期の背景にある1970年代の工業デザインの一端を紹介しました。
Ⅱ 象嵌のわざと美
「工芸も工業デザインも創作の展開は同じである」と語る中川衛は、企業で身につけたデザイナーとしての制作手法を生かし、金工の試作を重ね、日常生活にヒントを得たフォルムと、自身の記憶から紡ぎ出した抽象文様により、現代的な象嵌の作風を築きます。中でも複数の金属で構成した難易度が高いとされる「重ね象嵌」を極めていきました。第2章では、本展のハイライトである中川の初期から最新作までの象嵌作品を辿るとともに、中川が師事した彫金家の高橋介州(1905〜2004)の代表的作品もあわせて展示し、金工象嵌の精髄を見つめました。日本伝統工芸展初入選作品など中川の初期の優品や、金沢や海外で取材したモチーフを精緻な象嵌に昇華させた円熟期の名品などが一堂に会する機会となりました。
Ⅲ 国境と世代とジャンルを超えて
重要無形文化財保持者である中川衛は、現代を生きる人々に親しんでもらえるように様々な角度から象嵌のわざの伝承と普及に尽力しています。第3章ではその軌跡として、象嵌を追求する次世代の金工作家や、中川の海外での技術指導、中川と異分野の作家とのコラボレーションの様子などを紹介しました。
イベントレポート
記念講演会「金工とデザインについて」
本展出品作家の中川衛氏をお招きし、象嵌の技法やデザインの考え方について講演をしていただきました。自身の作品の背景やアイディアなど、出品作品への関心を高める話題が豊富な講演会となりました。
- 講師
- 中川 衛氏(重要無形文化財「彫金」保持者、本展出品作家)
- 実施日
- 2023年7月15日(土) 午後2時~午後4時
- 会場
- パナソニック東京汐留ビル 5階ホール
夏休み特別プログラム「FUTURE LIFE FACTORY レトロ家電ハックプロジェクト “リミックス“」
親子で体験!リミックスラボ「 絵×音 かいて、きこう 」
中川衛氏がパナソニックのプロダクトデザイナーとして活動していたことに因み、パナソニック株式会社 デザイン本部のデザインチーム、FUTURE LIFE FACTORYによる体験型ワークショップを開催しました。リミックスは、キャビネット家具調ステレオ「SUPER PHONIC HE-3000」のレコード針をカラーセンサーに置き換えることで、レコード盤状のシートに描かれた絵を音に変換して音楽を奏でる、レトロ家電がいわば新しい「楽器」に生まれ変わったものです。本ワークショップで参加者は、実際にリミックス専用レコードに自由に着色し、自分だけのレコードによる自分だけの音楽をお楽しみいただきました。
- 指導・
おはなし - 鈴木 慶太(パナソニック株式会社 デザイン本部 FUTURE LIFE FACTORY)
- 実施日
- 2023年8月5日(土)
午前の部:10時30分~12時、
午後の部:14時~15時30分 - 会場
- パナソニック東京汐留ビル 2階