ルオーコレクションパナソニック汐留美術館のルオーコレクションについて

ルオー・ギャラリー
テーマ:ルオーのマティエール(2023年)

当館のコレクションとルオー・ギャラリーについて

フランスを代表する20世紀の画家ジョルジュ・ルオー(1871〜1958)による初期から晩年までの絵画、そして『ミセレーレ』、『流れる星のサーカス』、『悪の華』などの代表的な版画作品を合計約260点収蔵しています。館内のルオー・ギャラリーでは、初期から晩年までのルオーの代表作を常時テーマ展示しています。

「高精細でよみとくルオーの絵画」(6分25秒)

コレクションより

夜の風景 又はよきサマリヤ人

1897年
木炭・水彩・パステル /紙
70×96.7㎝

ルオーの美術学校時代に描かれた最初期の作品。近代社会に実在する下町の集合住宅や建設現場の足場、工場の煙突などが描かれ、それまで取り組んでいた古典主題から自身を取り巻く現実社会へと主題が移行する過渡期の作品である。新たな主題の発露が見られる一方、描法はモロー教室時代に培った木炭やパステルによる柔らかい明暗法が極められ、画面はレンブラントの絵画のような詩情を湛える。ほぼ同サイズで同じ時期に描かれた作品としては、本作と対をなすオルセー美術館所蔵≪夜の風景 または 作業場での乱闘≫(1897年)がある。

作品解説

手品師 又はピエロ

1907年
油彩、水彩/厚紙
42.7×33.1㎝

ルオーが繰り返し取り組んだ主題の一つにサーカスがあるが、そのうちの初期に描かれた様々な道化師像の中でもとりわけ優れた作品である。ルオーの道化師としては珍しく、手品を披露する道化師の全身像がのびやかな筆さばきと明るい色調で描かれている。自由な描線と青と白を基調とし、紫、ピンク、黄色など豊かな色彩が塗り重ねられている様からは、友人のマティスらが創出したフォーヴィスムの流れにルオーもいることを感じることができる。

作品解説

裸婦

1908年
油彩/紙
42.7×33.1㎝

裸婦はルオーの初期作品において重要な主題のひとつである。《裸婦》では、腕を後ろに回してポーズをとるモデルの身体が、太い線で力強く描かれる。本作は日本近代洋画の巨匠梅原龍三郎の旧蔵品。梅原は、1908年にパリに留学した際、ルオーの作品の力強い色彩や筆の力に衝撃を受けた。その後、2度目の渡仏時に、友人を通して念願のルオー作品を手に入れ、1921年に日本に持ち帰った。それが本作とされている。日本に将来した初めてのルオー作品と考えられており、近代日本のルオー受容を考察するうえで、重要な作品である。

作品解説

「肌黒きわが美人たおやめよ、君、眠りて…」
『悪の華』のために版刷された14図より

1927年
エリオグラヴュール、スクレイパー、ドライポイント他/紙
26.5×35.8㎝

『悪の華』は、1857年に発表されたフランスの代表的詩人シャルル・ボードレールの詩集である。ルオーはこの詩集の挿絵を画商アンブロワーズ・ヴォラールに依頼されて、1926年から1927年にかけて制作した。戦争勃発とヴォラールの死という妨げによってこの銅版画集の発行は頓挫し、刊行されたのは完成から39年後の1966年である。ここに収められている14点のモノクロ銅版画は、原文を解釈する従者としての挿絵ではなく、画家自身が詩集の内容に迫り作り上げた作品集である。

作品解説

眠れ、よい子よ
『流れる星のサーカス』より

1935年
シュガー・アクアティント、アクアティント/紙
30.8×21.3㎝

詩画集『流れる星のサーカス』には、サーカスを主題とした17点の多色刷り銅版画とルオーによる詩、ルオーの下絵による木口木版画82点が収められている。1920年代以降のサーカスを描いた作品は、ルオー芸術の重要な要素「色・形・ハーモニー」がいっそう協調され、輪郭と色彩が和音を奏でるようになる。この版画集で描かれる人物たちは動的というよりもむしろ寡黙であり、画家はそうした彼らの姿を描くことで、社会の底辺に生きる彼らの人間としての真の姿をみつめていた。

作品解説

キリスト

1937-38年
油彩/紙(麻布で裏打ち)
68.2×49㎝

ルオーにとって最大の版画集である『ミセレーレ』の第2図のヴァリアントである。モノクロームで沈鬱な表現が主題を深化した版画集とは異なり、色彩が主題の意味を高めている。キリストの周縁をわずかに照らす黄色は聖なる存在の後光を暗示し、その光がやがて暗い夜空に吸収される様を豊かな諧調の青が表現する。何よりも印象的な雲の朱は、キリストの受難を象徴するとともに、画面を構成する重要な要素として機能している。

作品解説

秋の夜景

1952年
油彩/紙(麻布で裏打ち)
74.8×100.2㎝

秋はルオーが最も愛した季節であり、刻々と色彩が変わる黄昏時もまた好んだ時間帯だった。前景では母子がキリストの祝福を受け、水平と垂直による強固な構成の上に暖かな日差しの名残を惜しみつつ暮れていく光と、月の柔らかな光が交錯して、画面の奥から発光するかのような濃密な色彩が、平和で神秘的な情景を現出させている。これは、晩年自らの宗教的ヴィジョンを表した一連の「聖なる風景」という独自の風景画の到達点でもある。

作品解説

マドレーヌ

1956年
油彩/紙(麻布で裏打ち)
49.1×34.2㎝

晩年のルオーが好んで描いた女性像の中の一点。キリスト伝に出てくるマグダラのマリアともされるが、サーカスの人気女道化師マドレーヌを描いたものである。ルオー晩年の女性像には、このようにサーカスの娘たちに聖書の登場人物の名前がついていることが多い。目のはっきりとした明るい微笑を浮かべる女性の顔には、黄色や赤、緑や青など豊潤な色彩が用いられている。陽気な若い女の生命の輝きが画面いっぱいに広がる。

作品解説

ジョルジュ・ルオー(1871〜1958)

パリ生まれ。ステンドグラス職人のもとで見習いの後に国立美術学校に入学、ギュスターヴ・モローに師事。1903年、師の遺言によりモロー美術館の初代館長に就任、この頃から道化師や娼婦を題材とした作品を発表する。1914年からは画商ヴォラールのために版画も制作し、1918年以降は宗教的主題を多く描く。晩年の油彩画はルオー独自の輝くような色彩を特徴としている。