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2021-22Vリーグ
開幕直前インタビュー/
ティリ ロラン監督

2021年10月11日

ティリ・ロラン監督インタビュー コートは舞台、選手は俳優。もっとアグレッシブになればもっと向上できます ティリ・ロラン監督インタビュー コートは舞台、選手は俳優。もっとアグレッシブになればもっと向上できます

面白く、レベルの高いVリーグ。「日本のバレーボールが変わるのは当然」

昨シーズンはVリーグのレベルもわからず、選手のこともわからない。新型コロナウイルスの影響で合流も遅れてしまいましたが、チームに加わり、日本の文化、練習の仕方、日本人ならではの考え方やバレーボールに取り組む姿勢に触れ、私自身も多くの学びを得たシーズンでした。
これまでも(フランス代表監督として)日本代表チームを見る機会は多くあり、日本選手のことも知っていましたし、レベルが高いことも理解していました。でも、実際にVリーグを戦う中で日本のバレーボールの素晴らしさは想像以上でした。非常にクリエイティブでシステムも構築されていて、攻撃の展開もよくスピードがある。ディフェンス面も1人1人のレベルが高く、パスが上手でミスが少ない。海外リーグと比べても非常に面白いリーグです。実際、フランスリーグはここ1、2年、上位と下位のチームで大きな実力差はなくなってきましたが、数年前までは上位と下位の実力差が大きかった。対して日本はと言えば、順位ほどの実力差はありません。土日で連戦することもハードですし、毎週集中して戦わなければならず、少しでも油断すればどのチームにも負ける可能性がある。そして、すべての試合を集中して勝ち続けなければ決勝トーナメントへ進むこともできません。これも非常に日本のVリーグがレベルの高い、面白いリーグであることの証明です。
そしてフランスリーグのように、プロ選手がプレーするプロリーグは毎年選手や監督、チームがガラッと変わっていくのは当たり前ですが、日本は大きな変化がない中に、毎年大学を卒業した若い選手たちが加わり、外国人選手が加わり、チームが変わる。これも私にとっては非常に魅力的で面白いですね。
そこに我々のチームではクビアク・ミハウ選手という素晴らしい選手がいるように、バルトシュ・クレク(ウルフドッグス名古屋)選手、ドミトリー・ムセルスキー(サントリーサンバーズ)選手という世界的にも素晴らしいオポジットがいる。素晴らしいオポジットがいれば、彼らを活かす、そして攻略する。彼らの攻撃に対応すべく、リーグ全体のレベルも上がります。日本は各チームの選手数も多いので、1人1人のレベルも向上しますし、それがナショナルチームにもつながっている。若い石川(祐希)選手や西田(有志)選手が海外へ渡り、日本でもVリーグで選手が力をつける。日本のバレーボールが変わっていくのは当然のことだと思います。

ベストな選手を送り出す。その背景にある「信頼」と「6対6」

パンサーズの選手たちも、全員が“チーム”となり、全員が成長しました。もともと彼らはとても勤勉ですが、昨シーズン、私が就任してから彼らは私がスタメンを必ずしも固定するのではなく、誰にでもチャンスが与えられるということを理解しました。年齢、キャリアに関係なく、その日、その週とてもベストな状態である選手がいれば、積極的に試合で使う。選手たちは練習から100%の力を発揮しますし、そんな彼らを私も信頼しているので、誰をコートに送り出しても必ず活躍してくれました。特に象徴的だったのが、ファイナル3のウルフドッグス名古屋戦ではないでしょうか。チームによっては最初にスタートからコートへ立つ6、7人だけで最後まで試合が終わってしまうこともあり、コートに立たたないまま試合を終えてしまう選手もいます。ですが、いくらスタートで出る選手が優れているとはいえ、必ずしも毎回その選手たちがいいプレーをし続けるわけではなく、ケガをしてしまうこともあるかもしれない。だから私はどんな状況でも、誰が入っても活躍できるように普段の練習から6対6のゲーム形式の練習をしてきました。
日本ではコンビ練習やレシーブ練習など、個々のプレーに分けた練習が多い中、最初から6対6の練習をすることに選手も驚いていましたが、すぐに慣れてくれました。殆どの監督は、6対6の練習でほぼ9割以上、スタメンチームとスタメンで出られない選手のチームを戦わせるのではないでしょうか。もちろんそれも間違いではありませんが、ずっとそのままでは何か試合中にアクシデントが起きた時や、調子の悪い選手が出てきた時に解決策がない。だから私は6対6でもメンバーを固定せず、全員を混ぜて練習をしていますし、常に全員をミックスしているのでどんな状況でも試合に出ていく選手に信頼感があります。私だけでなく選手たちにとっても、6対6でさまざまなシチュエーションに対応してきたから、実際の試合でタフな状況になっても活躍できた。仲本(賢優)選手、新(貴裕)選手、小宮(雄一郎)選手、兒玉(康成)選手、大竹(壱青)選手、ファイナルラウンドでも彼らは期待に応えてくれましたし、全員がコートに立ったのは我々のチームだけです。私は何よりそのことを誇りに思いますし、Vリーグと天皇杯、二度優勝を逃して悔しい思いをしましたが、チーム全員でつかんだ準優勝という結果も誇りに思います。

監督の仕事は答えを「与える」のではなく、答えに「たどり着ける」ようにすること

成長したのは選手だけでなく、私も同じです。日本に来て、Vリーグの素晴らしさやレベルの高さを知っただけでなく、私は日本人の考え方を学ぶことができました。日本は上下関係があり、先輩や年上の選手、監督、コーチに対して非常に礼儀正しく、敬意を持って接します。もちろんそれは素晴らしいことで、悪いことではないのですが、バレーボールという一面を見れば、少し気にかかるところもあります。それは何か。監督からの指示を受け、従うことは大事ですが、実際に試合をするのは選手です。監督やコーチからの戦術や勝つための方法を、最終的にどう発揮すべきか考えて実践するのは選手です。だから上下関係をなくしたほうがいい、というわけではありません。もう少し緩やかに、選手ももっとアグレッシブになればより向上できるのではないでしょうか。コートを離れた普段の彼らは優しくて賢い、それぞれの個性を持っています。でもコートは舞台。そして選手は俳優です。仮面をかぶり、演技をするのと同じように、コートに入れば舞台で演じる。コートと普段の生活は全く別のものです。私自身、選手たちには多くの指示を出すことはありません。むしろ私がするのは、選手がどんな状況になっても、自分が解決する、考える、感じる環境にすること。「こうすればいい」という正解は言いません。だから私は練習中も試合中も、選手が何度エラーをしても咎めることはしません。それよりも、いいプレーをしたら「今のはよかった」と言う。なるべくポジティブに指導をしたいと思っています。なぜなら、「これがいい」と褒められたこと、認められたことが選手にとって正解であり自信になるからです。
少しおかしな例えかもしれませんが、歩く前の赤ちゃんと同じです。赤ちゃんに「こうしたほうがいいよ」と言ってもわかりませんよね。それならば、どうやって進めば安全なのか、環境を整えて危険ではない道に進ませるイメージを持たせる。私が選手たちにしているのはまさにそれです。「こうしなさい」と与えられた答えをするのではなく、自分で答えにたどり着けるようにする。そうなれば選手は、監督がいなくてもプレーできます。だから、監督は全然大事な存在ではないんですよ(笑)。

東京五輪でフランス初の金メダル。「すべての経験、知識をシェアしたい」

2012年にフランス代表の監督となって9年、今年の東京オリンピックで私たちはチャンピオンになることができました。本当に素晴らしいことで、正直に言えば、まだ本当に優勝した、と実感していません。まるでおとぎ話のようです。
勝つために大切なことは3つ。1つ目は作戦、戦略を組むこと。そして2つ目が目標を定めること。そして3つ目が「運」を持つことです。この9年、私の一番の自慢は常に練習は楽しく、選手たちが「やりたい」という気持ちで臨めたということ。これは本当に誇りに思っていますし、東京オリンピックでもまさにその成果が表れました。東京オリンピックに臨む前、当然ながら私たちはメダルを目指していました。でも実際は予選のグループリーグであわや敗退という危機的状況に見舞われた。そうなった時、私たちは負けることを恐れたり、相手を過度に意識するのではなく、自分たちがどんなバレーボールをしてきたか。我々のすべきことだけを見ていました。その結果、予選を突破することができ、準々決勝ではポーランドと対戦しました。世界選手権を二度制したポーランドは素晴らしく強いチームで、金メダルを狙うチームでしたが、そのチームに勝つための方法を私たちは理解していました。まずサーブで相手に点を取られず「パスを返す」ことです。クレクやウィルフレド・レオンのように、素晴らしいストロングサーブで点数を獲られるのは仕方がない。でも彼らほどの威力がない、たとえばミドルブロッカーの選手たちがコースを狙うようなサーブは必ず返し、攻撃をする。自分たちがすべきことだけに集中していた結果、「勝たなければならない」というプレッシャーは、私たちではなくポーランドへと移りました。そして気づけば、すべてのスタッツでポーランドが上回ったにも関わらず、私たちはこれまで一度も上回ったことのないブロックで彼らを上回った。そして勝つことにとらわれず、戦える喜びを持って、すべきことに集中した結果、優勝、金メダルという素晴らしい結果にたどり着くことができました。
オリンピックチャンピオンチームの監督。そう見てもらえることは嬉しいですが、私はなるべく自分らしく、「指導をする」のではなく、私が得た経験を多くの人たちとシェアしたいと思っています。
なぜなら私もこれまでたくさんの人たちから学び、知識を得てきました。アメリカ女子代表で金メダルを獲ったカーチ・キライ、彼とも多くの情報を共有して、これはいい、と思うことを自分の考えに取り入れた。1964年(女子)、72年(男子)にオリンピックを制した日本からもたくさんのことを学び、松平(康隆)さんの本も読みました。
今回、フランス代表チームの選手たちの中には2016年のリオオリンピックを経験した選手もいれば、経験していない選手もいました。私も経験しましたが、あまりいい結果は出せず、あえて周りの人たちにリオの話をすることはありませんでしたが、東京へ旅立つ直前、私は(前回出場した)彼らに「リオの経験を伝えてくれ」と話しました。選手の考え、経験は何よりも深く心に刺さると考えたからです。
素晴らしい経験をしたからこそ、多くの人たちにシェアしたい。その考えは日本に来ても変わりません。オリンピックを見て、日本代表、そしてクビアクやクレク、もしかしたら私にも注目して下さり、ファンやメディア、多くの方がVリーグにも興味を持ってくれることでしょう。きっと、もっとバレーボール人気も高まると信じています。
私もまだまだ学び、自分の経験を選手はもちろん、より多くの人たちにもシェアしていきます。
さらに成長するパンサーズを、どうか楽しみにしていて下さい。

ティリ監督のサイン