今週は、ブロンコと呼ばれる体力測定からスタート。20m、40m、60mのシャトルランを5セット、計1,200mを走るフィットネステストである。
苦痛の表情を見せる選手も多い中、事前に設定された目標タイムを超えるべく、各自で戦略を立て記録更新に挑んだ。
短いオフを挟んで、来週からはいよいよ戦術練習が本格的にスタートする予定だ。
★★★ 今週のピックアップ ★★★
笹倉康誉選手&丹治辰碩選手
練習中、言葉を交わすことの多い笹倉康誉選手と丹治辰碩選手。
試合中はクールで鋭い視線が印象的な2人だが、グラウンドを離れれば一転、柔らかい雰囲気を醸し出す。
8歳の年の差は、笹倉選手にとって「丹治は夏休みに会う元気で可愛い親戚の子ども」のよう。一方の丹治選手は、笹倉選手が「目標とする先輩像」だという。
同じフルバックというポジションで切磋琢磨する2人に話を聞くと、共通の趣味で笑顔が溢れるインタビューとなった。
――さくらオーバルフォートでの練習がスタートしました。熊谷での生活には慣れましたか
丹治ご飯の美味しいお店が多いですね。フレンドリーなおばちゃんが営んでいる定食屋さんを見つけたり、ご飯屋さんを巡ったり、熊谷ライフを楽しんでいます。何より新幹線が通っているので、東京の実家に帰る時がとても楽になりました。快適です。
笹倉僕は猫を飼っているので、物件探しのハードルが高いんですよね。なかなかタイミングが合わず、まだ引っ越せてはいません。
――火曜日には、シーズン最初のブロンコテストがありましたね
笹倉体的にキツいのはもちろんですが、ポジションごとにクリアしなければならないタイムがあるのでメンタル的にもキツかったです。フィットネスの計測があると、前日から緊張してしまうタイプなんですよ。それでも今回は、自己ベストを更新することが出来ました。
丹治僕はフィットネステストが得意な方です。ブロンコはいつも4セット目まで何も考えずペースメーカーにしている先輩の背中を追いかけ、最後の1セットで残っている体力を出し切る戦略をとっています。ですが今回はその先輩の調子が悪かったらしく、4セット目辺りで「あれ?遅いぞ?」と気付いて(笑)。そこから全力で走ったのですが、自己ベストには届きませんでした。
――笹倉選手は、チーム名がパナソニック ワイルドナイツに変わった年に入団しました。昨シーズンはパナソニック ワイルドナイツとして最後の優勝、いかがでしたか
笹倉最後だから、というよりも、久しぶりの優勝が素直に嬉しかったですね。
優勝できなかった間、コアメンバーとしてチームをまとめる立場だったこともありました。逆を言えば、コアメンバーだった時に優勝が出来なかった。だからこそ「何をしたらいいんだろう」と考えることも多かったです。
コアメンバーでなくなった昨シーズン、自分のやるべきことが明確になった気がしています。これまでは「どうしたら自分が試合に出られるか」ばかり考えていたのですが、昨シーズンは「僕個人で頑張って試合に出るよりも、出ないメンバーと一緒にチームの底上げが出来た方が、チームを勝たせられるのではないか」と考えるようになりました。試合に出ないナイツメンバーがどういう姿であれば、試合メンバーが本番で良い試合できるか、と考えながら過ごしていましたね。
――コアメンバーだった時にも、チームのことを考えていなかったわけではないと思います。具体的に何が変わったのでしょうか
笹倉当時は試合にも出ていたので、ギラギラしていたというか(笑)「どうやって活躍してやろう」ということばかり考えていました。
でも昨シーズン、一歩引いて俯瞰した目でチームを見た時に「ナイツで頑張って、試合メンバーをサポートしよう」という気持ちに変わったんですよね。実はシーズン中、プライベートでも色々と考えることがあり、2月・3月辺りは本当にしんどくて。そんな時にサウナに行って「とりあえずやれることをやるか」と気を落ち着けました。改めて振り返ると、成長したシーズンだったな、と感じます。牙が抜けましたね(笑)
――昨シーズンはウォーターとしてグラウンドに立っていました
笹倉ロビー(ディーンズ監督)さんからメッセージを頂いたことがきっかけでした。最年長の経験を活かして、イヤホン越しにコーチ陣から届く言葉を、選手たちに的確にアドバイスして欲しい、と言われシーズン通してウォーターを務めました。
試合中には、コーチたちと同じ話を選手たちが円陣で話していることも多くありました。選手たち自身が問題点を話し合えていたら、僕は余計なことを言わないようにしたり、選手のテンションと上で見ているテンションが違う時には、僕の匙加減で調整したり。選手たちは自律して考えていますからね。
あとは何よりウォーターという名の通り、全力疾走で水を運ぶことを第一に気を配りました。コロナ対策としてボトルは一人一本に変わり、且つ水とスポーツドリンクの2種類を持たなければいけないので、本当に重いんです。でも選手たちは水を待っているから、なるべく早く選手たちに届けたい。だから毎回全力でダッシュしていました。ルール上、グラウンド内に入ってはいけないタイミングもあるので、体力だけでなく神経も使った役職でしたね。
――丹治選手は学生時代、ラグビーから離れた時期があると伺いました
丹治小学2年生でラグビーを始めたのですが、高校時代は惰性で続けていました。試合前の週末だけ練習して試合に出るという時期もあり、「ラグビーは高校まで」と決めて花園に出場したことを覚えています。
大学では、新しいスポーツを始めるか海外に行くか、どちらかを考えていました。まずは新しいスポーツをと、アメフトに挑戦しましたが、ラグビーと似ている競技だからこそちょっとした違いがストレスになり、楽しめないんですよね。最終的には防具を着けていることにすらフラストレーションを感じて(笑)。
それでアメフト部を退部し、海外留学に踏み出しました。1年生の夏休み、イギリスへ短期留学したところ、せっかくなら地元のラグビークラブでやってみたら?と高校時代の監督がアドバイスをくれたので再びラグビーに触れたんです。ちょうど帝京大学ラグビー部がイギリスに来ていて、ケンブリッジ大学OBクラブとの試合が組まれており、僕はケンブリッジ側で出場させてもらったりもしました。
そうした事を含めイギリスでラグビーに触れたこと、帰国したタイミングで日本代表が南アフリカに勝った試合を見たこと、そして高校時代の仲間が出場する大学の対抗戦を見始めたことで「やっぱりラグビー」という気持ちが湧いてきました。数か月悩みましたが、覚悟を決め、大学2年の春に当時監督だった金沢篤監督(現ワイルドナイツBKコーチ)に「ラグビー部に入部させてください」とお願いしました。
アメフトをしたりイギリスに行ったりしていなければ、ラグビーに戻りたいと思わなかったでしょう。あの時間が大切だったんだと今は感じてます。
――大学卒業後の進路としてワイルドナイツを選んだ理由を教えてください
丹治最初は普通に就職しようと思っていたのですが、色々な人と話す中で、これまでの人生『その時やりたいことを本気でやってきたな』ということに気が付きました。だから社会人になるタイミングでも、今の自分がやりたいことをやった方が自分らしい、と思ったんです。
大学最後の年、怪我をしていて納得の出来る終わり方ではなかったんですよね。そこで、能力を出し切りたい、という自分の素直な気持ちに従って、ラグビーを続けることにしました。
ワイルドナイツを選んだのは、何より雰囲気が自分に合ったからです。平均的なスキルも高いですし、「成長出来そうだ」と思いました。
――加入して丸2年が経ちました。どのような部分に成長を感じますか
丹治ラグビーについて考える時間が圧倒的に増えましたね。1年目は試合に出られず悔しくて、2年目こそは、と思って昨シーズンは普段の練習から全力でプレーしました。ですが、調子良いなと思った矢先に怪我をしてしまって。
先ほどのチャチャさん(笹倉選手)の話ではないですけど、僕はまだ「どうやったら試合に出られるか」ということをずっと考えています。そこに対して考える量が圧倒的に変わったのと、その課題に対してアプローチする量も変わりました。そこが一番、成長したと思います。
――練習中2人で会話する姿をよく見掛けます。どのような話をされているのでしょうか
丹治動きのこととかですかね。次のメニューの動き方について、チャチャさんが優しく教えてくれます。
笹倉丹治がふざけるのをたしなめながら、リラックスした会話も多いですよ(笑)
――8歳差のお2人ですが、互いにどのような存在ですか
丹治ラグビー選手として凄く頼りがいのある方です。スキルに加え、信頼度合も高いので、一緒にフィールドにいたら落ち着いてプレーできます。
いずれ後輩が増えた時には、笹倉さんのような存在になりたいと思っています。優しいことはもちろん、チャチャさんや堀江(翔太)さんのような先輩方には壁がない。だからこそ、今のワイルドナイツの雰囲気が作られているのだと感じます。
笹倉丹治がそんな風に思ってくれているとは意外でした。僕は三宅 敬さん(OB)を尊敬していますが、三宅さんはラグビーでは凄く怒るのに、練習が終わったらそんなこと関係なしに遊んだり、チームが一つになるようなイベントを考えてくれました。そんな先輩になりたいと思っていたので、嬉しいです。
――笹倉選手にとっては、丹治選手はどんな後輩ですか
笹倉夏休みの少年、ですかね(笑)可愛い親戚の子ども、みたいな(笑)
あ、でもウエイトの時には頼りになります。鍛えたい箇所を言うと、良いメニューをすぐに教えてくれますね。
あとは、外気浴が出来るサウナ情報もよく交換しています。
丹治外気浴が出来ないとダメですね。その瞬間に、幸せを感じるセロトニンが出されるので外気浴は必須です!
――2人でサウナに行くこともあるのですか?
笹倉サウナは1人で行くものです。水風呂に入る時間とか、人によって違うんですよ。
丹治コロナ禍で黙浴が推奨されていますしね。1人で行って、帰りに窓開けて車を運転している時が一番気持ち良いです。
笹倉めっちゃ分かる!!
――来たるシーズンに向けて、意気込みをお願いします
笹倉もちろん優勝が目標ですが、バックスとして考えるならば、昨年成功率が低かったプレーの精度を高めることが第一です。世界トップレベルのラグビーが出来るよう努力を惜しみません。
試合に出られるのであれば、ポジションにはこだわりません。フルバックは馴染み深いですが、ボールタッチの多いセンターやスタンドオフも楽しいです。様々なポジションを出来ることが僕自身の強みだと思っているので、出たポジションを楽しみたいです。
でもそれ以上に、日々の練習で自分のレベルを上げられるように、毎回の練習で自分を追い込みたいと思っています。「明日死ぬかもしれない」という気持ちで、練習に臨みます。
丹治試合に出たいです。僕、人生で今が一番、ラグビーしたいです。とにかく大勢のお客様の前でラグビーがしたい。
笹倉燃えてるじゃん!いいじゃん!出していこう、そういうの!
――最後に、ファンの皆様へメッセージをお願いします
丹治練習見学が再開し、ファンの方々を身近に感じられるので元気が出ます。応援がエネルギーになっています、凄く嬉しいです。
今後少しずつでもそうやって直接応援して頂く機会が増えれば、より僕たちの力になると思います。これからも応援よろしくお願いします。
笹倉昨シーズンは無観客試合もありました。試合に行けなくても、TVで見たよ!とメッセージを送って頂けることが凄く嬉しかったです。応援されることは幸せなことだな、と改めて感じることが出来ました。
だけどやっぱり選手としては、直接見てもらえるとより力が沸いてきます。いまは直接触れ合うことは出来ませんが、練習見学の出来るチームは日本でワイルドナイツだけなので、ぜひみなさん感染対策の上お越し頂けたら嬉しいです。
(&rugby/原田友莉子)