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パナソニック・ホーム 現在のページは、isM トップ > の中の進化し続ける“包装” 〜松下の包装技術〜 > の中の第3回 トウモロコシから包装材「生分解性プラスチック」のページです。

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カワイイファクトリー進化し続ける”包装”〜松下の包装技術〜
石油からとうもろこしへ


店頭で、ぶら下げ式で並べられるパッケージを、業界では「ブリスターパック」と呼んでいる。これは米国で始められた包装スタイルだが、今ではすっかり世界に浸透した。松下のパナソニックブランドの乾電池も、この方式で包装され、多数のアイテムが店頭に並んでいるが、単3乾電池4本入りのブリスターパックに限り、実は2003年6月1日より、とても大きな変化が起こっている。

ただ、気がついている人は少ないかもしれない。外見は変わっていないのだから。では何が変わったのか……。

ずばり、パッケージの材料が変わったのだ。もちろん、プラスチックであるにはあるのだが、その原材料が石油ではなく、何と、トウモロコシ。といっても、食べられるわけではない。トウモロコシのでんぷんを科学的に変化させ、プラスチックにしてしまうという、信じられないような技術を実用化したという次第。この素材は「植物系生分解性プラスチック」と呼ばれ、石油系の素材に変わる次世代型素材として、現在、多くの注目を集めている。

ほとんどのメーカーが石油由来のプラスチックに今も依存しているなか、電池包装として先陣を切ってこの新素材を取り入れたのが松下だ。そこで今回は、最先端素材による包装の先駆者として開発に挑んだ人々の核心に迫る。





松下電池工業内のショールームにて、パッケージ開発リーダーの熊倉勝彦さんから生分解性プラスチックについて説明を受ける筆者ら。



2003年6月に発売された100%植物系生分解性プラスチック採用の単3乾電池4本入りブリスターパック。世界初の試みで、環境問題に対する姿勢を示す。95年の脱塩ビ化、99年の同一素材化に次ぐ、環境調和による新高付加価値パッケージとなった。


植物系生分解性プラスチックって?


植物系生分解性プラスチックとは、使用後に自然界に還る素材(バイオ生分解素材)の1つで、石油系以外の植物系材料でつくられたプラスチック。土中にこれを放置すると微生物のはたらきによって、最終的には水と二酸化炭素に分解(生分解)されて自然界に還るというものだ。

この新しいタイプのプラスチックにはいくつか種類があるが、松下の乾電池包装はトウモロコシのでんぷんから作成したポリ乳酸というプラスチックを採用している。でも、どうしてトウモロコシがプラスチックになることができるのか。

簡単に言ってしまうと、プラスチックは高分子材料だから、植物も成分中に含まれる糖を変化させ高分子化してやれば、プラスチックになる。信じがたいが、これは本当だ。糖はデンプンに含まれているから、トウモロコシだけではなく、さとうきびやジャガイモ、サツマイモなどでんぷんを含む有機物ならなんでもポリ乳酸になる。







生分解性プラスチックをつくるための第1行程は、トウモロコシから、このようなでんぷんを抽出すること。

石油系のPET(上段)と植物系生分解性プラスチック(下段)のパックをそれぞれコンポスト試験にかけると、植物系生分解性プラスチックのほうは微生物の力により試験開始から5日目で、かなりの分解が進み、15日目でチリ状態になることがわかる。


生分解性プラスチックの可能性にかける松下


生分解性プラスチックに多くの期待が集まっているのは、97年の地球温暖化防止京都会議の京都議定書で交わされた二酸化炭素の削減に大いに有効だから。加えて、あと50年もしないうちに石油資源は枯渇するとも言われており、プラスチックの原料を別のものに求めていかなくてはならないという現状がある。

だが、現状ではまだコストが高すぎて、一般にはほとんど流通していない。実際、今回の乾電池パック材料のコストは従来品の約3.5倍。しかし、いくら環境にいいからといって、製造コストを製品価格に転換し、値上げを強いることはできない。よって、松下は製品価格をこれまでと同水準に維持している。

「包装のコストはできるだけ低く」が、新パッケージ開発の鉄則と思っていたのだが、これはどうしたことだろうか?
第1回にも登場いただいた松下電池工業のパッケージ開発チームのリーダー、熊倉勝彦さんはこう説明する。
「確かに、割高です。ですが、お客様のことを考え、やはりいいものを提供していきたいという思いが強いのです」。

営業からパッケージの企画部門に移ってきて16年以上という熊倉さんは、「メーカー評価はお客様がするもの」というのが持論。そこでパッケージ開発では、お客が喜んでくれるのはどんなことかを常に考えてきたという。休みの日は、コンビニエンスストアや量販店へ出かけ、お客の反応を観察し、商品の配置をチェックしてはいろいろと頭を巡らすという。その熱意があったからこそ、「見わけるパック」をはじめ、斬新な電池パックのアイデアが次々と商品化に繋がったといえる。

「ユニバーサルデザインという言葉がまだなかったころから、消費者の使いやすさはもとより、流通や店頭展示における悩みを解決することが大事と、気の利いたパッケージをいろいろつくってきました。例えば、常時ケースに入れたまま保管できるホームパックとか、お店の人が作業しやすいように、ELF(elf)と呼ばれる、箱に入れたまま値付けや店頭展示ができるパッケージなどです」。
今回の生分解性プラスチックも、その延長線上にあるということだ。
包装は廃棄されるものゆえ、ゴミ問題に大きく関わっている。とりわけ、年間500万パックも製造している単三4個入りブリックパックならば、企業は環境問題として深刻に受け止めねばならない。そんな社会的使命感から、業界に先駆け、土に還る材料、生分解性プラスチック導入に踏み切った。

「モノづくりにおいて、常に他社より早く革新的なことをやりたかったのと、やはり製品に付加価値を与えなければという思いが強かったんですね。その実現のためには、リスクを承知でやらなければいけないときもあるということです」と熊倉さん。

生分解性プラスチックを乾電池のパックに採用するという松下の決断を受け、製品化に骨身を削ったのはペレット(粒状のプラスチックシートの原料)から松下専用の成形用フィルムシートを開発した(株)三菱樹脂、そしてパッケージの一貫製造を担当した梅田真空包装(株)だ。この新パッケージの追求は三者がそれぞれの仕事を分担しながら共同であたった。
そのときの話を聞こうと、筆者らは松下電池工業から梅田真空包装へとさっそく移動した。





開発チームを率いる電池工業の熊倉勝彦さん。業界ナンバー1の新価値創造パッケージを、常に目指すという。



値付けがしやすく、トレー展示ができるという特性を持ったELFパッケージ。売る側の立場に立脚したアイデアが、新たなパッケージ価値を生む。



プラスチックの原料となるペレットが、これ。


トウモロコシからパックへ 実用化への道


三菱樹脂との付き合いが40年以上になるという梅田真空包装。この生分解性プラスチックも、松下が採用を決める以前に、三菱樹脂のほうから持ち込まれていた話だった。

京都議定書をきっかけに、いずれは石油系のプラスチックから新たな資材へと転換する時代が来るだろうと睨んでいた梅田真空包装の梅田藤三社長は、三菱樹脂と共同で新素材の実用化へ向けた研究にいち早く着手していた。今から5年ほど前のことだ。
「米国の大手穀物会社、カーギルダウポリマーズが製造したペレットを輸入して、成型加工に使うフィルムシートを開発したのが三菱樹脂さんで、それを実用的なものにするために、うちへ来て何度もテストしました」(梅田社長)。

ここで生分解性プラスチックの特徴について触れておこう。
この材質はもともと透明性に優れ、かつ加工特性もよいのだが、割れやすく、熱によって変形しやすいという弱点がある。これを既存の技術で克服しようとすると、今度は材質の透明性がなくなってしまうという新たな問題が発生してしまう。そのため、梅田真空では従来のプラスチックに負けない品質にまで持っていくために、1シートつくってはテストを行う、ということを繰り返した。生分解性プラスチックは今までにない素材だけに、データは全くない。ひとつひとつテストを繰り返しながらつくるほかなかった。テストの回数は、ゆうに60回を越えたという。

2年後、ついにこれなら大丈夫だろうというシートが出来上がり、梅田真空包装の営業担当の由上芳一さんはある展示会の場で、熊倉さんに三菱樹脂の担当を紹介した。熊倉さんはその場で、2003年の環境月間に世界初の生分解プラスチック使用の電池 用パッケージを世に出す決意をしたという。これをきっかけに、松下・三菱樹脂・梅田真空包装の三者によるブリスターパックの製品化へ向けての開発がスタートしたのだった。

しかし、そこからの道のりが簡単ではなかった。新次元素材の品質を、これまで使われてきた素材と同等のレベルにまで引き上げる必要があった。
由上さんは言う。「われわれが当初準備した生分解プラスチックシートを電池用パックとするには、透明度が低すぎて使 いものにならなかったんです」。

ポリ乳酸を使いパッケージ用に成形できる生分解プラスチックは、乳白色が普通だ。耐衝撃性を上げるために可塑剤を使って柔らかくするのだが、そうすると濁ってしまうのだ。しかし乾電池パック用となれば、プラスチックがクリアでなくては話にならない。透明度と、対衝撃性との葛藤が生じたのだ。

由上さんの説明に、よくわからないという顔をしていたら、梅田社長が「あれ、みせてやれ」の一声。出てきたのはポリ乳酸の原材料だった。実物を見て合点がいった。確かに透明だけれど、カチカチで堅い。ちょっと力を加えただけでバリバリと割れてしまう。
「しかも耐熱性も弱くなりますから、熱加工にも適さない。透明で熱にも強く、さらに耐衝撃性もと、すべてを解決するのはハードルがあまりにも高すぎて、苦労の連続でした」。由上さんは開発の難しさを語った。

そのとき、取材をしていた筆者らのテーブルに突如たこ焼きの入ったパックが置かれた。社員の誰かを買いに走らせていたらしい。
「大阪に来たんですから、たこ焼き食べてってください」と由上さん。
緊迫したムードが一気にほぐれ、一同爆笑。
そして、「たこ焼きの入った容器を見てください」と梅田社長は言った。「一見パリパリしてますが、潰しても簡単には割れません。つまり柔らかいんですわ。一般に、この手の容器は真空成型です」。

真空成型というのは簡単に言えば、熱したプラスチックのシートを型にあて、間の空気を抜いて密着させて成型する製法だ。その見た目から、「もなか」とも呼ばれ、小回りが利くのでシート加工生産の製品に適しているとされる。

梅田社長は、なおも続けた。「しかし、生分解性プラスチックは、従来の真空成型では狙い通りに成型できない。そこで従来にない新たな工法を開発しなくてはならなかったんですわ」。

この「新たな工法」については企業秘密ということで詳しく聞くことはできなかったが、梅田真空の真空成型技術の経験とチャレンジ精神によって、数々の試行錯誤の結果、ついに透明性のある割れにくい業界初のパッケージが完成したのだった。そして、100%植物系生分解性プラスチック採用の単3乾電池4本入りブリスターパックは、熊倉さんが決意したとおり、2003年6月に発売された。





梅田真空包装社長の梅田藤三さん。生分解性プラスチックを乾電池パックに採用するという企画の実現は、この人の存在なくしてあり得なかった。生分解プラスチックに対する情熱は、誰よりも熱い。前回取り上げた補聴器パッケージの製造も同社が手がけている。



ペレットを加工して、このような成形用フィルムシートをつくる。この行程を請け負うのが三菱樹脂。



植物系由来のポリ乳酸を主原料とし、成形加工した生分解性プラスチックシート。写真は、三菱樹脂が「エコロージュ」という名称で発売しているもの。松下に提供されているものは、これらよりも耐熱性や耐衝撃性、成形加工特性に優れた独自仕様。



梅田真空包装の営業担当、由上芳一さん。松下と三菱樹脂を引き合わせた人物だ。



取材時に出されたたこ焼きのパックと、生分解性プラスチックによる乾電池パック。見た目には、透明度の違いはわからない。


三位一体となって、目指すは循環型社会!


ところでこのパッケージ、透明度を増すために加える添加剤の成分や配合も三菱樹脂の企業秘密だ。完成したシートを加工するために、微妙なさじ加減を施した機械もまた、梅田真空包装が自作した独自のもの。

こうした製品は、それを商品化するもの(松下)と、資材を提供するもの(三菱樹脂)、加工するもの(梅田真空包装)が一体とならなければ実現しなかっただろう。由上さんは言う。「具体的な使い道があったから、材料も技術もここまで進歩したんです」。
なるほど。必要は発明の母という言葉があるが、進歩というのも同じことがいえるというわけか。

広い視野に立って考えてみると、それもこれも将来の環境のことを考えてのこと。そのためには1社だけががんばってもだめであって、それぞれの会社が互いの役割を担いながら協力していくことが大切なのだ。自己の利益のみを追求するのではなく、他者(=社会)の利益になる(=役に立つ)ことを行うことこそが、ひいては自分の利益となって還ってくる。これこそ真の循環型社会ではないだろうか。ゴミ問題も二酸化炭素削減問題もこの輪の中に入ってくる問題だろう。





2004年4月1日発売のオキシライド乾電池。従来のアルカリ乾電池に比べて約1.5倍の持続時間を実現したハイパワー&長持ちの次世代乾電池だ。ブリスターパック全3種類に、植物系生分解性プラスチックを採用する。


21世紀を担う新素材、生分解性プラスチック


ブリスターパックは、世界で初めて植物系生分解性プラスチックを使用し、ゴミの混同を防ぐため包装材をすべて同じ材料にした同一素材パッケージだ。
パッケージ企画チーム副参事の多田さんは「生分解性プラスチックに関して言えば、同年他社がポータブルオーディオやパソコンなどに採用し話題になりましたが、いずれも一部パーツの採用のみであると同時に量産ではなく、話題づくり以上のものではなかったですね」と言う。

このパックは個人で燃やしたり、自宅のコンポストで分解するぶんには全くかまわないという。生分解性プラスチックは、一般に土に還るまでに数十カ月以上かかると言われるが、松下の場合は、約1年(コンポストで約3週間)で分解できるよう設計しているとのことだ。

では、ゴミとして出すときはどうすればよいのだろう。熊倉さんに聞いてみた。
「最先端素材ということで世間にほとんど普及していないため、現在はまだ『その他プラ』扱いとなっています。ですから、今のところは各自治体の指示に従って、出してもらうことになりますね」。

熊倉さんはさらに続けた。「パッケージについているこのマークご存じですか」。何やら見慣れない緑の葉っぱのマークだ。
「これは『グリーンプラ』といって、生分解性プラスチックを使っているというしるしなんです」。

聞けば、生分解性プラスチックの愛称として、国内唯一のグリーンプラ普及促進団体である生分解性プラスチック研究会が公募によって付けた名称だということだ。「グリーンプラ」の基準を満たした製品にはこのシンボルマークが表示されているそうだが、2002年度時点では全プラスチックに対する生産量の約0.1%程度でしかないのが現状とのことだった。

しかし、この「グリーンプラ」、コスト面などさまざまな問題点が改善されれば今後一気に拡大していく可能性は大いにあるだろう。その先陣を切ってひた走る松下の包装技術。その勢いはもう誰にも止められない。





オキシライド乾電池は、アルカリ乾電池から実に40年ぶりとなる新型乾電地。パックの裏側には、当然「グリーンプラ」のマークが添えられている。マークの有無が、購入を分ける決め手となる日も、そう遠くない? 環境に対する人々の意識の広がりを期待したい。




ポリ乳酸は、自然に溶けてなくなるということから、米国では医療用の糸に10年以上前から使われてきた。そこから発展し、釣り糸にもなり、さらに今日では衣料などにも少しずつ拡大使用されはじめた。石油系プラスチックよりもずっと環境によい素材であることは間違いないから、ぜひ応用範囲が広がってほしいものだ。ただ、新しい素材なだけに、未知の部分もある。たとえば、土に還ったあとの環境への影響などは、まだ研究の余地があるという。そんな課題も含め、今後の技術の進化と活用の広がりに期待したい。

生分解性プラスチックについてもっと知りたい人は、以下のサイトが役に立つ。
群馬テクニカルリサーチ http://www.gtr.co.jp/index.htm

第4回 包装技術のあくなき挑戦、「丸形蛍光灯」へつづく




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