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※過去に掲載された記事になります。内容は公開時のものであり、最新の情報とは異なる場合がございます。


いま世間話に欠かせない"ホット"な話題といえば、なんといっても地球温暖化。老若男女を問わず、
「今日も暑いねー」
「温暖化のせいや」
「でっかいクラゲが捕れたってねー」
「温暖化のせいや」
「コラッ、ヨシオ! なんなの、この成績は!」
「温暖化のせいや」
そんな会話がそこかしこで繰り返されている。
地球温暖化の主たる原因は、大気中に二酸化炭素をはじめとする温室効果ガスが増えることといわれている。なかでも、われわれの生活にも欠かせない電気と引き換えに発生する二酸化炭素は深刻な問題。

1997年の地球温暖化防止京都会議で議決された京都議定書によって、日本は2008年から2012年までの間に、1990年に比べて6%の温室効果ガスを削減しなければならないことになっている。しかし、いま現在、排出量は減るどころか、むしろ増加……。いまだ実現のめどが立っていないというのが現状である。
そんな状況のなかで、二酸化炭素の排出を減らすために、あらゆる場面での省エネ、節電がいま求められているということは、いまさら言うまでもないよね。
そんなこんなの事情もあって、いまひそかに注目を集めているのがスターリングエンジンの技術。燃料が不要で、音が静かで、効率がよくて、クリーンで、安全な発電システムだという。これが訪問販売なら、そんなうまい話があるか! と追い返して塩を撒くところだが、どうもこれが本当らしいから、びっくり。
そうかそうか科学技術はそこまで進歩したのかと、目を細めてウンウンうなずいていたら、なんと200年も前からある技術とのことで、またびっくり。
とにかく、このスターリングエンジンとやら、調べてみる価値があるだろう。

スターリングエンジンのまずもってうさんくさいところは、なんといっても燃料が不要という部分。火のないところに煙は立たぬ、燃料ないところに電気は起こらぬ、ではあるまいか。
で、さっそく調べてみたところによれば、これはつまり、熱を利用した装置だということがわかったわけである。
気体というのは、熱すると体積が膨張し、冷やすと収縮する。
ということは、加熱と冷却を繰り返せば、気体は膨らんだり縮んだりを繰り返す。つまり、そこに連続した運動が生まれるということだ。これがスターリングエンジンが利用する原理なのである。
では、実際のスターリングエンジンは、どのようなしくみになっているのだろうか。スターリングエンジンは、その構造によってさまざまな種類のものがあるようなのだが、ここではクランクの機構を利用したものを紹介してみよう。
このタイプのスターリングエンジンは、シリンダーと2つのピストン、フライホイール、そして、中のガスを熱したり冷やしたりするためのヒータとクーラから成り立っている。フライホイールにクランクの機構が組み込まれていて、回転運動を往復運動に、往復運動を回転運動に変換する。
シリンダーの中には、高圧のガスがみっちりと詰まっている。多くの場合、このガスにはヘリウムが使われる。分子が小さく、熱を早く伝えたいときに有利になるからだ。
シリンダーの一方をヒータで加熱し、もう一方をクーラで冷却、その間をディスプレーサと呼ばれるピストンで仕切る。ある部分に対して加熱と冷却を切り換えながら繰り返すのは非常に効率が悪いので、このようにシリンダーの両端に対して、加熱と冷却を同時に行うのが、一般的なしくみである。
ディスプレーサの上側にはヒータによって加熱された温度の高いガスが、下側にはクーラによって冷却された温度の低いガスが流れ込む。 ディスプレーサが上下に移動することで、ガスは加熱側と冷却側を行き来し、それにともなって、シリンダー内の圧力は高くなったり低くなったりする。

ただし、ディスプレーサの上と下には圧力のちがいはないので、このままではディスプレーサに縦方向の動きは起こらない。そこで重要な役目をするのが、シャフトによってつながれているパワーピストンだ。
ディスプレーサに押された冷却側のガスが加熱側に流れ込むと、シリンダー内の圧力は上がっていく。それにともなって、中のガスが膨らもうとしてパワーピストンが下方向に押される。
フライホイールが惰性で回転することによって、パワーピストンが上方向へ押し戻される。それにともない、シャフトでつながれたディスプレーサも上方向へと移動する。
ディスプレーサが上方向へ移動することによって、加熱側のガスが冷却側へ移る。冷却側へどんどんガスが流れ込むことによって、シリンダー内の圧力は下がっていく。そして、中のガスは縮まろうとするので、パワーピストンは押し上げられるわけだ。
この行程を繰り返すことで、パワーピストンとディスプレーサは上下動し続け、フライホイールは回転を持続する。これがスターリングエンジンのしくみである。そして、フライホイールの部分に磁石とコイルを仕込めば、そこに電気が生まれるというわけだ。

でも、ヒータやクーラを使うなら、それらを稼働させるための燃料が必要になるんじゃないの、というのが自然な疑問。
スターリングエンジンがすごいのは、熱源はなんでもいいというところ。ヒータ部分の熱は、太陽光でも、工場排熱でも、排気ガスでも、とにかく、温度が高ければどんなものでもかまわないのだ。また、クーラ部分も、加熱側との温度差が確保できれば、空気でも水でもかまわない。とにかく、温度の差のあるものを用意できさえすれば、このスターリングエンジンは動いてしまうのだ。

なかには、マグカップ1杯のお湯の熱で1時間も動き続けるスターリングエンジンだってあるというから驚きだ。
もうひとつ、このスターリングエンジンがすごいのは、とても効率がよいということ。同じ太陽エネルギーを使うにしても、ソーラー電池よりスターリングエンジンのほうがはるかに効率よく電気を生み出すことができるのだという。
スターリングエンジンの技術が発明されたのは、いまからはるか200年ほど前の1816年。作ったのは、その名のとおり、スターリングさん。スコットランドの牧師であり、また発明家でもあった人。
産業革命華やかなりし時代。当時の動力源といえばなんてったって蒸気機関であったが、高圧のボイラーがしばしば爆発事故を起こしていたため、スターリングさんのエンジンは安全な熱機関としておおいに注目された。しかし、その後、高出力のガソリンエンジン、ディーゼルエンジンが発明され、スターリングエンジンは見向きもされなくなってしまう。
そんな歴史の片隅でほこりをかぶっていたスターリングエンジンが、地球温暖化をはじめとした環境問題からこの星を救う技術として、200年の時を超えて、いま再び注目されはじめている。
ヨーロッパを中心に、スターリングエンジンを利用したコージェネレーションシステム(電気と給湯用の熱エネルギー両方を供給するシステム)の開発が進められており、アメリカでもこの技術を利用した大規模な発電施設の建設が計画されているという。
そんななか日本でも、NMRI((独)海上技術安全研究所)、株式会社eスター、東海運(株)の3者が、JRTT((独)鉄道建設・運輸整備支援機構)の委託を受け、船舶のディーゼルエンジンの排熱を利用してスターリングエンジンで発電するシステムの研究を進めている。

ちなみに、eスターは、松下電器産業のベンチャー支援制度「パナソニック・スピンアップ・ファンド」によって設立された、スターリングエンジン専門という、ちょっと変わった(?)会社だ。
この排熱回収システムの注目すべきところは、いままでただ空気中に放出されるだけだった船の排ガスの熱を発電に利用するという点。つまり、捨てるものから電気が生まれてしまうという、錬金術みたいな話なのである。まもなく、このシステムを実際の船にのせて実証実験が行われるというから楽しみだ。

えてしてぼくらは熱を邪魔者として処理することが多い。車のエンジンや、パソコンだって、冷却装置で冷やしたり、フィンで熱を外に追い出したり、なんてことをしている。しかし、温度が高いということは、それだけエネルギーをもっているということ。
800℃以上という高温の排熱が発生する焼却炉のような大型の施設であれば、水蒸気を利用してエネルギーを回収するような例もあるが、スターリングエンジンを使えば、もっと低い温度の熱でも電気として回収することが可能である。さらに、ディーゼルエンジンのような低い温度の排熱も利用できるとなれば、工場排熱や家庭での排熱を利用した発電へと可能性は広がっていく。
eスターの試算では、ディーゼルエンジンの排ガスと同等の400℃以上の熱を排出する工場すべてに、こういったスターリングエンジンを用いた発電システムを設置することで削減できるCO2(二酸化炭素)は、京都議定書での日本の削減目標の44.1%に及ぶという。太陽光発電や風力発電などに比べ、かなり効果的なのだそうだ。

* 上記試算に一部誤りがありましたので、訂正いたしました。(2008年6月18日)
この先もっと技術開発が進み、より低い温度での発電が可能になれば、身の回りのあらゆる熱をスターリングエンジンで電気に変えられる時代がくるかもしれない。一家に一台、いや、家中のありとあらゆる機器に、スターリングエンジンが組み込まれるなんてことになるかも。
捨てる熱あれば、そこにスターリングエンジンあり。それが、エコの王道になる日も遠くない!?

「株式会社 eスター」のサイトはこちら。
http://www.estir.jp/

1975年生まれ、北海道出身。
大学卒業後、5年間の出版社勤務を経て、フリーのイラストレーターに。
風刺をきかせたイラストを中心に、雑誌、テレビ、インターネットなどさまざまな分野で活動中。
大阪在住。
著書『日々にぎりこぷし』(バジリコ)