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進化し続ける電気の道具 〜電池応用商品〜

文 カワイイファクトリー(別ウインドウが開きます)

5 独自のデザイン理論で挑戦「電池がどれでもライト」

電池応用商品の知られざる世界を紹介してきたこの「進化し続ける電気の道具」。最終回にふさわしく今回は、昨年度(2005年度)のグッドデザイン賞金賞に輝いた電池応用商品を取り上げたい。

いざというとき、懐中電灯の電池が切れていたり、サイズが合わなかったりして、イライラしたという経験は誰にでもあると思う。そんなとき、たまたま引き出しにあった電池が使えたら、どんなにか便利だろう。そんな思いを叶えてくれるのが、今回取り上げるライト。「電池がどれでもライト」という名前で、その名の通り、単1、単2、単3と、どの電池でも使える懐中電灯だ。

まず何よりも目を引くのが、そのデザインだろう。普段見慣れている筒状とは違い、しかも、色が白というのも、この大きさの懐中電灯には珍しく、意外性がある。

このような商品をつくろうと思いついたきっかけをまずは伺ってみた。

電池がどれでもライト

パッケージングされた電池がどれでもライト

グッドデザイン賞金賞を受賞した電池がどれでもライト

「電池がどれでもライト」の企画から基本デザインを含む試作モデルづくりまでを行った貞島次良さんと、技術を担当したエンジニアの藤田重彦さんは、開発の発端についてこう語る。

藤田「このライトは、近年あちこちで地震などの災害が続いたこともあって、『防災』というキーワードから浮かび上がってきました」
貞島「ノートを見直してみたら、実は同じコンセプトの製品を91年にも検討しているんですよ」

ベースとなったアイデアが10年以上も前に発案されていたとは驚きだ。が、時代のタイミングに合わなければ、どんなに斬新なアイデアであっても却下されるのは自然なことだという。
商品化が決まるかどうかは、「時代とリンクするかどうかによる」(藤田)そうだが、電池がどれでもライトは2005年9月1の防災の日を目標に、急遽開発が決 定した。
「チャンス到来! とばかりに、昔の熱い思いを一気に試作に表現しました」と貞島さんは振り返る。

しかし、1本のライトで複数の電池が使えるという商品は、実はすでに海外や国内の他メーカーから出ていた。だだ、そのどれもが一度に入れられる電池は1種類のみで、種類を変えるにはいちいち電池を入れ替えなければならなかった。電池がどれでもライトがこうした従来品と決定的に違うのは、3種類の電池が一度に入る点である。しかも、3種類の電池を入れたまま、切り替えボタンによって使う電池を選べるのだ。
「もちろん、使うたびに電池の種類を入れ替える方式も最初は検討しました。けれども、開発を進めるうちに、この方式にはデメリットが多いということがわかってきたんです」と藤田さん。
検討した方式では、電池をセッティングする際、単1の収納スペースに単3の電池が移動してしまうという不安定な状態がどうしても避けられず、落としたり振り回したりすると通電しなくなってしまうという問題が生じてしまうのだった。

各電池が収まる位置を離してみたり、近づけてみたりと作図して解決策を練ってみたが、どうしても1種類通電・3種類対応という2つの要求を満たすことができなかった。貞島さんは言う。
「試行錯誤していたときに、あることに気づいたんです。昔あった、電池常備箱という商品です。いざというときに電池がないと困るということで、富山の薬売りが置いていく薬箱のような、常に電池を補充しておける箱をつくっていたんですが、そのような役割をライト自身にもたせても良いのではないかと。1種類の電池が入っているときには他の種類は入らないというのではなく、3種類とも同時に入ってしまうことに、大きなメリットがあるという発想です」

そこで電池の収納箱としても活用できるライト、という方向でコンセプトを固めていった。
技術的にはどうだったのだろう。藤田さんが答えた。
「まず、配線の問題をクリアしなければなりませんでした。お客様が電池を同時に他種類入れたときに変なつながり方をすると、事故が起きる可能性が出てきます。3種類を入れ替えても、1種類にしか通電しない、しかも確実に、という回路を考える必要がありました」
電池サイズによる入れ替えはせず、1種類通電で、あらかじめ3種類の電池を入れておくことができる。3種類同時にいれても通電は1種類のみという配線技術の確立は業界初の試みであった。

貞島さんポートレート

新製品創造担当参事の貞島次良さん

藤田さんポートレート

企画開発グループ機構開発チームの主任技師 藤田重彦さん

貞島さんのアイデアノート(別ウインドウが開きます)

貞島さんの91年のアイデアノート。鉛筆で構造のイメージが描かれている。
※表紙をクリックすると、ノートの中身をご覧いただけます。

貞島さんのアイデアスケッチ

貞島さんは日頃から「あったらいいな」と思える商品をアイデアスケッチに描き留めている。

3種類の電池が入ったところ

全種類の電池を入れておけば、電池の常備箱としても機能。

配線の仕組みなど技術面での見通しがついたことで、当初イメージしていた懐中電灯が実現する可能性が開けてきた。 「次は3種類の電池が1本のライトで使えるという機能を、どのような形で表現するかが大きな課題となっていきました」と貞島さん。

松下電池工業で新製品創造を担当する貞島さんは、もとはパナソニックデザイン社にいたデザイナー。多くのGマークや、国際デザインコンペで実績をつくってきたベテランだ。現在は直接デザインには関わらないが、それでも新製品のアイデアがあれば、自ら率先して手を動かす。

「私は現場を10年以上も離れていたので、3次元のコンピュータなどは使えません。ですから今回も、製図用紙に鉛筆で図面を引きました。それから、ボール紙で模型をつくってだいたいの大きさを確認しました。電池がどれでもライトは、外側の形に機能が表れています。反射部分などは普通の形なのですが、電池が入る本体部分の断面が3つの電池を合わせた形になっている。電池を3種類入れる、ということが決まった時点でこうした形はイメージにありました。だからといって、その案をストレートに出すのはよくありません。考え得るデザインの可能性を提示して、それぞれのメリット・デメリットを関係者と協議しながら、アイデアを決定していくというプロセスが大切です」

社内のプレゼンに際し、貞島さんはエンジニア、デザイナー、プロデューサーなど開発スタッフ全員が納得するような評価基準として、自ら考案した「意味の造形論」というデザイン理論を活用しているという。
この理論は、簡単に言えば、造形デザインには以下の3段階があるというものだ。

段階1:まず従来のデザインを手本に真似るレベル。(模倣デザイン)段階2:形の奥に潜む仕組みや構造を読み取り、そこから新たな仕組みや構造を導き出し、それをデザインに応用していくレベル。(構造デザイン)段階3:自然の摂理や人々の習慣や文化などの奥にある意味をとらえ、その意味から独自の新たなデザインコンセプトを構築し、形に表現していくレベル。(革新デザイン)

貞島さんスケッチ(別ウインドウが開きます)

3種類の電池をどのようにレイアウトしたらよいか、貞島さんはスケッチを描きながら検討した。

段ボール模型

貞島さんが自作した段ボール模型。

貞島さんによれば、世のなかには何を伝えたいのかわからないデザインも多いなかで、意図を持って計画されたデザインはほとんどがこの3つに分類されるという。翻って言えば、電池がどれでもライトのデザインについて上述の各レベルで検討し、現在のデザインがベストであると確信したことになる。
この方法はだれもがわかりやすく明快なため、全員で仕事を進める際の評価基準としても機能しているという。

「実は入社当初はデザインに自信がありませんでした」と貞島さんは告白する。「けれども、デザイナーとして相手を説得させるにはまず自分が確信を持つための武器が必要です。そのためのツールを考えなくてはという必要性に迫られ、デザイン研究を重ね、その末に行き着いたのが『意味の造形論』だったんです」

研究の際には、世の中の気になるデザインを数百点選び、そのデザインがなぜ自分の心を捉えたのかを分析したという。次にそれらのデザインにおける「ヒラメキ」の源になったものは何かを推測していった。さらにその分析作業を通して、逆に自然や文化から新たなデザインコンセプトを導き出す脳の回路を訓練していったのだそうだ。貞島さんは言う。
「この考え方は、私にとって『デザインの価値を理論的な側面から捉えるための方法』なんです」

彼はまた、意味の造形とはまさに「革新デザイン」を目指すことであり、新たな商品を生み出すベースになるとも言う。
「電池応用品は高額商品ではないので、売場での販売トークは期待できません。代わりに、商品自身がお客様に声をかけなければならない。おや? と思われるものをつくることも必要なのです。つまり強いメッセージです。それを突き詰めていくと、やはり意味の造形論に行き着くのです。電池がどれでもライトも、意味の造形論的に見て、これしかないというデザインでした」
なるほど、電池がどれでもライトも、おや? と思うデザインだ。ほかの商品と比べて奇抜、と前述したが、それにはちゃんと意味があったのだ。

世の中で気になるデザイン

貞島さんのスタディ。気になるデザインを片っ端からピックアップし、構造体の元となったと思われる事物を対応させながらグループ分けした。

カワイイファクトリー

「意味の造形論」に耳を傾け、必死にメモをとる筆者。

「このライトは、単純な円筒形でないだけに、難しい問題がありました」
こう語るのはパナソニックデザイン社のデザイナー、小谷昭彦さん。主として電池応用商品を担当するデザインカテゴリーのリーダーだ。
彼はこの新しいライトを世に出せるか否かのポイントが持ちやすさにあるとズバリ指摘した。
「このデザインは、手の大きさによっては持ちにくい場合がありました。原因は、電池を収納する順番にありました。スイッチ側から見て、一番下が単2で、右回りに単3、単1と並んでいたのですが、そうすると単3のふくらみが手のひらにあたり、どうしても握ったときに違和感を覚えてしまうんです。そこでレイアウトを変更し、一番下を単1にし、逆に左回りに単3、単2が収まるようにしました。 そうすることによって、握り方の自由度が増したと思います」

「また、異例ともいえる『白』の本体色についても、視認性などの面で確認する必要がありました。『防災ライト』ですから、就寝中に地震が起きて停電になったとき、すぐ手に取れるものでなければなりません。実際の状況を想定して実験したところ、白系ボディのライトは暗がりでもぼうっと見え、色の黒い懐中電灯は全く見えないことがわかりました。明るいときは目立たず、暗がりでは見つけやすい。そんな相反するコンセプトを満たしてくれるのが『白』だったんです。さらに、場所をとらず、安定して置けるように『立てて置く』スタイルを基本としました。現在のモデルは試作モデルよりもさらに直径を大きくして、安定性を持たせているんですが、このことが結果として美しいカーブを引き出すことにもなりました」

全体側面

右手に持ったときに単1が一番下にきて、単2が一番上、というスタイルに落ち着いた。
スイッチは逆に数字の若い順。

小谷昭彦さんポートレート

パナソニックデザイン社 電池応用カテゴリー主幹意匠技師 小谷昭彦さん

試作との比較

最初に貞島さんが提案した試作モデルと完成品を比較。見た目の印象はほとんど変わらないが、電池の位置やライト部分に改良がみられ、持ちやすくより洗練されたデザインに。

電池スケルトン BF

3種類の電池が2個ずつ入る。中身の様子が見た目からもわかる。

スイッチ部分のアップ

「ある電池が切れると、手動で切り替えて使うのですが、予備があるということがわかるから、防災商品では重要なことかなと。台風がきて電池を買いに行けなくても、例えばラジオに入っていた電池を入れて使うこともできる。逆もできます」(小谷)

2005年9月1日、防災の日。電池がどれでもライトは発売された。そして同月、小谷さんのところにこの商品がグッドデザイン賞の金賞候補にノミネートされたという通知が舞い込んだ。 グッドデザイン賞は、クルマやオーディオ、建築物など数千点の公募に与えられるデザイン賞だが、金賞はそれらのなかから選ばれたベスト15である。さらにこのなかから決選投票によってその年の大賞が決まる。惜しくも大賞は逃したものの、金賞受賞が決定し、電池応用商品の世界では快挙となった。 審査員は「とにかく発想がすばらしい、白をデザインモチーフにした優しいフォルムもすばらしい、驚きの価格設定(オープン価格 店頭予価1,000円台)はメーカーの社会貢献姿勢の表れ」と絶賛した。

本当に優れたデザインだからこそ実現した受賞歴は、グッドデザイン賞金賞だけにとどまらない。その後も大阪府が主催する大阪デザインセンターの優秀賞や、米国の『ビジネスウイーク』誌などが主催する「IDEA賞」など、著名なデザイン賞を総なめにした。

思えば懐中電灯は、1923年発売の砲弾型ランプ以来、電池を使った商品をいもづる式に開発してきた松下電池工業が、親であり原点とも位置づけてきた商品である(第1回の「プロローグ」の最終章参照)。そこに、電池がどれでもライトが革新的なデザインを与え、内外のデザイン賞を総なめにしたとは、何とも感慨深い。まさに進化する懐中電灯、進化する電気の道具である。

身近なものが多いだけに、心憎さが求められる松下電池工業の電池応用商品。さまざまなキャラクターを持つ人々によって、これからも多彩な商品群が生まれていくにちがいない。

おわり

グッドデザイン賞展示風景

電池がどれでもライトの展示ブースの様子。グッドデザイン賞は毎年8月に東京で一般公開される。

消防士の格好をした小谷さん

決選投票を前に、審査員の前で気合いの入ったプレゼンテーションを行う小谷さん。「防災をイメージしてもらうには一番インパクトがあるかなと」

2008年10月1日、松下電池工業株式会社は、エナジー社に社名を変更いたしました。

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