空気から、地球環境をこう変える!

地元に根付いた信頼で欧州の空気を変える

欧州で主流の空調が次世代の未来をつなぐカギになる?
チェコで進む持続的イノベーション

1エアコンでもストーブでもない、
欧州で主流の空調システムに訪れた転機

日本の家庭の暖房器具といえば、夏の冷房時期にも使えるエアコンが一般的です。一方、家庭用エアコンの普及率が低い欧州では、戸建てや集合集宅に関わらず、ガスや石油のボイラーで沸かした温水を循環させる暖房設備が広く使われています。建物の地下に設置したボイラーから、パイプで各部屋のパネルや床下に温水を送るという、いわばセントラルヒーティングです。冬の欧州旅行で趣のある宿に泊まった経験をお持ちの方なら、暖かなぬくもりと、壁際の薄いパネルに異国の風情を感じたことがあるのではないでしょうか。
そんな欧州の生活文化に浸透した暖房にも、「化石燃料を用いたままでは、環境への負荷が止められない」という課題が浮上しました。そこで登場したのが、温水づくりに電気を使うヒートポンプ式温水給湯暖房機。大気中の熱を利用して温水をつくるので、Air to Water。略してA2Wと呼ばれています。A2Wは、熱交換を行う室外機と、各部屋に送る温水を貯める室内機を設置することで、既存のボイラーとの置き換えを可能にします。
パナソニック空質空調社は、欧州市場に向けたA2W製品を2008年から販売しています。その欧州でA2Wを生産するのは、チェコで1996年に設立されたパナソニックHVACチェコ有限会社(以下、PHVACCZ)。同社は、生産規模の拡大を実現させる工場の新棟を2025年8月に竣工しました。このトピックを機会として、日本から遠く離れた地で欧州向け製品をつくる思いと、地元の人々とのつながりを育む活動について、PHVACCZ社長の水田鉄昌氏にたずねました。

ヒートポンプ式温水給湯暖房機 A2WとPHVACCZ社長 水田鉄昌氏

2日欧の得意の掛け合わせで想像以上のものづくりを

-はじめに、チェコ工場の概要を教えてください。

PHVACCZは、チェコのピルゼンという街にあります。欧州のほぼ中央に位置することで物流面のメリットが大きく、産業エリアとして栄えています。ここに進出した最初の日系企業がパナソニックでした。
設立は1996年。テレビ生産からスタートし、2018年にA2Wの室内機を。2023年にはA2Wの室外機もつくり始め、現在ではA2W専門の工場となっています。A2Wには冷媒が必要なのですが、環境への影響が極めて小さい自然由来のR290冷媒を用いた室外機もチェコで生産されています。R290を初採用した日系メーカーはパナソニックです。※
建物の延床面積は約14万㎡。この内、約10.2万㎡を占めることになった8月竣工の工場新棟によって、それまでの年産能力15万台を、将来的に最大約70万台まで拡張できる規模になりました。
※ 2023年7月3日発売。当社調べ。

PHVACCZは、チェコのピルゼンという街にあります

-パナソニックが培った日本の「ものづくりスピリット」は、
欧州で主流のA2W製品にどのように生かされていますか?

パナソニックが第一に掲げるのは、品質のつくり込み。チェコ工場でいえば、それは約30年前のテレビの生産からA2Wの生産へと発展した現在もまったく変わっていない精神です。A2Wは欧州市場に向けて展開している製品ですが、欧州と一口に言っても、その国の気候や普及している暖房設備などのさまざまな要因によって、A2Wに求められる条件が違ってきます。そのため、各地域に向けた製販マネジメントがとても重要であり、市場ニーズに柔軟に対応すべく細部の改善を積み上げるマインドは、先人の方々から伝承された強みといえるでしょう。一方で欧州は、デジタル技術によるIoTやロボットの領域が強いので、日欧の得意の掛け合わせで想像以上のものづくりができます。

-新棟竣工による新たな取り組みはありますか?

数多くの新機軸を投入していますが、ロボットの活用などによる自動化と内製化率の向上は、テレビ生産時代から続くPHVACCZならではの取り組みです。ですが、室内機と室外機で構成されるA2Wは、サイズが大きく組み立て工程も多岐に渡る上に、安全を重視した作業が求められます。ですから、配線など人がやるべき価値ある仕事は社員に任せる。対して、単純ゆえ付加価値を生まない工程・作業は、ロスを省くために自動化する。その見極めも、改善の積み上げで行われています。

ロボットの活用などによる自動化と内製化率の向上は、テレビ生産時代から続くPHVACCZならではの取り組み

-そうしたチェコ拠点の歴史に残るような新棟の誕生に、
どのような感想を持たれましたか?

新棟竣工をお伝えする式典には、チェコのペトル・フィアラ首相をはじめ、多くの方がご出席くださり、この国からの大きな期待を感じた場となりました。そしてまた、私自身チェコに来て約3年ながら、PHVACCZが設立された1996年以来の信頼が、この地にしっかり根付いている実感を再確認する機会にもなりました。
式典は、パナソニックが欧州で果たすべき責任を明確に示す節目になったと思っています。何よりもA2Wの需要拡大に応じるための新棟設立は、欧州のより良い暮らしと、持続可能な未来を届ける私たちの決意でもあるのです。これをきっかけに、チェコから全世界に向けた新たなイノベーションを起こしたいですね。

新棟竣工をお伝えする式典

3新しい価値を創造する熱量は国や文化を超えていく

-欧州特有の基準や社会情勢の変化など、日本では体感し難い課題に対して、どのような心構えで臨んでいますか?

海外で工場を稼働させる時点で現地国の法規に準じなければなりませんし、頻繁に更新される環境基準にも随時応じていかなければなりません。しかし何より重要なのは、変化を前提とした上で、自分自身が柔軟に変化していく姿勢です。先に、PHVACCZがチェコに根付いている実感を新たにしたと申し上げましたが、それはPHVACCZで活動するすべての人が、新しい価値の創造に努めてきた歴史に紐づいているものです。

-働く環境やミッションが変化する中で、常に大切にしている考えを教えてください。

2017年に始まった海外勤務を経て、現在はチェコ拠点の社長を任されていますが、この立場はあくまで役割に過ぎないと思っています。それを踏まえて私が真っ先に考えるのは、地元の人々はもちろん日本からの出向者を含め、皆が笑顔で日々の仕事に励めることだけです。そんな考え方ができるようになったのは、海外の方々と働く中で、多様な価値観の在り方を学ぶことができたからです。それに伴って海外では、責任の範疇の広がりに即して、各部門の横断と連携によるダイナミックな運営ができるのも大きかったです。その魅力を直に体感できたことが自身の財産となり、現在のマネジメントに活かされていると信じています。

皆が笑顔で日々の仕事に励めること

PHVACCZで働く人々の雰囲気をどのように感じていますか?

チェコの人々に抱いている私のイメージは、誠実で責任感が強く、論理的思考のもとで互いを尊重し合うというものです。PHVACCZでも、チームワークを生かして皆で成果を出す前向きな雰囲気を感じています。
そんなメンバーに対して私が心掛けているのは、まず話を聞くこと。事業のためにどこまで真剣に考えているかは、非常に興味があるところです。多少の時間的ロスが生じても、最終的には近道と信じて耳を傾け、理解し合ってから次に進む。これは、言語や文化が異なる仲間とチームになるために欠かせない、とても大事な作業です。何と言っても主役は、ここで働く一人ひとりですから。

PHVACCZで働く人々の雰囲気

4地元に寄り添いながらつくる欧州の新たな空気

-パナソニック製品の生産と供給以外にはどんな活動を行っていますか?

ピルゼンの街で開催される日本文化展やクリーン活動などには、パナソニックのCSR活動として参加しています。パナソニックの名前に親しんでもらうブランディング活動としては、地元のフットボールチームやアイスホッケーチームへのスポンサー協力。さらには、街を走る路面電車ではラッピングトラムを走らせました。これらの活動には、常に積極的に取り組んでいます。
また、製品の直接的な理解を各地で深める方策として、積載した製品で展示会を行うパナソニックトラックをつくりました。工場では、販売代理店などを招いた工場見学を実施し、こちらは毎週約100人が足を運んでくれています。竣工した新工場には、R290冷媒を取り扱えるトレーニングルームを設けました。

パナソニックの名前に親しんでもらうためのブランディングの一環

-チェコでの暮らしぶりと、地元から受けた影響を教えてください。

チェコは北海道に似ていますね。日本と同じく四季があり、自然が豊かで、暮らしを大事にする人々と同じ価値観で過ごせています。週末には、ローカルメンバーがサッカー大会やパーティーを催してくれます。そこで感じるのは、彼らのオン・オフの切り替えの上手さです。柔軟な発想を育むのに参考になっています。
影響といえば、周囲に愛用者が多かったことから自転車が好きになりました。今では通勤にも利用するほどです。購入する際は、せっかくならチェコ製にしようと思ったんですね。それで皆が乗っているブランドを選んだら、実はドイツ製でした。このように、現地で盛んなアクティビティや価値観を通じたローカルメンバーとのコミューニケーションの時間を何よりも大切にしています。

PHVACCZ社長 水田鉄昌氏の趣味は自転車

-新棟を竣工したPHVACCZは、欧州の人々の暮らしを
今後どのように変えていきますか?

環境意識が高まっていく欧州で重要なのは、ユーザー視点に立った製品づくりと、安心して使っていただくためのサービスに他なりません。その意識は、私自身がチェコに暮らし、欧州の方々の価値観を肌で知る機会ができたおかげで、より強くなりました。
私たちがつくるA2Wは、CO2削減という社会課題の解決に貢献することをめざすと同時に、各家庭の快適さを追求する製品です。新棟の竣工は、私たちと地元の方々双方にとって、つながりの重要性を再確認させてくれる大きな出来事になりました。その実感を改めて得た今、私たちがさらに取り組むべきは、パナソニックをご利用いただく一戸ずつの空質改善によって、欧州全体の空気を変えていくことです。この挑戦は、日本で積み上げたものづくりの精神と、現場の知恵と工夫を融合させた欧州の実装力で実現できると考えています。

私たちがつくるA2Wは、CO2削減という社会課題の解決と同時に、各家庭の快適さを追求する製品