開館15周年 特別展 ジョルジュ・ルオー 聖なる芸術とモデルニテ

展覧会のみどころ

ヴァチカン美術館が初めて日本に出品するルオーの作品4点を公開*

ルオーとカトリック教会の総本山であるヴァチカンには繋がりがあり、生前ルオーは教皇に作品を寄贈し、画家の没後は家族らが作品をヴァチカンに献納しています。本展では、ルオーの聖なる芸術を考える上で重要でありながら、これまで着目されてこなかったヴァチカンゆかりの油彩3点《聖顔》、《パックス(平和)》、《秋 または ナザレット》そして七宝作品の《聖心》をご覧いただきます。

* ヴァチカン美術館に所蔵される以前に来日している作品も含まれます。

パリに所蔵されている《ヴェロニカ》や《聖顔》、《キリストとの親しき集い》など、ルオーの代表作、特に晩年の傑作の数々が集結。

ポンピドゥー・センター パリ国立近代美術館から、《聖顔》、《ヴェロニカ》、《受難(エッケ・ホモ)》、《エジプトへの逃避》、《キリスト教的夜景》の5点が出品。また、パリのルオー財団や個人からは、《サラ》、《我らがジャンヌ》、《キリストとの親しき集い》など代表作を含む約40点が来日します。

ルオー芸術の真髄である聖なる芸術をテーマとし、画家が目指した最も美しい愛のかたちを存分に紹介。

テーマを聖なる芸術に定め、敬虔なキリスト教徒であり、制作した全ての作品に信仰を込めたルオーの絵画の真髄を取り上げる王道のルオー展です。友人より「世界に愛の最も美しいかたちを与えるのが君の務めだ」と説かれたルオーが、革新的な造形表現で描く愛に満ちた美しい世界を、油彩、水彩、版画、資料等約90点を通して存分にお楽しみ頂きます。

第T章 ミセレーレ:蘇ったイコン

『ミセレーレ』*は父の死と第1次世界大戦の悲惨に直面したルオーが主題を深化させた版画集で、41歳(1912年)の時に構想をスタートさせ、56歳(1927年)の時に完成しました。『ミセレーレ』には、「聖顔」「磔刑」「母子像」「古き場末」「受難のキリスト」など、ルオーの聖なる芸術のテーマが集約されています。
慈悲と戦争をテーマにした『ミセレーレ』は、いわば20世紀に蘇ったイコン(礼拝用画像)と言えます。
本章では、版画作品を軸に、下絵、未採用作品、類作も紹介し、ルオーの聖なる芸術を考察するうえでの『ミセレーレ』の重要性を問いなおします。

* 「憐みたまえ」の意。

第U章 聖顔と聖なる人物:物言わぬサバルタン

周縁に装飾枠のある矩形の空間に、キリストの顔貌のみを正面観で描くルオーの「聖顔」は、1904年に登場し、『ミセレーレ』で図像として確立した後、最晩年に至るまで描かれました。「聖顔」は礼拝画像を想起させる荘厳さと不動性をたたえ、数あるルオーの主題の中でも特異な存在といえます。ここでは、ルオーが強い関心を抱いていた「トリノの聖骸布」*や「ヴェロニカの聖顔布伝説」**にも注目し、「聖顔」の創作の背景と作品に込めたメッセージに迫ります。また、鞭打たれたキリストや火刑に処されたジャンヌ・ダルクなど、「サバルタン(被抑圧者)」としての聖なる人物をいかにルオーが表象したかを紹介します。

* トリノの聖ヨハネ大聖堂に保管されているキリストの遺体を包んでいたとされる布。19世紀末に写真撮影がされ、その真贋問題と画像の神秘性が話題となった。
** キリストが十字架を背負ってゴルゴタの丘へと向かう道で、ヴェロニカという女性が布でキリストの汗を拭ったところ、その布にキリストの顔の跡が残ったとされる伝説。

《ヴェロニカ》 1945年頃 油彩
ポンピドゥー・センター パリ国立近代美術館蔵
Photo © Centre Pompidou, MNAM-CCI, Dist.
RMN-Grand Palais / image Centre Pompidou, MNAM-CCI /distributed by AMF

第V章 パッション:受肉するマチエール

キリストの受けた苦難と人類のための罪の贖いを直截に伝える「パッション(受難)」の主題は、ルオーの宗教画題の作品の中でも繰り返し取り上げられました。この章では、1927年頃より構想された版画集『受難』を起点に、版画と関連して創作された図像や、《受難(エッケ・ホモ)》など後年の大作を取り上げ、「パッション」のテーマにおけるルオーの宗教的ヴィジョンを紹介します。また、1930年代以降に、ルオーの油彩画の技法は従来の「削り取る」手法から「積み重ねる」手法に移行しますが、こうして、成熟して「受肉」し、「物質」に変貌したかのようなルオーのマチエール(画肌)の変化も考えます。

《聖心》 1951年 七宝
ヴァチカン美術館蔵
Photo ©Governatorato S.C.V. - Direzione dei Musei

第W章 聖書の風景:未完のユートピア

1930年以降、風景を描いた作品はルオーの制作の中核をなします。風景の中にキリストの姿が暗示され、神秘の光に変容した色彩で溢れるルオーの「聖書の風景」は、この世にはないある種のユートピアの表象とも考えられます。この章では、ルオーの聖書の風景を、聖書の物語に由来する様式とルオー独自のキリスト教的ヴィジョンが絵画化された様式との二つに分けて紹介します。いずれも、親密な雰囲気が画面を満たし、創造主や自然に対する愛を讃美するかのようなルオーの晩年の境地が絵の具の豊かなマチエール(画肌)に溶解しています。

《秋 または ナザレット》 1948年 油彩
ヴァチカン美術館蔵
Photo ©Governatorato S.C.V. - Direzione dei Musei