市門に立つキリスト(『受難』)

Frontispice Christ aux portes de la ville from Passion

1935年 シュガー・アクアティント、アクアティント・紙

『受難』は、詩人で文芸評論家のアンドレ・シュアレスの宗教詩に、ルオーの色刷り銅版画17点と彼の下絵による木口木版画82点を収録した豪華な版画集である。刊行は1939年。『流れる星のサーカス』(1938年刊行)とともにルオーの連作色刷り銅版画集を代表する。本の構想が生まれたのは1927年で、版画の制作は1935年から1936年にかけて行われた。タイトル通り、シュアレスの詩はキリストの受難伝に取材しているが、その内容はキリストと彼を取り巻く人々との多元的交わりを軸に展開する。『受難』の銅版画のうち印象的な位置を占めているのは、6点の風景画を描いた作品である。同じ銅版による風景画でも『ミセレーレ』に描かれていた沈鬱な悲劇性は影を潜め、キリストと彼の信者たちの慈愛に満ちた交わりを典型とする、調和と恩寵に溢れた宗教的ヴィジョンが広がっている。1930年代以降の典型となるこうした静謐なルオーの宗教的風景画を生み出しているのが、本版画集に見られる明澄さと明るさに満ちた色彩であることは、しばしば指摘されるところである。