固定観念を取り払い、
新しい豊かな
食体験を生み出した、
いろりダイニング

いろりダイニングで食事の準備

「豊かなくらしにおける食体験」をゼロから考える。キッチンという「モノ」ではなく、食べる・つくる「コト」を考える。様々な分野のデザイナーが部門の垣根を越えて集まり、まったく新しい発想に挑戦する、そんなワークショップを行った。そこから「いろりダイニング」につながるアイデアが生まれた。

いろりダイニングで食事

コンセプトは『みんなでつくってみんなで食べる』

参加したのはプロダクトデザイン、空間デザイン、UXデザインといった各分野のエキスパートたち。住宅設備にあたるキッチンとキッチンに収まる家電のデザイン開発は、別々に行われることが多い。今回のプロジェクトの狙いは、その領域を破ることで新しいコトを生み出す、というもの。取り組んだ発想手法は「アクティングアウト」。身体を使って即興でアイデアを出し、カタチにし、考察する、を繰り返す。「たとえば和室をキッチンにしてみたらどうか?」「みんなのいる場所へ持ち運べるキッチンはどうか?」などの発想をその場でどんどんカタチにしながら検証を重ねる。そんな中、あるチームは皆が一ヶ所に集まり、つくるも食べるも共有しあう、ぐるっと囲めるキッチンを試みていた。

開発チームでワークショップを行っている様子

ここで発見したのは、従来の「つくるだけのキッチン」「食べるだけのダイニング」ではなく、「つくる」「食べる」が一緒になって生まれる新たなコミュニケーションの場だ。「つくる」と「食べる」の境界を取り払い、食を中心に人々が集う空間、これこそが探し求めているコトの本質だと気づいた。こうして『いろりダイニング』というコンセプトにたどり着いた。

コンセプトの実現に向けて

「現代版囲炉裏」の実現
  —プロダクトデザイナーの挑戦

目指したのは一枚ガラス天板のダイニングテーブルのようなIH。そのためには、通常の2倍以上のサイズのガラス天板を用いたIHをカウンターにフラットに納めることが必要だった。そこで従来IHにあったガラス周囲のフレームをなくし、カウンターのフチを限界まで細くすることで、一枚ガラス天板のような外観を実現した。また、従来IHの熱排気口は天面にあったが、フラットな天板を実現するにはノイズとなる。テーブルとして成立するには足元の空間も必要だ。そこで、ユニットの構造内に排気経路を設け、熱を側面の足元から逃がすことで、ゲート状のIHテーブルを実現した。これはまさに家電と設備を同時に開発できる強みである。試行錯誤の末、常識を超える一枚ガラス天板のIHテーブル、“現代版囲炉裏”が完成した。

IH廻りの動線や調理しやすさを検証している様子

みんなで「集う」ための試行錯誤
—UXデザイナーの挑戦

UXデザイナーは、天板実物大サイズの紙に鍋やフライパンを置いて、双方向から料理するシーンを再現。動線や調理のしやすさを何度も確認した。その結果、互いに向かい合って調理をすると、コミュニケーションが促進され会話量が増えることが判明した。その体験を最大化できるよう、操作するときのみ現れるプッシュオープン式のタッチパネルをキッチン側とダイニング側の両側に配置。IHを囲んで「つくる」と「食べる」を楽しめるデザインを実現した。

IH廻りの動線や調理しやすさを検証

新しい食空間のために
—空間デザイナーの挑戦

いろりダイニングが目指したのは、人々が会話を楽しみながら食に集う情景だ。そこで以前から課題となっていた換気扇の騒音に着目した。音の発生源となるファン部分をレンジフードの中から建築躯体である天井裏へ移動、設備と空間を一体で考えるという新しい発想で図書館並の静音性を実現。結果、レンジフードのダクトも細くスリムになり、人が集う空間にふさわしい外観でありながら、どんなシーンでも心地よく会話が弾む豊かな食空間となった。

いろりダイニングのレンジフード
いろりダイニングの空間設置イメージ

めざすべき未来

「つくる」人と「食べる」人の壁をとっぱらったいろりダイニング。ゆるやかにお互いをサポートし合あえるような新しい食の体験。例えば介護施設で入居者が介護スタッフと一緒に調理したり、民泊で滞在客と一緒に地元料理をつくったり、そんなコミュニケーションが生まれる可能性もないだろうか。食という普遍的な体験を通じて、社会課題の解決に答えを出すことが出来るかもしれない。変わりゆく社会に固定観念にとらわれない発想で、これからも暮らしをアップデートしていきたい。