研究・開発・生産という枠組みを超え、「共創」を前提に設計された新たな研究・開発拠点「Technology CUBE」。この拠点づくりで最大のテーマとなったのは「多様な人々がいかに出会い、価値を生みだすのか」という問いでした。100年先も最先端であり続けるための共創のプラットフォームが、どのような思考と試行錯誤の末に形づくられたのか。その舞台裏を構想実装のコアメンバー、4人の対話からひもときます。
*所属・肩書は記事公開時(2026年4月)の情報です。
INDEX
偶発的な出会いを生む「あわい」の設計
なぜ、共創を前提とした設計を模索することになったのでしょうか。
仙田かつての「大量生産・売り切り」の時代から、ものづくりの環境は劇的に変化しています。いま、特に求められているのは、スマートフォンのように使い続けられ、ソフトウェアとともに進化するサステナブルな製品。その実現には、研究・開発・実装のサイクルを極限まで短縮し、世に出しながら磨き続けるアプローチが欠かせません。社内外の知が交わって、多様なプロフェッショナルが一つのチームとなり、実装とアップデートを繰り返す。その土壌として、Technology CUBEで追究したのは、共創を生み出す空間づくりでした。
齋藤Technology CUBEの特徴は、共創の考えが空間の隅々まで貫かれていることです。最上階の8階には探索型の研究部門、中層階には技術開発、下層階には生産技術を配置しています。研究と実装、生産が行き来し、循環していく。そのプロセス自体を建築として表現しています。
仙田この循環を支える要が5階から8階に配置したイノベーション・共創フロアです。まず8階ですが、研究部門が集まる建物にこの場を設けたのは、「探索や価値発見を、企業の内側だけで完結させない」、つまり最も源流に近い場所を外に開くという当社の明確な姿勢を物語ったものです。
齋藤一方、建物の中心である5階は、最も人が行き来し、多様な動線が交差しやすい場所。探索から生まれた価値を見える形にし、さまざまな技術があふれ出し、外部との対話を促す実験場として設計しました。ヒトやコトとの偶発的な出会いや、ちょっとした会話から新しい発想が生まれていくような場です。
偶発的な出会いを生み出すために、重視したことは。
齋藤Technology CUBEの空間づくりを貫くコンセプトの一つが「あわい」です。明確に分かたれた境界ではなく、要素同士がにじみ合い、重なり合うあわい領域。海水と川の水が交わる汽水域に多様な生態系が育まれるように、異なる分野や価値観が交差するグラデーション領域が、新たな発想や価値を生み出す土壌になる——そうした考え方を根幹に据えました。
5階中央に配置した4層吹き抜け空間「ネイチャースクエア」は、まさにそのあわいを、空間として具現化した共用スペースです。ここは、日常的なミーティングや1on1、ワークショップ、さらには百人規模のイベントまで、多様な用途を想定しています。8階まで音が届く吹き抜けが広がり、誰かの発信や議論の息遣いが階を越えて伝わり、自然と共有される構造です。多様な人々が集い創発を促す「都市」と、五感にやすらぎを与え独創を育む「自然」、そのふたつが吹き抜け全体であわく溶け合う広場となっています。
技術があふれ出し、日々進化するこの実験空間は、社内外の共創を加速させ、創造的な未来をかたちづくります。
仙田意識したのが広場という存在でした。ヨーロッパの都市の広場のように、朝も昼も夜も、それからイベントの日も日常も、全てを同時に受け止める場所。人が自然に溶け込める隠れ場所やカフェスペースを点在させ、イベントが行われる一方で、少し離れた場所では静かに仕事をする人がいる。セミナーの話題がふと耳に入り、立ち止まり、会話が始まれば輪の中に加わってみる。そんな偶然の交差が生まれやすいよう、多様な居場所を意図的にちりばめました。
パナソニック ホールディングス株式会社
DX・CPS本部
Technology CUBE 総合プロジェクトマネージャーを担当
問いと気づきを生み出す、ひらかれた実験場
川廷建屋内の照明設計にも、あわいのコンセプトを反映しています。例えばネイチャースクエアの天窓の照明部分は時間帯に合わせて色温度が変化し、自然光と呼応するように設計しています。昼は白く、夕方に向かうにつれて柔らかく。室内にいながら、外の時間の流れを感じることができます。
植物に囲われながら風・音・香りを感じ、癒やされくつろげる隠れ家
齋藤屋外にいる感覚を生むため、光以外にも、音や風、香りといった要素を重ね、五感で感じられる仕掛けを取り入れています。耳を澄ませると、小鳥のさえずりや葉が重なる音が届く。これは40チャンネルの立体音響で、空間全体に自然音が広がるように再現したものです。屋久島で採取した風データを再現するルーバーは、香りも同時に広げています。朝や昼は気持ちがすっと切り替わるリフレッシュの香りに、夜はゆったりと過ごせるリラックスの香りに。時間とともに、少しずつ移ろっていく。その変化から心地よさを感じていただけたらうれしいですね。
大阪万博パビリオン展示のミストを移設 壁面緑化技術の実証実験を行なっている
齋藤吹抜けに設置した植物に定期的に水や風を与えるミスト装置や、育成状況を観察するためのドローン飛行など、イノベーション・共創フロアは新たな問いや気づきを生み出す実験場の役割を担っています。ネイチャースクエアをはじめ各フロアには、間伐材や工場廃材を活用したサステナブル素材のテーブルやベンチを配置し、8階ではペロブスカイト太陽電池の実証も行っています。研究や技術をあえて隠さず、空間の中に“見えるかたち”で取り入れている点も、この場所ならではの特徴です。
仙田誰かが足を止めて眺めたり、そっと触れてみたり、「これって何だろう」と考えたりする。そうした一つひとつの反応や気づきまで含めて実験だと私たちは捉えています。
齋藤こうした考え方の出発点は、これまでに携わった技術拠点で私自身が抱いてきた課題意識です。開発の場が閉じていくことで、技術や研究の営みが見えにくくなり、隣の部署でさえ、何が起きているのか分からなくなってしまう。ならば、その状態を少しでもオープンにしたい。そんな思いから、実験を空間の表側へと引き出す設計を試みました。
パナソニック オペレーショナルエクセレンス株式会社
トランスフォーメーションデザインセンター
Technology CUBE 総合クリエイティブディレクションを担当
多様な思いを空間へ導く、デザインのブリッジ
どのような共創の設計をしていったのでしょうか。
齋藤わたしたちデザイン部門が入る前は、建築工事と併せて、C工事(内装エリア)も丸ごと竹中工務店さんにお任せする予定だったんです。でも、いざ内装設計に入る段階で立ち止まりました。「1社のパートナーとだけで、全部決めてしまっていいんだろうか?」と。共創の拠点として、空間づくりの段階から社内外のパートナーも実際に働く社員の皆さんも巻き込んで、空間を共創する方向へとかじを切りました。
仙田よりどころとしたのは、「目覚ましい仕事の成果の背景には、素晴らしい仕事のやり方が伴う」というパナソニックグループCTO 小川さんの言葉です。モノづくりとソフトウェアでは、開発のスタイルもリズムも違いますよね。みんなが同じ空間で、一律に働く必要なんてない。その当たり前を疑って、多様な働き方をかなえる場所を、自分たちの手で作り上げようと決めました。
技術者もバリスタも共に育ち成長していくマグネット空間
仙田斎藤さん、川廷さんとは一緒に取り組んできたPanasonic Laboratory Tokyoのオープンイノベーションの経験から、思いを共有していました。それは、想像を超える結果は、いつだって多様性の交差点から生まれるということ。効率だけを見れば、正直、遠回りだったかもしれません。それでもこの道を選んだのは、最初から多様な視点を本気でぶつけ合ったほうが、働き方の幅も、そこから生まれる価値も、確実に豊かになると信じていたからです。
仙田プロジェクトは8階建ての建物を、七つの区に分けることから始まりました。モノづくり、デジタル、環境・GX、知財、経理……。それぞれの役割に区を設けて、これからの未来を担うミドル層のメンバーに区長を任命しました。私が投げかけた問いは、たった一つ「もしあなたがCEOだったら、自分たちの働き方をどう描く?」。これをきっかけに、区長は自分たちの思いを言葉にし、ワークショップで理想の空間について徹底的に議論を重ねていきました。
齋藤ワークショップを通じて見えてきた景色は、本当に新鮮でした。同じ会社にいても、部署が変われば、見ている世界がこれほど違うのかと。例えばAI部門は、驚くほど自由で軽やかです。「後からでも変えられるよう、たっぷり余白を残しておこう」と変化を前提とした意思決定が印象的。一方で、生産技術が何より重んじるのは、揺るぎない安全性です。真っ先にチェックするのは「この角、とがっていない?」という細部。全員が納得するまで徹底的に確認し、一気に決めていく——その責任感の強さに圧倒されました。対話を重ねるほどに、大切にする価値観も、物事の決め方も、それぞれに正解がある。その違いが、このプロジェクトを突き動かすエネルギーなのだと実感しました
仙田意思決定の主体はあくまで各区長。その上で、目に見えない働き方の質や波及効果といった領域をプロの視点で鮮やかに言語化し、導いたのが齋藤さんと川廷さんです。区長たちが掲げる研究の思想と、プロフェッショナルの空間知見。さらに、社外からも約20社に及ぶ協力会社を迎え入れ、両者を丁寧にブリッジする2人の献身的なサポートがあったから、区長一人ひとりの思いが具体性を持った空間へと昇華していきました。
齋藤今回はさらにもう一歩踏み込み、専門性に応じた6つのワーキンググループを作りました。例えば、多様性SWGでは、女性の働きやすさはもちろん、子連れ出社機能を備えるといった、子育て世代の視点を取り入れた実験的な構想にも挑戦しました。
私が意識したのは、多様な声をこぼさず丁寧に受け止めながらも、空間全体としての統一感だけは、決して揺らがせないこと。あふれる思いと、設計としての美学。そのバランスをどう着地させるか……。
仙田社内外とのブリッジによる共創は、ある程度意図して仕掛けた部分もありましたが、齋藤さんの呼びかけで想像以上に社外から人が集まってきて、正直「本当に大丈夫かな?」と圧倒されるほど。その重なり合いが、Technology CUBEを単なる研究拠点ではなく、多様な価値観が息づく場へと育てていると感じています。
部門や立場を超えて、つくる過程を共創に
社員専用エリアの設計で最も印象に残っていることは?
仙田6・7階の共用スペースに設けたセルフビルドキッチンです。社内からパーツや素材などをそろえて、自分たちの手で一から組み立てました。当初は既成品を設置する予定だったのですが、途中で予算が足りなくなってしまって(笑)。「じゃあ、自分たちでつくろうか」と話が動き出した。振り返ってみると、その試行錯誤のプロセス自体がまさに共創でした。
(写真:パナソニック ホールディングス)
齋藤各階で部署や立場を越えて人が集まり、材料を持ち寄って一緒に考え、夢中で手を動かす。ワークショップの場でずっと伝えていたのは、ここは「誰かがつくった場所じゃなく、自分たちで考え、つくって、更新していく場所」ということ。その言葉どおりの空間になりましたね。だから、完成後も自然と人が集まる場になっているのだと思います。
仙田早速、みんなで料理を作って親睦を深めるなど、日常的な交流の場として活用されています。一緒に食べることって、交流のきっかけになるし、心理的なハードルも下がる。各階にキッチンエリアを設けたのも同じ考え方です。
以前携わった、当社の共創拠点 Wonder LAB Osakaで社外に開かれた場を設けましたが、「外にはあまり出たくない」という社員も一定数いました。そうした意見も踏まえて、今回は社員同士が自然に集まれる場所が必要だと思っていました。このキッチンなら、構えずにふらっと参加できます。
Technology CUBEはWELL認証を取得しています。空間の快適さやWell-Beingを考える上で、照明では何を重視したのでしょうか。
川廷多くのテナントビルでは、場所や時間に関係なく、真っ白で明るい光が均一に照らされています。でも、Well-Beingの視点で考えると、その均一さが、必ずしも人にとって最適とは限らないんです。
本来、私たちは日中の強くさわやかな光で活動を始めて、夕方にかけて柔らかく暖かになっていく光変化の中で心を落ち着かせていく。そんな自然のリズムとともに生きています。この人間の生活への影響に、エビデンスをもって向き合っているのがWELL認証です。
私たちはその考え方を照明計画の軸に据え、「すべてを同じにする」のではなく「違いを前提に、連続的につなぐ」設計に挑みました。
川廷例えば、研究や作業に集中するエリアでは白く高い色温度を採用し、時間帯に合わせて徐々に色温度を低くしていくシステムを導入しています。一方で、ラウンジなど会話やリラックスする場所は、温かみのある色温度の低い光を採用しました。
配慮したのは、その境界線です。隣り合うエリアで急に切り替えるのではなく、空間の色温度が違和感なくグラデーションでつながるように設計をしています。仕事、対話、そして休息。
働く人が意識しなくても、光の中にいるだけで自然に生活のリズムが整っていく。そんな風に、心と体のスイッチが無意識に切り替わる環境を目指しました。
川廷実は、WELL認証が求める執務スペースの机上照度は、日本のJIS照度基準よりやや控えめなんです。これまでは暗いと言われるのを避けるために、お客様に導入する照明も一律に明るくするのが当たり前でした。そこを、エビデンスをもって人にとって本当に適切な明るさに調整する。均一さから最適さへ、私にとっても一つの大きな挑戦でした。
パナソニックエレクトリックワークス株式会社
デザインセンター UXデザイン部
Technology CUBE の照明デザイン、インテリアデザインディレクションを担当
エントランスに配置された立体的なロゴは、とても印象的。デザインのコンセプトを教えてください。
手塚私は、ロゴをはじめとした館内グラフィックのアートディレクションを担当しました。拠点名が「Technology CUBE」と決まった時点から、この場に込められた思いが伝わりやすいシンプルで明快な方向でデザインすべきだと考えました。
吹き抜けを歩きながら風景が移り変わるように、見る角度によって「T」と「C」が浮かび上がる立体的な造形。ロゴに込めたのは、個々人が視点を変えることで世界の見方を変え、相乗効果によって新しいものを生み出していくというメッセージです。
パナソニック オペレーショナルエクセレンス株式会社
トランスフォーメーションデザインセンター
Technology CUBE のサイン・グラフィックにおけるアートディレクションを担当
手塚今回のロゴは、3D造形が得意な若手デザイナーの発案から生まれていて、その視点を活かしたサインへの展開など、利用者に愛着を持ってもらうための仕掛けづくりも積極的に行っています。
エントランスに置かれたこの立体ロゴを見て、「あ、そういうことか!」というロゴの成り立ちへの発見があると、自然と愛着が湧いて、誰かに語りたくなりますよね。そんな風に、組織の意思が伝播していくようなきっかけになるといいなと思います。
竣工はゴールではない。使い手が育てる生きた建築へ
仙田ここはラボであり、ファクトリーですから、みんなで自由にいじり倒してほしい。研究開発という仕事は、本来プロセス化しきれない探索の連続です。建物のあちこちで「何だか変なことが起きてるぞ」という光景が見える。そんな予測不能なエネルギーがあふれる場所になってくれたら、パナソニックがこの先100年も最先端であり続けることができるのではないでしょうか。
見せるラボエリアとして、内部を覗ける窓を大きく配置
多様な実験が行われている
開発と製造をつなぎ、事業を生み出す空間
齋藤そのいじり倒す感覚、すごく大切ですよね。Technology CUBEは、自由に手を加えても全体のデザインが簡単には崩れない。一方で、場にそぐわないものを置けば、どこかに小さな違和感が生まれる。そうした絶妙なラインをあえて残すように設計していて、使い手のセンスや知性が、自然と試され養われる空間になっています。
技術は技術、デザインはデザインだけをすればよいのではなく、技術とデザインの「あわい」を担える人材が求められています。手を動かし、試し、また工夫する。その「いじり倒すプロセス」そのものを、クリエイティブに楽しめること。そして、その楽しさを特別なものではなく、当たり前の感覚として受け止める新しい世代が、ここから次々と生まれていく。そう想像するだけで、ワクワクします。
川廷私たちが目指したのは、完工した瞬間が完成形となる建築ではなく、使い手の手によって更新され続ける「生きた建築」です。斎藤さんが設計したフレームの中に配線ダクトを張り巡らせたのも、照明という要素すら、研究や活動の広がりに合わせて自在に組み替えてほしい――そんな思いがあったからでした。
いま、現場から「明かりを足したい」という声が上がっています。それは、これまで静かだった空間に熱が宿り、具体的な装置や思考が入り込み始めた証しであり、何よりうれしい変化です。活動に応じて光が変わり、その光の変化が、また新たな活動を呼び込んでいく。そうした光と人の連鎖が、この場所を唯一無二のラボへと押し上げていくのだと、私たちは確信しています。
手塚ここで生まれた小さな実験成果が、やがて会社全体の空気やルールを変えていく起点になること。それがTechnology CUBEが目指すべき姿であるとも考えています。
いま、Technology CUBE運用のために生まれた分科会の一つが、この空間の使い方を提案するショート動画を制作し、館内のサイネージを使って発信してくれています。それを見て「こう使ってもいいんだ」と気づく人が現れ、人の動きや新しいカルチャーが、ごく自然に派生していく。
私が整えた視覚デザインの考え方の先に、こうした実践が自発的に立ち上がっていること自体が、まさにディレクターとしての醍醐味だと感じています。自分たちで考えて更新できる場として既にその萌芽がいたるところで見られ始め、これからがとても楽しみです。
取材・執筆:津守勝彦
撮影:成田直茂(対談)、Kenta Hasegawa
Technology CUBE ロゴ デザイン・モーションムービー:清水康平
編集:畠中博文、Panasonic Design Stories編集部

