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D+IO
「大切な誰か」のためのモノづくりが世の中をアップデートする

Doing It Yourselfから、Doing It Ourselvesへ。FUTURE LIFE FACTORYの「D+IO(ドゥーイングアイオー)」プロジェクトでは、自分の手でモノをつくること、創造力をエンパワーするためのプロトタイプver.0を制作しています。今回は室内のCO2濃度を計測し、一定の二酸化炭素濃度を超えると音と光のアラートで換気を促す「CO2換気アラートデバイス」にフォーカス。同じくプロトタイプを大切にしているトラフ建築設計事務所の鈴野浩一さん、禿真哉さんにver.TORAFU(バージョン・トラフ)を制作してもらうべく、材料を探しに東急ハンズ渋谷店を巡り、今日における「モノづくり」について考えていきます。

プロジェクトメンバーインタビュー
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FUTURE LIFE FACTORY
デザインエンジニア
川島 大地

パナソニック株式会社 デザイン本部FUTURE LIFE FACTORY在籍。ヤフージャパンにてサーバーエンジニア、広告制作会社バードマンにてデバイスエンジニアを経て、2019年より現職。「D+IO(ドゥーイングアイオー)」プロジェクトリーダー。

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トラフ建築設計事務所
デザイナー
鈴野 浩一、禿 真哉

2004年に設立。建築の設計をはじめ、インテリア、展覧会の会場構成、プロダクトデザイン、空間インスタレーションやムービー制作への参加など多岐に渡り、建築的な思考をベースに取り組んでいる。主な作品に「テンプレート イン クラスカ」「NIKE 1LOVE」「港北の住宅」「空気の器」「ガリバーテーブル」「Big T」など。「光の織機(Canon Milano Salone 2011)」は、エリータデザインアワード最優秀賞に選ばれた。2015年「空気の器」が、モントリオール美術館において、永久コレクションに認定。主な著書に『空気の器の本』『TORAFU ARCHITECTS 2004-2011 トラフ建築設計事務所のアイデアとプロセス』『トラフ建築設計事務所 インサイド・アウト』などがある。

つくってみてわかること、
つくりながら考えること

――手に入れようと思えばなんでも揃ってしまう時代、なぜ今、「D+IO(Doing it ourselves)」なのでしょうか。

川島:新型コロナウイルスの広がりであらゆるものが品切れになっていたとき、手作りマスクを作る人や自家栽培で野菜を育てる人も出てきました。歴史を遡れば縄文土器をはじめ、人間はモノづくりをして生きてきた。自分たちで困難を乗り越えていかなくてはいけないということに直面しているときだからこそ、現代で衰えてきてしまっていたモノづくりの力をD+IOが後押しできればという思いで取り組んでいます。

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鈴野:与えられると当たり前になってしまって、変えられるはずのものも変えられないものになってしまう。そういったところを崩していきたいという思いはありますね。最近、教鞭を取っている建築科の授業で、屋外に出て1/1スケールでプロダクトを作ってもらうプロジェクトを進めていて。通常だと建築科の学生って1/100とか1/50の縮小で考えるので、1/1の原寸で考えたり素材やドリルなんかの道具も実際に触ることも少ない。建築の構造計算もできるのに家具を作らせてみるとグラグラだったりするんですね。なので敷地も素材も全て1/1で渡していても、最初は部屋の隅の方でグループになってコンピュータでCGを立ち上げたり、模型を作ったりしてトライアンドエラーするのをとても恐れるんですよ。木材をちょっと切ってしまって失敗したらどうしようとか。もう原寸で、垂木とかあてがいながら考えたらいいんじゃないと伝えて、原寸でやってみると考えもどんどん変わってくる。つくってみてわかること、つくりながら考えることがとても大事だと思います。

はじまりは身の回りの
小さな「課題」発見から

――モノづくりをするとき、発想の原点はどこにあるのでしょうか。

禿:素材から発想することもあるし、課題ありきということもあります。なんとなく、もやっと課題があるから今回も東急ハンズを回って素材を集められたのかもしれません。新型コロナウイルスによる混乱の中、今までの社会はサービスが過剰だったということにみんな気がついたと思うんですよね。やたらと便利なグッズや家具、生活を豊かにする道具が溢れている。企業側が自ら問題設定をして、その問題を解決するための回答を商品化したモノを、消費者は購入するだけになっていた。その構図が良くなかったのではないかなと。「D+IO」も一人ひとりが課題意識を持って何かを解決するための道具を自分で考えるという取り組み。今の世の中だからこそフィットするのではとあらためて感じます。

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ーー今までは企業側が設定した課題を解決するための道具を買うだけだったところ、「D+IO」は一人ひとりが課題を見つけられない限り、道具をつくれない可能性があるということですね。

禿:そうですね、そういった課題に気付けることこそがモノをつくる楽しみなのかもしれないし、道具って本来そうあるべきだと思うんですよ。たとえば、木工の工場で木材だけで作られている、金物屋さんであれば金物だけで作られる“賄い(まかない)家具”と呼ばれている道具。誰に見せるためでもなく、売るためでもない、そこにあるものでつくったテーブルや椅子が面白かったりします。たとえば木(モク)でつくった構造体に羽がついてクルクル回っているだけの扇風機。「送風する」という機能だけに特化するとそれくらいのものでいいのかと。揺らぎやスイング機構はオプションであって、道具の持つ本来の役割みたいなものに立ち返ると、シンプルにそれだけなんですよね。そうやって道具の意味に立ち返って考えることもとても重要な気がします。

川島:自分が持っている課題に対して、売られているもので全て解決できればいいのですが、ジャストフィットで解決できるものは恐らくなかなかない。モノを買う時って、これでいいかと多少妥協して買っている部分はあると思います。でも自分で棚をつくるとしたら、この部屋のこの幅に合ったものをつくりたい、という思いや目的が実現できる。何かを買うのではなく、つくることの意味はそこにあると思いますね。

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鈴野:「D+IO」で面白いのは、“D.I.O(ourselves)”、自分のためのではなく、誰かのためのというコンセプト。「誰かのため」を想定してつくることはクライアントがいること、建築でいうところの敷地を与えるということと同じだと思います。クライアントもいなくて敷地もないと、建て売り住宅のようになってしまい、とても漠(ばく)としてしまう。建築家にとっては同じ敷地はひとつとしてないので、そのひとつのためにつくれば自ずとユニークな(面白いという意味ではなく)“唯一無二の”、オリジナリティのある家ができると思っていて。よく観察し敷地ごとに差異を発見していって、そこだけのもの、デメリットだと思われるかもしれない要素もメリットに変えていけないだろうかと考えたり。以前は大きな広告を打たなければ世界には発信できない時代もあったと思いますが、今はSNSで個人が世界に発信できる。ひとりのために作っても、それが欲しいと思う人が日本で100人いれば世界だと1000人はいるわけで、ビジネスも動いていく時代だと思います。

CO2換気アラートデバイスが繋ぐ
コミュニケーションのかたち

ーー「CO2換気アラートデバイス」は元々誰のためを考えてつくられたんでしょうか?

川島:在宅勤務が一般化しておらず、コロナ禍でオフィスにいくことが少しはばかられるくらいの時期があったと思うんですね。会社の会議室で密になって話す状況に、みんな少し不安を抱えながら換気しようにも簡単に言い出せない。そんな時、密だから教えてくれるものがあったらいいなと。またそれとは別に、飲食店や小さな店舗でも、換気がきちんとできている、対策を取っている印をお客さんに示せたらいいなという思いからCO2換気アラートデバイスという形に辿り着きました。実はCO2のセンサーって市販でも売られているんですが、業務用だったりオーバースペックで価格も高いのであまり手軽に購入できるものでもない。では自分で作ったらいいのではと。これ(今回のCO2換気アラートデバイス)であれば2千円、3千円ほどで作れるものなので。

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鈴野:先ほど東急ハンズのフロアを周りながら、今回はおばあちゃんのために材料を探されているって話してましたよね。

川島:そうなんです。今回トラフさんと新たに誰かのためのCO2換気アラートデバイスをつくろうと思った時、自分はおばあちゃんが浮かびました。マスクをしないで外出してしまったり、コロナに対してとても考えが甘いんですね(笑)認知症気味ということもあるので、自然と対策する意識を持ってもらうことができないかと。換気も、このデバイスのアラートが鳴ったら窓開けてね、と伝えられる。刺繍や折り紙など手を動かすことはできるので、おばあちゃんにデバイスの側をデザインしてもらうのは面白いのではないかと思って、和紙など扱いやすいものを中心に材料を選んでみました。

鈴野:僕らは東急ハンズにある「モノ」から考えていくという方法もあるなと思ったので、対象としては自分の子供、小学生くらいの子供も作れるもの。 子供たちは新しい道具も好きかなと思い、新しい道具ありきで形を考えてみようとデコレーションできるグルーガン、自分も使ったことのない道具を選びました。またCO2換気アラートデバイスのCO2という要素や、アラートとして使われている鳥の鳴き声の要素をデザインにリンクさせたいなと考えていて、鳥の巣箱のようにして壁に掛けるタイプや、電源コードに繋ぐ場合は足元に置く小さな鉢植え、サボテンのようにしても良いなと。空気を新鮮に保つために目に見えないものを感知して知らせるデバイスだと思うのですが、その間、動いているのか目には見えない。何か香りや光で嗅覚や視覚を通して可視化する、感じさせる機能があることで、意識的になってもらうのもいいのかなと。蓄光シートを使って、光で知らせてくれるのもいいかもしれない。昼間ほとんど家にいない人だとしたらこれがお留守番してくれていて、帰ってきてガチャって電気をつける前に光を楽しめるような。

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たったひとつの正解を導かない
「プロトタイプ」を作る理由
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ーー「CO2換気アラートデバイス」だけでも、様々な形が考えられますね。設計図を指定して、正解や完成形をつくることもできると思うのですが、「プロトタイプ」にこだわる理由にを今一度教えてください。

川島:スキルがなくても、アイデアを考えることって誰でもできると思うんですよね。そこから先、アイデアを具現化するというところをやるかやらないかで変わってくる。鈴野さんも仰ってましたが、つくってみてはじめてわかることってやっぱりあるんですよね。自分の中で正解だと思っているものをつくるんですが、それを人に見せてみるとこれはこうではないとか、もっとこうしたほうがいいよねということもある。自分の頭の中で考えている以上にいろいろなことを考えられる人はたくさんいるので、プロトタイプをつくり、人に見せてフィードバックを得てまたブラッシュアップしていくことを繰り返すと、より良くなっていく。ソフトウェアの世界だとアップストアでコメントがついたり酷評されて、それを開発者が見て直すというアップデートすることがあたり前なのに、ハードウェアの世界だとそれが少ない。「D+IO」プロジェクトではGitHubを使いソースコードもオープンにすることで、どんどんアップデートしていけたらと思っています。

鈴野:僕自身は自分の脳内を超えたものを見たいというのが視覚的な欲求としてもあって、自分でつくるものは大したことないというか、頭の中で想像できるモノをリアライズしてもあまり面白くないんですよね。でもプロトタイプを作る過程でいろいろな掛け合いによってそれを超えられる。余白だけ残しておいて、それがアップデートされていくのを見ることはとても楽しいですね。トラフでデザインしている「空気の器」も、ベースとなる形はあるんですが、いろいろなグラフィックデザイナーやアーティストにコラボレーションしてもらったり。僕らが完成させるのではなく、人が関わる、子供たちも自由に描いていくことで広がっていく感じは楽しいですよね。

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禿:家電をはじめとしたプロダクトは買った瞬間から時間を経るごとにだんだん価値が下がっていく。その逆を行きたいですね。モノはつくって終わりという考え方もあると思うのですが、実際に手を動かして新たな形が連鎖していくようにD+IOを通して物理的なモノのアップデートが実現できたらいいなと思います。

Doing It Yourselfから、 Doing It Ourselvesへ。誰にとっても予測不可能なときだからこそ、まずは一人ひとりが「身近で大切な誰か」を思い、課題を見つけてプロトタイプを作ってみることが、世の中をアップデートすることに繋がっていくのかもしれません。大切な誰かのために、みなさんもCO2換気アラートデバイスを作ってみませんか?
今回ご紹介した「CO2換気アラートデバイス」は、2021年3月20日(土)にワークショップの開催を予定。トラフ建築設計事務所の鈴野浩一さん、禿真哉さんには、東急ハンズを巡って選んでいただいた素材を使い「ver.TORAFU(バージョン・トラフ)」を作っていただきます。バージョンをアップデートするべく、ご参加をお待ちしております。

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■ワークショップ
『D+IO』×トラフ建築設計事務所 【CO2換気アラートデバイス制作ワークショップ】
D+IO Product #1の「CO2換気アラートデバイス」 を、トラフ建築設計事務所 鈴野さん・禿さんと東急ハンズでセレクトした材料で、オンライン上で会話しながら一緒に手を動かしてつくります。

【日時】2021年3月20日(土)10:30~12:00
【講師】鈴野浩一、禿真哉(トラフ建築設計事務所)、川島大地(FUTURE LIFE FACTORY)
【対象】初心者可
【募集人数】20人(先着順)
【参加費】無料 【材料】デバイス支給・その他お好みの材料を各自でご準備いただきます。
【主催】FUTURE LIFE FACTORY/東急ハンズ
イベントのお申込みはこちら
【協力】スイッチサイエンス(https://www.switch-science.com/info/about/

「D+IO」プロジェクトでは、身の回りにある素材を使って「大切な誰かへ届 けたいプロダクト(D+IO Product)」のプロトタイプを作るためのソースコードや部品リスト、組み立て方、使い方などをソースコード開発・共有サービス 「GitHub(ギットハブ)」に公開しています。 ぜひご覧ください。