多様な人が、いきいきと輝ける社会を目指して
- 中尾洋子
兵庫県出身。1992年入社。2005年より一貫して家電を中心に社内のUD開発、推進を幅広く担当。現在はデザイン戦略室先行開発課課長兼、UD開発担当主幹。
毎日、どういうお仕事をされていますか
パナソニック全体のUD(ユニバーサルデザイン)推進事務局を担当していて、UDという切り口で様々な活動を行っています。メインの仕事は、最新のUDの研究や、パナソニックのUDのノウハウを社内外に発信することです。さらに、商品の担当者から「UDへの配慮」に関する相談を受けることも多く、意見を言ったり、調査をしたり、専門家に見解を聞きに行ったりもしています。高齢者に配慮した「Jコンセプト」シリーズもUDの専門家として一緒に開発を進めました。取扱説明書のUD配慮について、担当者に提案することもあります。常に先行的なUDの研究に取り組み、それを商品やサービスに反映させ、パナソニックのUDを進化させていく活動を続けていきます。
情報発信活動としては、UD普及のために学校で出前授業をしたり、社内外での講演を行っています。UDの国際会議や、業界団体等で講演をすることもあります。パナソニックが開発した世界初のUDフォントはいかにして誕生したか、見やすく分かりやすいピクトはどういうものか、高齢者に配慮するにはどのようにしたらよいか等、企業を超えてノウハウを共有し、よりUDに配慮した社会が実現できるよう努めています。UDに関連する展示会でも同様に各社で知識や技術を共有しています。さらにUDを紹介するUDサイト(http://panasonic.com/jp/ud)の運営やパンフレットの制作なども行っています。このサイトとパンフレットは、UDを表彰するIAUDアウォード2017で大賞を頂くなど、高い評価を得ることができました。
どういう経緯でUDのお仕事に就きましたか
元は家電のデザイナーだったのですが、途中で2回育休をとったんです。その当時は私だけ仕事に置いていかれるのではないかと焦りましたし、同じ部署の人に迷惑をかけてしまうことを申し訳なく思いました。でもきっちり2年間休んで、その間、家事と育児を頑張ったことで主婦感覚が身についたんです。調理や家事の家電の開発も、そういう目線で提案ができるのが強みになりました。小さい子供がいて、ひやりとしたり困った経験も、子供や子育てに配慮するキッズデザインの開発に役立ちました。その時に自分ができることをきちんとやったことが、今のキャリアに繋がっていると思います。
具体的なUD活動の事例を教えてください
たとえばタッチ式で凸凹のないボタンは、お手入れがしやすく軽い力で操作できるのですが、目の見えにくい方には使いにくいのでUDとして解決方法を考える必要があります。IHクッキングヒーターのボタンでは、後から貼り付けられる、凸記号のついた熱や油にも強いシールを開発しました。このシールのために目の見えない方への調査を実施して、手で触って何のボタンか分かるような凸記号を独自に生み出しました。
一方、タッチパネルに表示されるボタンでは、画面の中でボタンの位置が入れ替わってしまうので、シールでは対応できません。視覚障がい者の支援団体である「日本ライトハウス」にヒアリングすると、他に凹凸のあるボタンに触れることができる商品が存在するのであれば、目の見えない人にも使えるように無理をしてタッチパネルの改良をしなくてよく、むしろ分けてそれぞれに使いやすくした方がよいとアドバイス頂きました。選択肢を用意することでUD配慮ができるということを実感した事例です。
その他にも、肢体の不自由な方への調査で、みなさんリモコンを落とさないようにヒモをくくり付けて腕やベッドにかけておられることが分かり、リモコンにストラップの穴をつけました。また、指先が震えてボタンを押し間違える方がおられることも分かり、タッチパネル画面にボタンの大きさを変えられる機能を搭載しました。
少しの配慮でも、多くの人が製品を使えるようになる可能性があるので、それを見つけて、実現させて、伝えていくことが大切だと思っています。
また家電などで培った知識をB to Bに応用することもあります。空港の入国審査場にもUDを応用しました。外国人にも、高齢者にも、色覚の分かりにくい人にも伝わるサインや、いろんな身長の方にも使いやすい高さなどを設計に組み込んだのです。
関連URL:
https://www.panasonic.com/jp/corporate/wonders/wondersolutions/kaoninsho.html
パナソニックが携わるあらゆる分野にUDは採用されています。
少しの配慮でも、多くの人が製品を使えるようになる可能性があるので、それを見つけて、実現させて、伝えていくことが大切だと思っています。
また家電などで培った知識をB to Bに応用することもあります。空港の入国審査場にもUDを応用しました。外国人にも、高齢者にも、色覚の分かりにくい人にも伝わるサインや、いろんな身長の方にも使いやすい高さなどを設計に組み込んだのです。
関連URL:
https://www.panasonic.com/jp/corporate/wonders/wondersolutions/kaoninsho.html
パナソニックが携わるあらゆる分野にUDは採用されています。
UDを使った社会的な取り組みについて教えてください
私が今、力を入れているのは、いきいきとした高齢社会を実現することです。そのために様々な分野の専門家の方から知見を教えて頂く活動をしていました。そして、そこで得た役立つ情報を広く発信することも、いきいきとした高齢社会の実現に結びつくと考え「いきいきライフデザインマガジン(https://www.panasonic.com/jp/corporate/technology-design/ud/ikiiki.html)」というコンテンツをUDサイトで発信しています。
その活動の中で、認知症などの予防には料理が効果的だとお聞きしました。様々な安全機能のついた調理家電を使って料理をしてもらえればさらに良いのではないか思い、サービス付き高齢者住宅で家電を使った料理教室を行いました。最初は無口だった高齢者の方が、しばらくすると素晴らしい手際で包丁を使い、出来たごはんを食べる頃には笑顔でお喋りをされているのを体験して、料理の持つ力に驚きました。
料理教室レポート:
https://www.panasonic.com/jp/corporate/technology-design/ud/ikiiki/index_07_2.html
その活動の中で、認知症などの予防には料理が効果的だとお聞きしました。様々な安全機能のついた調理家電を使って料理をしてもらえればさらに良いのではないか思い、サービス付き高齢者住宅で家電を使った料理教室を行いました。最初は無口だった高齢者の方が、しばらくすると素晴らしい手際で包丁を使い、出来たごはんを食べる頃には笑顔でお喋りをされているのを体験して、料理の持つ力に驚きました。
料理教室レポート:
https://www.panasonic.com/jp/corporate/technology-design/ud/ikiiki/index_07_2.html
また、子供の重篤な事故を減らす活動にも取り組んでいます。子供の事故情報を共有し、商品を改良出来た事例もありますが、商品だけで考えてもなかなか解決できないこともあります。その時はまず、そういう事故が起こっていることを知ってもらう活動が大事だと専門家の方から教えて頂きました。そこで、商品で解決できていること、できていないことに関わらず、親子で家の中の事故を学んでもらえるような“かるた”を作ってキッズデザインブックの中で公開しています。商品で解決できていない危険を公開することは、メーカーとしては勇気のいることですが、事業部の人にもその意義を理解してもらって実現しました。今では取扱説明書に、子供の危険を絵入りで分かりやすく入れてもらえるようにもなっています。
キッズデザインブック:
https://panasonic.co.jp/design/kids/pdf/Panasonic-KidsDesign2018.pdf
パナソニックがUDで叶えたい事は何ですか
松下幸之助創業者が1942年に「商品には、親切味、情味、奥ゆかしさ、ゆとりの多分に含まれるものを製出し、需要者に喜ばれることを根本の信念とすること」とUDの大切さを説いてます。UDは私たちのDNAなんです。今は「社会課題の解決」のためにUDを役立てたいと考えています。高齢化社会、少子化、多様な人が活躍できる社会の構築など、日本で今、課題となっていることをUDで解決し、それをグローバルでも役立てていきたいと思っています。
パナソニックは家電だけでなく、住まい、自動車関連、B to Bなど幅広い事業領域に取り組む企業です。それだけ世の中に貢献できる可能性が広がっています。先ほどご紹介した認知症予防の料理教室も、やりたいと思ったら、まちづくりを担当する部署と調理家電のレシピを考えている部署に相談して、スピーディに最適なかたちで実現することができました。
さらに、音声で操作をしたり、表情を読み取って危険を察知するなど、UDを実現する様々な技術もあります。パナソニックでUDの仕事をしている自分はとてもラッキーだと思っています。
障がいは、本人の持つ要因と環境の持つ要因が相互に影響して生まれるものなので、環境や製品が対応していれば、障がいは顕在化しないと言われています。少子高齢化が進み、外国の方も多く訪問されるようになり、今後はますますUDの必要性が高まっていくと思います。これからも様々な製品やサービスでUDを進め、多様な人がいきいきと輝ける社会の実現を目指していきたいと思います。