今まで誰も見たことの無い美しい光を

川廷 玲子
川廷玲子 プロダクトデザイナー
ライティングデザイン部にて、ペンダントライトやシャンデリアなどの住宅用照明器具を担当。 外観デザインにとどまらず、商品企画からカタログディレクションなどのプロモーションにもたずさわっている。2017年秋に行われたPanasonic Design展にて、あかりのプロトタイプ「WEAVING THE LIGHT」を手掛ける。

新しいあかりの可能性を探る「WEAVING THE LIGHT」

今まで誰も見たことのない美しい光を、自分たちの手で生み出し、何よりこの目で見てみたい。あかりのプロトタイプ「WEAVING THE LIGHT」への取り組みは試行錯誤の連続でしたが、同時にとても心躍る試みでした。

始まりは、なにか新しいあかりの可能性を探れないか、という社内からの相談でした。そこで、次世代の光源として期待されている「レーザー」をデバイスとして使用し、商業施設や住宅などでも使えるあかりをデザインしたいと考えました。産業用に使われているレーザーはありますが、一般住宅用のものは存在しません。指向性の強い光が特徴ですが、人のいる空間で使うには、もう少し心地よい光にしなければなりません。普段、住宅向けの照明器具をデザインしていますが、レーザーを扱うのは初めてでした。

全く新しいアイデアの具現化

  • 写真:構造モデルを前に語るデザイナー
  • 写真:構造モデルを前に語るデザイナー

いろいろ試しているうちに、レーザーを光ファイバーと組み合わせれば、"光の糸" ができることがわかってきました。LEDなど他の光源と比べると、レーザーの指向性の強さにより、効率よく光ファイバーに光が入っていく。このことは大きな魅力になると考えました。普段からアイデアストックする中で「光を編む」というコンセプトをあたためていたのですが、レーザーと光ファイバーでこれを具現化できるのではないかと思いました。ファイバーのやわらかい構造体で構成すれば、建築空間に馴染みつつ、人の作ったものでありながら自然物に近い存在になり、とてもきれいなものができるのではないか、と。そこで、自然からインスピレーションを得て繊細な表現をされる、ニューヨーク在住のデザイナー Nao Tamura さんにコラボレーションをお願いすることにしました。

デザイナーはゴールを描ける

検討段階では、様々な光ファイバーや透過素材、手法を試すなど実験を繰り返し、アイデアを探っていきました。例えばファイバーを曲げるとその部分に光がたまって拡散し、なにか燃えているような有機的な光に見えたんですね。レーザーがただの直線光ではなく電球のフィラメントのようで、逆にそれが面白かったり。また、曲げの部分から光を漏らすことで、ダイニングテーブルの照度を確保できる可能性があるのではないか、など。そんな発見やディスカッションを重ねながら、アイデアを一緒に考えて私のアイデアストックにも繋がるWEAVE―編むというタイトルで、今回のプランにまとまっていきました。建築に同化していくものとしてかっちりした構造体でありながら、柔らかい表情をもたせるという、そのバランス感覚にはNaoさんに学ぶことが多かったです。

具現化にあたっては、技術者やモデラーを交えたプロジェクトチームが組まれました。メンバーに提案を見せた時、全員が「これを見てみたい!」と思い、「実現できたら間違いなく素晴らしい」と確信しました。そのおかげで皆最後までモチベーションを保ちながら、数々の課題を乗り越えられたのだと思います。まだ誰も見たことがないゴールを描ける、それがプロジェクトを引っ張っていく大きな原動力となる、デザインにはそんな力があるのだとあらためて実感しました。

未来の可能性をカタチにすること

プロトタイプを一般のお客様に見ていただく機会はあまりなく、Panasonic Design展での公開は私自身初めての経験でした。来場者が展示ブースに入って来られた瞬間に「ああ、きれい!」と口々に言っていただけたのは、単純にとても嬉しかったです。実用的なあかりとしては、まだ LED にアドバンテージがあります。しかしレーザーはまだ研究段階で、今後様々な可能性が考えられます。特性が違うので LED がレーザーに全て置き換わるわけではないですが、より省エネで LED とは違う性質・得意な分野を持った光源に取り組んでいくのは、意味があるのではないか。今回の展示は、レーザーが暮らしのあかりとなりうる将来に向けた、ごく最初の一歩になる、と私はとらえています。商品化にはまだまだ課題がありますが、でもこういう可能性がレーザーにあるということをカタチにできたことで、一石を投じられたかな、と思っています。

自分のキャリアとしても、ある程度照明器具デザインの実績を重ねた今だからこそ実現できたプロジェクトでもあり、ちょうどよいタイミングで担当できて、本当によかったです。普段だと課題が明らかになると不安になったり焦ったりするのですが、今回は逆に「そうきたか」とチャレンジ精神をくすぐられて笑ってしまうような。それは今まであまりない経験で、振り返ってみれば、いろいろな意味でとてもやりがいのあるプロジェクトでした。